「おい! 先生が来たぞ!」
一人のクラスメイトが声を大にする。
「皆、服を正せ! 机も整頓しろ!」
他の生徒も指示を出す。
さっきまで暗いオーラを纏っていた絶望の
「くそ、溶かした氷の水の量が多すぎるな! もっと雑巾を用意してくれ!」
先程まで騒ぎの中心だった3人もこれには協力せざるを得ない。というか原因なのだから当然ではあるが。
「よし! 俺達もやるぞ!」と少年は二人に声を掛ける。
「ああ!」
「合点でぃ!」
この時、クラスは教室の清掃という一つの目的の為に団結、正に気持ちが一つになった。
「いやいい、お前達は席について大人しくしていてくれ、頼むから!」
「な」
「ん」
「だ……と」
三人を除いては。
ややあって、教師が来る前に教室の清掃は無事に終わった。
清掃終了まで席での待機を命じられた3人は先程瑞稀に凍らされていた時よりも微動だにせず、各自の席でそれはそれは美しい姿勢で待機していたという。
「よし、終わったな……後は待つだけだ」
クラスの一人が呟き、それとほぼ同時に扉が開く
「おーっす! お早うじゃん! 皆!」
「お早うございます! 黄泉川先生!」
クラス全員が声を揃え、一日の朝にふさわしい挨拶をする。
「うんうん! 今日も教室がキレイだし、全員元気がいいじゃん! 実に結構!」
教室に入るは腰まで届く長さのロングヘアを後ろに縛り、
服装はいつも冴えない緑のジャージ姿で洒落っ気はないが抜群のプロポーションの女性の教師、そして目を引く整った顔立ちで白い歯を見せ、クラスの生徒全員へ向かって笑顔になる。
「よし……今日も何とか死者を出させずに済みそうだ……」
生徒達は揃ってそう思い、心の中で安堵した。
担任、
これがクラス内の
そのルールが根底としてあるのは当時入学したての頃に聞いた、
---教師であり、
という『ウワサ』からによるものだった。
他にも後から聞いたウワサで『自身の車両が潰されると装甲車ばりの大型特殊車両を代わりに使いカーチェイスを繰り広げ、被害をより甚大にした』などの逸話がある。
入学当時、ウワサを知っている生徒達は黄泉川が担任でないか皆は戦々恐々とし、別のクラスになったものは喜び、また担任のクラスとなったものは絶望の顔色を示していた。
どんな人間なのだろう、と。
入学式が終わり、教室での初顔合わせの時には黄泉川が担任となった生徒達は驚いた。
服は入学式と言うこともありスーツだが、興味は無いのか野暮ったいものであり、髪は後ろで纏めているだけで化粧っ気も無く、大雑把な格好をしている。
しかしその雑さすら艶っぽく、色気のない姿ですら何故かとても色っぽく見せるほどの美人であったのだ。
そして、とても『人を殺したとは思えない』笑顔で、
「これから皆の担任となる黄泉川愛穂だ、よろしくじゃん!」と新しく出来た家族を歓迎する様な顔で挨拶をした。
その後、オリエンテーションが終わり黄泉川が教室を出た後、
「なぁ、あれが本当にウワサ通りの人物かよ?」
「もしかしたら私達が何か問題を起こした時は容赦が無いのかもしれないわよ」
「なら俺達は学校生活を無事過ごす為、成績優秀、品行方正な『優等生』にならなければいけないな」
そうすれば何も問題は起こらない。これが入学初日にしてクラス全員で認識した決まり事だった。
無事にHRが終わり、黄泉川が教室を出て、
「ふぅ~、どうやら無事にやり過ごせたみたいだな!」と少年が息を大きく吐き、
「あぁ、この一糸乱れぬチームワークのお陰で無事に過ごせる事になるんだな」幸徳井は頷き、
「しっかし疲れたぜぃ、三ヶ月以上は経ってるけど未だに慣れやしねぇんでぃ」赤髪は項垂れ、
「「「「お前らは毎回何にもしてないだろ!!!!!!!」」」」三人以外のクラス全員が突っ込む。
「しっ、失礼な、俺達が何もしないのはお前らの意志だろ!」少年は反論する。
「そうだ……お前らが掃除や整頓に参加しないのはいい……逆にひどくなるからな」
「ならさっきの同調はどういう事だ? 参加しないのが是なら糾弾される覚えはないぞ」幸徳井も返す。
「なら言おう、幸徳井! お前はHRの時に眼鏡をクイクイしすぎだ! それやってるからって優等生って事じゃないんだぞ!? しかも途中で飽きるのか、先生の語尾の『じゃん』に合わせてリズミカルな時もあるし! 目障りでヒヤヒヤするんだよ!」
「む……」幸徳井は黙る、秘密のタイミングがバレていたのがショックだったみたいだ。
「おいおい、そしたらオイラはどうなんでぃ?」赤髪は自信満々にクラスメイトに聞く。
「その髪だよ! 後はHRの時シャツのボタンを閉めるのはいいが、ピッチリし過ぎて逆に刺青《タトゥー》が見えてるんだよ! アピールか!」
「しかもその刺青、先生に指摘されたろ!? それで『はい、これは僕の両親が幸せになるために描いてくれたものです』って言ってたよな! 何だその言い訳! あと完全な標準語じゃねえか! このニセ江戸っ子め!」
「ななな……っ!! なっ何を言ってるんだぇ!?」赤髪は顔も真っ赤にし、トマトみたいになって否定する。
「最後は俺だな、この二人が受けた心の傷、俺も受け止めてやるよ」少年が前に出た。
この少年、男前な事を言っているがさっきの二人よりも外見上で目立ってない、HRの時でもだ。特に注意されない筈だと三人のヒエラルキーの中でも頂点に立てる腹黒い計算さがそこにはあった。
(俺は二人よりもマシな筈……!)
「お前は」
「気持ち悪い」
「そう、気持ち悪い、以上だ。」
「ねぇ! ちょっと待ってよ! もっと具体的に! さっきの二人に指摘した言動とか外見とかさぁ! 今日一時間もまだ経ってないのに4回目だよ!? そんなペースで聞く言葉じゃないよ!? 受け止めきれないよ!?」
半泣きで叫び抗議するが、もはやクラスメイトは言い尽くした感ありありで授業の準備を行う。幸徳井はポンと少年の肩を叩き、赤髪タトゥーは首を横に振った。そんな折、
「3人共っ、そういえば今日が今学期末のテスト結果が出る頃じゃないっ?」
先程の事は忘れたかのように瑞穂が声を掛けてきた。
「どういうことだ?」幸徳井は意味がわからないと言わんばかりに聞き返す。
「つまり、成績が悪ければ補習があるということっ。成績が悪いイコール先生が怒る」
結論、死。
「なるほどな、方程式が成立したよ。」
「多分、今日にでも補習生の発表があるかもねっ」
瑞穂は続けて躍動感あふれる明るい声で、
「特に3人が一番危ないんだからっ。それに何だかんだクラスが一丸となってやってきた三ヶ月の結果が出るんだもんっ、出来れば
「怖いこと言うなよ…」少年は苦笑いで返す。
「とにかくっ、結果が出るまでは油断しないっ! 決戦は放課後なんだからっ!」
瑞穂は3人に言い残して授業の準備のために自分の机に向かっていく。少年はぼんやりとその背中を見送った。
――――――そう、本当に放課後が決戦になるという事を少年は知る由も無く。
未だに主人公の名前を出しておりませんでしたが、次回でようやく名前が出ます!
読みづらい思いをされていた方、大変申し訳ございません!
今回もご精読ありがとうございました!