今日は曇りだ。昨日散々早苗にいじられて、その八つ当たりを航生にされた覚えがあるが、それは一応ちゃんと謝られた。朝ご飯を食べ、いつもの服に着替えて外に出る。曇りだとなんとなく気分が落ち込んで、やる気が出ない。そして話はいきなり変わり、俺航生は現在進行形で死に際に立たされている。何が起きているのかは考えるまでもないだろう。前にも似たようなことがあった。この時俺はそのままぴちゅらされたが、今回はそうはいかまいとなんとか逃げ出す方法を考えている。しかしながらいい手立てが全く思いつかない。時期としてはもう夏なのでとても暑い。この状態で引き剥がさないこいつはどうかしている。
「霊夢ー!邪魔するぜー」
玄関の方から声が聞こえた。声的に魔理沙だ。こんな時間から来るとなるとなにか悪巧みをしていそうな気がする。
「……………邪魔したぜ」
「待て待て待て待て!助けてくれ!」
「嫌じゃないならほっといてやれ」
「嫌じゃないけど暑いのは嫌だ!早く助けて!」
「無理だぜ。あとは頑張れ」
「なんかいうことひとつ聞いてやるから!」
「よし乗った!」
「すまん………無理だったぜ」
「起き上がれただけマシだ。感謝」
魔理沙がいなかったらまたピチュるところだった。まあいいや。魔理沙にはああいったが、何をすればいいか………。
「この薬を霊夢に飲ませてみてくれ。もちろん私が作ったことを隠して」
また始まった。魔理沙は威力寄りの攻撃魔法は右に出る者がいないほど得意だが、細かい作業は苦手だ。アリスを少しは見習って欲しい。
「毒ではないぞ。私も飲んでみたが体に異常は出なかった」
なんか信用性に欠けるが毒ではないならまあいいだろう。ただどんな薬を作っていたのかは教えて欲しい。実験が成功したかしてないかを判断する材料かないと厳しい。
「一応最近暑くなってきたから発汗性をあげる薬だぜ。永琳に聞いて出しすぎて脱水にならないようにはしてみた。夏にもってこいだと思うが」
確かに夏にはもってこいの薬だ。ただ人間の汗は過度に出すぎると脱水だけでは済まないことがよくある。そちらに関しては心配だが、その時は薬の効果抜ける(かもしれない)魔法を使ってもらえばいい話だ。
「わかった。取り敢えず今日の朝はゴーヤチャンプルーにする予定だったんだ。味が苦かったならカモフラージュ出来るだろ」
そして俺は、魔理沙の言われるがまま朝ごはんの支度をしようとしたが、流石に明け方はいくら夏でも少し涼しいのでお茶くらいは出しておいた。
「サンキューな、霊夢とは大違いだぜ」
(どれだけケチなんだあいつは……)
「まあいいや。取り敢えず作るか」
俺はもう1回台所に戻って朝ご飯を作り始めた。
「さてさて今日の朝ご飯は何かしら?」
いつも通りの食欲で起きてきた紅白。既に着替えている。いつもと順番が違うのでなんか違和感が抜けない。
「それじゃ頂きます」
手を合わせて、口に朝ご飯を流し込む。よっぽど腹が減っていたのかいつもより食べる勢いがすごかった。
「今日は朝からゴーヤチャンプルーなのね……」
「健康が1番だろ?」
なんとか言い訳することに成功。あとは霊夢が食べてくれればいいだけだ。ちなみに魔理沙も一緒に朝ご飯を食べている。来たついでに出しているのだが、魔理沙はそわそわしてバレかねない。もう少しセーブしてくれないと困る。
「ただ、その上からゴーヤの苦味成分そのままかけてるから、普通より苦いかもしれん。ま、大丈夫っしょ」
「私苦さには強いわよ」
これで疑うことはないはずだ。そして霊夢はついにゴーヤチャンプルー(薬入り)を食べた。やはり苦いのかもの凄く噛んでいる。なんとか苦味を消そうとしているのだろうが、俺達からすれば好都合だ。ついに霊夢はそのチャンプルーもどきを飲み込んだ。魔理沙いわく食べたあとかららしいからその後は普通に朝ご飯を食べ進めた。
朝ご飯が食べ終わりいつものお茶タイム。そろそろ効果が出てもいい頃だが、遅い。魔理沙の時はすぐに出たということは、唾液でとかそうとしたため消化されて体内部を動き回っているということだろう。浸透するまで時間がかかるのは仕方がない。
「なんか今日いつもより暑くない!?」
ついにその効果が出たようだ。魔理沙と俺は隠れてガッツポーズをした。ただそれにしては顔が赤い。たしかに暑いと顔は赤くなるが、なんか別の意味で赤くなっている気がする。もしかして副作用かなにかだろうか。まあ主成分が出たのでいいだろう。
「じゃあ私は帰るぜ。またな」
魔理沙は最近魔法の研究に打ち込んでいるらしい。いいことだ。
魔理沙が飛び上がる寸前から霊夢は声が掠れ始めた。体に害のある副作用なら魔理沙を呼び戻すが……。
「…………航生………」
低い声で霊夢が俺を呼んだ。体の調子が悪いのか聞こうと振り向いた瞬間。
「航生!」
少し小さめの声で叫びながら抱きついてきた。起きたらこういうことをしないはずの霊夢がこんなことをするのは明らかにおかしい。なにか原因があるはず。そしてその原因は一つだけだ。
「まさか………」
背筋に虫唾が走る。魔理沙は実験は成功したがやはりどこか抜けている。この時期この状況で出て欲しくない副作用ランキングNo.1は有名どころのアレだ。
「大好き!」
「やっぱりかー!!!」
そう、惚れ薬だ。考えなかったことはないがまさか本当に出るとは思わなかった。最悪だ。今日は色々とやらないといけない予定があるのにタイミングが悪すぎる。しかも、その予定は1箇所だけではなく数箇所を転々と動くためとてつもなくやばい。惚れ薬にもレベルがあり、自制心を少し緩めるだけのパターンとそれの強力版。もしくは『頭の中を直接薬の効果が切れるまで恋愛感情で埋め尽くす』のどちらかだ。自制心を緩めるだけなら好きとまでは大胆に言わない。つまり残されている選択肢はひとつのみ。
「やばい方の効果かよチキショー」
しかも、副作用でここまで出るとなるととてつもなく強力だ。これなら普通に惚れ薬と出して売ればある1部の変態(龍哉とか)には買ってもらえるだろう。
「今日は、いいえ。ずっと一緒よ!」
そこまで力説されると理性が持つか心配だ。このままでは外に出られない。しかし、この用事は済ませておきたいというのが今日の予定の9割9分9厘を占めている。残り1厘は俺の趣味なので後回しでもいい。それと今もうひとつ思い出した。強力な方の惚れ薬は効いた人によってはもっとやばい方向まで行くという。流石にそこまではないだろうと心の中でフラグをたてたのが間違いだった。
「航生~こっち向いて〜」
少しだけ嫌な予感がした。今それは勘弁して欲しいと思いながら俺は霊夢の方を振り向いた。
「大好きよ!」
そう言って何をされたか?言うまでもないだろう。しかしわからない人のために一応教えてあげようじゃあないか。この状況で起きる可能性のある出来事は1つ。
「わむっ!?」
やめろという前に盛大に唇を奪われた。
(普通逆だろちきしょー。たしかに俺にとってはご褒b、ゲフンゲフン、毒だ。こんなこと俺は望まない(嬉しかったのは事実)。普通に愛し合ってからこういうことをしたい。)
しかもこれが1分半続いた。流石に意識が飛びそうだったがなんとかこらえた。
「あの……取り敢えず人里行きたいんで放してくれませんか?」
そう言って聞くわけはなく、結局霊夢も一緒に連れて行く羽目になった。勘弁してくれ。俺こういう状況に陥ったことないんだよ。しかもこれ霊夢が正気に戻ったあと何を言われるか分かったもんじゃない。ほんとにやばい。このままじゃあの新聞が真実になっちまう。
〜人里到着〜
「人里着いちゃったよ……。魔理沙いるかな?」
「呼んだか?」
背後から声をかけられて跳ね上がり振り向く。
「お前!完全ではないけど半分くらい失敗してんじゃねーかこれ!」
「良かったじゃないか。おかげでハッピーエンドDA☆ZE」
ウザイ。その言葉は霊夢の言葉でかき消された。
「魔理沙!?航生は渡さないわよ!」
「別にとるつもりないぜ。安心しろ」
「出来るか!!」
とてもセンスのないノリツッコミのようなものが飛び交っている。そろそろ朝市が始まる時間だ。人が集まってくれば大ピンチ。博麗の巫女が博麗の巫女として居れなくなる。それは必ず阻止しなければならない。
「取り敢えずアリスのところ行くか……」
アリスにも用事はあったので丁度いい。この状態の霊夢を治せるか聞いてみよう。
「無理ね。逆によくここまで強力なやつ作れたわね」
あっさり断られた。希望が完全に打ち砕かれた。薬は薬と思ったが、今日は永遠亭は別の用事だかなんだかで開いていないことを思い出したため完全に治せなくなった。薬の効果が切れるまで待つしかないそうだ。
「そうだアリス。これ。頼まれてたやつ作ってきたぞ」
「ありがとね。お礼にクッキーでも食べてって」
「THANKS」
アリスのクッキーはとても美味しい。売り出せば普通に儲かると思うが、そのつもりは無いらしい。
「そうだ。このあと紅魔館行くならついてっていい?ちょっとパチェに用があるの」
「別に構わないよ。俺が用があるのはレミリアと咲夜だし」
「わかったわ」
「……………」
「……………」
「霊夢たち何時からそんな関係に……」
「なってないからな!?」
〜少年説明中〜
「なるほど理解」
何故かロリ吸血鬼(姉)とパーフェクトメイドは黙ったままだ。フランは普通に理解してくれたようで助かった。もし残りの2人がまだ勘違いしているなら然るべき制裁を……。
「やめてあげて」
そう言って止めてきたのは霊夢だった。
「そんな人を傷つけるあなたは見たくないわ」
確かにそれはある。何もしてないやつを傷つけるのは重罪だ。ここは霊夢の言う通り何もしないのが得策だろう。
「す、すまん」
「ふふ笑 分かればいいのよ」
こんな状態の霊夢にも尻に敷かれそうになる俺って一体何なのだろう。
「てか、そろそろ仕事したいから放してくれるとありがたい、というか放してくれないと仕事が出来ない。頼む、放してくれ」
ちなみに仕事というのは、咲夜とレミリアの戦闘訓練だ。直々に2人に頼まれた。しかも、紅魔館の当主にも頭を下げられると俺も引き受けずにはいられない。能力が復活しつつある今、鍛えて紅魔館を守りたいというのが本音だそうだ。まあ、俺も鍛えないといけないという事で丁度いいので引き受けた。
「それじゃあ始めるわよ……」
「ダメだ。悪いが、今のお前らでは俺を倒せない。それどころか瞬殺されて終わるぞ」
「言うわね……神槍『スピア・ザ・グングニル』!」
「ちょっとムカついたわ。幻符『殺人ドール』!」
「法則変化『反転』」
レミリアたちの放った弾幕が逆転し、本人達に襲いかかる。2人ともこういう自体に弱いのだ。まだこれは小手調べにすらならない。この程度でやられてしまうのであれば、この先すぐに死ぬと思う。現に俺もやられたのだから。しかし、自分の放った弾幕のことを理解していないわけはなく、軽々と避けていく。それが出来ないのであれば(以下略)。俺が普通にこの技を使えたのは、威力がほとんど出ていないからだ。2つのスペルが互いに相殺しあったせいで本来のものが出ておらず、簡単に防がれるのだ。
「こりゃダメだ。一人一人やらないとだな。まず咲夜からやろうか」
「わかったわ。奇術『エターナルミーク』」
四方八方に散らばる弾幕。確かに密度もあるしスピードもあるがこの程度でやられてしまっては幻想郷を守る博麗の巫女の補佐としての名がすたる。それに1度この弾幕は体験しているので避け方もわかっている。しかし、避けるつもりは無い。避けた時隙を作るくらいなら。
「全部たたき落とす!」
正確には切り刻むだがどうでもいい。避けられない速さは切れない。だけどなんとなくでも避けきれる。つまり……。
「すべての弾幕を切り落とせるってことだ!鬼斬『ラストエンペラー』!」
最後の一撃にふさわしい名前(センスは皆無)だ。目の前に迫る弾幕をスペルで上乗せした剣で弾き続ける。余裕があれば斬る。ただの人間ではない俺でも普通の人間と同じ感覚を持っている。それで生活しているため、戦闘の時はよく感覚が鈍る。俺の特技は反射を使用した行動。つまり反射神経がいい。問題は反射神経などを利用して戦う超攻撃特化型(ダメージディーラー)だということ。確かに恐れはある。死ぬことは怖いと思うし、防御に徹することもある。今はそんなことは気にしなくていいのだから、戦うことに集中できる。
「そんな……私のナイフが全部弾かれるなんて……」
「咲夜の得意な戦い方は速さと手数。俺は手数は少ないが速さでは咲夜を上回れるからな。手数で勝負できるのは自分と同じ速さ、同じ威力の攻撃をしてくる奴だけだ。手数で威力をあげるなら、一点集中の攻撃をすることだ。じゃあ次はレミリアの番だな」
「うちの咲夜よりも速いのね、あなた。『紅色の幻想郷』!」
ちなみにこの戦闘訓練は自分が強いと思うスペルを2度まで使えるというルールにしてある。その弱点を見つけて教えるのが俺の仕事だ。
「レミリアは威力と手数はあるが速さとバランスが取れてないな。これには……そうだな………紅符『スカーレットシュート 改』!」
レミリアのスペルを真似たスペル。密度もスピードもパワーも原作より強い。密度はそれほど変わらないかもしれないが、パワーとスピードだけは勝っている。さらに霊夢のホーミングアミュレットの性質を利用し、ある程度追尾できるようにもしてある。視覚誘導もできるので、離れたところから弾幕を向かわせることも出来る。先程も述べた通りレミリアのスペルは威力はあるがスピードがない。ほんの少しの隙間を見つけ侵入できる。
「ヤバッ!」
結果被弾。そのまま地面に落ちた、が難なく着地。その後俺は結果を伝えた。
「確かに吸血鬼と人間じゃ魔力に差はあるが、片方にないものをもう片方が持っている。レミリアの威力と咲夜のスピードを活かせばいいだろ。時を止めれば、速さは補える。ただしそれはその時の中で動けないやつだけ。俺はあえて動かなかったが動ける奴もいる。時を止めないで速さと威力を補えれば強いスペルが作れるはずだ」
「わかったわ。咲夜やるわよ」
「はい!お嬢様!」
「今日中に思いつくとは思わないけど、思いついたら教えてくれ。ちょっとパチュリーのとこ行ってくるから」
「それは本当か!?」
「ええ、ほんとに稀だけど起きるらしいわ。その稀が当たったわね」
「それじゃあこのままだと誰も勝てないんじゃ……」
「そうね。航生でさえギリギリだったんだからあれより多いはずよ」
「何の話してたんだ?」
何やらやばそうな話をしていた。俺でもやばいとは何のことだろうか。
「そうね……この話は主要メンバーを集めて話しましょう。まあ、魔理沙のせいで霊夢はあの状態だけど……」
「返す言葉もないぜ」
「場所は今夜7時。ここ、紅魔館の図書館でいいわね」
「取り敢えず私は白玉楼に行ってくるぜ」
「それじゃあ私は永遠亭と人里だわ」
「いや、永遠亭は俺が行くから、アリスは人里と妖怪の山を頼む」
そういうわけで、俺は永遠亭に向かおうとした。行こうとした時パチュリーに止められた。
「航生……あなたには先に話しておくわ。このあと何が起こるのか」
すごい勢いで不安が押し寄せてくる。これでまた誰かが死ぬかもしれないのならと怖くて仕方ない。それでも戦うと決めたのだ。
「わかった。覚悟はできてる」
そして俺はすべてを聞かされた。人間に強すぎる敵対意識を持つ妖怪が何年かに一回集合することがあるらしい。集合するというのは一つの集合体。つまり、合体するという事。そうすればその妖怪(集合したやつ)の力は元のやつ(集合してない奴ら)の力も加算されるので量によっては力だけなら力の四天王を上回り、魔力は月と幻想の賢者も上回る。そしてそれが俺を前に襲ってきたやつだという。扱いなれてない力といえども勝てないということは幻想郷で勝てないということ。夢の中で聞こえた不気味な笑い。これがそうなのだ。俺の力は紫にすら、それどころか今のところ幻想郷内最強の博麗の巫女にすら勝てない俺では話にならない。人間に対しても妖怪に対しても中立な紫や博麗の巫女である霊夢が狙われないわけはない。というか、この前俺が倒した妖怪は、俺を狙っていたんじゃなく、博麗の巫女(=霊夢)にやられた奴らだろう。霊夢を襲おうとしたが俺に見つかり止められた。博麗の巫女に殺されかけた妖怪は少なくない。だから紫より霊夢が狙われやすい。幻想郷を統制出来るのは博麗の巫女だけ。日本で言う天皇のような人だ(つまり、いないとその国が成立しない)。それがいなくなればそこは壊滅する。博麗の巫女は幻想郷を守るのが義務化されている。
「わかった。一応その話は今日の夜もう一回しよう」
そして俺は永遠亭組を連れてこようと空に飛び立った。自分を守るためには何かを犠牲にする。逆に他のものを守ろうとすれば自分を犠牲にする。せめて霊夢だけは守る。この時俺はこの思いが1番強かった。