「それじゃあ話し合いを始めるわよ」
紫の号令で開始した話し合い。幻想郷の妖怪達が結託して合体し、強力な妖怪になる時期に当たった俺達。白玉楼にいる龍哉達や紅魔館の美鈴(門番中)を除く全員。人里にいる慧音や、永遠亭の永琳と鈴仙。そして地底と妖怪の山の奴ら。幻想郷のすべての場所のリーダー格が全員揃って話し合った。霊夢もいるにはいるがこの状態なのでその話は記録してあとから話すことにした。
「今回の妖怪達の結託は幻想郷を崩壊させかねない重要事。その管理者はとんでもない状態になってるから、代わりに魔理沙にも聞いてもらうわ」
「もう言わないでくれ。反省してるんだ」
「まあいいわ。ここの図書館に幻想郷の歴史の本があって、それを探っていたら妖怪達の結託と融合により人間達に被害をもたらすというものがあったの」
ザワザワしているが仕方ないことだろう。唯一経験してるのは紫と永琳だけだ。その2人はまたかと言った表情だ。
「今回の異変の続きだと考えればいいわ。それで対策を練らないといけないのだけれど、紅魔館と地霊殿。そして白玉楼。この3箇所はいいけど問題は『人里』『永遠亭』そして、『博麗神社』。この3箇所は危険だわ。特に博麗神社はね」
それは理解している。その歴史を俺は知っているからだ。
「さらに永遠亭は妖怪人間問わず治療をするから信頼があって狙われる可能性は限りなく低い。問題は残りの2箇所」
博麗神社は俺たち2人だけでは守りきれないし、最悪幻想郷全体まとめて破壊できるほどの力を持つ可能性もあった。幻想郷を破壊するにはその境目である場所を攻撃するのが1番手っ取り早い。ここにいる全員理解しているが、全ての妖怪は幻想郷の人間を食べることが許されていない。その代わりとして紫がさらってきた人間を食べるのだ。もちろん普通の力の弱い妖怪がそれで満足するわけがない。そいつらが集合して強くなる。数は多ければ多いほど強くなる。この世界の倫理だ。それが1つとなるのだから強さは桁違い。前に起きた時は恨みや憎しみを持つ妖怪が少なかったため紫と幽々子。そして月の賢者である永琳で抑え込めた。ただし今回はそううまくは行かないそうだ。
「人里が潰れれば幻想郷を維持出来ない。最悪博麗神社自体壊されても直せばいいから人里優先で防衛しようと思うのだけど」
この作戦は俺が会議開始前紫に言った作戦。結界は結界組(紫・俺・霊夢)でなんとかなる。だから人里を優先すべきと判断した。
「おい!そんな事したら!」
「そうよ!そんなことすれば…」
そう。この作戦の弱点。それは戦力の減少にある。博麗神社は後回し。それはつまりそこにいるやつだけで防衛するということ。人里に前に張った結界が破られるという事で完全な実力任せの戦闘になる。
「ん?あれ?私なんでこんな所にいるの?」
グッドタイミング。霊夢が正気に戻ったようだ。別にこのままでもよかったが、手間が省けて助かった。戻った瞬間だけとても和む雰囲気になったがそのめんどくさい状態は異変が終わったらという事にして話を続けた。
「私もそれで構わないわ。自分の身くらい自分で守れるし、最悪紫呼べばスキマで逃げれるし」
あっさり受諾。
「ダメだ霊夢!そんなの自殺行為だ!いくら不老不死の体でも死ぬことは知っているはずだ!」
「別に構わないわ。それが博麗の巫女の仕事なんだもの」
霊夢は自分の命は軽く捨てる癖がある。そこは直して欲しい。
「大丈夫。霊夢とみんなは死んでも俺が守る」
これが幻想郷に入る時に霊夢と紫に出した条件だ。そしてもう1つ。
「みんな覚えてるか?異変解決後言ったこと」
「覚えてるわよ。『1回だけなにか頼んだ時それを必ず受け入れる』でしょ?」
「それを今全員に使う。今言った俺の作戦とこの異変が解決するまで俺の言う命令に逆らうな」
皆が反発しないわけはない。しかし、この幻想郷の中でいくら束になっても俺に勝てる奴はいない。今回の妖怪の件は別だが、魔理沙たちのような主要メンバーで敵う奴はいない。もし逆らうなら俺を倒してからにしろ。
「ぐっ!」
「その作戦を前提に話を進めるわ。まず人里は防御に徹しましょう。絶対に攻勢に出てはいけない。博麗神社はあなたに任せるわ。それで本当にいいのね?」
「俺が出した条件だし、もちろんだ」
話し合いは続き、最終段階の作戦の説明に入ろうとした時。
「………ちょっと待って?」
先程まで話していたのは博麗の巫女の損失は幻想郷で1番の問題。霊夢は紫たちのような妖怪以外にも割と好かれているので、霊夢は死なせるわけには行かないため最悪のことを考えて死にかけた場合逃がすというものだった。この条件で反発していた奴らは全員了承したはずだったがこの作戦の深い意味を理解しているのは俺以外だと紫、幽々子、さとり、永琳だけだった。そしてこのタイミングで発言してきたところを見るに、霊夢も気づいたようだ。
「あなたまさか…!」
「そうだよ。たとえお前でもさっきの条件には従ってもらう。約束だったはずだが?」
この作戦の最大の目的は守ること。俺は俺自身を犠牲にしても守るという原理に基づいてできている。倒せなかった場合紫に頼んで俺ごと封印することにした。人間に封印術は通用するので封印を食らうということは死ぬということと同じなのだ。まあ、最悪の場合だしその点に関しては心配ないだろう。
「いやよ!私はまた誰かを失わないといけないの!?」
「………」
紫から聞いたが先代の博麗の巫女。確か名前は博麗霊奈だったか。霊奈さんは異変解決後突然と姿を消し、未だ行方不明だという。もちろん紫も相談されたそうだが見つけられなかったそうだ。その事を思い出した俺だったがこれが俺の持てる最高の策だった。これ以外にやり方が思いつかない。確かにもう少しみんなといたい。でも龍哉と彩夏も死ぬのは覚悟の上で今ここに立っている。命は尊い物。俺も生きている物だからその権利は平等にある。
「霊夢……気持ちは分かるわ。でもそれは彼が決めたこと。あなたはそれを覆していい権利は持ってないわ。しかもまだ仮定の話。その方向に行かないことを願いましょう」
「わかったわ……でも一つだけ言わせて。絶対に……死なないで」
「もちろんだ。ここで死ぬわけにはいかないからな」
その後も話し合いは続き、だいたい話し始めてから4時間。夜の11時になっていた。いくらなんでもずっと話を聞いているのでは眠くなるわけで、妖夢なんか既に何度かコクコク寝かけてたし、地底のさとりの無意識妹は彼女(=さとり)の膝の上で寝ている。一応休憩時間はあったが、ほとんどのやつが寝なかった。そのせいで終わる寸前で大体のやつが寝てしまった。こいしとか妖夢は仕方ないかもしれない。ある程度話が終わったため紅魔館の話は終わったが、こいしを地底に置いてくると言って少しだけさとりは離脱。残った奴らは寺子屋に向かった。そこは黒板もあるので図もかけて便利だからだった。和室は現代(俺たちのいた世界)でも落ち着くとして評判だ。眠くなるやつも少なからずいて、龍哉と彩夏は既に寝てしまっている。寺子屋に来て30分足らずで寝てしまうのだからやばいが仕方ない。現に霊夢でさえ寝てしまったのだ。もしも霊夢の前見た予知夢があれば対策はさらに立てやすいのに……と思っているがそんなうまく見るわけがない。ただ、そんなフラグを俺は見事に回収することになる。
「なんか霊夢顔赤くない?」
いち早く気づいたのは咲夜だった。流石ともいうべきだろうがそこではない。前のパターンで行くとこの後体をうねらせて、うなされていた。今回はもっとやばかった。
「いや!いやぁぁぁぁぁぁぁ!」
突然霊夢が叫び出した。夢を見ているのであってもここまで叫ぶことはないはずだ。どんな妖怪でも夢の中に入れるやつはいない(紫を除く)。だから夢の中で攻撃されるということは無いはずだ。そこら辺で寝ていた奴らもその大きな叫び声で目を覚ます。寺子屋についた時使った防音魔法で近所迷惑対策はできている。そんなこと気にして何になる。
「寝ているから聞こえないかもしれないが落ち着け!」
「やめて!いかないで!私の前からいなくならないで!」
その叫び声は少しずつ激しさを増して言った。慣れているわけではないので正直うるさい。こんな叫び声をするのは悪い夢を見た時くらいだろうが、ここまでなるだろうか?遂に魔理沙は耳を塞ぎ始めた。確かに耳を貫くように痛くなる声だ。アリスは何かを詠唱してるところを見るに防音魔法だ。その詠唱が終わった時そこにいた耳を塞いでいたやつ(魔理沙)が手を離した。それで普通の声くらいの大きさに聞こえているのだろう。それを使われてない俺は普通に聞こえてくるがそちらの方がわかりやすくていい。
「嫌だ嫌だ嫌だ嫌だ嫌だ!いやぁぁぁぁぁぁぁ!」
しまいには肩を抑えて縮こまりながら叫んでいる。このパターンは確実に悪い夢。しかも確実性のありそうなものだ。
「はぁ…はぁ…はぁ…んっ!はぁ…はぁ…」
どうやら起きたようだ。ここまでやばいやつを見たのは初めてだ。終わると思っていたのに終わりはしなかった。
「航生やめて!死なないで!」
どうやらまだ混乱しているようで再び叫び始めた。
「俺は死んでない!ここにいる!大丈夫だから!」
なんか泣き止まない赤ん坊をあやしている感覚があるが関係ない。とにかく落ち着かせようとする。精神科はこの世界にはないのでなんとか落ち着かせるしかないのだが、気絶させればまた同じ夢を見る可能性がある。そう、この類の専門家は1人だけだ。
「なんかすごい叫び声聞こえましたけど大丈夫ですか!?」
さとりだ。ちょうど良くさとりがきた。
「さとり!なんか後ろにこいしいるけどまあいいや!この状態の霊夢落ち着かせられるか!?」
そして少し霊夢を見つめる。心を読んでいるようだけどなんか調子が悪そうに見えてきた。
「無理です!ここまで精神のバランスが狂っているのでは私ではどうにもなりません!恐らく反転させる鬼でも無理です!」
反転させる鬼とは鬼人正邪の事だ。あいつの能力は『ありとあらゆるものを反転させる』というものであるが、この状態ではそれを振り切る可能性があるという。この時俺は前に話したことを思い出した。
〜回想〜
「精神崩壊する可能性?」
『そうだよ。不老不死では生きる目的を失ったりした時精神の歪みがでかくなる。普通の人間も確かに起きるし、その状態はどちらも同じくらいだ。どんな治療を施しても絶対に治せない不治の病だ』
「じゃあもし崩壊したら!」
『その人は生きる屍と化すだろうね』
〜回想終了〜
「このままいくと霊夢さんは!」
俺には心を治すことは出来ない。たしかに俺の能力を使えば精神侵入することは出来る。しかし、自分に外が及ばないよう壁になるものはどけようとする。そうすれば精神の規則正しい並びが崩れ、精神崩壊を引き起こす可能性が高くなる。この状態の霊夢だと確実に起きるだろう。しかもその精神内の感情は自分に強く作用するので強い自我を保たなければならない。そもそも人の精神内で自分の自我を保つのにも相当な精神力を使うのに、プラスでその保つための精神力の数十倍の精神力を加算しなければならない。はっきり言って確実に精神崩壊を誘発させるだろう。
「そうだ!」
ここで1つ案が思いついた。この状態の霊夢を助けることができるかもしれない方法がある。
「こいし!お前確か無意識操れたよな!?」
「うん……そういうことね!わかった!やってみるよ!」
そう、無意識を操って夢の中で起きたことは現実だと思い込んでいる霊夢を元に戻せると思ったのだ。しかし、そんな付け焼き刃の考えなどうまく通用するわけはなかった。
「ダメ!操ろうとしてるけど何かが壁になってうまく操れない!」
このままでは本当に危ない。永琳もそれは理解していたようだ。精神がどんな状態かはわからないが、それが体に及ぼす影響は理解出来たようで少しずつ顔が青ざめていった。レミリアも能力が効かないと言っているしやばい。紫も精神世界との境界をなくそうとしたが無理だったようだ。紫の能力が使えないとなると、俺でも効かない。静かにさせるなら気絶させるだけでいいが、その間も精神は蝕まれるとさとりがいった。妖夢の白楼剣も考えたが、迷いがある訳では無いので効かないと本人が言っている。ここまで長くなるというのはほかにも原因がある可能性がある。今までの会話の記憶からすぐに理解した。昔いなくなったお母さんのことがトラウマとなっているのかもしれない。その時感じた恐怖が蘇って上乗せされているのだ。魔法通じない、能力使えない。物理では精神崩壊を招く可能性がでかい。最悪の条件下である。精神世界に綻びができると他の何者かの精神が侵入しやすくなってしまう。それはなんとか阻止しなければならなかったが、落ち着かせる手段がないためにどうしようもない。そして霊夢の体が小刻みに震え始めた。恐怖、絶望、悲しみ、憎しみと言った負の感情の全てと言ってもいいくらいのもので霊夢の精神が埋め尽くされている証拠だ。そして恐怖と絶望に昔感じた楽しい思い出もそのエネルギーを増幅させてしまう。
「なんとか落ち着かせられないのか……」
俺には抱いてあげることしか出来ない。力の無さを悔やんだが悔やむ時間はもうない。
「くそ!くそ!くそ!」
こうしている間にも霊夢の発狂が止まることはなく、もう霊夢は博麗の巫女の原型をとどめていない別のものになっていた。心拍も凄く、身体も震え、もちろん息も荒い。この状態はさとり曰く10分もたないそうだ。そしてまた、俺は会話の続きを思い出した。
〜回想2回目〜
『万が一精神崩壊が起きた場合、それを治すには類によるがそうだな……不老不死にある身近な人が死んだとかかな?そのパターンが1番多い。そういう時、死んでいた場合は治せないから気絶させたり記憶を改ざんするしかなくなる訳だが、もし夢の中とかで死んでて現実で生きているという錯覚に陥った場合、1番いいのは』
「いいのは……?」
『精神に入ってそれを直接伝えればいいが、崩壊した精神に入るのは命がもたない。だから外部からその人が生きているという証を見せるしかない。それは人によってそれぞれだから確定事項は何も無い』
〜回想終了〜
タイムリミットまであと3分。俺はこの方法を実行することにした。
「みんな下がって!」
これしか思いつかないがやるしかない。生きて欲しい。俺が望むのはそれだけだ。
「大好きだよ」
そう言って抱きしめていた霊夢を引き寄せた。そして静かに唇を近づけ触れさせる。これで少しでも心拍が遅くなれば、成功しているはずだ。
「やった!心拍が少しずつ落ち着いてる!」
塞いでいたからでもあるが霊夢は叫んでいなかった。と言うよりかは失神しかけたということだろう。でも落ち着いたのでよかった。
「はぁ…はぁ…はぁ…はぁ…私…また……」
霊夢の体はまだ震えている。抱きしめているからこそわかる。息も荒いし、心拍も普通以上速いが仕方ない。今さっきまであんな状態だったのだから。精神力が弱くなれば、人間はたってられなくなる。それどころか体に力を入れることすらできない。霊夢の体重すべてが俺にかかる。人間ではなくても心はあるのだ。
「なんかご…めん…わた……しの…せい…で」
そしてそのまま力が抜けて眠くなる。最悪またなったらアレやればいいだろう。と言うよりこれは眠っているというより気絶したと言った方がいいだろうか。
「とりあえず永琳。悪いけど今日一晩だけでいい。看護手伝って。俺じゃ限界がある」
「わかったわ。鈴仙。永遠亭から今から書くものまとめて持ってきてくれる?妹紅にも頼んでいいかしら?」
「わかりました」
「分かったよ」
そう言って2人は永遠亭に向かった。
「それじゃあ私たちは帰るぜ。またな」
そして魔理沙とアリスも飛んでいった。
「咲夜、主として命令よ。フランを連れてきなさい」
「呼んだ?」
タイミング良すぎだろ。レミリアは吸血鬼。夜は誰も勝てないとされる夜の帝王だ。フランも同じでレミリアの事だ。夜だけは護衛補佐するという事だろうが、いてくれると助かるのは事実だ。
「少しだけ寝ていいか?流石に丸一日寝ないのはきつい。早めに休んどかないといつ襲撃されるかわかったものじゃないからな」
「そうね…私が見張ってるからあなたは…」
「いや、その役目は私がやるわ」
そこで永琳が名乗りを上げた。確かによく考えたら永琳がいたことを忘れていた。それに最悪紫もいるしそれでいいだろうか。
「そういうわけだから紅魔館組は1度戻りなさい。あなた達は夜以外活動不可に等しいんだから」
というわけで、3人全員帰宅した。そこには俺と霊夢。永琳と慧音が残った。ついでに言うとスキマから紫が覗いているがそこは気にしないでおこう。俺の疲労は一応限界で、もう目をつぶったらすぐ寝れるくらいだった。
「頼むわ…おやすみ」
俺はそのまま目をつぶり、すぐに意識が夢の彼方へ飛んでいった。