『やあ、また会ったね』
何もない白い空間の中でそいつは話しかけてきた。こいつには色々と世話になっている。本人曰く神らしいがそれにしては力が弱い。元はとてつもない力を持っていたらしいが今はこの状態なのだという。
「なんだよ夢の中で……。夢も見ずに寝たいんだけど」
『まあまあそう言わず』
「んで?何か用か?」
『君はわからないと思うけどこの世界、と言ってもこの世全体かな?』
焦らしてくる神にイラつきを覚える。早めに終わらしてくれ。
『既にこの世界との境目。つまり、博麗大結界が崩壊を起こしている。このままでは私は完全に力を失ってしまう。それまでに君には決着をつけてほしい』
そんなことを言っても簡単ではない。力があるないに関わらず安全第一だ。危険をおかしてるのだから別にそれくらいはいいと思うが。
『とにかく頼むよ。私を、私たちの幻想郷を』
大役だなぁ、と思いながらも何も抵抗できない夢の中だし引き受ける以外の道はない。その前にここを守るために俺は来たのだ。
「当たり前だろ」
毎日のごとく見るこの夢の正体はなんなのだろうか。
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「結局こいつら寝やがった」
昨日よくわからないやつに襲われたけど航生に助けられ無事だった。さっきの話で俺は未来が見える能力があると分かったが気が気でなかった。未来が見えてもそれに反して未来を作るのが役目であると思っているが、『見えていたのに何も出来なかった』なんてことになったら何を言われるのだろうか。こんなことを考えるのはある奴の死が見えたからだ。あるやつと焦らす理由はない。死ぬ未来が見えたのは航生だった。霊夢が殺されそうになる時航生が身代わりになって死ぬというものだった。これを航生に言った場合「霊夢のために死ぬなら本望だ」とか言うだろう。怖さを克服したのには尊敬するが自分の命をもっと重く扱ってほしいと思う。朝の5時。霊夢は起きている。彼女にそのことを伝えるべきなのだろうか。もしこれを伝えたら航生と同じことを言うだろう。それは断じて困るのだ。死なれたら困る。それこそ幻想郷は崩壊する。
「あなたが颯ね?私は幽々子。よろしく」
「知ってるよ。それで何の用ですか?幽々子さん」
「いつ敵が来るかわかるかしら?」
「それなら多分……」
幽々子さんとやらに未来視(ビジョン)のことを話した。来るのは明日の夜。場所は人里で数はやく10数万。数だけなら明らかにこちらが不利である。幽々子さんはまだ能力が使えないため、言ってしまうと足でまといだ。何もせずに逃げてもらった方がこちらとしてはいいのだが、それはなんとなく断るだろうと思っていた。そもそも幽々子さんは自分の見た未来には出てこなかった。つまりどこかにいたということになる。最悪死んでいるということになるが亡霊なので死ぬ事は無い。いつまでたっても航生が死ぬ未来は変わらなかった。それどころか見える未来すべて航生が死んでいる。誰かに決められたかのように変わっていない。
「仕方ないわ。あなたには早めに私と一緒に永遠亭に来てもらうわ。別にあなたとしての問題は無いでしょう?」
確かに問題はない。個人的には二人が心配だが心配しすぎて邪魔になりたくはないし、それに二人がそれを望まないだろう。幽々子さんに言われた通り俺は永遠亭に向かった。
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今の戻るとそこに颯の姿はなかった。その代わりに置手紙があり「永遠亭に行きます」と書いてあった。もとよりその予定だったので何ら問題があるわけではない。私はいつも通り朝ご飯の支度を始めた。
3人も起きてきて朝ご飯も食べ終わってまた暇時間の襲来だ。何もすることがないと眠くなるのだがなぜか寝たいとは思わなかった。気になることが一つあった。今はちょうど航生もいないし龍哉にでも聞いてみることにした。
「ねえ、龍哉。ちょっといい?」
聞きたい話というのは、さっきも言ったが航生のことだ。航生は以前私の身代わりになって死にかけたことがある。なぜそんなことをするのか気になった。私に助かってほしいのかもしれないが、私はそんなことを望んでいるわけではない。私からすれば私の事より自分の安全性を優先してほしいと思っている。航生がなぜ自分を犠牲にしてまで私を守ろうとするのかわからなかった。
「今航生が寝てるから話してやるよ」
そういって彼は話してくれた。
「航生には昔彼女がいたんだよ。だけどその彼女は航生の前から姿を消したんだ」
「なんで?付き合ってたならいなくなる理由ないじゃない」
そのあとすぐに龍哉は話しにくそうな顔をした後ため息をして話を続けた。
「そいつは一時期行方不明になってて学校でも捜索願を出して探し続けた。それでも見つからなかった。それなのに航生はあきらめずに探し続けた」
なんか話の先が読めた気がしたので聞く気にならなかったが話を聞いた。
「多分お前が考えてる通りだよ。あいつは行きそうな場所を手当たり次第に探し続けて最後に行ったのが初めに告白した場所だったんだけど」
「もし言いにくいなら言わなくてもいいのよ」
聞こえていなかったのか話を続けた。
「そこで見つけたのは彼女の死体と遺書だったよ」
予想通りだった。過去にそういう状況に出くわしたことがある。人里の人間だったが内容もほぼ同じだった。
「その遺書には『あなたにもう迷惑はかけられない。ごめんね』って書いてあった。なぜそんなことを書いたのかというとそいつはよくいじめを受けていたんだ。成績そこそこいいし、先生からの評判もそこそこよかったからそれより下のランクの奴からは嫌われた。こいつはそれをやめさせようとなんども言ったが効果は出なくて結果的にそれに耐えきれなくなって自殺したんだ。でもこいつがそんなウソを認めるわけがなかった。いじめの事実を知っていたからな」
「それで自分の大切な存在を守り切れなかった後悔から自分を犠牲にしてでも守ろうとしてくれてると」
「そういうことだと俺は思ってる」
何も言えなかった。その話を聞いた後私はまた無力だと思った。少なくとも同居している家族なのだからそれくらいは気づいてあげるべきだったのに。でも同情も共感も意味はない。出来るのは少しでも支えてあげることくらいだ。私のような無力な人間を大切だと思ってくれているのだからそのお礼くらいはしてあげるべきだと改めて思った。そして彼に無理をさせたくない。その思いがさらに強くなった。そして自分自身の力だけで守れるようになろうと強く決心した。
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俺が起きた時に龍哉と霊夢が何やら辛気臭そうな話をしているのが聞こえてきた。何を話してるのか聞こえなかったので聞かなかったことにした。といってもほとんど聞こえてなかったのだがそんなことは気にしなかった。そして俺は襖を開けた。
「ああ、二人とも起きてたんだ。おはよ」
「あ、ああ。おはよう」
聞こえてなかった振りをしているがばれてはいないだろうかと気になって仕方がないがどうでもいい。今気にするべきことはそろそろ来るかもしれない襲撃についてだ。そろそろとは言うが颯の未来視ではだいたいあと8日くらいだろうか。本腰入れてはいるものの暇なせいで昨日のような有様にはなりたくない。
「とりあえずご飯にするわ。座ってて」
霊夢は台所に向かっていった。居間には俺と龍哉が残った。彩夏はどうしたのかというとまだ寝ていて起きる気配が全くない。起きなかったとしてもあとで龍哉が無理やり起こすだろうから心配はいらない。
「なあ龍哉。友達のよしみで聞いてくれないか?」
俺の最後の望み。それをかなえるために相談するのは個人的に長く接してきた龍哉だと判断し聞いてみることにした。
「まあいいけど。なんだ?」
「最後の戦い。多分主犯直々に攻めてくるだろうから。そいつは俺一人でやらせてくれないか?」
もちろん無謀だというのはわかっている。俺だけで敵うかどうかわからない奴だろう。それでも俺が一人で終わらせたいという理由はいくつかある。そのうちの一つであり龍哉と彩夏は理解していることである。
「はぁ!?おまっ!何言ってんだ!」
「自分で何をしようとしているかは重々承知だよ。だけど言い始めたら曲げない性格なの知ってるだろ。お前にダメと言われても強行するつもりだけどそれについてどう思う?」
「……別に俺はダメとも何とも言わないけど俺以外の事も考えろよ?」
龍哉以外の事とは誰の事だろうか?別に俺を重要視してくれる奴なんて龍哉くらいだと思っていた。
「お前霊夢が自分の事をどう思ってるのか考えてみたことあるか?」
霊夢がどう思っているのかなんてわかるはずがない。俺は霊夢じゃない。霊夢がどう思っていようと俺は俺のすべきことをするだけだ。俺の命なんてほかの奴に比べれば軽いもの。そんなに重要視する理由はないだろう。俺の事をみて自分を捨ててほしくない。少なくとも俺はそう思っている。
「まあいい。お前がどう考えようと俺の知ったこっちゃない。お前はお前の好きなように生きて死ね」
「もちろんそのつもりだよ」
などと話していると。
「みんな~朝ご飯できたから食べちゃいましょう!」
霊夢が朝ご飯を持ってきた。いつもどおり和食だが俺は大好物だ。というかこれ以上にうまい和食を見たことがない。ただ下があるというわけではない。ただ単においしいということである。朝ご飯を食べながらも俺は考え続けた。霊夢が俺の事をどう思っているのかについて。俺の事を大切に思ってくれるのはうれしいのだがなぜ俺の事を大切なものとして扱うのかが理解できない。かといってそれを聞くわけにもいかない。無理に聞く必要はないのでこの時は聞かないでおいた。
朝ご飯も食べ終わり、龍哉と彩夏は紅魔館に向かった。確か二人は紅魔館を防衛する予定だったはずだ。そして博麗神社には俺と霊夢が残っている。霊夢と紫は博麗大結界を管理する者であり彼女らがいなければ結界は保てない。
「まあそろそろ来るな……何時かはわからなかったらしいからいつ来てもおかしくなかったんだけどな」
俺の勘はよく当たる。颯の未来予知ほどではないがそれでも颯が読み切れなかった部分もよく見れる。予定までまだ一週間近くあるがそれで油断するべきではなかった。
「おい!来たぞ!やっぱ人里だ!数は15ほど!」
「まじかよ…わかったすぐ行く!」
俺たちは空を飛んで今までにない速度で現場に向かった。
人里に着いたのだがその時にはもう遅かった。建物が焼け落ち、血が飛び交い、死体がそこら中に転げ落ちていたのだ。それを見て女子が耐えていられるはずはないわけで霊夢は膝を地面につけて口を押えている。降りたのは寺子屋のところであったのだが寺子屋の中には龍哉が彩夏に治療を受けていた。俺たちが来るまでに戦闘が繰り広げられ龍哉は敗北。もしくは相打ちになったということだろうと考えられる。もし彩夏の能力がなければ死んでいたかもしれない大怪我だったそうだ。しかし大怪我したのは龍哉だけでその他は軽傷。もしくは無傷だった。人里の皆が口をそろえて言っていたのは『博麗の巫女は役立たず』だった。人里の奴らはみんな寝ているから起こすわけにもいかず何とか怒りをこらえていた。霊夢もそれを聞いて落ち込んでいたのだが「事実だから仕方ないわ。私はこの異変では全くの無力なんだし」と受け入れていた。それを見ていて耐えきれなかった。それを力づくで泊めてくるのは霊夢であり、いやであってもその現実を受け入れる姿勢に俺は抵抗できなかった。
「なんかごめんな…俺のせいで…」
「別にお前が悪いわけじゃない。お前が自分を責める理由はない」
「お前らが来るのが遅くなるのを俺は知っていたし責めることはできない」
颯がこういうのは彼の能力故である。こいつは『未来を見る』能力の持ち主なのだが正確には『因果律を見る』という能力である。先の事を見れるし、逆に過去を見ることもできる能力だ。話を戻すが仮に着いていたとしても村人の半数以上がこうなる運命は決まっていたらしくどうすることもできなかったため手が出せなかったそうだ。ただもしも龍哉がいなかったらこの里の人間は全滅していたそうなのでそれ故に龍哉は里の人たちから礼を言われることになったのだ。そしてほかの場所で起きていたことを知らない里の者は本来異変解決が仕事の博麗の巫女が来なかったことで『役立たず』などといっているのだ。俺が証人になろうとも『人里の半数が死んだ』という事実だけが彼らを動かし霊夢に不満の声を浴びせた。
「起きてしまったことは取り返しがつかない。それよりも先の事を優先しよう。明日、もう一回奴らが来る。今回より強い幹部とかが顔を出すから戦闘は一層激しくなる。龍哉がこうなってしまったとなると頼めるのは航生、霊夢、紫、魔理沙、フラン、彩夏の6人だからお願いしたい」
断る理由はない。俺たちの使命であるのだから破れば裏切り者だ。破るつもりはない。
「よし、決まりだな。明日が本当の最終決戦だ。みんなで生きて、宴会しようぜ」