「よし!行くぞみんな!」
みんな起きた。レミリアたちに夜の見張りをしてもらっていたのだが全く来なかったようだ。何が理由なのかは知らないが、それなら好都合。来ないならこっちから仕掛ければいいだけの事だ。建物を出て人里を回っていると見慣れないところに不思議な形をした『穴』があった。見るからに怪しいのでこれが奴らのアジトにつながるものだとすぐに分かった。ここで俺はみんなに報告すべきなのだが俺はそれをしなかった。しないで俺はその『穴』に飛び込んだ。
暗闇をしばらく歩くと小さな光が見えた。その光の先はとてもきれいな結晶がふわふわ浮いていた。とても魅了される空間だったのだがそんなことにかまっていられない。ラスボスを探しているとあちら側から出てきてくれた。
「お前が今回の異変の元凶か」
「当たり前だ。我が名はアストラル・マリンホールド。魔王ではないしこの世界の人間ではない」
「とりあえず二択だ。俺にぶっ飛ばされろ」
「そんなことを認めると思うか?」
「んなわけねえわなっと」
不意打ちをしてきたのが見えていたので軽々とよける。反射神経だけは定評があるので簡単だった。
「「最終決戦だ」」
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「あいつどこいったんだ?人里内探してもどこにもいねえし…」
俺は航生がいなくなったのでとりあえず探しているのだが全く気配すら感じられない。
「龍哉!敵だ!お前はケガしてるから無理はするなよ!」
颯からの連絡が来たがすぐに途絶えた。何かが電波の障害となりちょうどよく通信が切れたのだと思った。急いで応急処置をして建物を出るとそこはすでに乱戦状態だった。ほとんど颯が倒していたようだがその颯も限界に近いようだ。雑魚がたくさんではなくある程度強い奴がだいたい15人くらいいたので消耗もある程度は早くなる。颯は息を荒くして地面に足をつけている。当たり前ではあるのだが、何か気になることがあった。ほとんど颯が戦っていたはずなのにその周りも体力の消耗が激しいことだ。いくらなんでもおかしかったので考えてみたのだがすぐに答えは出た。敵の能力のせいだった。おそらく敵は魔法か何かを使い相手の体力、もしくは生命エネルギーを吸い取っていたのだと思う。それを自分の力にできるというところだろう。それが誰なのかわからないが颯たちが戦っていられるところを見るにその能力者を倒せたということだろう。俺も加勢しようとしたのだが体が思うように動かずこのまま参加すれば明らかに足手まといになるのでしばらく能力でサポートすることにした。
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「くっそ~こいつどんだけ強いんだよ…さっきから攻撃してもしても体力減ってねえじゃねえかよ…減ってないんじゃなくて回復してるのか?」
変な空間に誘い込まれた俺はアストラル。通称アストと呼ぶことにしよう。アストとの対決を1時間ほど継続中。しかしあいつの体力は一向に減らず、しかしこちらの体力は減る一方だった。しかし、途中から顔に焦りが浮かんでいたところを見るにどうやら体力が減ってきているということだろうか。一人で何かをつぶやいている、というか誰かと話そうとしているのだがつながっていないようだ。まあいい。こちらの目的を終わらせれば帰れるのだから。
「時間はかけたくない。すぐに終わらせるぞ」
「いいだろう。この私の力を見せてやろう」
そういって双方武器を構えた。俺は剣だが、あいつは魔法を使った両手剣。明らかにこちらの方が不利だ。しかし今となっては考えてる暇はない。力押しで勝つしかないのだ。
『少し力を貸してあげるよ』
誰だと思ったが誰の声かすぐに分かった。こいつは自称神を名乗るやつだ。ただ俺の体を修復していたところを見るにそれくらいの力はあるということだ。俺の力だけでは勝てそうにないのは自分自身わかっていた。しかし力を借りることを俺は拒否した。自分の未来くらいは自分で切り開きたい。
『頑張れよ…』
「行くぜ!俺の力を知らしめる。剣技『幻想剣(イマジネーションブレード)』」
「火炎『双竜爆炎撃』!」
二つの攻撃が混ざり合いとてつもない余波を感じて押し戻されそうになる。その余波の影響か空間がはがれ始め人里の家が見えてきた。この時に颯が最終決戦が人里といっていた意味が分かった。下では颯たちが戦っていた。やはり霊夢も戦っていた。当たり前なのだが。
「負けるかぁぁぁぁァァァァァァ!」
「ぬおぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉ!」
そして相殺。下にいた敵たちはその余波にやられて消滅。俺たちも反動で吹き飛ばされた。すぐに剣を持ち突進。アストも剣を持って突っ込んでくる。
「「これで終わりだぁァァァァァァ!」」
そして俺たちの剣はどちらも交差した。そして両方の心臓に突き刺さっていた。そしてその状態を耐え切れなくなった俺はそのまま地面に落下。同じく目の前のラスボスも俺の攻撃を受けて地面に落下。直後体が透け始めた。
「どうやら…私の負けなようだな…今回は負けでいてやるが…次はこうはいかないぞ…」
少しずつ近づいて俺は言った。
「次はないぞ…何度だって止めてやるからな…」
その言葉を最後に彼の体は完全に消え去った。そしてその場にまた別の人間が姿を現したのだった。
『ありがとう…助けてくれて…』
若い女の声だった。彼女が何者なのかを俺は問いただした。彼女曰くアストに封印されていた人間で体の自由を奪われて気が付いたら意識がアストと一緒だったらしい。自我だけ封印すれば生き物はただの人形と化すのでそれで自分の中に取り込んだのだ。
「助かったならよかった…君はもう動けないんだろ…?言い方悪いかもだけど早く成仏してくれないとこっちもスッキリしない」
『うん…じゃあね…』
そういって彼女も体が透け始め、すぐに消えていった。そして体が耐えきれなくなり俺はその場に倒れこんだ。誰かが叫んでいる声が聞こえたが詳しく聞き取ることはできず体も力を入れられずあきらめて俺は目を閉じた。
__________
「航生!」
相打ちで倒れこんだ彼のもとに私は向かっていった。すでにもう虫の息だった。目をつぶって私の声にも反応しなかった。というより反応できなかったというべきだろうか。指先すらピクリとも反応せず自分の手で心臓を抑えていた。本来心臓を刺されたりした人間は数十秒で死に至るが、航生の場合魔法である程度固定しているので何とかもたせているということだ。
「なん…と…か……なったな…」
「なんでよ!嘘つき!死なないって言ったじゃない!」
「仕方…ねえ…だろ…俺の力…じゃ…敵わなかったんだよ…」
かすれた声で話をしているがもうすぐ力尽きるであろう感じだった。そしてこの状況に私は既視感を覚えていた。それはこの前見た夢だった。その夢ではちょうどこの状況と全く同じことが起きていた。認めたくなかった。目の前で人が死ぬということを認めたくなかった。大切な存在が目の前から消え去るという事実に目を背けたかった。それができないのが現実の残酷さだった。私の膝の上で目を閉じている彼に何もしてあげられなかった。力が落ちていく彼の目には涙が浮かんでいた。
「なん…だろうな…死にたくないや…ははは…」
こらえきれずに涙を流す彼と一緒に私の涙腺も一気に緩んでいて涙が出た。とても耐えられるものではないのが悲しみという感情である。
「れい…む…」
かすかに聞こえた彼の声に私は反応した。
「なく…なよ…おれ…死ぬんだから…さい…ご…くら…い…わらっ…て…くれよ」
笑えるわけがない。こんな状況で笑顔で入れる人なんているはずがない。だけど私は彼がいつか戻ってくることを信じて今出せる最高の笑顔で言った。
「行ってらっしゃい…航生」
「ああ、行ってきます…」
彼も笑顔を見せてくれた。はじめて彼の本当の笑顔を見た気がした。私の手を握っていた彼の手は何時しか私の手を離れ、地面に落ちて行った。
「行ってきますじゃないわよ……バカ!」
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「こいつ…ほんとに死んだのか…?」
全く動かなくなってしまった航生を抱いている霊夢を見て思った。
「うわぁぁぁぁぁぁぁ!」
霊夢の叫びがみんなの耳を突き抜ける。隣で彩夏が口を押えて涙を流していた。俺は彼女の背中をさすった。もちろん彩夏の様になっていたのはほかにもたくさんいた。アリスや鈴仙、咲夜もそうだし、泣かずに耐えていたのは俺と颯以外だと紫だけだった。近づきたいけど彼女がいるので近づけない。だけど仕方がない。今は彼女を一人だけにしてあげるのが一番いいと思った。俺たちはその場を後にして寺子屋に戻った。
8/21
異変解決
負傷者10人ほど
死亡者1人
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「みんな…こうなるよな…」
寺子屋に戻った私たちだがみんな何とかなくのをこらえているという状況。何とかしたいがそんな力は私にはない。目の前では霊夢たちが泣いているし勇儀達は鬼なので悲しくても泣くことはない。そこが強いところだ。声を出して泣ける状況ではないためかの霊夢でさえ声を出すのをこらえているのだ。
「魔理沙…少しいいかしら?」
紫が隙間から手招きしているのに気付いたので私はスキマの中に入った。
「どうしたんだよ…」
「一応異変解決したからよかったわね。まずはお疲れ様」
異変解決より航生が死んだこと自体に気がとられていたのですっかり忘れていた。
「航生が死んだことは悲しいけど我慢して前に進むしかないの。これからの復興についてはあなたを主体にしようと思うのだけどいいかしら?」
「ああ、もちろんだぜ。霊夢が本来ならするわけだけどあの状態ならしばらく立ち直れないだろうからな」
この状況で霊夢にこの仕事を任せるのはさすがに荷が重すぎる。私は紫の申し出を快くではないが引き受けた。スキマの向こうでは霊夢が完全に生きる目的を失ったかのような状況で座り込みそれにアリスが付き添っている。
「とりあえず詳しい話はまた今度しよう。今はあいつをそっとしておいてやろう」
あの空間にいるのはあまり好きではないので私は紫のスキマで途中から盗み聞きしていた幽々子と一緒にお茶をすることにした
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「もう1か月か…早いのね…」
あの異変解決から1か月が経過した。私はいつも通りの生活に戻った。紫の計らいで異変解決後の復興のリーダーは魔理沙が自分から受け持つといった。外の世界から来た3人は親友を失った悲しみからすでに抜け出し幻想郷で普通に暮らしている。尊敬できる復帰力だ。
「航生…あっちでは元気にやっているかしらね…」
幻想郷で死んだ人間は冥界もしくは地獄に送られる。映姫の書物に航生の事はまだ書かれていないし、冥界にも新しく来た人はいない。
「航生……」
彼の事を考えるたびに目から涙が出てくる。こらえきれずに絶え間なく流れる液体を手で拭いながらなんとか泣くまいとしているけれどもこれ以上耐えられない。博麗の巫女としての仕事も最近は安定してきているが仕事中にでも思い出すと吐きそうになってしまう。今も何とか吐かずに耐えている。彼のために何かしてあげたいという後悔が私に波のように押し寄せてくる。ひどいときなんて仕事中に倒れてアリスに介護されていたこともある始末だ。今は縁側でお茶を飲んでいる。一人でお茶を飲むのは久しぶりだった。今までは航生とよく一緒にお茶を飲んでいた。その時のことを考えても二度と彼が返ってくることはない。彼と何気に取った写真だけが残っておりそれに何度も涙を流したことがある。
「航生…」
『おいおい…そんなに泣くことないだろ…そんな状態じゃ博麗の巫女なんて務まらないぞ?』
ついに幻聴まで聞こえ始めた。そろそろ本格的にやばくなってくるころなんだろうなと実感した。
『待て待て。まだ生きてるだろ…というか外傷ダメージでしか死なないから大丈夫だろ!あ、だからといって自殺はするなよ?』
聞き間違えではなかった。声の聞こえた方向へと目を向ける。何度も何度も聞いた声。過去にも似たようなことがあった。しかし颯の未来予知ですら見えなかった先の未来。それがちょうど今だった。目を疑った。そこには死んだと思っていた彼、航生がいたのだ。再び会えた。とても嬉しかった。しかし、体にはちょうど剣を回転させたような大きな穴が開いていた。再生しきっていないような感じの体になっていた。心臓のところにはぽっかり穴が開き内臓が丸見えだったが、航生であるとすぐに分かった。しかし見ているうちにみるみる穴は塞がっていき完全に穴は見えなくなった。私に笑顔を向けてくれている彼こそが私の望んだ未来だった。私は耐えきれなくて彼の胸に飛び込んだ。そして言った。
「お帰りなさい…航生」
「ただいま…霊夢」
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「お前らそんな仲だったっけ?あと航生は数十発殴らせろ」
「返り討ちにしてやるぜ」
くだらない会話をしているが今日は異変解決から2か月が経過した日だ。今日は紫によって宴会が行われる日だった。本来なら今日ちょうどこの日に葬式が行われる予定だったそうだ。誰の葬式かって?そりゃもちろん俺のだろう。そしてなぜ俺が殴られろといわれているのかというと今日の宴会と同時にもう一つイベントがあるから…というのは嘘であの日(俺復活)以来、霊夢が「さんざん私を悲しませたのだから少しくらい言うこと聞きなさい」というのでしばらく俺は霊夢の奴隷として生活している。しかし、それも今日で終わる予定だ。話が脱線したので戻すが、俺たちがこういわれている理由は霊夢が俺の手を握っているからだ。といってもその手はもうすぐしたら俺の手を離れる。どういうことか皆さまならもうわかるだろう。
~思考模索TIME~
恐らくほとんどの人は答えが出ただろう。言わなくてもわかると思うが答え合わせだ。自分の口から言うのはとても恥ずかしいのだが、今日はまあ、その…まあ、俺たちの結婚式が開催されるということである。そう、手を離れるというのはその当事者である霊夢は着替えなりなんなりがあるためその準備に向かうのだ。
「そろそろ時間かしらね…じゃあ航生、またあとでね」
「私もその手伝いしないといけないから行ってくるねー!」
「「おおー!行ってこい!」」
そうして彼女らは準備するために部屋に向かった。ちなみに会場は博麗神社ではない。博麗神社のほかにもう一つの神社がある。そう、守矢神社だ。守矢神社の早苗が寝泊まりしている部屋が準備部屋になっているそうだ。片づけをしているときに何やら叫び声が聞こえたので何があったのか気になったが深く探らないでおいた。
「まあ俺たち二人になったわけだけど…とりあえずおめでとさん」
「お前が素直に祝うとか雪でも降るんじゃないか?」
「うっさいわ」
「いやいや私たちだっているんだからな?」
話に割り込んできたのは普通の魔法使いと人形師、魔理沙とアリスだ。アリスも後で手伝いがあると思っていたのだがどうやらそこは経験者がやった方が良いらしくて、それならなぜ早苗が呼ばれたのか気になったがそれは後で聞くことにした。
「航生…結婚おめでとう」
「私からもおめでとさん」
「ありがとな二人とも。まさかこの年でこんなことになるなんて思ってなかったよ全く」
俺は現在16歳。霊夢も同い年で16。霊夢はいいが俺は外の世界では完全に法律違反だ。だから違和感があるものの祝ってくれるのでちゃんとお礼はしておく。
「博麗の巫女の連れになるんだから頑張らないとね」
「変なプレッシャーかけないでくれよ」
「今日の夜に宴会やるでしょ?その時は少しくらいは一緒に飲みましょう?」
「もちろんだよ」
「さてさて時間になりそうだから来てみたらなんであんたがここにいるんだよ紫さん?」
「あら、なんとも口の悪い。私そんな子に育てた覚えは」
「俺はお前の子供じゃねぇ」
会場に足を運んだ俺は用意された座布団の上で静かに座っていた。時々出されるお茶を飲みながら時間を潰している。そして人がどんどん変わっていく。今は紫が俺と話している。
「異変解決おめでとう。それに結婚おめでとう」
「ありがとうな。一応ちゃんと礼はしとくよ」
紫は扇子で自分の口を隠しながらおしとやかな雰囲気を醸し出そうとしているが中身がこうなので明らかに別の雰囲気になっている。それでもおそらく紫とまともに話すのは何気にはじめてな気がするので何とか話を振ろうとする。
「とりあえず私はほかのところに行ってきますわ。準備担当でもあるから」
「おう、行ってこい」
そして紫は立ち上がって部屋から出て行った。
それから何人もこの部屋を出入りし今回の式は俺の知っているキリスト方式で行われることとなった。その理由としてはこの場にいるほとんどの人が知っているからということだ。そしてキリスト方式でやるのに欠かせないのが神父であるがその役目は外の世界の奴だった早苗が引き受けてくれた。その話がされていた時『目の前でキスを見るのは嫌ですけどね』などと話していたらしい。
「それでは新婦が入ります」
知らないうちに結構時間が過ぎていたようだ。急いで姿勢を正して前を向く。襖をあけて入ってきたのはまるで別人のような霊夢だった。いつもはほぼ赤しか着ない彼女のためほぼ反対の白を着るのも珍しくとても美しかった。
「それでは…あぁーもう!無理です!こういう時でもいつもどおりが一番です!」
ついに早苗が耐えきれなくなって本音がポロリ。周りの人たちもそれに便乗してそうだそうだとヤジを飛ばしている。その多くは外の世界出身の奴らだった。
「さあ!早く済ませてください!誰にも盗まれることのない濃いものを!」
その言い方だと誤解する奴も出てくるからもう少し言い方変えてくれ。みんなヒューヒュー吹けない口笛を吹いている。それに呆れて二人でため息をついた。そして向き合って…俺たちはキスをした。お互いに表せる最強の愛情を込めながら。
「愛してるよ。霊夢」
「私もよ…航生」
一応続編は考えています。
というか書きます。皆さんこの後の話気になると思うので
書いたら読んでくださいね!