李衣菜と年越ししたい……したくない?
「ただいまー……」
帰り着いた自宅のドアを開け声を掛けるが、もちろん答える声はない。一人暮らしの俺を迎える声がないことなんて分かっているのに、ただいまと言ってしまうくらいには疲れていた。世間は大晦日で大半の人間は休みだが、それは即ちアイドル達にとってはスケジュールが埋まっているということであり、またプロデューサーの自分にとっては大量の仕事に追われるということだ。この仕事量は彼女が人気であることの証拠だ、と自分を励ましながら山のような仕事をこなしていたら、家に着くのがこんな時間になってしまった。
事務所で仕事しながら年越しなんてことにならなくてよかったな、と思いながら部屋着に着替える。これなら今から年越し蕎麦を作っても間に合いそうだ。
電話が鳴ったのは、炬燵に入って出来上がった蕎麦を食べようとしたところだった。ディスプレイに表示された相手は、今日も一日仕事に駆け回っていた彼女だ。
「はい、もしもし」
「あ、お疲れ様ですプロデューサー! 今少しいいですか?」
李衣菜の声が疲れた身体に入ってきて、少しだけ元気が出る。
「おう、大丈夫だ。どうかしたか?」
「いえ、特にどうかしたって訳じゃないんですけど。……その、今年ももう終わるしゃないですか」
「そうだな」
「それで、えっと。……あの、プロデューサーさんと年越ししたいな、なんて思ったんですけど。……ロックじゃないですかね……?」
「まさか。一人で寂しく年越しするところだったから助かったよ」
「ならよかったです!」
嬉しそうな電話越しの声を聞いて、こちらも自然と笑顔になった。
「今年はどんな一年だった?」
「そうですね……、一言で言えば」
「言えば?」
「ロックな一年でした!」
「……まぁ、そう言うだろうと思ってたよ」
「む〜、実際そうだったからいいじゃないですか〜」
「それで李衣菜がいいならいいけど」
「いいんです!」
そんな他愛のない話をしていてふと時計を見ると、もう針は頂点で重なろうとしていた。
「じゃあ来年はどんな年にしたい?」
「そうですね〜……」
少しだけ考える間をおいて彼女が答える。
「今年と同じようにフェスとかにも出たいですね、やっぱり」
「かっこよかったもんな〜。来年も仕事持ってこれるように頑張るよ」
「ありがとうございます! 私も安心して任せられるように頑張ります!」
「おう」
「他にもたくさんやりたい事はあるんですけど、纏めると」
この答えは俺でも予想できた。
「「ロックな一年にしたい」」
「だろ?」
「そういうことです!さすがプロデューサー、わかってる!」
そして、時計の針が重なり、
「「あけましておめでとう!」」
新しい年を迎えた。俺の自慢の担当アイドルと供に。