軍神に転生したけど、なんか質問ある?   作:刹那・F・セイエイ

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ドイツ戦車は最高、異論は認める。


ドイツ戦車っていいよね。

 俺──もとい、私──が未来の軍神となって、早数年。数々の黒歴史──ミルクだのオムツ替えだの……あぁ、もう思い出したくもねぇ……──を量産しつつ、無事すくすくと成長していった。ちなみに、なんで一人称が「私」かというと、言葉を覚えだした頃に、後に家元を襲名することになる(しほ)に徹底的に矯正されたからで、もう戻ることもないだろう。ってか、この声で「俺」は似合わんだろうしな。

 この世界に来て、嬉しかったことがひとつあるとするならニチアサがあったことだろう。ニチアサは偉大、古事記にもそう書いて……アッハイ、書いてないです。

 閑話休題(それはさておき)、ちなみに、今から何をしにいくのかというと、ピクニックである。って言っても、一緒に行くのはお姉ちゃんだけなんだけど。っていうか、みぽりん(しん)、そろそろくれた特典とやらを教えてくれてもいいんじゃないか?今のところ、転生特典らしいものはひとつも見つかってないんだが……

 

「みほ、どうした?さっきからボーっとして……」

「ううん、なんでもない。それよりお姉ちゃん、お弁当の準備はできた?」

「ああ、バッチリだ。今日は天気もいいし、雨が降るという予報もない」

「じゃあ、心配ないね。パンツァー・フォー♪」

 

 お弁当よし、水筒よし、レジャーシートよし、Ⅱ号のご機嫌よし。目的地は……お姉ちゃん任せで。道中の景色をキューポラから半身を乗り出して眺めつつ、目的地までの緩やかな時間を楽しむ。とりあえず、お姉ちゃんが目的地──どこへ行くのかは知らないけど──に着くまでの間に、今後の計画をざっと立てておこう。

 まずはBC自由学園。もし仮に、現時点でBC高校と自由学園が既に統合していた場合、仲良くさせる以前に軌道修正すら絶望的な可能性が非常に高く、最悪の場合、内戦を引き起こしてサッサと廃校に追い込んだほうが手っ取り早く問題が解決する可能性すらある。しかし、そうなった場合、マジノ女学院にとっては迷惑極まりないのかもしれないが。

 続いて聖グロリアーナ女学院。この学校はOGが在校生を支援する為にチャーチル・マチルダ・クルセイダーの三つのOG会を発足し、積極的にサポートしているようだが、年々規模が拡大するにつれて幅を効かせるようにもなり、しまいには戦車の編成はおろか、戦車の搭乗員にすら無遠慮に土足で踏み荒らして口を挟んでいく厄介者と化してしまっており、おかげで在校生──特に隊長──は頭痛と胃痛がストレスでマッハなんだとか。

 そして最後に黒森峰女学園。この学校は他校と比較して特別戦車道に力を入れているのがよくわかり、戦車道専門の学科『機甲科』を現在戦車道全国大会に出場している高校の中で唯一発足しているのがその証拠である。西住流のお膝元でもあり、西住流門下生が多いのも特徴だ。しかし、問題点は指揮系統がガチガチ過ぎて硬直化している点か。ワン・フォー・オール、オール・フォー・ワンと言えば聞こえはいいのだろうが、どちらかと言えば──というより、あえて言うとするならば──戦略シミュレーションゲームのプレーヤーである隊長の、戦車というユニットの部品(パーツ)と化している感が否めない。これじゃ、学生というよりまるで軍隊だ。

 そんなことをしばらく考えていたのだが、突然の衝突による衝撃で我に返る。横合いからタックルをぶちかまされ、Ⅱ号が激しく揺れる。いったいどこの戦車……と見やると、中学生くらいの女子グループがこちらを見てけらけらと笑う姿が見える。こりゃ、ピクニックどころじゃないかもしれん。それに、サンダース大付属中学校にケンカを売られたとなっては、こちらとしても悪ふざけの過ぎた中坊どもを無罪放免も同然に長崎へ帰すわけにはいかない。とはいえ、こちらは弾薬など一発も積んでおらず、丸腰も同然。対して、相手は同じ軽戦車とはいえ、37mm砲を搭載したM3スチュアート。状況的にはこちらが圧倒的に不利、逃げようにも敵砲塔は確実にこちらを捉えている。最悪の場合、既に徹甲弾を装填済みでいつでもこちらを叩ける可能性を鑑みると、救援を要請せねば最悪帰宅すら不可能な状態に陥ってしまう。なりふり構ってる暇はないか……よし。

 届くかどうかはわからないが、届く可能性に賭けて防犯ブザー代わりの信号拳銃を手に取り、出かける前に渡された信号弾3発を連射。ちなみに、信号弾の撃った数で内容が変わり、1発だと『問題発生』、2発だと『緊急事態』、そして3発だと『絶体絶命』となる。なんとか自宅のほうまで届いてればいいのだが……と若干弱気になっていると、後方で一際大きい青い信号弾の光がまばゆい光を放っているのが見えて、その不安が杞憂であることを知る。どうやら、救援は来てくれるらしい。とりあえず一安心、とほっと胸を撫で下ろしていると、どうやらサンダース中のほうも増援を要請していたらしく、スチュアートとローカストの混成部隊としばらく鬼ごっこを楽しむ羽目になったようだ。

 とりあえず、やれることはやったはずなので、あとは全速力で逃げ回るのみ。お姉ちゃんの「みほ、どうする?」の問いに対し「地の利を生かしてとにかく逃げ回って」とだけ返し、キューポラから敵戦車隊を睨む。正直言って、速度的に言えば追いかけっこではⅡ号のほうが圧倒的に不利だが、行動距離の面においてはまだⅡ号に分があるといえる。スチュアートの燃料切れまで粘り切るか救援が到着してくれればこちらの勝ち、逆にこちらが撃破されればサンダース中の勝ち。ホントはもっとほのぼのとしたお出かけだったんだけどなぁ……と内心愚痴りつつ、逃げながら救援を待つ。そして逃走劇を始めてから数分、隊列を組んでこちらに向かってくるカーキ色の中戦車隊を発見する。どうやら、運命はこちらに味方したようだ。

 黒森峰女学園()()()所属、Ⅴ号戦車パンターG型。重戦車に片足突っ込んだような中戦車で固めて救援に来たあたり、100%叩き潰す気満々であるのがわかる。救援が到着後、ものの2分足らずでサンダース中の軽戦車隊を撃破、鎮圧する。なお、すっ飛んできた理由についてだが、「西住師範(しほ)から救援要請が入った」と答えが返ってくる。とりあえず救援が来て助かったのはいいが、どうやら今日のピクニックは中止せざるを得ないらしい。

 その後、何とか黒森峰高等部機甲科の護衛もあって無事に帰宅はできたものの、今回の一件で当面の間ピクニックが禁止になってしまった。




次回、エリカさん登場……?

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