目立ちたくないので転生特典は魔力ゼロでお願いしますっ! 作:ヒタク
(ううう……、ここまであの神様からもらった力がすさまじいとは思わなかったよ……)
未だに打ちひしがれているパステルを前にメアリーは嘆いていた。
(想像するだけで魔法が発動するってことは、下手に何かしようと思ったら勝手に魔法が発動するってことだよね。つまりは下手なこと考えられないってことでしょ。……こうなったら! 無心になるんだ、私っ!)
心の中を見る人がいれば、考えている時点で失敗していると言われること必至なメアリーだったが、あることに思い至った。
(なんでも出来るってことは魔法をうまく使えば孤児院をどうにか出来るってことじゃ……。……そうだよ! そもそも王城に来た理由は私が使える魔法を知ることと、孤児院をどうにかすることの二つ。孤児院をどうにかする方法として魔法が使えるなら私の目的は一気に解決するよね!)
何か案はないか。考え始めるメアリー。
(もともと孤児院の経営が悪化した理由は援助よりも税による支出が上回ったためだよね。……となると、考えられる方法は援助を含めた収入を増やすか、どうにかして支出を減らすかの二つかな)
自身の立てた考えを深めていくメアリー。
(一つ目の収入。援助については貴族によるもので、正直言って不安定にもほどがあるものだよね。一応、孤児院が有用だと示せれば増える可能性もあるんだろうけど、それを示すにはやっぱり人が優秀であると言うしかない、かな……。でも、フォルカーが言うには孤児院は十分に優秀な人がいると言われているみたいだし、援助を増やすのは簡単ではなさそう……。だからといって、私が何か作って売るのは簡単に出来る気がしないし……。うん。私の魔法でどうにかなるという訳でもないし、他を考えよう!)
メアリー自身を売り込めば、現人神というネームバリューから援助が増えるかもしれない、という考えがよぎったが、自身が目立つことになるためすぐさま考えを放棄した。
(となると二つ目の支出をどうにかして減らすってことになる、かな。……税って言っても
確証が得られず、いまいち決めきれないメアリー。
(うーん。そもそもどうして
パステルがメアリーに対して変身魔法を使っていたと考えていた理由は、メアリーによる年齢不相応の行動だった。
そのため、メアリーが行動することは控える必要が――
「……あれ? もしかして、私の姿じゃなければいいんじゃ……?」
「……急に何を言っておるんじゃ……?」
膝をついていたパステルはようやく気を持ち直したらしく、メアリーの声に反応した。
「パステル爺! 魔法って変身魔法もあるんだよね!」
「そ、そうじゃな」
勢いよくメアリーから放たれる言葉に少々面食らった様子のパステルだったが、一度咳をすると言葉を続けた。
「変身魔法は本来、自身が変化する姿を明確に意識し、意識した姿に沿って魔力を張り巡らせて自身の姿を変化させるというものじゃ。なかなかに難易度が高い魔法ではある。あるのじゃが、お主は出来てしまうんじゃろうなあ……」
「あはは……」
嘆くようなパステルの言葉にメアリーは乾いた笑いで返した。
(た、確かに私の魔法って想像するだけで発動しちゃうみたいだし、変身魔法がパステル爺の言う通りなら、出来そうだよね)
しかし、メアリーはあることを思い出した。
(あれ? でも、そう言えば、パステル爺の魔法を防ごうとした時、簡単に壁が割れていた、よね? ……もしかして、あれってパステル爺の魔法を防げるような壁を出せる気がしなかったから……? それって、もしかしなくても変な想像するとおかしな姿になってしまうということなのでは……!)
恐ろしいことに気づいてしまったメアリー。
このままでは見るのもはばかられるような存在になってしまうかもしれない。そこまで考えたメアリーではあったが、あることに気づいた。
(……って前世の私の姿になればいいじゃん。心配して損した……)
メアリーは心の中で前世の姿を思い出す。
(また、この姿になるのかあ……)
髪こそ、メアリーと同様に黒一色ではあるものの、長さは前世の方がよほど長い。容姿もまた今世のメアリーの容姿では可愛らしさが強いが、前世の容姿はむしろ可愛いというよりも綺麗と言われることの方が多かった。
総じて今のメアリーの姿とは似ても似つかないという評を得られそうな容姿だった。
(いくら今世の姿は前世とは違うから、目立ったとしてもメアリーとしては関係がない。……関係がない、とは言っても、なんだか複雑だよね……。ええい、もう考えても仕方がない! とりあえず、やってみよう!)
覚悟を決めたメアリーは前世の姿を心に留めながら、口を開いた。
「私の姿、変われ!」
「……何という適当な詠唱じゃ……」
パステルが嘆くが、どうやらそれでもメアリーの魔法は発動するらしい。
一瞬、メアリーの姿が光に包まれると姿は変化し、真理の姿へと変わっていた。
「変わっている、かな?」
「あ、ああ。変わっておるぞ」
パステルが詠唱を行うと宙に鏡が現れ、メアリー――真理――の姿を映しだした。
(良かった。ちゃんと変わっているみたい。……成功して本当に良かった……)
安堵でため息をつくメアリーにパステルが尋ねた。
「それにしても何故姿を変えたのじゃ? 確かに子供の姿では異常と見られるやもしれぬが、それも異常とみられるような行動をしなければ良いだけのはず。むしろ、その姿では容姿だけで目立つことになるはずじゃが」
「…………え?」
「人の視線に慣れていない、とサルバトーレから聞いておるが、自らに苦行を課すつもりかの?」
「いやいや、違う、違うから! 別に苦行なんか求めてなんていないよっ!」
「……? では、何故じゃ?」
(何故って……! 目立ちたくないから姿を変えたっていうのにどうして目立つことになるの!)
そもそものパステルが尋ねた理由。その理由が実は変身した原因であるが故にメアリーは大いに混乱した。
「そ、そもそもどうしてこの姿が目立つの?」
そして、何とか少しだけ落ち着いたメアリーはパステルが真理の姿を目立つと言った理由を聞くことにした。
「……この国では魔力至上主義の者が多いのじゃ」
「魔力至上主義?」
いまいちよく分からない単語が出てきたためにメアリーは聞き返した。
「うむ。魔力を多く持つ者を至高とし、魔力をほとんど持たない者を蔑視する主義のことじゃ」
(そんな主義があるなんて……。……あれ? それって魔力を持たない私なんか真っ先に蔑まされる対象になっちゃうのでは……!)
内心冷や汗をかくメアリーだったが、パステルは言葉を続けた。
「もちろんのこと、現人神はまた別となっておる。あくまで魔力が少ない者を蔑視するのであって、魔力がない――つまりは穢れを持たない現人神は別としているからの」
「良かった……」
「――じゃが現人神は伝説の存在と言われておる。バルバトス国の建国者がそうであったと言われておるが、それさえ嘘ではないかと言う者もおるぐらいなのじゃ。建国してから千年経っておる中、ただの一人も建国者以外に現人神などいなかったのじゃから、無理ないことかもしれんがの」
(……そんなに長い間現人神がいなかったんだ。それなら仕方がない、のかな)
「お主の髪は黒色じゃ。色が全く混じっておらん。魔力至上主義の者が見れば、真っ先に蔑む対象とするじゃろうて」
「く、黒髪が問題ということ……? あれ? でも、それなら元の姿でも同じなんじゃ……?」
メアリーの姿でも髪は同じ黒色だ。
それならメアリーの姿でも真理の姿でも同じではないか、とメアリーは考えた。
「魔力は低い年齢ならば、多少とはいえ伸びる可能性があるからの。……今のお主の姿ぐらいの年齢ではその望みはほとんどないわけじゃが」
「そ、そういうことか……。……ちなみに魔力至上主義の人って多いの……?」
メアリーの質問にパステルは残念ながら、と言って頷いた。
「昔はそうではなかったらしいがの。しかし、現人神がいなくなり、
(そんなに魔力至上主義の人が多いんだ……。……うん。それなら私の髪色を変えるしかないね! ……どうか、変な姿になりませんように!)
メアリーはまた自身の姿を変えるように魔法を発動させようとし――
「……あれ?」
何も発動しないことに声を漏らした。
「……お主は今何をしようとしたのじゃ……?」
「え? ……目立たないように髪の色を変えようかと……」
メアリーの言葉を受け、パステルは合点がいったとでも言うかのような表情をした。
「変身魔法でも髪の色は変えることが出来ないんじゃ。……もしかすると現人神は違うかもしれぬと思ったが、どうやらそうでもないらしいのう」
「ど、どうして変身魔法で髪の色を変えられないの? 髪の色なんてそれこそ簡単に変えられるものじゃないの……?」
日本にいる時は髪を染める方法があったためにメアリーは不思議に感じた。
「髪は魔力の多寡によって色を変化させる。その魔力による色の変化は、いくら髪の色を変化させようとしても受け付けないほどに強いのじゃ」
「そ、そんな……」
(こ、このままだとせっかく目立たないように変身したはずなのに全く意味がなくなっちゃうよ……)
メアリーがショックを受けているとパステルが不思議そうな表情を浮かべて尋ねた。
「そもそもお主は変身してまで何をしようとしておるんじゃ? 別に変身などせずとも、王城にいれば大抵のことは出来るじゃろうに」
「そ、それは……」
(
現人神であるが故に危険なことはさせられないと言われてしまう可能性をメアリーは考えていた。
(でも、孤児院を助けるためには
そして、決心したメアリーは口を開いた。
「
「ほう?
「……た、倒すつもり」
(私以外の人が、だけどね!)
心の中で捕捉しつつ、パステルをうかがうメアリー。
「今は
「そ、それはダメ!」
パステルの言葉をメアリーは遮った。
「それでは
「それじゃ、遅すぎるの!」
(だって、エレナが孤児院のみんなが餓死しちゃうって言っていたんだから……)
必死に言うメアリーだったが、未だにパステルは納得していない様子だった。
(どうしよう、何とか目立たないで
必死に考えていたメアリーはあることを思いついてしまった。
少し、いやかなり躊躇するが、パステルから情報を引き出すためには仕方がなかったのだ。
そう――
「後でマーシャがパステルを怒るようにあることないこと言っておいてあげるから!」
――マーシャをパステルに売るという方法を使うのは。
「――うむ。よかろう! 儂の知る限りの知識と持てる限りの力を持ってお主の力となろうではないか!」
「あ、ありがとう……」
実にいい笑顔で快諾するパステルを見て、メアリーは心の中で大きく叫ぶのだった。
(マーシャ、本当に――ほんっとうに、ごめん!)