目立ちたくないので転生特典は魔力ゼロでお願いしますっ! 作:ヒタク
「よし、後はエドガーを探し出すだけだね」
ヨハンナから聞いたこと。
それはエドガーとパーティーを組めないかということだった。
パーティーを組むことは成長を妨げる可能性があるため、ランクに三つ以上差があると組むことが出来なくなってしまうらしい。
しかし、幸いなことにメアリーはGランクだ。
つまりはエドガーとパーティーを組むことに問題ないランクということになる。
そのことを聞いたメアリーはすぐにエドガーを探すため、ギルドの外に出たわけだが――
「とは言ったものの……。どこに行ったんだろう……」
大分暗くなってきた町のどこにもエドガーの姿は見つからなかった。
(そういえば、エドガーってどうしてギルドに来ていたのかな?)
エドガーはギルドに所属しているようだが、ギルドに来た時の様子は何かのクエストを受けに来た、というわけではなさそうだった。
(……確か、相手の人は
メアリーはエドガー達の口論を思い出した。
(
そのことが原因で孤児院の経営が危ぶまれるほどに税が増えているという話だったはず。
(……あれ? でも、
嫌な予感にメアリーは小さく身体を震わせた。
(いや、考えても仕方がない、よね。それよりも今はまず、エドガーの方が先! さて、どこに行ったのかな?)
メアリーは頭を振って自身の悪い考えを追い出すと改めて町の中を歩きだした。
◇
「本当にどこに行ったんだろう……」
あれからしばらくメアリーは町の中を歩き回ったが、結局エドガーを見つけられなかった。
いくら探しても見つからないためか、嫌な予感は消えることなく、むしろ募る一方。メアリーは路地に入り、背を壁に当てて天を仰いだ。
もう既に夜の帳は降りており、建物の合間から見える星々が輝いている。
「もしかして、もう町の外に行っちゃったのかな……?」
もしもそうなってしまえば、行き先を知らないメアリーではそう簡単にエドガーを見つけることは出来ないだろう。
それこそ、
「――って私、魔法を使えるじゃん」
自身が魔法を使えることを思い出し、早速メアリーは使うことにした。
(えっと、エドガーの居場所が分かるような魔法を使えばいいんだよね。……今いる場所からどれだけエドガーが離れているか分からないわけだから、GPS追跡のアプリみたいな感じで私の居場所とエドガーの居場所が分かるような魔法があれば大丈夫だよね)
よし、とメアリーは小さく声を出すと手を前に突き出した。
「地図アプリ魔法出ろ!」
パステル爺が聞いたら膝をついて項垂れそうな呪文を唱えると、メアリーの前に地図が現れた。
町らしき全体図にメアリーのいる位置が黄色く点滅している。
手で操作することにより、縮尺を変えることも出来るようだ。メアリーは地図の範囲を変更し、町の外へと広げていく。
「……あれ?」
しかし、いくら縮尺を変えてもエドガーのいる位置は地図に表示されることはなかった。
「一体どういうこと……?」
縮尺は既に大陸を表示する大きさにまで変わっている。
しかし、それでもエドガーの表示は現れなかった。
「――ふむ。もしや、お主の探し人は力を受け付けぬ場所におるのかもしれぬな」
「……え?」
突然、メアリーに話しかける声がした。
しかし、辺りを見渡してもどこにもいない。
「ここだ。下を見ろ」
声の言う通りにメアリーは視線を下に向けると、そこには暗闇に光る一対の黄色い目があった。
「ひっ……」
「恐れる必要はない。吾輩だ。今日会ったであろう?」
思わず、声を漏らしそうになるメアリーだったが、続けて言われた言葉にもう一度その暗闇に浮かぶ目の辺りを見てみた。よく見ようと考えたせいか、魔法が発動したらしく、少しずつ目の前が見えてくる。そして、ようやく見えるようになったそこにいたのは、ギルドで会った黒猫だった。
どうやら、暗闇に黒いその身体が溶け込んでいたらしい。
「貴方はギルドで会った……子猫?」
「コネコとやらはなんだ? 吾輩は女神アイリスに作られた神獣であるぞ」
「…………神獣?」
メアリーの目の前にいる存在。
それはどこから見ても、ただの黒い子猫にしか見えない。
そんな存在が自ら口にした神獣という言葉は、あまりにも似つかわしくなく感じ、メアリーは首を傾げたのだ。
「さよう。吾輩はこことは異なる世界に属する神聖な獣を参考に創られたと聞いておる」
(……ああ! エジプトとかだと猫って神聖な生き物だって言うもんね。……あれ? もしかして、参考にした世界って地球のこと?)
子猫を作った女神が地球を見ていた可能性が出てきたためにメアリーは驚いた。
「そんなに驚くことか?」
「あ、貴方のことじゃないよ! それより、貴方、貴方の名前ってあるの?」
問いかける子猫にメアリーは訊ねた。
「ふむ。吾輩の名か。……吾輩の名はヌスラティーヌ・コンスタンティアだ。好きに呼ぶがよい」
「うーん。随分と長い名前なんだね」
(なんか、固い感じもするし、仰々しいなあ……。……うん。あだ名で呼ぶことにしよう!)
メアリーはそう考えると口を開いた。
「……決めた。貴方のことは頭を取って『ぬこ』って呼ぶね!」
「…………は? ――はっ、ひ、否定を――」
信じられないといった様子の子猫。
しかし、すぐに慌てた様子で何か言葉を言いかけたかと思うと――光に包まれた。
暗い路地裏に突然、子猫を中心に現れる光。その光はすぐに収まった。
「…………」
何故か何も言わない子猫。
(……あれ? もしかして、何か悪いことやっちゃったのかな……?)
その様子に一抹の不安を覚えるメアリー。
「も、もしかして、私って何か悪いことしちゃ――」
「――ああ! したとも! 一体何をしでかしてくれたのだ!」
「ご、ごめんなさい……?」
いきなり怒り心頭といった様子の子猫――ぬこに思わず謝るメアリー。
その言葉を受けたぬこは深いため息をついた。
「……まあ、お主も分かっていなかったのであろうよ。仕方がないと言えば仕方がない、のだろう。……本当に仕方がないのだ……」
(な、なんだかひどく罪悪感を覚えるんですけど! 一体私ってば何をしちゃったっていうの!)
未だに自身が何をしたのか分からず、ぬこが悲壮感を漂わせている理由が分からないメアリー。そんなメアリーにぬこが話しかけた。
「お主はおそらく現人神なのだろう? ……そんなお主の言葉には意思を持って言えば力が宿るのだ」
「そういえばそうだったっけ」
確かに魔法とかは勝手に発動するもんなあ、とメアリーは考える。
「そんなお主が口にした言葉は――吾輩を『ぬこ』と呼ぶことにするという言葉だ。……名前と言うものは元来その者の本質を指し示す言葉であり、新たに名付けるということはその者を名付けた者が支配するということに他ならない」
(……あれ? なんか雲行きが……)
「つまり、吾輩はお主の使い魔とされてしまったのだ……」
「ご、ごめんなさい!」
(う、うわ! 私ってぬこを勝手に使い魔にしちゃったっていうの! 勝手に使い魔になんかしちゃったら、怒るのも無理はないって! ……あれ? ぬこって怒るんじゃなくて悲しんでる?)
メアリーの疑問はすぐに氷解することになった。
「そして、お主の言葉によって吾輩の名前は『ぬこ』に固定されてしまったのだ……」
嘆くように続けられたぬこの言葉によって。
「ご、ごめんなさい……」
「もう、よい……」
悲しそうに言うぬこ。その言葉を聞いたメアリーは無性にいたたまれない気持ちに苛まれるのだった。