目立ちたくないので転生特典は魔力ゼロでお願いしますっ! 作:ヒタク
「……それより、お主は誰かを探していたのではないのか」
「ってそうだよ! ……あれ? ぬこはどうして、エドガーが見つからなかったのか分かるの?」
「……ぬこ、か。いや、もう気にするまい……。先も言ったが、お主の探し人は力を受け付けぬ場所におるのではないかと思っただけだ」
「力を受け付けない場所?」
一体どういうことなのだろうか。意味が分からず、メアリーは首を傾げた。
「そうだ。お主が使った魔法はどうも吾輩が見る限り、正負の力によって探し人の場所を指し示しているように見受けられる」
「……へ?」
「自身を中心にし、力――原始の力を周囲に流して見知った正の力を探し出しているのだろう? 純粋に正の力を探しているが故に負の力が多くある場所では、正の力を持つ探し人が見つかる前に力が変換されてしまい、お主の使った魔法では位置が把握できぬのであろうよ」
「――ちょ、ちょっと待って! よく分からないから最初から説明して!」
どうやら、ぬこはメアリーの魔法を理解するほど魔法に長けているらしい。もしかしなくてもパステル爺以上に理解があるのだろう。
しかし、当のメアリー自身は自分が使った魔法がどうやって発動しているのか理解していないため、ぬこの言葉は全くといっていいほどに理解できなかった。
「……? お主ほど卓越した原始の力による魔法を使えるのなら、これぐらいのことは理解できて当たり前――そうか。お主は現人神だったな」
合点がいった様子のぬこ。
「確かにそれはそうなんだけど……。それより、私の魔法でどうしてエドガーの居場所が分からなかったか教えて」
(理由が分かれば、エドガーの居場所を知る魔法を使えるかもだもんね)
「ふむ。そうさの。簡単に言ってしまえば、お主が探そうとした魔法は対象を誤っておったのだよ」
「対象を?」
一体どういうことなのだろう。メアリーはぬこの言葉が分からず、繰り返した。
「ああ。……まず前提としてだが、
(もしかして、その魔力をあの魔法の儀で測っていたのかな?)
メアリーが頷いたのを見るとぬこは話を続けた。
「お主が使用した魔法はこの正の力を探し出すため、原始の力を周囲に流して変換された魔力の位置を探しているのだろうよ。だが、魔力も反魔力も周囲の原始の力を変換して得られる力だ。もし、多くの
「な、なるほど……」
(つまり、エドガーは
「は、早くエドガーを助けに行かないとっ!」
「まあ、待て」
自身の想像から焦りを覚え、今すぐに駆けて行きそうなメアリーをぬこが止めた。
「そもそもお主はそのエドガーとやらの居場所が分かっているのか?」
「う……、それは……」
先ほど魔法を失敗したばかりだ。
当然のことながら、メアリーはエドガーの居場所を把握していなかった。
「全くもって嘆かわしい……。このような者の使い魔となっている我が身がますます情けなくなってくる……」
「そ、そこまで言うのならぬこはエドガーの居場所が分かるって言うの!?」
あまりの物言いにメアリーが言い返した。
「ああ。分かるとも。これでも我が身は女神アイリスに魔法を司る神獣として作られた存在だ。魔法を意のままに操ることなど造作もない。故にお主の探し人を探すこともまた可能だろう。――があれば」
「へ、へえ……」
(随分と偉そうなことを言うと思ったけど、まさか本当にエドガーの居場所が分かるとは……)
最後に小さく何か言っていたようだが、メアリーにはよく聞こえなかった。
「それじゃあ、エドガーの居場所を教えて! ぬこならエドガーの居場所が分かる魔法を使えるんでしょ?」
「…………」
メアリーの言葉に何故かぬこは黙ったままだ。心なしか視線をメアリーからそらしているようでもある。
一体どうしたのだろうか。メアリーがそう考え、疑問を口にしようとした時――
「――無理だ」
ぬこの言葉がメアリーの言葉を遮った。
「……ってどうして! さっきエドガーの居場所が分かる魔法を使えるって言ったじゃない!」
「…………がないのだ」
「……? 何か言った?」
メアリーの言葉に何かぬこが返したが、あまりに小さい言葉であったが故にメアリーにはよく聞こえなかった。
そんなメアリーの様子にぬこは何か堪えるかのようにぷるぷると震えている。
そして、一気に爆発した。
「……だから! 吾輩には魔力がほとんどないと言っておるのだ! 女神アイリスに魔法を司る神獣として作られたというにもかかわらず、女神アイリスが穢れを嫌うが故に多くの魔力を得られるほどの穢れを持たされず、ほとんど魔力を得ることが出来ぬのだ!」
よほど普段から思うところがあったのだろう。
ぬこは不満を全力で吐き出していた。
そんなぬこの言葉を一通り聞き終えたメアリーは疑問に思ったことを口にした。
「穢れがなくて魔力を作れないんだったら、原始の力を使えばいいんじゃないの?」
たとえ穢れを用いて魔力に変換できないとはいえ、原始の力を使えば、元の力は同じなのだから魔法は使えるのではないか。そんな思いからメアリーは口にしたのだが、ぬこは首を振った。
「吾輩は神気を持たされてはいない。故に原始の力は操ることが出来んのだ」
「そうなんだ」
(なるほど。神気ってのはよく分からないけど、話を聞く限り原始の力を操るために必要な力なのかな。……あれ? というか、ぬこは単に力がなくて魔法が使えないってことなんだよね?)
それならもしかして、という思いからメアリーは口にした。
「それなら私の力を使ってエドガーを探すことって出来る?」
「…………あ」
何気ないメアリーの一言によって、全く気付かなかったと言わんばかりの声がぬこの口から洩れるのだった。
◇
「つまり、だ。原始の力が穢れによって魔力に変化してしまうのだから、先に魔力へ変換させた状態でお主の探し人を探し出せばよいのだ」
「そっか。原始の力が変化して見つからないんだから、これ以上変化させないように最初から変化させておけばよかったんだ。……あれ? でも、エドガーは
メアリーの言葉にぬこは頷いた。
「見つけることは出来る。魔力と反魔力の性質を用いることによって、な」
「性質?」
「ああ。魔力と反魔力は同じ力同士では反発して弾く性質を持つ。また、異なる力同士では互いに引き合い、そして消滅しあう性質を持っているのだ」
(なるほど。なんだか、魔力って磁石みたいな感じなのかな。くっつくと消えちゃうのが少し違う感じだけど)
「その消滅はすぐに行われることはなく、若干の猶予を持って行われる。その消える前に更なる魔力を流すことで、反魔力によって消滅した魔力の穴を探知することが出来るのだ。そうやって確認出来た穴のすぐそばにある魔力を弾く場所――つまりはそこに
「ふむふむ。……それでエドガーは見つかった?」
「まだだ。慌てるな」
メアリーのすぐ前ではぬこがメアリーの原始の力を魔力に変換して魔法を行使していた。
魔法を使っているためか、薄っすらと光を帯びている。黒猫が闇夜に薄っすら光る様子はどこか神秘的だった。
そして、ぬこが魔法を使い始めてから一分ほど経っただろうか。今まで目を閉じていたぬこがゆっくりと開いた。
「いたぞ」
「ほ、本当!?」
「ああ。お主の先ほど使っていた地図の魔法を使うのだ。そこに吾輩が発見したお主の探し人を表示しよう」
ぬこの言葉を聞いたメアリーはすぐに地図アプリ魔法を再び使った。
一瞬にして、メアリーの前に再び現れる地図。そこにぬこがエドガーの位置を投影した。
「ここがエドガーのいる場所か……」
地図に表示されたエドガーがいる場所。そこは町から一、二時間ほど離れた場所だった。
どうやら、未だに動いているらしく、エドガーのいる位置は少しずつだが、確かに動いている。
「よしっ! これでエドガーの場所に行ける! ありがとう、ぬこ!」
「あ、おい!」
後ろからぬこの声が聞こえたが、気にすることなくメアリーは駆けていくのだった。
◇
「全く、あやつ――ご主人ときたら……」
目の前からすぐさま走り去っていったメアリーを脳裏に描いてぬこはため息をついた。
「それにしても、妙だな。ご主人の探し人は多くの
もともとぬこが魔力による探知を行った際、こうも簡単にメアリーの探し人であるエドガーの居場所が分かるとは考えていなかった。
「いや、確かに多くの
想定していた状況と異なる。そのことにぬこは引っかかりを覚えていた。
本来なら
しかし、実際は、穴は
「まあ、幸いなことにご主人の探し人がいるであろう魔力を弾く場所はそのうち一か所しかなかったのだから、使う魔力も少なくて助かったがな。……全く、魔力を扱うのにこれほど穢れを使う羽目になるとは……」
そこまで言うとぬこはため息をつくと、つい今しがた見た探知の結果を改めて思い出した。
メアリーが向かった場所は広範囲に穴が広がっており、そこに一点魔力を弾く場所が存在していた。
しかし、もう一方は――
「それにしても、ご主人が向かわなかった方――あの深さの穴は一体どういうことだ?」
まるで魔力を根こそぎ消滅させてしまうような、特異な場所。それがぬこの感じたもう一つの場所だった。
「――いや、考えても仕方あるまい。今はご主人のところに向かわねば」
しかし、ぬこはすぐに首を振って懸念を振り払う。
そして、空中に飛び跳ねると――姿を消した。