衛宮士郎に憧れた少年   作:黒幕系神父

1 / 23
一応以前書いたリメイクです。全部書き終えていますが、書き直したい部分もあるので2話から1週間に1度投稿にします。


始まりの物語
プロローグ「運命の夜」


人を殺したことがあるか。世界が黒く醜く見えたことがあるか。

 

そんな質問をされた時、ほとんどの人が違う、だとか別に、だとか。そう答えるだろう。

 

 

では僕はどうか。

それに否と答えることは出来るのか。

 

 

 

 

「―――――」

その問いかけには。

それに答えることは、出来なかった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

遠い昔の、おぼろげで、でも、確かに覚えている。

そんな、幼少の頃の記憶。自我が薄く、されど自分が自分たりえた原初の記憶。

 

 

 

 

あれは世界の全てに絶望して。

現実の何もかもが黒い濁点のように見えて。全てが醜く見えて。

世界はとても醜いものだと。そう、燃え盛る災禍から、そこから生まれた大量の悲劇から見せ付けられた。あの時。

 

 

たまたま、その跡地で拾ったDVD。

 

 

理由はない。ただ気まぐれに、血にぬれ、焼け焦げたボロボロのその円盤がまるで自分と同じように見えたから。

なんとなく。ただなんとなくその円盤を綺麗にして、映像を見ようとした。

 

必死に、必死に。何日かかったか分からない。業者には頼まなかった。自分で綺麗にしたいと思ったから。必死に、必死に、必死に。

学校もいかずに、ただそれだけを綺麗にしようと必死に足掻いた。

まるで自分のように見えたから。だから自身を綺麗にしたかった。

 

――――結局、そのボロボロの円盤は見た目は完璧に、けれど中身は完全には修復されなかった。

タイトルはわからなくて、ほとんどの映像にノイズが走ってて。

それが中身がボロボロになった自分と重なって見えて。

 

それでも、唯一まともに見えた、ノイズが一切無くきれいに残っていた数分間の映像.。

 

 

美しい金髪の少女が主人公を危機から助ける場面。

 

 

 

 

「――――――」

 

 

―――声が、でなかった。

 

 

 

あの時に、自分の運命は決まったのだ。

 

幻想的な蒼い光に包まれていた彼女を。

 

彼女を、どうしようもなく美しいと思った。

気高いと思った。

愛しいと思った。

 

 

何より、その眼に映る信念を汚してはいけないと思った。

 

 

 

その女の子の瞳の輝きが余りにも今の彼には眩しくて、けれど目を離すことなんて出来なかった。

 

 

一目惚れだった。例え現実には存在していなくても、彼女を知りたいと思った。

 

きっかけはそんなものだ。

そして自分は物語を知り、彼女に憧れた自分は衛宮士郎に憧れた。

 

 

 

だって、憧れるのも仕方がなかったんだ。

 

彼の届かぬ星に手を伸ばすような途方もない夢に、正義の味方になろうとするその精神がきれいだったんだから。

 

 

剣と共に自分の道を突き進んだ衛宮士郎。

理想の自分に現実を見せられて、なお理想を抱き続けた衛宮士郎

 

その二つの世界の衛宮士郎も勿論憧れたが、それ以上に

 

 

――――たった一人の少女のためにこれまでの信念を曲げ、正義の味方を辞めた衛宮士郎

 

 

その全てに憧れた。

まるで自分とは別の存在のように。似たような過程を得たのに。

それでも自分とは真逆の彼のその性質に。

 

彼のように生きれたらどれだけいいのだろうかと。ただ、憧れた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

―――子供である彼に、衛宮士郎の生き方は劇薬だった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

結局彼は死んだ。正義の味方などという分不相応な夢を抱いて、大勢の人を救おうとして、誰も救えずに。全てを殺しつくして。

 

そんな彼が死に、意識がこの世からなくなる時、最後に思い出したのはあの金色の髪を持つ美しい少女

 

 

 

 

ではなく

 

 

 

 

 

その身体を血に濡らし、銅色の髪を持つ、涙を流している正義の味方を目指した少年だった。

 

 

―――理想を抱いて溺死した。

それが彼が衛宮士郎になる前の物語。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

―――暗い。暗い。暗い

墜ちていく。体は動かない。ただ、濁流に飲まれるように、墜ちていく。

闇は黒い点となって、自分の要素を粉々にしていく。

何かが抜けて、擦り切れて。僕を構成する全てがなくなるようで、削り取られて。

元から燃え尽きた魂はさらにボロボロに崩れ去り、闇に解けていった。

ただ、不思議と恐怖はない。僕は消えるし、ここがどこかはわからないけど、でも。

それでも、死ねることは幸せだ。

 

そんな、諦めと共に。

その深淵から突如湧き出た光が僕を包み込んだ。

 

 

 

 

 

 

 

重力が身体に戻る。この感覚は、酷く懐かしく感じる。

―――――ここは、どこだ?

 

声が出ない。この感覚は何だ?これは―――

 

 

「―――ッ!」

 

 

 

身体が、重い―――

鉛のように体が重い。燃えそうに体が熱い

痛い。痛い。痛い。痛い。熱い。熱い――。

 

 

体が痛い、それは分かる。

 

 

体が熱い、それも分かる。

 

 

生きている、分からない。

 

 

そうだ。なぜ自分は生きている。僕は確かに、あの時に死んだはずでは?

それに、全身に感じるこの説明できない違和感は何だ?

ギチギチ、と。身体が鋼に包まれたように動かし辛い。

そんな疑問と共に、重くなった眼を開く

 

 

 

 

はじめに見えた自分の手はボロボロで、とても小さかった。

 

体は…とても軽く、けれど先ほどと変わらず酷く動かしにくい。

 

また、自分が死んだ場所と今いるここは違うとも。

 

「―――ッ!?」

 

声なんて出ない。肺が燃えているのか、それは言葉となっていなかった。

でも、それでも目は動く。

 

燃えている。全てが燃えている。周り全てが燃えている。

ここにいたら死ぬ。間違いなく死ぬ。嫌だ。それはいやだ。理由もなくしにたくない。

 

 

そうして、どうにも馴染まない体を無理矢理動かし立ちあがって辺りを見回すと、そこには轟々と燃え盛るナニカ。

 

こんな光景知らないけれど、でもこの体は知っていた。

かつてこの体が住んでいた街。記憶にはなくとも、それらには見覚えがある。

 

ふと、気づく。何かが聞こえる。

 

―――これは、声だ。

 

助けてくれと、この子だけでもと、死にたくないと、周囲から聞こえる縋り付く声。

全てが黒い闇に染まった世界。地獄とはこのことをいうのかと、そんな世界が広がっていた。

焦げ付いた風景。そして、肉が燃える臭い。この独特な、香ばしい匂いは知っている。人が燃えている。僕もかつて経験したことがある。

ここは地獄、人の悪意によって生まれた人災。

 

そこまでなら今までも見たことがある地獄と同じ。

 

だがあの時とは決定的に違う何かがある。そう。あれは…

 

 

まるでそれは世界の呪いのようで。

まるでそれは人類の悪意のようで。

 

こちらを覗き込むような、それはそんな視線を出している。

黒い月。まるで全てを飲み込むような深遠が、空に浮かんでいた。

 

 

 

 

それはまるで地獄の穴のようで。何もかもを呪い尽くす様な威圧感を持っていて。

 

その、絶望の月を見た彼はこの地獄をすぐに理解した。してしまった。

 

 

ここはこの世全ての悪によって呪われた聖杯の悪意によって汚染され全てが穢れた地獄だと。

 

 

そして、自分はあの”衛宮士郎”になったのだと。

 

 

もう自分は、■ ■ ■ ではないのだと。

 

 

 

 

―――――――理解、してしまった。

 

 

 

「――――」

叫びたかった。でないと心が壊れそうだった。けれど身体は動いてくれなくて。

 

何を、しているんだ僕は。

救えなかった。

救えなかった救えなかった救えなかった。

あの時、涙を流した彼らを救えなかった。

 

 

 

正義の味方を目指したのに、人を救おうとしたのに、彼らを救えなかった。

夢に見ていたあの人の影を。正義を追ったのに何も出来なかった。

 

何も出来なかった。誰も救えなかった。僕はあの時、正義の味方を目指すと。そう、確かに決意したはずなのに。それでも救えなかった。

これでは、失格だ。何も出来なかったあの頃と同じで。無能の烙印を押されても仕方が無い。僕は何をしているんだ。

そんな正義の味方失格の自分が自身が憧れた正義の味方。

衛宮士郎になるなんて、何て―---皮肉。

 

ましてや、人格の上書きなど、将来の彼を殺したのと変わらない。

 

人を救おうとした結果が、かつての憧れを消すこととなるなんて。

 

 

 

 

――思ってはいけない。そんな事、思ってはいけない。

これを思ってしまったら、僕は僕でなくなってしまいそうだ。

 

ああ、けれど

こんなこと。決して思ってはいけないのに、そう感じてはいけないのに――

 

 

 

 

 

 

 

うれしいと、そんな感情がわいてしまった。思ってしまった。

 

 

 

 

 

 

衛宮士郎。僕にとっての正義の味方。

 

彼になれるんだから。友人よりも、恩師よりも、好きだった人よりも、そして何より親よりも憧れた。僕の生きる原点。

 

 

あの時あこがれた、正義の味方になれるのだから。

 

 

 

 

 

そう思えばこの血にぬれた地獄も美しいと感じた。

嘆き、哀しみの声が、まるで地獄で唯一聞こえるオーケストラのように、そんな事を思ってはいけないのに。祝福の声のように思えた。

生前、救えなかったことも。目の前に広がる地獄も仕方がないと、必要な犠牲だと感じてしまった。

それが歪んでいるなんて、自分が一番わかってる。そんなこと彼を目指すのならあり得ない考えなのに

 

 

 

夢にみた、正義の味方になれるのだと。この光景と誰も救えなかった過去はその第一歩の地獄だと。

 

 

 

そう、思ってしまった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

その後は言うまでもない。

 

 

彼は周りの人を誰一人として救えず、衛宮切嗣に救われるという本来の正史を辿った。

 

 

 

 

これは、偽者に憧れた偽者が、本物を目指す物語。

 




プロローグ。短め。
  1. 目次
  2. 小説情報
  3. 縦書き
  4. しおりを挟む
  5. お気に入り登録
  6. 評価
  7. 感想
  8. ここすき
  9. 誤字
  10. よみあげ
  11. 閲覧設定

▲ページの一番上に飛ぶ
X(Twitter)で読了報告
感想を書く ※感想一覧
内容
0文字 10~5000文字
感想を書き込む前に 感想を投稿する際のガイドライン に違反していないか確認して下さい。
※展開予想はネタ潰しになるだけですので、感想欄ではご遠慮ください。