彼女を、倒すことだけは、してはいけない。
そう、思った。だって、あの時衛宮士郎に憧れた時。俺はデジタルの彼女を見て。
だったら、俺が衛宮士郎ならば、彼女を想わなくては。彼女を大切だと思わなければいけなくて。
―――違う。それはきっと、違う。
だって、俺は今まで歩き続けた。何度も何度も。歩き続けた。もう記憶は磨耗して覚えていないけど、それでも。
かつて、俺はある目的のために歩き続けた。
戦い続けていたかった。そうすれば、大切な者を守れると信じていた。けれどそれは単なる思い込みだった。
俺は何度も、何度も。この手から零れ落ちたはずなのに。何も守れなかったのに。
今更、その目的をかなえることなんて出来ない。ソレを思い知ったはずだ。
それでも、それでも――――
俺は、剣を振るうことしか出来なかった。何の罪もない人をが傷つくのを見ていられなかった。
だって、そうじゃないと可笑しいじゃないか。何もしていない人が傷をつくのは帳尻が合わない。
だから、俺はあらゆる助けを求め続けた。そんなことは出来ないと理解していても、矛盾していた願いだとしても。
それでも、俺は。
それでも。俺は
「トレース」
バチバチ、と。己の意思を受け継ぐように、その剣は複製されていく。
「オン」
バチリ、バチリと。剣が編みこまれ、それは二刀の剣となって。作り出すは幻想。
自身が思い描く最強の武器。
そうして彼女に立ち向かい。
キィン!と。
響く。
鉄の音が。刃と刃をすり合わせた音が。己の信念をぶつけ合う音が。何度も。何度も。
金属音が響き渡って。
まるでそれは俺の心を表してるようで。
―――理解した。やはり、今の俺ではサーヴァントを倒すことはできない。
筋力が違う。速さが違う。直感が違う。才能が違う。俺では、それら全てが彼女に劣っている。
否。それでも、俺と彼女は互角。
――――分かる。彼女の剣が。
彼女の見えない剣は左の肩を狙っている。それが分かる。
その後、右腹を狙っていることも。
何かが繋がっていく感覚。それとともに彼女の剣が読めるようになっていく。
読めている。全てが読めている。まるで、かつて経験したかのような剣の応酬。
ただ理想的な位置に剣をおくだけで。彼女の剣を全て防いでいく。
ならば速く。もっと速く。速く…!
「なっ」
驚愕する声など知ったことか。その速度を、常人では到底出すことの出来ない速度で、確かに。
はじく、はじく。はじく。そうしてついには。
ザシュリ、と一太刀。酷く覚えがある感覚とともに、自身の剣は彼女の左腕に傷をつける。
それは痛みとなって、彼女に苦悶の表情を与え。
まだだ。まだ戦いは終わっていない
右手で大げさに振られた剣。それを。八極拳の技術を用いてかわす。なぜその技術を持っているか。自身でも分からないが関係ない。
つなげられたピースのように。何かが俺の身体に戻っていく。何かが回復するように。彼女との戦いは、剣のせめぎ合いは俺にかつてのキレを戻させていく。
剣道で。空手で。合気道で。あらゆる武術の真髄を以って、彼女の超直感をかわしていく。
意識せず。無意識に。身体が勝手に反応し彼女の全てを無効化していく。
恐らくこの感覚は。そうか。この感覚はアヴァロンか。アーサー王と戦えばそれが発動するのは必然。だが何を回復させているというのか、分からない。分からないがこれは好機。
全ての太刀筋を読み、もう一度その剣は彼女を襲う。
二太刀。
そうして、彼女の左腕をもう一度斬る。それは切断はしなかったけれど、それでも斬ったその感覚から彼女の右腕は使い物にならなくなったのは分かる。
だがそれが関係あるか。彼女は絶対的な再生力を持つアーサー王だ。すぐに回復する、と自身を叱責し、更なる追撃を。
「いったいどうなっているのよ!」
そんな遠坂の声が響くが、このキレ。何故俺が彼女を追い詰めているのか。
それは俺にだってわからない。ただ、この状況。俺は勝てる。彼女に勝てる。
そんな希望をへし折るかのように
「う。オオオオオオオオオ!」
そんな彼女の声とともに剣から爆風が発生し。しまった。これはインビジブル・エア―――!
-----違う。俺はしっている、この攻撃の対策方法も。
「えっ…?」
そんな呆気ないセイバーの声とともに。
シュン、と。
絶対的な暴風すらも回避した一本の剣。空中から突如現れたそれは風を無効化する能力を持つ宝具で以って。
見えない剣は、呆気なく無力化された。
「―――---!」
声は叫び声となり、もはや意味はなさず。
そうして、その勢いのまま彼女に致命的な剣の一撃を加えようとして---!
ドクン、と。何かが悪寒が。
ダメだ。これは、逃げなければ。そんな本能と共に。
結局一撃を与えることはできず、慌ててその場から回避した。
何かかは分からない。けれど。何かから恐れた。デミ・サーヴァントとしての力か、それはサーヴァントの天敵であると理解した。
俺がいた場所には黒き影が、何かを取り込むかのような動きで艶めかしく動いていて。
グシュリ、と。虫が磨り潰されるような、音がした。
ふと、気づけば。
気配もなく、音も無く。セイバーすらそこにいると、俺と同時に気づくほど何も感じさせない存在が。
そこには。黒く、泥に塗れた異形がいた。
「―――――」
コイ、ツは。
ピシリ、と頭に響く。この存在は、これだけは。
嗚呼―――俺は、失敗したというのか。
俺だけが知っている。原作知識を知っている俺だけが。
そうだ。この、異形は。
そんな。そんな事が、そんな事が合ってたまるか。
”先輩”
そう俺を呼んだ嘗ての彼女が、見せた一面。
さく、ら――――!
そう、その異物を認識した時。
「――――――――ッあ」
その顔を見た時。
最後のピースが、繋がった気がした。
ピシリ、ピシリと。セイバーとの戦いで回復した何かが。
全てがグシャグシャに混ざって、結びついて、繋がった。
嫌だ。いやだ。いやだ。
「――――――」
やめろ。
やめろ。
やめろ。
俺に、俺にその思い出は、記憶だけは。それだけは。
「先輩。指きりをしましょう。お互いの幸せを、誓ってください」
やめろ
「私は、幸せです」
やめろ
「どうしました?先輩」
やめろ
「いつまでも、先輩は私の料理の師匠でいてくださいね」
やめろ
「ありがとう」
やめて、くれ。
「いいですよ先輩。お願いします。私を――――殺してください」
「ッあ――――」
何かが砕けたような気がした
そうだ、俺は、俺は――――!
「――――――」
あの時。桜を、殺したんだ。
そうして、彼は全てを思い出す。
自分の過去を、過ちを。
あの時、苦しみ血反吐を吐き。そうして至った結末を。
主人公セイバーより強いとかやりすぎぃ!と書いてて思いましたけど何万年も正義の味方張り続けた衛宮士郎って考えたらそりゃ強いよね、と。
ましてやサーヴァントだからセイバーも劣化しているし。
謎の回復:アヴァロンの能力。セイバーとの打ち合いで、魔力が主人公に流れ出たため。