衛宮士郎に憧れた少年   作:黒幕系神父

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最終回「世界で一番幸せな少年」

よみ、がえる。

ピースが繋がって、全ての記憶が繋がって。

この感覚は。嗚呼――――そうか。

全てを、思い出した。

あの時の苦しみも。

あの時の哀しみも。

 

あの後。

衛宮士郎以外の別人に憑依して、憑依して、憑依して。ソレを繰り返して。

その全てがバッドエンドだった、あの記憶を。

 

―――全てを思い出した。かつて進んだ絶望の道を、道程を思い出した。

その全てが失敗した。これは、無理だ。この記憶は…。

―――――俺には、もう前に進めない。

何年、何十年。いや。何千年歩んだか。もう年月を数えることも出来ないくらい、歩き続けた。桜を救うと心に決めて、心が磨耗しても、記憶がボロボロになっても、衛宮士郎という存在がかけていってもそれでもかつての恋人を求め続けた。

でも、もうだめだ。

 

こんな、こんな記憶を見せ付けられたら…!

俺はもう――――無理だ。

 

俺は失敗した。

あの時の桜は苦しかったはずだ。悲しかったはずだ。

俺があの時桜を殺した。だから、贖罪の道を歩み続けなければならないのは分かっている…!

けれど、もう無理だ。だって、その道を進み続けた結果俺は人を殺し続けた。

何度も何度も世界をやり直して、様々な人達の道程を、つながれた想いを全て無かったことにした。それでも失敗した。

ただ、ただ、疲れた。こんなことなら記憶など、復活しなければよかったと。

世界が黒く見える。心が絶望に染まっていく。罪悪感が自身を蝕んでいく。

弱きをはくことは許されないけれど、それでももうダメだ。

もう、疲れたよ。切嗣。

 

だから、ごめん。桜。俺はお前を諦める。

 

 

――――でも、

それでも。それでも俺は。

ああ、でも、最後に、これくらいは―――!

 

足はボロボロで。身体はもはや錆び付いて。心はグシャグシャになって、

 

それでも、それでも。

 

「桜――――!」

それだけは許されない。桜が誰かを殺す姿。それだけは。

 

 

黒き泥に塗れた少女は、俺が犯してきた罪を塗り固めたようで。

あの贖罪の日々は、何の意味もなかったと語ってるようで。

強い呪いを以って、遠坂に闇より深い影に捕らえようと。ゆっくりと。ゆっくりと。けれど人には対抗できない速さで彼女に近づいていて。

 

俺は、何も救えなかった。何も、誰も救えなかった。

そうだ、俺は敗北者だ。罪人。醜悪な殺人鬼。それらが俺には相応しい。俺は正義の味方にはなれない。

 

――――けれど、それでも、意地はある。

決して失敗は許されない。ゆえにその剣は精巧に、完璧に。

コルキスの女王が持つ宝具。あらゆる魔術的な縛りからの開放を強制する宝具。

ルール・ブレイカー。それを

「トレース」

 

完璧に、精巧に。裏切りの魔女から生み出された逸話の宝具。それを。

 

「オン」

 

バチリ、バチリと電流のようなものが流れ、何かが俺の中から、あふれ出て。そうして、そのナイフが構成されて、確かに完成されたそれを。

 

弓を射るように、身体を軸にして、思い切り腕を大きく振るった。

 

投げナイフの要領で、彼女が遠坂を食らうその寸前の所で。確かに。その剣は彼女を突き刺した。

 

 

「―――――」

 

 

浅い。血は少なく、致命傷ではない。けれど、傷の深さは関係がない。

それは魔術を絶つ剣。物語でのデウス・エクス・マキナのような、ルールを破壊する剣。

その短剣は十全に効力を発揮し、パキリ、パキリと音をたて。彼女に纏っていた泥が消えていく。

一つ一つが。その呪いが。ボトリ、ボトリ。と。彼女の心のように、落ちていく。

それは地面におちて消えていくが、俺にまとわり付くような感覚を残した。

悪意。世界全ての悪意。それが俺を蝕んでいくような気がした。

そうして、ボトリ、と全てが落ち。

彼女はついに悪意ある泥から解放された。

 

彼女は解放された。解析しなくても分かる。泥に塗れたことで虫を汚染しつくしたのか、その身体は全ての魔術的要因から開放されていた。

ゆっくりと、ゆっくりと倒れる彼女の身体を走って支える。

すぅ、すぅと胸を上下させ、眠る彼女は、まるで眠り姫のような。何も知らない、無垢の少女のような。

まるで全てに開放されたかのように穏やかに、眠っていた。

 

「―――終わった。」

思わず声に出る。

そうだ、全てが終わった。後は聖杯戦争の。サーヴァントとしての戦いのみ。

ただそれは、俺が求めたものではない。俺は、そんなものに参加するつもりはない。

だって、それは俺じゃなく、今を生きるものが行うべき儀式だ。

俺が求めた、桜の救済。それを成し遂げた。ならばもう悔いはない。

 

―――ソレは違う、と。とある自身の内なる心がささやいたが、些細なことだと無視した。そんなこと、分かっている。俺には悔いしかない。ただ、ソレを認めたくないだけだ。

でも、それでも。それが分かっていても俺は無視をする。でなければ、生きていけないから。

 

 

最後に、俺は俺が求めた最後の願い。

誰にも気づかれず、いや。自分では気づいていたが、それに目を背けていた願い。

俺の取るべき行動。それは決まっている。

あの時、確かに彼女の声を聞いた。その声は、目の前の桜――――ではない。

そうだ。俺の今の身体には俺と、この身体の本来の持ち主の衛宮士郎の2つの人格がいる。

 

それはつまり、目の前の桜が俺が探している桜ではないのと同様で。

 

 

「――――ああ」

ようやく、しっくりと来た。そうだ、彼女は俺の好きな人ではない。

同じ行程を歩んだとしても、彼女と桜は別人だ。ならば。

 

俺が生きていることに、意味はない。彼女と一緒に生きていくことなんて出来ない。

 

もとより、俺の魂はもはや原型を保っていない。

幾たびも憑依をした。そして、本来の身体の魂を取り込み続けた。それでも自我を保ち、進み続けた。

 

結果として、俺は記憶を失った。それはつまり、単純な話。本来の衛宮士郎の魂の寿命。それだけだ。

もはやボロボロで、磨り減って欠片しかない。とてもとても小さな魂になった。だからこそこの世界を創作物として見れる世界から、この世界に墜ちたんだ。

世界は矛盾を許さない。ならば、矛盾しなければ。俺がここの、下位世界に戻るのも必然といえる。

 

そしてあの時、カリバーンを。イリヤとの、ヘラクレスとの戦いで投影した時点で、俺の。衛宮士郎としての魂は消え去ったんだ。俺の運命は決まっていた。

無くなったものは戻らない。消え去った魂は、例えアヴァロンがあろうともう。戻らない。

 

俺はもう死んでいる。ただ本来の俺の魂の記憶を他の魂が継承していただけ。もう、俺は衛宮士郎じゃない。だったら、俺が衛宮士郎の自我を継承し、生きていることに何の意味がある。

 

 

桜を助けることも出来た。

慎二とも共闘出来た。

自身の魔術特性を理解した。

様々な経験を、あらゆる戦闘の戦いを知った。

だから、この記憶があれば彼は――――。

 

 

もう、いいだろう。

もう俺は何も失いたくなかった。

あの時、衛宮士郎がはじめて憑依した身体の魂の持ち主。

俺のかつての本名は、確かシェ■・ル■プライン。ずっと、ずっと。最古よりあの時から衛宮士郎を見てきた()()

今の俺をつくりあげていた、魂の集合体の主軸となった魂。

衛宮士郎より、記憶を。経験を。信念を受け継いだ魂。そのことに泥に塗れた桜を見たことでようやく気がついた。

 

俺は彼じゃない。衛宮士郎じゃない。

 

俺はただ、彼に憧れた子供だ。

衛宮士郎に憧れた少年。それが俺の正体。

 

それが俺の正体。俺が衛宮士郎になれないのも必然といえる。

だって俺は別人なのだから。ただの、何千年も彼と共に歩んだ友人でしかない。

 

あの時、カリバーンを投影した時に彼は死んだ。

あの時何かを失った感覚は俺が衛宮士郎じゃないという証明。

 

だからか、俺はもう、衛宮士郎が消えてなくなるのは見たくない。

 

だって、何千年も彼を見続けたんだ。平行世界であろうと彼が消えるのなんて見たくない。

 

だからこそ、これ以上彼を汚すことだけは、してはならない。

 

だから。

グシュ、と少しの血を出しながら。

 

そうして、桜から突き刺さったその剣を抜き取り、

「――――」

勢い良く、自身に剣を刺した。

グシュリ、と。かつて体験した、肉を剣で貫く感覚を味わって。

自身にルール・ブレイカーを突き刺した。

痛みはない。もう磨耗して、そもそも痛みなんて憑依してから感じたこともなかった。

俺の最後の願いを。無自覚に願い続けたその願い。

 

完全に消滅して、いなくなりたい。

 

その、最後の願いを、それは十全に叶えるだろう。

 

ルール・ブレイカーとは本来そういう宝具だ。神の呪縛から開放されたコルキスの女王メデュアの逸話を写した宝具。それならば、俺は解放されて、永久に他人に憑依されることはなくなるだろう。

聖杯、いや。もはや人格すら消えたイリヤの呪縛からは、間違いなく開放される。

それはつまり、他者の身体を乗っ取ることがなくなることだ。それはとても、良い事だ。

 

「―――ああ」

失っていく。

 

刺した場所から。何かが、漏れ出て、あふれ出て。

 

失うような、消えていくような。そうして。

 

解れていく。自身の魂が。

何十にも、幾重にも重なった自分の魂が解けていく。

 

一つ。一つと。かつて人格を乗っ取った身体。その持ち主の魂。

それらが俺から開放されていく。

 

”ありがとう”

そんな、声を聞きながら。

 

何かから開放されていくような感覚。全てが終わるような感覚。

けれど、その感覚は。自身が完全に無になろうとしていても、それでも俺の中には喜びしかない。

良かった、これでハッピーエンドだ。そう、心の底から俺は実感していた。

 

無責任だろう。

酷く自分勝手だろう。

それでも、そういわれても俺に後悔はない。

だって、俺が生きていることのほうが不条理だし自分勝手だ。

何万年も生きて、その間様々な人達の身体を乗っ取って、今更無責任も何もない。

だったら、勝手にいなくなっても。許してくれるだろう…?

なあ、■。

 

 

…?

…■?誰だ、それは。

ゆっくりと、記憶がかけていく。心が離れていく。人格がこぼれていく。

私は、誰だ? 目の前の、白い髪の女の子は、誰だ。

僕の罪の象徴だ。彼女は。助けれなかった少女。それだけだ。

私?俺?僕?自分をなんと呼んでいたのかすら、分からない。

でも、壊れかけの自分は、確かに士郎と呼ばれた少年だったはずだ。

苦しくてつらくて、寂しくて悲しい。そんな気持ちが。まだ自分が自分だと実感できて。

 

「まったく、もう」

 

その時に、ふと。

「もう、どうしてこうなったんですか?私、言いましたよね」

 

聞いたことがある気がする。

思い出は、失った思い出はもう戻らない。

けれど確かにその時、自身の時間が止まった。

この、声は――――!

 

今なら分かる。この声は。今なら分かる。いつも、いつも俺に声をかけてくれた少女。

求め続けて、求め続けて。手を血でぬらしても、罪に塗れても追い続けた少女。

 

「先輩」

こんな、こんなにも近くに。いたのか。

 

俺はいつも、彼女に守られていたのか。

 

なのに、なのに俺は…!

 

「大丈夫、先輩。私は、後悔していません。」

 

――――何かが、外れた。俺が常に抱えていた重み。重圧が、確かに外れた。

その、一言が。俺にとって何よりの救いで。

 

そうだ。俺は

 

 

 

「ありがとう。」

 

 

―――――幸せ、だ

 

 

 

桜。お前を、愛していた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「メイガス、あなたは一体…」

 

彼女、セイバーからすれば、いきなり自身に宝具を突き刺した異常者。ソレにしか見えないだろう。

誰も、否。俺以外理解できないものはもはやこの場にいないけれど、それでも。

口に出た。

 

「―――――そうだ」

「…?」

 

 

「そうだ。俺は確かに彼に憧れた。彼が俺に、衛宮士郎に憧れたように、二人の味方を張り続けた彼を俺は確かに憧れた。彼は確かに俺の理想だった。」

 

苦しかったはずだ。

悲しかったはずだ。

ただただ、救いを求めたはずだ。

それでも、彼は。何度も憑依転生し、その身体を乗っ取ったという罪悪感に。そこから生まれでた強烈な自殺願望に苦しんでも。それでも彼は今の今まで自分の願いのために、歩き続けた。

だったら、もういいだろう。彼は眠りを求めた。その願いを叶えることに何の異議があるというのだ。

 

「衛宮、くん?」

 

ただ二人の少女の味方になろうとする、その生き方に憧れた。その真っ直ぐな、届かぬ星を目指す生き方に憧れた。

 

 

だから、一緒にいたかった。体は彼が動かしていたけれど、それでも彼の生き方はどうしようもなく美しかったから、だから彼に体を貸すことに拒否感はなかった。

 

いや。正直に言おう。俺は自分自身の運命に抗い続けた彼と一緒にいれて、嬉しかったんだ。

 

まるで自分も正義の味方であると、そう錯覚させられた。

 

 

 

それはもう夢物語。

そうだ、もう。彼はいない。

 

ただ、彼は何も残さなかったわけじゃない。彼は確かに俺に置き土産を置いていった。

 

その記憶。あらゆる戦闘を繰り返した。衛宮士郎の、否。衛宮士郎も含めたあらゆる彼らの過去の記憶。それを俺は全て知ることが出来た。

 

「だから」

 

だからこそ、俺は彼の。否、彼とともに歩んだ魂達の意思を継ぐ。決して諦めない。俺は――――

 

「その人生が偽善に満ちたものだとしても」

 

それでも

 

「それでも俺は、正義の味方を張り続ける。」

 

 

俺は彼らの生涯を見た。

ならば―――そのバトンを受け取らなくちゃ嘘になる。

 

俺は決して彼らの選択を否定しない。彼らは本物の正義の味方だ。だったらそれを受け取らなくちゃいけない。

 

それこそが、彼らが生きた衛宮士郎の証明。

 

”進むのか、その果て無き荒野を。その先は地獄だぞ。”

俺は、アーチャーの。英霊エミヤのデミ・サーヴァントでもある。彼の声を聞いた。

 

そんなこと、決まっている。俺は前を進み続ける。

彼らの思い。それが、アーチャー。お前が忘れたものだ。

確かに、始まりは憧れだった。衛宮士郎に憧れた。けど、それの根底にあったのは願いなんだ。

あの時の地獄を覆してほしいという願い。誰かの、桜の力になりたかったのに、結局、何もかもを取りこぼして、果たされなかった願い。

穢れた夢の果て。全てを歩き続けて、最後に見つけた彼の願い。

傷つくのが定めだとしても、心が色を持つ限り、持ち続けた彼の願い。

 

 

”ああ、そうか。”

”そんな事も、嘗て、あったな。そうか、それこそが、衛宮士郎、か。”

 

 

 

だからこそ、俺は必ず勝つ。彼女に、セイバーに。

かつての憧れを超える。

 

「身体は、剣で出来ている」

 

血潮は鉄で、心は硝子

 

幾たびの戦場を越えて不敗

 

ただの一度も敗走はなく

 

ただの一度も勝利もなし

 

 

担い手はここに二人

 

 

ならば我が生涯に意味は不要ず

 

けれど、

 

偽者の心は未だ朽ちず

 

ならば彼らのその生涯に意味は有り、

 

その数多の魂はきっと。

 

「We are the bone of my sword」

 

―――剣で出来ていた。

 

 

 

 

 

そこは白。虚無の空間。何人も犯すことの出来ない。ただ、白に塗りつぶされた光景。

そこにあるのは、どこか。役割を失ったような大量の剣が地に突き刺さった、その光景だけ。それこそが彼の心象風景。

 

「まさか、そんな…!」

 

「セイバー。遠坂。お前らにはこの世界がどう見える?」

 

 

「俺には、この風景が、この剣達が。墓標に見えるよ」

 

 

 

 

 

その後は語る意味はない。

ライダーのマスター、間桐慎二と協力し。何千、何万人もの記憶と経験。そして原作知識を継承した彼に敵う者は決していなく。その終わりはハッピーエンドで迎えるのは必然である。ゆえに、決まった未来を語る必要はない。

 

 

 

END




これにより完結。
オリ主の物語はここで終わり。あとは原作主人公の物語ですので。
過去編2話(外伝)で完全に終了です。同時投稿ですので、そちらもどうぞ。

桜を回想以外出さなかったのは、主人公が過去の衛宮士郎(とはいえ最早別人ですが)だからです。
平行世界の衛宮士郎に憑依しても、決してその世界の衛宮士郎に成り代わることは出来ないし許されない。という理由がありました。
この世界で生きているイリヤや桜で満足するのは、それは違うかと思ったので。

オリ主は元々は衛宮士郎でしたが、数多ある憑依をしたことで魂が混ざり合って新しい魂になっていました。故に真に衛宮士郎ではありません。4話からは完全に衛宮士郎ではありません。設定としたらEXTRAの無銘に近いです。

主人公の自殺願望
ぶっちゃけ序盤からずっと卑屈なのはこのため。

主人公の死亡
3話「衛宮士郎」でカリバーンを投影した時主人公は実は死んでいました。
4話からは本当は衛宮士郎ではない”別人”が主人公です
ようは自分を衛宮士郎だと思い込んだ精神異常者ですね。

本編では明かさなかった(明かせなかった)設定は置いておきます。
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