衛宮士郎に憧れた少年   作:黒幕系神父

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裏話「2人の主人公」

ルート:終末の世界

 

―――――斬る。

音速を超えた速さで繰り出される殴打を回避し、確実に敵の命を取るために。

一太刀。

斬って。大きな緑色の身体は引きちぎれて。

 

そうして、敵が怯んだその瞬間に、

二太刀。

斬って。大きな触覚を切り落として。

 

斬り続けて。そうして、斬り続けて。

赤く、赤く。その化け物から血があふれ出ていて。

そうして、斬り続けて。

 

 

あらぶる神は、ついに墜ちる。

緑色の体表を持つものは、その身体を赤き血に染めて。

目の前の化け物は、自身の生命を終え、霧散した。

 

 

「あ、ありがとう…。」

俺の後ろには少女がいて、

 

「ああ」

 

そうして、俺はとある少女を救うことができた。

 

”あの時とは違って”

そんな、脳裏に声が響くが無視した。

 

 

助ける、ことが出来た。ならば俺がここにいる意味はない。

 

後ろの化け物に振り向くことなく、俺は歩む。

そうして、唖然とした少女を通り過ぎ、地面の砂地をかきむしるように歩き出す。

 

太陽は黒ずみ。

草木は枯れ。

文明は潰えた。

 

人類は滅亡しており、人と呼ばれた種族は彼一人しか生存者がいない。終末の世界だった。

人はお釈迦話の存在となった、そんな世界。

 

そんな、彼が歩んだ。かつての物語。

 

 

「どうして、あなたはこんな所に?」

「ああ、実はこの付近に同胞がいると聞いてな」

 

何故かついてきた少女。最も、この付近には少女以外何もない。

その理由も知っているが、それでもその現実から目をそらしていた。

 

「でも、人間はもう絶滅したんじゃ?そもそも、あなたが人間だっていうのも嘘くさんだけど」

半眼で、ジっと自分を見る少女。彼女はそんな顔をして、けれど。すぐにコロリと表情が変わり。

とても、とても眩しい笑顔で。

「お礼を、言い忘れてた。私を、助けてくれてありがとう」

 

「そんなことは」

 

「私の家族を殺してくれて、ありがとう!」

そうして、笑顔の彼女を。

 

()()の皮膚の、彼女を見て。

 

「…ああ。」

 

元々人間であった彼女も、時間がたつにつれ自我が消え、あの緑の化け物になるだろう。

誰が悪いとかではなく、ただ、運が悪かった。それだけの理由で、俺以外のこの世界の人間は肌が緑色になり、年齢を30を超える頃には皆化け物になる。

俺は気づいたら、そんな世界にいた。衛宮士郎として、何度もループをして、そして気づいたらこの身体になっていた。

この身体の持ち主はただ一人の人間として。魔術で凍結させられていて、奇跡的に蘇ったのだとか。

凍結される前の記憶はない。

それでも――――。

 

脳裏にちらつく、かつての家族の顔を。

弟がいた。

妹がいた。

父親がいた。

母親がいた。

それは、衛宮士郎の時の記憶ではない。彼らはみな死んだ。だって、あの時から何千年もたっていたのだから。

その間、魔術で自身の殻を凍結させられて。そうして、世界はいつのまにか滅んでいた。

 

…俺が乗っ取ったこの身体の精神は。どこにいったのか分からない。

それでも、この結果は余りにも。余りにも報われない。

シェロ・ループライン。この身体の持ち主。それに俺の魂が合うはずがない。

かつての記憶はどんどんと欠け、最早俺が衛宮士郎だとすら分からなくなっていく。

この壊れかけの自分は、今はまだ衛宮士郎と呼ばれたものだ。それでも、ボロボロ。

 

ただ、悲しいと思ったこの感情は、失いたくなかった。だって。この胸にくる感情すらなくなってしまったら俺はきっと後悔すると思うから。

だったら、せめて後悔がないように。

せめて、俺がこの身体を乗っ取っている間だけは。この名前でいようと、そう思った。

 

だから、俺はこの名前を受け継ぐ。

「シェロ・ループライン。そうだ、それが俺の名前だ。」

 

「え?…そうなんだ。シェロ。シェロ、かぁ。それがアナタの名前か」

 

「それよりなんだ、君さえよければ。一緒に俺と旅をしないか?」

 

「…え?」

 

「もう一度言うけど、一緒にいかないか?」

 

「で、でも…うん!」

 

俺は最終的には、この子を殺すのだろう。所詮偽善。彼女と寄り添うことに意味はない。

けれど、それでも寄り添って、助け合って生きて生きたい。

そうでないと、この少女すら見捨てたら、俺は俺でなくなってしまうから。

 

 

この世界は、人が存在しなく、化け物が闊歩する世界。

それでも彼は、正義の味方を歩み続ける。

 

■を救うために。

彼は贖罪の道を歩み続ける。

 

その先に、破綻の道しかないとしても。

最後に、その少女を殺すこととなっても。

 

それでも、彼は進み続ける。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

ルート:シェロ・ループライン

 

 

俺は、なんだろう。

ゆっくりと、記憶が薄れていく。かつて、家族がいた。5人家族。父と、母と。妹と、弟がいた。

彼らはまあ、死んだ。それに拘ることはなかった。

だって、しんだのだから、どうしようもないと。前を向いて歩いていこうと。そうやって、無理矢理諦めた。

それでも、その記憶だけは持っていたかった。かつての自分を作り出した、象徴するエピソードだったから。

それがないと俺は俺でなく、シェロ・ループラインではない。

 

けれども、削れて行く。欠けていく。上書きされていく。

とある少女を刺し殺した記憶。大火災の中、老けた、それでいて少年の眼をした親父に助けられた記憶。

地獄のような痛みを持って、修行をした記憶。かつての親友に呆れられ、嫌われた記憶。

 

銅髪の少年の記憶が、流れていって。そのせいか、俺の記憶がほとんど上書きされていって。

俺は、大切な人達が、友人がいた。そして、俺には特異な力があった。

その力を持って、大切な人達を守ろうと、必死に世界の敵に、突如現れた緑の肌の化け物に抗った。けれど、それは無意味だった。

人類は大きく削れていき、かつての仲間は。大切な人達は皆死んだ。彼らのことは、顔も、名前も。もう失っていった。

名前なら、問題ない。顔も、かつての気持ちを忘れても問題ない。

けれど、あの時の思い出全てを失ったら、俺はもうシェロ・ループラインじゃない。

削られた。壊れかけていた。それでも、俺はまだ。シェロ・ループラインだ。

銅髪の少年ではない。俺は、衛■士郎じゃない。

 

あの時、俺がした行動は無意味だった。所詮一人の力。特異な力を持ったとしても数には勝てない。

それでも、最後の悪あがきをして、自身のあらゆる異能を使い切って、化け物を生み出すサイクルを破壊した。

もう、化け物が増えることはないと。人類は。これから頑張っていけるのだと。そう、前世の記憶であろう衛宮士郎に犯された状態で。ただ願った。

 

禁呪に手を出した。世界を守るために。いや、かつての自分の繋がりを守るために。けれど、それらには代償があった。使ったものは石になる。それは禁呪の逃げられない運命。この世界の宿命。

何度も、何度も。顔も名前も覚えていないけど、嘗て憧れた先輩達が石になったのを見たことがある。

 

恐怖はあった。哀しみはあった。それでも俺は今感情があると。そうだ、感情があると。

俺はシェロ・ループラインだと。そう実感して。そうしたら、嬉しくて。

そうして、俺は石になって、数千年後の世界で生き返った。

 

 

…いや、生き返ったとはいえない。シェロ・ループラインは、衛宮士郎に乗っ取られた。

もはや思い出を語ることは出来ない。壊れ欠けた自分はシェロ・ループラインという名前しかないが、それでも俺は彼に乗っ取られた。

結局、世界は変わらず化け物に支配されていて、俺がしたことは全て無意味だと知った。

それでも、それでも記憶が、かつての思い出があるのならば前を向いて歩けた。世界を救うために歩くことも出来た。

でも、もう俺には記憶がない。ならば前に進めない。

家族の、好きな人の、大切な人の記憶を奪い取った衛宮士郎を、俺は決して許さない。

俺から大切な人達を、人類を奪った世界を許さない。

未来永劫、俺は彼を、世界を呪い続ける。

俺の身体を、返せ。―――返して、くれ。

 

そう、思っていた。自身を取り戻そうとした。けれど、俺の呼び声に衛宮士郎は気づくことはなく、結局身体は元に戻らなかった。

そうして、何十年も衛宮士郎とともに歩み続けた。それは俺がしたことじゃないけれど、あの緑の肌をした少女を殺した時の感情は、悲しくて寂しい、辛くて心が欠けそうになった。

そんな感情を抱いた彼、衛宮士郎の姿はどうしようもなく人間で。

 

彼を否定することは、かつての自分を否定するようで、出来なかった。

 

 

 

 

 

 

 

その後、彼。シェロ・ループラインは数多の世界を、衛宮士郎とともに歩み続ける。




外伝。
主人公を主人公のようにしたエピソード。
衛宮士郎(プロローグから1~3話)
シェロ・ループライン(4話~最終話)の主人公
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