夢を見た。
かつて金色の髪を持つ少女と歩き続け。
結局、その彼女を殺すこととなり。
かつて、白色の髪を持つ少女と敵対し。
結局、その少女を絶望させることになり。
かつて、後輩と慕った少女を想い続けて。
結局、その女の子を自分の手で潰すことになって。
そんな、狂おしいほどの夢を見た。
俺は、何をしているのだろうか。そんな、もう過ぎ去って変えることの出来ない過去を思う。
結局、俺は何もなしていない。あの時、バーサーカー相手にカリバーンを投影した時、確かに俺は死んだ。
限界を超えた投影。それによりボロボロだった俺の魂は完全に消滅した。
イリヤと。イリヤと戦おうとしたことが罪なのか。それが罪だというのなら、俺はいったいどうすればよかったというのだ。
ただ、恋焦がれたあの少女達を救おうとして、結局何もかもを失って。こんな、こんなことがあってたまるか。こんなバッドエンド。認められるか。
だって、俺は結局救えていないのだから。
その先の。シェロ・ループラインの答えを見た。彼は消えようとし、そしてその願いをかなえた。けれど。俺の願いは違う。
俺は桜に、ただ幸せになってほしかっただけだ。
それが俺の原点。正義の味方だとか、そんなことどうでもいいと思えるほどの、俺の想い。
それだけは、例え誰であろうと、否定させない。
”それは、どうだろう。”
そんな、声が響く。
ここが今、俺がどこにいるのか。そんな事俺にはわからない。知覚できない。認識できない。黒とか。白とか。そんな色すらわからない。そんな空間にいたけれど。
それでも、その声は聞いた。
”だって、君の最後は恐らく考えうる最高のハッピーエンドだったはずだ。何度も世界をやり直して、消してしまった男にしたら最上の末路といえる。”
”ましてや、君に最も近い魂を持つシェロ・ループラインが幸せに逝ったんだ。少し往生際が悪い。いや、傲慢にすぎるのではないか?”
そんな、声が、俺を否定するようで。
-――うるさい。うるさい!うるさい!!
そんなことわかっている。俺に、俺にそんな資格がないことは、わかっている。
それでも、それでも。諦められない。諦めれないんだよ…!
”なら、君はいったいどうするつもりだい?そのボロボロの魂で、出来ることなどたかが知れているというのに”
―――言われるまでもなく、そんなこと決まっている。
身体はない。心は欠け、記憶も磨耗して。もはや誰かわからない状態でも。
それでも、俺は桜を助けると誓った。ならば、俺が彼女を助けないことに何の意味がある。
苦しんだ。悲しんだ。吐き気を覚えた。あらゆる苦痛を知った。
ならば、後は進むだけ。それだけだ。
身体はない。けれど、それでも。かつての感覚は忘れない。
あの時、俺が抱いた理想郷。それは本来あり得ないけれど、それでもそれを投影すれば。
魔術回路など存在しない。けれど、この精神こそが俺の世界。ならば勝ち取る。無限の剣製をもつ俺に、出来ぬ投影などない。
”トレース・オン”
声は出ない。ここに酸素などないのだから。
それでも、それでも。それでも。あの時彼女が抱いた。理想郷。
その名は。”全て遠き理想郷。アヴァロン”
光輝いて。ああ、その光は何度も世界を終わらせてきた俺に対しては余りに強い光で。
本来ならばあり得ない投影なのに。それでも。それは十全の力を持って。
”ああ。やはりマーリンの真似など私には出来ませんでした”
知っている。先ほどから俺を試そうとしているこの声を。俺は知っている。
あの時。桜を殺すことになって。何度も逆行して。それでも必ず一緒についてきた相棒。セイバー。
”やはり。あなたは、私の。鞘だったのですね”
――――――そうして、俺の魂は修復されていく。
第2ラウンド開始だ。俺は、歩き続ける。
そうして、彼は数多ある世界を再度歩き続けた。
それは無限に等しい時間。それでも、彼は諦めることなく、ただ只管かつての世界を求め続けた。それに、意味があるのかといわれたら、その時間のほとんどに意味などなかっただろう。
けれど、それでも彼は諦めなかった。
数多ある世界を見た。
あらゆる終末を内包した世界。
心がボロボロになって、砕けようとなった世界。
黄金の、光り輝く世界。
かつての、騎士王が求めた理想郷の世界。
それは、違う。そこでかつての相棒と再会したけれど、それでも俺が求めた彼女ではないと、そう切り捨てて。さらに歩き続けた。
サーヴァントとして召喚されたこともあった。世界の悪として断じられようとされたこともあった。全てを殺しつくしてしまおうとしたこともあった。
けれども、それでも諦め切れなかった。だって、彼女は。彼女だけは。俺は忘れられない。
かつて、殺した少女がいた。その少女は笑顔で俺に殺された。
それは、どうしようもないくらい正しいことだった。だって、そうしなければ世界が終わっていたのだから。
それでも、その選択を俺は否定する。たとえ世界が消えたとしても、それでも俺は桜を愛した。だったら、殺すんじゃなかったと、そう願い続けて、思い続けて。歩き続けた。
記憶が磨耗して、もはやかつての切嗣の思い出すら、セイバーとの邂逅すら磨耗して消え去って。それでも、歩き続けた。
そうして、遂に彼は。
「先輩。久し振り、ですね。」
「…ああ、久し振り」
「おかえりなさい。」
「――――ただいま。」
そうして、彼の旅路は、終点を迎えた。