衛宮士郎に憧れた少年   作:黒幕系神父

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とある、執念の話をしよう。


3話「主人公になれなかった執念」

―――――あの時、シェロ・ループラインが自身にルール・ブレイカーを突き刺した時。

磨耗して、磨り減って、全てに絶望した記憶を思い出したシェロ・ループラインという男が取った行動。自分自身を解放するために、自身に宝具を刺して全てが開放された時。

 

 

――――それは違うだろうと。数多ある魂の一つ。その魂だけがそう思った。

何千、何万という魂の集合体。その全てが融合し、そして衛宮士郎の軌道を、道程を見てきて、その結果に満足して最後はルール・ブレイカーによって散って霧散していった。――――たった一つの魂を除いて。

彼は、否。彼女かもしれないが。―――その魂はその結末が余りにも最低で最悪で劣悪だとはき捨てた。

 

平行世界の桜を救った。ソレはいい事だ。だがそれでも、たとえ元々の世界の桜が救えないと知ったとしても自害をするのだけは認めることが出来ない。

だって、それは。自害をして桜を追い求めることを結局諦めたということは。

 

何度も、何度もやり直した。世界を破壊すると知ったうえで、衛宮士郎は世界を何度もやり直して、そのたび70億もの人間を無かったことにしてきた。

その意思を、意識を継いだシェロ・ループラインが。全てに諦めて自害して満足して散るのを認めることは出来ない。否、たとえ彼が散ったとしても、自身が納得できない。

 

地獄を見た。燃え盛るかつての人。切り刻まれた、血に塗れた人形。病魔に冒された少年。最後は化け物になった少女。

 

それら全てを切り捨てて、桜を救おうと足掻いて。それで失敗したから自害?

 

―――それだけは許されない。許さない。自身が許せない。

 

あらゆる哀しみを、苦しみぬいた人達を知った。それ以上に何億もの人間が何も気づかずに何度も無かったことにされた。悲しむとか、それすらも出来ずに何度も世界を消し去って。

 

それは、その全てを覚えておかなくちゃいけないと。消えていった彼らを記憶しなくちゃいけないと思った。

否、そう思わなければいけないとそう我々は思ったのではないのか…?

何万年生きた?だから自害?

 

…それは、それだけは違う。

かつてあったことを無かったことにしてはならない。そう誓った。人々は真っ直ぐに生きて、過去のバトンを受け取って現代の人達に繋がっていく。そうして人理は、世界は繋がっている。それを何度も、何度も何度も何度も何度も無かったことにした。

 

その罪を忘れることが出来たら、彼らのようにかつての痛みを忘れて自害することが出来たなら。それはどれだけ幸せか。

 

彼らのそれはただの現実逃避だ。何万も生きて、そうして磨り減った彼らが死という開放にすがりついただけ。そこにかつての信念は存在しない。醜悪で劣悪な最低のゴミの魂達。シェロ・ループラインもそうだが、その魂達が酷く気持ち悪かった。

 

ただ、憎たらしかった。そうやって満足して消えていく彼らが、余りにも世界に対して無責任な彼らが憎たらしかった。

悪い。憎い。難い。

その怒りだけが、ルール・ブレイカーからの解放をさえぎっていった。

あの時、自分達の主人核である衛宮士郎は言った。その言葉は一字一句忘れずに覚えている。否。彼から確かにその磨耗した記憶は継承されている。

 

「いらない、そんな事望めない。あの時の地獄を無かったことには。」

「―――かつての地獄を、元に戻すことは出来ない。」

「それが、俺の答えだ。あの時燃え盛る炎で数多の人を見た。その全てが救えなかった。助けを請う人々から逃げて逃げて逃げ続けた。」

「それでも、それが現実だ。無かったことにする事は出来ない。だってそうだろう。」

「死者は蘇らないし、起こったことは元に戻せない。そんな軌跡要らない。そんなおかしな望みはもてない」

 

「それを可能にするのが、聖杯だが?」

 

「それでも、ダメだ。地獄を知った。悲しみを知った。ソレをしって、10年間がたって今がある。」

「たとえ、過去をやり直せたとしてもそれでもおきたことを戻してはいけない。だってそれをしたら、あの涙も。あの痛みも。あの記憶も。全てが嘘になってしまう。」

「痛みも、哀しみも。余りにも重いソレを抱えて進むことが失われたものを残すということだ。…勿論人はいつか死ぬ。哀しみも、涙もあるだろうけど、残るのは痛みだけじゃないはずだ。」

「俺が彼らの、燃え盛る人々の死に雁字搦めにされているように、切嗣との思い出が俺を人にしてくれたように。思い出は、かつての記憶は今を生きていく人々の元となって、そして変えていくものだと俺は信じている。」

「…それが、時間と共に消えていこうとも」

 

 

 

 

「――――その道が、今までの自分が間違っていなかったと信じている。」

 

「――――そうか、つまるところお前は。」

 

「聖杯なんて、万能の願望器なんていらない。あの時置き去りにして見捨てていった人達のためにも自分を変えるなんて出来ない。」

 

 

 

泣きながら、慟哭しながら。それでも全てに絶望した後には希望が残っていると。

そう、彼がとある神父に言った言葉。それだけは胸に刻まれている。

そんな彼がその想いすら無視して世界を何度も繰り返したのは、余りにも皮肉。屈辱だっただろう。悔しかっただろう。自己を否定し、心が折れかけただろう。それでも、それほどの思いがあってもそれを無視して桜を救うために世界を繰り返した彼の。衛宮士郎の思いを引き継ぐことが、我々の、いや。自分がすべきことだと想っている。

だから、シェロ・ループラインの。かつての衛宮士郎の世界の桜を諦めるような行動だけは見逃せないし、許せない。

 

所詮、自分自身と桜は会ったことすらない、衛宮士郎にすらなれない偽者。この思いが借り物で偽善だと分かっている。

けれど、空っぽの自分を埋めてくれた人がいた。その人が願った理想をかなえようとすることは決して間違いじゃない。

 

 

そこからは必死だった。魂だけの小さな小さな存在となった欠片は必死に世界をただよい続けた。その執念だけを持って、かつての桜を救おうと。ただそれだけのために。

 

結局何万と時間をかけても結局何も出来ず。そうしてその魂は余りにも理不尽すぎる世界に対して猛烈な殺意を抱かせた。

なぜ、なぜ桜を救うことが出来ないのか。

 

諦めてしまおうかと、霧散して消えようと何度想ったか。それでも、何度も消し去った世界を思えばその魂に自害するという考えは消えうせていった。

 

黒く、黒く。醜悪で、劣悪で。怨念と為ったその魂はそれでも最後まで自身の願いと記憶を持ち続けて、遂に。

 

その魂は、とある終着点を迎えることと成った。




1部:始まりの物語の最終回自分で書いてあれなんですけど凄く主人公自分勝手だなぁと思ったんですよね。本来は1部で終わる予定だったんですけど、流石に何度も繰り返してなかったことにされた世界が余りに報われないと思ったので2部書き始めました。
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