それを知るものは、もはや執念となった魂だけ。
彼、元英雄にして元サーヴァント。とある事象により、英霊でなく受肉した生きる神秘。生きる英雄。
真名:天草四郎時貞はとある事情である人物と出会い、世界の真実を知った。
原作を知った。物語を知った。理由を知った。過程を、結果を知った。
世界はペンで出来ていて、上位世界の、否。観測次元の人間たちが世界を作り上げているのだと。
自分たちは所詮、物語のキャラクター。架空の存在。創作物でしかないのだと知ってしまった。
悲劇的な過去、醜悪な現実。凄惨な未来。それらが物語を、ひいては読者を楽しませるためのエンターテイメントによって作り出された現実だと。
ソレを知った男は
「…ふざけるな」
彼が怒りに震えるのも仕方が無いことだった。
地獄を見た。かつての同郷のものが燃え尽き、何もかもを失った。そしてその反動から、自身だけが生きてしまったという罪悪感から平和を願い、その生涯を使い続け、ついに平和を実現できずに死んでいった男からすれば。
紙の上で、ペンを動かすだけで世界を自由自在に動かすことができ、根源すらも所詮原稿用紙に描かれた設定と知ったら。
彼はその理不尽に。自身が生きる世界を娯楽のように見ることが出来る人間たちに強烈な憎悪を抱くのも仕方がないことだった。
神父の言葉が突き刺さる。俺は正義の味方じゃない。けれど、神父は俺を正義の味方という。
それは俺の理想は借り物で、自身が持っている感情は偽者でしかないと。そういってるようだった。
違わない。それは真実だと思う。この世界を呪い殺すような恨みも、正義の味方になりたいという感情も。自身を覆う怨念が取り付いた悪意、誰かを救う誰かを見て真似ただけの飾り物。
自身が生み出したものが一つとしてない。恨みも、哀しみも。その全てが自身から生み出されていない偽者。それが俺。空っぽの殻である衛宮士郎に、衛宮切嗣への憧れと世界の恨みを詰めただけの存在。
それでも、それでも俺は誰も傷つかない世界を望んでいる。誰もが傷つき、嘆き悲しむこの世界を呪い殺してでも、それでも矛盾したハッピーエンドを望んだ。
それが、無理だなんて。そんな事分かっている。でも、それでも。衛宮切嗣のあの背を見て、その理想に、ハッピーエンドに憧れた。
それは、いけないことなのか?かなえられない願いだから諦めることは簡単だし、そうしなければならないと分かっていても。それでも、それでも俺は
「それは、違うよ。言峰」
「…ほう?何が違う、と?」
「俺は、俺は正義の味方じゃない。所詮俺は偽善者で、半端者だ。切嗣とは別人で、所詮偽者だ。だから、俺は正義の味方になれないと思う。」
「ならば、諦めると?まさか衛宮切嗣に育てられたお前が、この戦争を無視しようとするとは。」
「それは、違う」
「俺には、ただ一つ。願いがあるんだ。所詮半端者の俺だけど、それでも俺にはとあるチッポケな願いがある。…かつて、とある男が追い求めたソレを、俺は――――叶えたい。」
「聖杯戦争は、結果的に俺の勝利で終わって死傷者は出さない。出させない。」
「俺は自分の自己満足のために、自身の願望のために彼らを、英雄と呼ばれた存在を全員殺す。そして、願いをかなえて見せる。」
「俺は俺が信じる道を歩き、そうして最高の物語を紡ぐ。それだけを願って今を生きてきたんだから。」
「…ほう?ならば、これは審判ではなく。神父としてお前の願いを聞いておこうか。何、答えなくても別にいいが。」
「いや、別に決まっているからいいさ。俺の願いは――――――」
そうして、俺の願いを聞いたその神父はニヤリ、と。まるでオモチャを見つけるかのように
「それは…それは、聖杯でも難しいな。願いの方向を明確にしなければ、君の願いはかなえられない。だって、それは、個々の人の感情というものは概念的なものだ。はて、どうするつもりだ?」
「なんとかする。足りないなら、自身を使ってでも補う。この魂が矮小でつまらなく、英雄の魂とは数段格が落ちるものだとしても、それでも」
「俺は、この願いを絶対にかなえて見せる。」
「…その余りにも自己中心的なエゴの願い。確かに聞き入れた。なるほど、お前は衛宮切嗣とは違う。だが…」
「確かに、お前は衛宮切嗣の息子だな」
衛宮士郎の願い。
――――俺の大切な人達が、最後は笑って死ねますように。
それは、何万年も歩き続けた執念が持っていた、最後の願い。
友を失い、その全てに絶望した少年が持った願い。
このとき、彼は無意識だったが、神父だけは気づいていた。
大切な人とは、どこまでのことをいうのか、と。
大切な人が悪人だったら、その笑って死ぬということは自身の悪逆を達成できた時ではないのかと。
そのことに、衛宮士郎は気づいているのだろうか。
頭に。モヤがかかる。かの神父との邂逅。それは俺に対して新たな決意とともに、あたらしい苦しみを生み出した。
願い、理想といったそれ。それを俺は言った。ならばそれを叶えなければならない。
泥のような、黒き闇。それに浸る今の俺の魂が持つのか、聖杯は俺の目の前に現れるのか。分からない。
苦しい。自我が書き換わる感覚。つらい。ブレてしまいそうだ。
――――けれど、それを。身近な人でもいい。それでも幸せに死ぬことが出来るというのなら、俺は諦めたりしないと、そう誓える。そう、切嗣に。否、あの時の大火災で誓った――――
ならば、前を歩いていける。この苦しみがいつか俺を変えてしまうのだとしても、せめてこの戦いが終わるまでは――――
それに。
「行きましょうか、マスター」
「…ああ」
目の前の、金色の髪の少女。彼女となら、不思議と負ける気がしなかった。
「―――――」
白い皮膚と、金色の髪を持つ、漆黒の鎧を身に着けた彼女が、目の前にいる。
冷たい瞳が俺を見ていた。その身体はボロボロで、まるで消えそうだけど威圧感は変わらない。そんな彼女に馬乗りになり、目前にいる俺を見ていた。それは黒く、悪逆で。清廉潔白とは逆の位置に存在している。
暴君。民に恐れられ、恐怖された王の瞳。それはまるで、王者のように。まるでその後を見定めるかのように。
「――――」
彼女は、ただ俺を見上げている。何の感慨もなく、感情もなく。馬乗りになった俺を見つめている。
俺の手には短剣がある。これを振れば彼女を殺すことになるが、■を助けることが出来るかもしれない。ならば俺が辿る道は。
…彼女を助けるか。
…腕を振り下ろすか。
その二つの選択肢を突きつかれ、俺は。
「―――――」
その腕を、彼女の胸に振り下ろした。
「ッガ―――!?」
血にぬれていく短剣。降り注ぐ鮮血が俺の身に触れていく。ベチャベチャ、と。トマトのように血が溢れてくる。
彼女のことは、その美しい剣技を覚えている。何度も、何度も俺の命を救ってくれたそのことを鮮明に覚えている。
彼女は俺を、何も知らず無知で無能な俺をマスターと認めてくれた。最後まで俺の剣であってくれた。
――――その彼女の決意は、決して鈍らず。何度傷つき、ボロボロになろうが俺を救ってくれた。
忘れない。忘れられない。あの時、月にぬれた金の髪を見た時。
あの光景は、俺の心に強烈に刻まれた。確かにあの時、世界に色が付いた気がした。
その彼女を、今、目の前で殺そうと、否。殺し続けている。彼女は不死身の伝承を持つ。だからこそ、何度も、何度も何度も何度も短剣を振り下ろした。そのたびに、彼女の苦しみのうめき声と血が辺りに広がっていく。
風景が血の色に。赤色に変わっていく。世界が赤に染まっていく。ボロボロと。彼女が粒子となっていく。
それでも、念に念を重ねて。何度も、何度も。彼女の意識が消えうせ、そのうめき声が。苦しみの声がなくなっても何度も突き刺した。
彼女が完全に消えても、それでも俺は地面に何度も。何度も何度も短剣を突き刺した。
「―――――」
…重い。余りにも重い。心が折れそうになる。
彼女は、俺の憧れだった。その憧れを切り捨てた。
こんな、世界なんて。現実なんてこんなものなのか。
正義の味方とは、ここまで辛いものなのか。
こんなものを切嗣は背負っていたのか。大切な人を殺すということは、俺には、あまりにも―――――
「…さようなら、セイバー」
苦しく、涙がほほを伝う。それでも俺はその言葉を言った。
決別と共に。ありがとうは言わない。俺にはその資格がない。
―――前を進む。頭にモヤがかかる。もはや自分が誰かすら分からなくなってきている。俺の名前が何かすら、それすらもボロボロのグシャグシャになってきている。
それでも、もう後に引くことは許されない。俺はセイバーを刺し殺した。その罪を消すことはできない。
俺は俺が愛する者のために、全てを捨てる。俺は、■をその全てから守って見せる。
■が犯した罪、■を責める罪、■が思い返す罪、全部から、守るんだ。
俺の前でだけ笑えた少女。
未来のない体で、俺を守ると言った彼女が―――
―――俺以外の前でも、いつか、強く笑えるように。
俺は、■を。
桜を、救う。
そうして、彼は歩き続ける。
短め。長くしたらどうしても投稿遅くなるから、短いのを連発していきたい。
1部は桜ルートだが2部はセイバールートだぜひゃっふううううう
ヒロインもセイバーです。嘘ですヒロインは士郎です。
セイバーが士郎をデレさせる物語です。
ぜんぜん話が進んでないですけど、話を進めるためにこれから当分天草四郎はでません。
最後のは過去話です。