少年の根幹に関わる話ですので。これないと主人公の動機意味不明ですので。
他者による救いは救いではない。
確かに、誰かを救うということは達成できる。けれど、それで自分が救われないんじゃ意味がない。
自分じゃない、借り物の理想を抱いて人を救い続ける。そんな理想、無意味だ。
人助けの果てには何もなく、結局自分も他人も救えない。
そんな偽りの人生に意味はない。
そう言った英霊。
赤い衣を着た嘗ての理想の体現者の言葉は、どうしようもなく自分の喉に引っかかった。
――――――これは、■ ■ ■ が衛宮士郎になる前の物語。
0歳の頃、僕は自分が転生したのだと自覚した。理由はない。
かつての記憶はない。何回も、何十回も僕は転生を繰り返した。
それだけが分かった。記憶を持ち込めないのは、無意識に自分を守るためか。
そうでないと僕は永遠の時を得ている。気が狂うのだろう。無意識のうちに作り出した自己防衛本能なのかもしれない。
だから僕は、転生した、ということしか分かっていない。ただそれだけ。
でも、何故だろう。僕は決定的な何かを忘れている気がする。それが何かは分からないけど。それでも、確かに何かを誓った気がする。
5歳の頃、僕は父を殺した。
病気だったのだ。不治の病だった。父はせめてもと病院ではなく自宅にいたが、いつもベッドの上で苦しんでいた。
父は聡明で明るく、家族に優しい人だった。
だから僕は、彼を殺した。大好きな父が苦しむ様子を見たくなくて。台所にあった包丁を使って。
殺したら人は蘇る。そんな教えが僕の中にあった。
だから殺した。
結局父は自殺と扱われた。僕が殺したのに。よく分からないものだ。
その時、僕は死というのを理解していなかった。
7歳の頃。母が自殺した。
僕は周りから異常な眼で見られていたらしい。周りの陰口でそれに気づいた。
異常に聡明で、人の心を理解できない。いわゆるサイコパスと呼ばれる人種。それが僕だった。
夫が死んで、子供は異常者。母の心が折れるのも時間の問題だった。
僕はただ父親が苦しまないでほしいと願っただけだ。いつの日か、家族とみんなで旅行に行きたい。食事をしたい。そんな平凡な夢を願って、だから僕は父親を殺した。
結果がこれか。そうだ。僕は僕自身が異常だと気づいていなかった。
人は死んだら蘇らない。そんな当たり前のことを、両親の死でようやく気づいた。
母の葬儀で、胸の中に何かシコリのようなものが残った。
――――ああ。これが罪悪感、というものか。
10歳の頃、町が燃えた。理由は分からない。ただ、燃えたのだ。
人は蘇らないと知ったので、僕は僕自身の死が恐ろしかった。
今までの転生?前世の記憶がないのにそもそも転生していたのか、という疑問すらある。そうだ、僕自身に前世の記憶がないのならそれは転生とは呼べない。
だから僕は逃げた。僕には無理だと。人を救うことはできないと。
必死に、必死に。全てから逃げるように、逃げた。
結局僕は臆病だったのだ。父と母を殺したのに、そんな、最低最悪の悪なのに、それでも自分の命惜しさに逃げた。
助けてくれと、子供だけでもと。そんな声を無視して、気づかないふりをして。ただ、生にしがみ付いた。
どうせ自分では助けれないのだと、所詮その程度だと諦めた。逃げて、逃げて、逃げ続けて。
助けを求めてただ走った。ただ自分だけが生き残ればいいのだと。
――その火事で生き残ったのは僕一人だった。知り合いは好嫌関係なくみな焼死した。
望みどおり、ただ一人。自分だけが助かった。
母が死んだときと同じ、胸のシコリが残った。
苦しんで死んだ人を見た。それと同数。悲しんでいる人を見た。
その全てを。あらゆる悲しみを。あの火事で死んでいった人たちを。記憶しなくちゃいけないと思った。
ただ一人、生きてしまった自分が彼らの死を受け持つのは当然だから。
11歳の頃、僕は運命を知った。
薄暗い、陰気で何もない部屋に僕はいた。
結局あの火事があった所で何も変わらない。何も出来ない。
そんな自分はゴミのような存在だと、日陰の人間でなくてはいけないと思ったからだ。
たまたま。たまたまだ。あの火災の跡地を見ていたら、たまたま見つけた薄汚れた円盤。それは自分は生きていると主張しているように見えた。
まるで自分と同じように見えて、必死にその円盤を磨いて、再生した。
ほとんどのデータは破損していたけれど、とあるシーンだけは再生できた。
その時に僕はアルトリアという女性と衛宮士郎を知った。
そして衛宮士郎の生き様を見て、思ってしまった。
僕は彼を知るために今まで転生してきたのだと。正義の味方になるために今までがあったのだと。
彼の経歴はとても僕に似ていて。ならば彼のようになれるのではないかと夢を見た。
僕は父と母を直接的に、間接的に殺した。あの火事で、たくさんの人を見殺しにした。
ならば僕はその罪を背負わなければならない。何も知らないから、で人を殺していいはずがない。何も出来ないから、で人を見捨てていいはずがない。
僕は、彼のような正義の味方を目指すことにした。
12歳の頃、僕は警察官のある人に引き取ってもらった。
彼は正義感の強い人で、彼を見ていると、自分の人生を否定されてるようで、でも、ただ彼の生き方はとても美しかった。目を背けることは出来なかった。
誰かを救おうとしている彼がまるで正義の味方のようで、その影を追った。
その頃から頭の中で時折響く、両親の忘れるな、という声。
知り合いの、見知らぬ人の助けてと、自分の子供だけでもと、そんな怨嗟の声。
僕はその声を受け入れなければならない。人々の無念を。人々の呪いを。
両親を殺し、あの災禍の中ただ一人生き残った、そんなお前には義務があると。
僕は確かに、あの火事で亡くなった人の家族を見て。彼らの泣く姿を見て。確かなものがそこにあると。正義の味方にならなければならないと、そう、決意した。
心が折れそうになっても、衛宮士郎の物語を見返すことでその心を補強した。
18歳の頃、保護者が捕まった。人を殺したのだ。酒を飲んで辺り構わず暴れた。そんな彼を止めようとした人が死んだ。僕の中の現実の正義はあっけなく崩れ去った。酷く、失望した。
ただ彼が護送される時に見せた、後悔に満ちた目は酷く人間的で、ほんの少しその目に憧れた。
認めたくなかった。自分は正義といえるかすらわからない、偽善すら行えないクズなのに。
その目が自分よりも人間らしいと感じたのを、認めたくなかった。
僕は人間になりたかったのだと、機械には成りたくないと、ようやくその時に気づいた。
そうして、僕は町を逃げるように去った。
それでも、夢を捨てることなんて出来なかった。それをしたら最後、僕は何かが終わるような、そんな気がしたからだ。
世界中を周った。困った人を、何か助けが出来ないのかと、両親を殺した僕が何も出来るとは思えないけれど、それでも正義の味方になりたかった。
23歳の頃、病に汚染された村に僕はたどり着いた。
その付近に病院はなく、彼らは限界だった。体を動かすことすら出来ない、そんな彼らが罹った病は見てすぐに分かった。
それは父と同じ不治の病だった。決して治ることがなく、地獄の苦しみを味わう最低最悪の病。
彼らは言った。殺してくれと。この地獄から開放してくれと。
だから僕は彼らを、子供を含めて全員を殺した。84人。その日村人は全滅した。
僕は次の日、村を燃やした後自殺した。彼なら、衛宮士郎なら村人を救えたのかもしれないと、正義の味方に助けを求めながら。
ほほに涙をつたわせて。
そうして、俺は衛宮士郎となった。