衛宮士郎に憧れた少年   作:黒幕系神父

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新学期。かつての衛宮士郎の過去は―――――


5話「桜舞い散る道の中で」

――――いつも、窓の向こう側で誰かがいるような気がした。

 

けれど、誰もいるはずもなく。そうして、俺はいつもどおりの日々を過ごす。

あの時、失ってから。友を失った時、世界が黒く見えた日々。

あの日、俺は桜舞い散る通行路で、彼女に出会ったんだ。

 

 

 

 

俺にはどこにも、居場所はなかった。切嗣と永遠の別れをして、藤ねえに当り散らして。そうして――――

ついに、親友だった慎二と喧嘩して。ソレがきっかけで俺が魔術師だとバレて。

結局、慎二と魔術師同士の戦いになって。

お互いの信念をぶつけた。自分の気持ちをぶつけた。俺は間違っていないのだと、正義の味方になるのだと。そんなガキのように癇癪を起こして親友と戦った。

意地の張り合いだった。傍からみたらくだらない争いだったのだろう。でも、その当時俺には余りにもその意地が重要だと思っていて。

 

―――それに、ハッキリと後悔の気持ちがある。何故そんなことをしたのだと、そういう感情があった。若気の至り、というには罪が重すぎる。

激戦に激戦を重ねて、最終的に慎二は高層ビルから落ちて消えていった。あの時の、落ちたときの慎二の絶望した瞳を明確に覚えている。涙は出なかった。それが現実だと認識できなかった。

それはまるで夢だと思ったが、それでもそれは変えることが出来ない現実だった。

―――でも、それ以上に。あの時、慎二が落ちたとき俺が走って彼の手を握っていたら確かに助けられたはずだ。その程度には俺と慎二の距離は近かった。

俺は自分が一緒に落ちることを考えると怖くなって、慎二を見殺しにしたんだ。

それは、俺の信念をコナゴナにするには十分な出来事だった。

 

 

――――死体はなかった。でも、高層ビルの屋上から落ちたらどんなことがあっても人が生きることはない。

慎二は、死んだのだろう。俺のくだらない信念の、正義の味方になりたいという感情を振りかざして、最後に残った繋がり。親友すら結局失った。

 

自業自得。罪人。殺人者。―――俺は、余りにも重い罪を背負った。一時期は家に引きこもっていた。でも、藤ねえの言葉は聞いておこうと、それがせめてもの謝罪だと信じて。

惰性のように、何の意味もなく俺は学園生活を送っている。

 

 

新学期。桜舞い散る通学路。俺は高校2年になった。かつて隣にいた友はいない。世界は黒く見える。

疲れるから、ゆっくりと、けれど眼をつけられたくないから遅刻はしないように学校に向かっている最中

久し振りー、とか。今年もよろしくーとか。そんな言葉が聞こえてくる。どうでもいい、がうっとおしい。

俺に友はいない。あの時、慎二を見捨てた時に友を作る資格がないと思ったからだ。

ゆっくりと、ゆっくりと歩く。辺りに散る桜が、この黒い世界に移る唯一の光の色だったから。理由は分からない。

 

「本当に、本当に綺麗…です。」

ふと、声が聞こえた。

隣に、いつの間にか少女がいた。その髪の色は黒く、けれど蒼く。

―――その色は、嘗ての親友を思い出した。顔は似ていない。恐らく赤の他人だろう。でも、彼女から眼を離すことはできなかった。だから、不思議と声が出た。

「あっというまさ。どうせ、1週間もすれば皆散ってしまうだけだ」

俺の返答に予想していなかったのか、少女はその大きな瞳を少し広げ、けれどすぐさま微笑み

「そう、ですね。でも来年また咲きます。その次も、そのまた次の年も。この桜の花びらは咲いてくれます。」

 

 

「そう、か。…遅刻だ。もうチャイムはなっている。俺はいくぞ」

 

「…はい。」

それが、俺と彼女。間桐桜の出会いだった。

 

 

 

 

 

 

1月。雪が降ることもある、冷たい季節。

 

「これで、終わりだ。もうお前との関係は終わりだ」

 

「…はい。分かりました。先輩。今までありがとうございます。」

 

「―――ああ。」

 

結局、俺は彼女の正体をしった。

かつて切り捨てた親友の妹。虫に犯され、兄と慕った唯一の希望を失った少女。世界全てに絶望した少女。それが彼女だった。

俺は、奮闘した、と思う。彼女を様々な悪意から守りきった。かつての親友が守ろうとした少女を、せめてもの罪滅ぼしと全てを犠牲にしても頑張った。

あの日、桜と出会ってから8ヶ月。短いようで長い期間化け物と対峙して、殺し合いに発展して。俺は全てを、切嗣から受け継いだ物をほとんど全てを失った。

結局、その時に魔術の反動で俺は一部の感情を失った、と思う。感情が失うというのがどういうものかわからないから、たぶんそうだと思う。

何も感じない。何も考えられない。心に何も響くものがない。世界が黒いのではなく、灰色に見える。世界の意味を理解できなくなった。黒いのなら黒いなりにあった価値を見出せなくなった。

 

 

 

 

 

――――かつての通学路。俺たち二人はそこにいた。そこに桜の花びらはなく、舞うのは雪のみ。白い雪に色はなく、それはただ冷たいという感覚だけを知らしてくれる。

「じゃあな、桜」

 

「さようなら、先輩。私、先輩と出会えてよかったです。」

 

「―――俺もだ。」

俺たちは笑顔で目を合わせた。嬉しい、という感情はわからないけど、それでも笑顔で。彼女の笑い顔が、本物のそれか偽者のそれかはわからないけれど。

それでも、救われた気がした。そうして――――――

―――――手にあった剣で、桜を胸の上から突き刺した。

 

 

 

―――――結果として。

桜は魔術回路を全て失い、俺との8ヶ月の記憶全てを失った。俺という部分だけが記憶から消え、それに違和感なく日常過ごすこととなる。

祖父も、兄もいないが彼らは事故で死んだと勝手に解釈するようになっている。

 

それが、俺と桜の契約。慎二を殺した俺の罪滅ぼしとして俺が提案し、桜が了承した契約。

 

「…すまなかった。さようなら」

そうして、俺と桜は永遠の別れをした。

 

 

 

フラフラ、と。足が定まらない。かつての慎二の義理は果たした。ならば、目標が、指標がない。何もすることがない。何も向かうものがない。

正義の味方にはなれない。目指したものは、もう目指せない。それをするには罪を背負いすぎた。

死にたい、と。そう思うこともある。けれど、慎二を殺したのに自分の命を諦めることは許されないと思って。

俺は人形だ。ボロボロの信念を詰め込まれただけの人形。人ですらない存在。

かつて友と歩んだ学校。かつて守るべき人と歩んだ学校。かつての恩人が教師をする学校。何故そこに向かったのかわからない。

でも、学びやというのは人を教えるためにあるものだ。ならば教えてくれ、と。俺はどうすればいいのかと。そんな気持ちがあったのかもしれない。

 

おぼろげで、ボロボロで。世界が灰色に見えて。それでも俺には求める気持ちがあった。

俺が最後に求めたものは―――――――

 

 

そうして、彼。衛宮士郎は槍兵と弓兵の争いに巻き込まれ、心臓を穿たれた。

その時、とある悪意ある執念がどこかから紛れ込んで、彼の殻に混ざっていった。




これで桜編はいったん区切ります。この世界の桜は救われているという前提で。
というのもセイバールートなのに桜が出すぎるのもソレは違うのだろうと思ったので。
闇落ち士郎君(2部主人公)の過去の1ページ。かつての執念に呪われる前から病んでた模様。
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