衛宮士郎に憧れた少年   作:黒幕系神父

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あらゆる平行世界の衛宮士郎は、バーサーカーと戦うこととなる。
そして、彼はついにその心を―――――。


6話「sorrow」

デウス・エクス・マキナ。機械仕掛けの神。時の神とも呼ばれるもの。

物語をどんでん返しし、幸せな、幸福な最後を物語の途中に関係なく導く女神。

それは物語においては禁忌とされる手段だが、俺はとても好きだった。

だって、どんな醜悪な途中経過でも、最高のハッピーエンドが出来るのだから。

この神は傲慢だが、それでもとても優しい神なのだな、と。そう思わずにはいられなかったんだ。

 

 

 

 

 

帰路につく。時間はもはや夜。そこに、音はない。俺たちは無言で歩いている。寒々しい空気は、俺たちの関係を表しているようで。

重い圧力が辺りに紛れていく。

そうしてついに二つ、道が分かれた。

それは俺たちの決別を意味しているようで。

 

「それで、ここまでは助けたけど、明日からは敵。いいわね?衛宮君?」

 

「ああ。何もわからない俺を助けてくれてありがとう」

 

「礼なんていらないわよ。どうせ明日から殺しあうんだし。」

 

「それでも、だ。ありがとう。遠坂。」

そういうと、遠坂はどこか顔を赤くして。

 

「ふん…。まあいいか。行くわよ、アーチャー」

そうして、遠坂は俺の家とは反対の道を選び。

これで、終わり。ここからは俺たちは敵同士。殺しあう敵同士。

「ああ、行こうか凛。だが、その前に一つだけそこの小僧に聞いておきたいことがある。」

 

「何だ?アーチャー。」

 

「貴様の願いは、自分が大切な人が幸せに死ねること、だったな。」

 

「ああ、そうだがそれがどうしたんだ?」

 

俺にはわからないことだけど、その赤い弓兵はどこか安堵したような、それと同時に悲しそうな瞳をして。

「いや…。まあいい。貴様、その信念を忘れるなよ。でなければどうしようもないほどにお前は後悔することとなるからな。今は…まあいい、か。」

そうして、俺たちは決別をした。

 

 

 

 

 

が、俺たちの決別は呆気なく崩れ去った。

 

「ねぇ。おしゃべりはもうおしまい?」

 

 

ふ声が響く。その声は暖かさを持っていて。けれど空気は冷え切っている。

アーチャーは驚愕な顔を。遠坂は足を震えさせ顔を青くし、セイバーは無表情を。

でも、その全てが理解した。これはダメだと。

気づけなかった。ソレに。その圧に。その重みに身体が動けなくなる。

これは――ダメだ。俺は知っている。あの時のランサーと同じ。けれど重みが違う。これは、この重圧は―――――。

 

振り返る。そして、そこには…。

 

「―――――」

背筋に汗がにじみ出る。逃げたいと、そんな感情がわきあがってくる。

 

そこには幼い少女と、否。そんなものどうでもいい。そんなものよりアレは、隣の化け物は一体なんだ。

あの、岩に見えるような巨人は何だ。

アレはダメだ。俺たちとは格が違う。存在が違う。位が違う。

アレは次元が文字通り違う。超えられない。超えれない。アレを直視できない。アレを、あんなものを見たら俺は敗北を理解する。

そんな、すがるような感情が湧き出て。

けれど、そんな俺の事情など知ったことかと隣にいた少女は凄惨な笑みを浮かべ。

 

 

「やっちゃえ、バーサーカー!」

そんな掛け声とともに。

そうして、岩の化け物は俺に近づいて―――――ヤメロ、という間すらなく間一髪、近くにいた彼女の剣に押し留まれた。剣が重なり合う爆音が辺りに広がり、だが、その威力を完全に防ぐことは敵わず。

剣圧。それに触れただけで、俺の身体は宙を舞った。

俺の全身をズタズタにしていくそれは風となって、俺を飛ばしていく。

「―――――あっぐっ」

ズザザザザ、と。俺を引きずる音がして。

10メートルは飛んだだろうか。その後重力という力は俺を襲って、地に自身の身体をぶつけた。

その衝撃は俺を襲い、本物の――――化け物。当たってすらいないのに、俺は自分の身体が動かない。動けない。全身が狂うように痛い。

 

 

 

――――何も見えない。何もわからない。ただ、金属が響きあう音だけが響く。

 

恐らく、彼女はあの化け物と戦っているのだろう。今は互角。けれど―――そんなことを認めてはいけないのに、それでも結果は子供でも分かる。分かってしまう。

 

このままでは彼女は―――――負ける。

胸が苦しく、痛くなってくる。こんな感情、今の俺にはなかったのに、それでも湧き上がるその感情は――――

それは。それだけはダメだ。彼女が負けて消え去るのだけはダメだ。それだけは、それだけは嫌なんだ。

でも、そんなことを思っても現実は変わらない。余りにも自身は無力だ。

ググ、と。身体と首を少し動かし眼球に力を入れる。そうすると、その頂上の闘いが見えた。

あの赤い弓兵と青い槍兵との戦いとは次元の違う戦い。それは人体を超越した動きをしていて。

けれど、それでも分かる。彼女は、セイバーはあの岩の巨人に敗北する。

彼女達は次元が違う強さを持っているが、あの巨人は別格。文字通りほかとは桁が違う。超越している。あの巨人はいわば頂点。決して崩れることなき頂に至った英雄。

付け焼刃など、今の俺がいくら何をしようが無駄と思える存在。

押されている。彼女が、あの頂上の戦いを見せつけた彼女が明らかに押されている。

負ける。このままでは彼女は確実に負ける。―――けれど、その戦いに入り込むことなんて出来なかった。

所詮人間なんてそんなものだとそれは見せ付けてるようで。

そうして、ついに。

巨人の正確無比な一手一手が確実に彼女を追い込み

 

その岩の巨人が、ついに彼女を切り裂いた。

 

「――――――」

それは、間違いなく致命傷―――――。

ゆっくりと、ゆっくりと。剣が切り裂いたその身体をゆっくりと浮かせていく。

世界がゆっくりに見える。遅く見える。色あせて見える。

また、あの時と同じなのか。

世界が灰色なった。また、光が世界から消えた。心がかけていく。世界に意味をなくしていく。

 

 

それでも、俺の感情とは裏腹に彼女は必死にその信念のようなもので、否。ただの意地だろう。彼女は見えない剣をまるで杖のように使って自身の身体を支えた。けれど、それはつまりもう助からないのだと言ってるもので。

血にぬれた彼女は余りに、―――脆い。臓物が飛び出て、血が辺り一面に広がり。それは確実な致命傷であると、今の彼女なら俺でも簡単に倒せると。そう改めて認識できた。

そんな姿の彼女を見て。

俺は、俺は――――何をしている。

かつて、正義の味方を目指した。結果、慎二が死ぬことになった。慎二を、俺は人を殺した。そうして、勝手に世界に絶望して、結局何も成し遂げていない。

あの時と、慎二を見殺しにしたときと同じだ。俺は失うのか。また、自分の繋がりを失うのか。

 

彼女は助からない。死体は飽きるほど見てきた。もうダメだと、そう認めたくないのに俺にはわかってしまう。

身体をまとう悪意も言っている。もうだめだと。終わりだと。失敗したと。

 

―――なんて、無力。俺はこの程度なのか。何もなせないまま、結局終わるのか。

 

…自分の命が消えるなんてどうでもいいことだと思っていた。

自分が死んでも、それはいいことだと思っていた。そんな考えは今だ変わることはない。

 

――――けれど、それでも。俺をマスターと呼んでくれた。

俺をあのランサーから救ってくれた。彼女がいなかったら俺は間違いなく全てを失っていた。

だというのに、だというのに何をしているんだ、俺は。

俺はあの日から、慎二を殺してから。桜を救おうと頑張って何もかも失ってから。何も変わっちゃいない。

結局、俺なんてその程度だと、その戦いはそういってるようで。そういうことなのか。

それは…クソッ…嫌だ。嫌だ。

 

嫌だ。それだけは、彼女が血に塗れるその姿だけは――――!

 

その時。

「―――――――」

ピシリ、と。その時、頭の中の何かが弾けた。赤い果実が割れた。頭の中に何かが咲いた。

これは――――

それは記憶。

脳裏に蘇る記憶。それが誰のものか、いったいなんなのかはわからない。

 

でも、その記憶は―――――

 

セイバーのの胸に剣を刺した記憶がある。ワカラナイ。

セイバーを何度も何度も刺した記憶がある。ワカラナイ。

あの、黒いナニカに侵食されたセイバーの瞳を見た記憶がある。ワカラナイ。

あの、断末魔を覚えている―――――ワカラナイ。

 

何かが入り込んでくる。意味のわからない、自身が経験したことがない記憶が混ざりこんでいく。身体を纏う悪意から。自身を塗り替えていく。己を補完していく。完成させていく。

欠けた何かが混ざりこんでいく。今まで届かなかった何かに届いていく感覚。おぼろげで暗い世界が、色に侵されていく。それは赤。血にぬれた赤。

彼女が辺りに散らした赤色の血。

だが、どうしてだろう。その時は、その血がどうしようもなく綺麗に見えたんだ。

そんな景色に、色の付いた世界に捕らわれる前に、それを認識する前に強烈な何かが入り込んでくる。

記憶。明確な記憶。今までの既知感とは違い、それは映像となって頭に再生されていく。なぜ、どうして。わからない。わからないけれど。

それは、俺の姿だった。血にぬれた、涙を流した俺だった。

俺は何度も、何度も何度も彼女を手を持った短剣で突き刺した。嫌だ、と。苦しいと。

そう思っても何度も何度も、誰かを救うために。愛した人を救うためにかつての信念を捻じ曲げて。

 

そうして、ようやく気づいた。

ああ―――――そうだったのか。

 

 

その苦しみから、悪意から、哀しみから。誰かを守るために俺に纏うこの執念は―――――

 

ビキリ、ビキリと脳が変質していく。悪意が変わっていく。執念が消えかけていく。一つの人格を成していく。

 

そうして、遂に――――理解した。お前の正体を。

そうだ、お前だ。お前だよ。俺の中にいる、お前だ。

お前が―――――衛宮士郎の生き方にただ憧れたお前こそが、俺の執念の正体だったんだ。

 

いや、その正体は正確にはわからない。だってセイバーを何度も刺し殺しているのは俺だったから。

だのに、そんな記憶を持った衛宮士郎に憧れた存在。ソレは矛盾。俺が俺に憧れるという矛盾。だから、ソレがナニかはわからない。

神か、亡霊か、多重人格か。その執念の、未来の俺に憧れたその存在が何者かはわからない。けれど、これだけは分かる。

 

お前は、俺と同じだったんだ。

あの時、俺は火災で全てを失った。その時の罪悪感から、正義の味方を目指そうと頑張った。

あの時、お前は大切なナニカを救うために全てを失った。セイバーを殺してでも、そのナニカを救おうとした。そのナニカを救うことは出来なかった。その時に得た罪悪感から、正義の味方を目指そうと頑張った。

 

 

一緒だった。俺たちは、結局一緒だったんだ。罪悪感から全てが始まったんだ。

俺に纏う執念。それが何を、誰を救おうとしたのかはわからない。セイバーを、かつて憧れた存在を消してまでなそうとしたソレが何かはわからない。俺が見たのはセイバーを刺し殺す所だけ。

 

 

それでも、それは――――

それは、とても大切な記憶だ。醜悪な記憶であろうと最悪の記憶であろうと。それでも記憶というのは人が繋いできた過去だ。

執念に刻まれた記憶。それは本物だ。たとえこの執念が衛宮士郎じゃなくて、その記憶が衛宮士郎が得た記憶だったとしても、それでもその記憶は本物だ。

俺は大火災で全てを失った。この執念はとあるナニカを救うためにセイバーを刺し殺した。

それを否定してはいけない。生きてきた人生を、懸命に生きた証をなかったことにしてはいけない。

 

俺は――――お前から、受け取った。自分のようになるなと、そう執念が言っているのを知った。

その執念の想いを――――知っても否定する。

だって、どんな悪人でもどんな善人でも。記憶というのはその人が賢明に生きた証だから。それが、人が人を形作る上で最も重要なものだとあの火災で知ったから。だから、その執念が自分を否定しようとするのを認めることは出来ない。

 

俺は、過去を否定する事が出来ない。あの時セイバーを刺し殺した事実をなかったことにしてはいけない。ナニカを助けるためにセイバーを犠牲にした記憶をなかったことにはしない。それは、過去を否定するということは衛宮士郎の否定だから。

それを、遂に理解した。

それでも――――

 

 

…それでもただ、憧れたんだ。俺たちは。彼女のその剣に、そのあり方に、その魂に。だから、俺たちが彼女を見捨てていたとしても、助けたいと思うことが偽善だと分かっていても、それでも助けたいと思ったんだ。

切嗣とは違う。それでも俺達は確かにあの時彼女に憧れた。あの時、初めて彼女を見た時俺は何も感じていなかった。けれど、それは違った。

―――確かに、あの時。ランサーに助けてもらった時俺たちはその姿に憧れたんだ。それに気づかなかったのは、俺が自分自身を認められなかったから。

 

俺はもう―――失いたくない。慎二の時みたいに、桜と分かれた時みたいに。かつての知り合いが自分から去る姿を見たくない。

…身体が痛い。あの岩の化け物の攻撃は確かに俺をずたずたにしたのだろう。眼がふらつき、感覚はなくなりそうになる。それでも―――――失いたくないんだ。

――――目の前で切嗣は死んだ。慎二は墜ちて消えていった。俺の大切な人は、藤ねえと桜以外皆死んだ。

 

目の前にいる、血にぬれた少女は。俺よりボロボロなのに、助けられたと笑顔を浮かべるソイツが彼らと被るようだった。でも、俺じゃあ――――救えない。

俺には救えない。俺にはその実力がない。

無償にハラがたつ、けれど。俺には救えない。

だから本当は、こんな事を頼むのが間違いなんて分かっているけれど。

 

頼むよ、俺の中のオマエ。俺の変わりに、彼女を救ってくれ。

 

そう思うと。

 

クラリ、と。身体にまとう悪意、執念はそれに応じたかのようで。

 

意識が、墜ちそうになる。頭にモヤがかかる。ナニも考えられない。何も認識できなくなっていく。

 

 

 

 

 

あの日から、俺は何をしてきたんだ。結局失って、何もかもを失って。無力なままじゃないか。

せめて、セイバーだけで、も…――――――

 

 

 

 

 

 

「シロウ…?」

それは、誰の呟きだったか。血にぬれたセイバーのものか。赤い服を着た魔術師のものか。それとも白い妖精か。

それが誰かはわからないが、その全ての者は彼の状態に困惑していた。

血に塗れた少年。それは分かっているが、それ以上に。

 

彼は――――余りにも黒かった。

禍々しい黒。いっそ眼を背けた苦なるほどの黒い影。髪の毛はその銅から真っ黒に、そして身体には痛々しい、おびただしい数の刺青。それは魔術に詳しくないものでも、呪われたものだと分かる。そんな呪詛が刻み込まれていた。

それは、どこにも身体に傷はないのに、

けれど何故か。生きているのかすら分からなくなるほどの傷を負っているように見えて。

 

「――――ああ、そういうこと、か。まったく、しょうがないなぁ…」

 

その声は、衛宮士郎のものと同一であり、彼女らにはソレが衛宮士郎にしか思えなかった。

見た目は変わり、明らかな変化をした彼。それでも彼女らはそれが衛宮士郎だと、認識してしまう。

セイバーの直感すらも、彼は衛宮士郎で、何一つ変わっていないと言っている。

ニヘラと、どこか安心したような顔をした彼は、何一つ危険なことなどない様で、否。ソレはあり得ない。

あの周りに付いた黒いナニカ。あれは呪いだ。それも、魂ごとグシャグシャにする最悪の呪い。

それは、そのことにセイバーが一番おどろいていた。それを直感で感知できないことに。

マスター、アナタは何者だと。そう考えるほどに。

いつの間にか、彼が岩の巨人につけられた致命傷がふさがっていたとしても、それを気にすることすらどうでもいいほどに彼は禍々しい存在だった。

 

「で、だ。」

 

「お前ら、覚悟できてるんだろうな?いくら私がもう壊れかけだからって、それでもコレは許せるものじゃないぞ。」

 

「衛宮士郎に手を出した。それだけでお前らは罪人であり、処刑対象だよ。」

 

彼はニヤリと笑い。

 

「トレース・オン」

 

そうして、両方の手に白と黒の剣を携えた。

 

 

その執念は笑う。もはや自身が灯火で、その戦いをするだけで完全に消えると知っていても、それでも彼は笑う。

 

衛宮士郎を助けるために。

何も成し遂げられなかったかつての無念を果たすために。




執念さんブチギレモード 
この作品始まって以来の俺TUEEEです。
クラナドとリトバスの同時プレイをしてたら投稿が遅くなってしまうぜ。ムヒョっす!ギャルゲーは最高だっぜ!

見た目はアヴァンジャー(アンリマユ)です。


一応ややこしくなったのでこれまでの物語のおさらい。

1部0話の士郎、桜を救えず世界を何度も繰り返す。最終的に記憶が磨耗し別人に憑依転生する。
→1部裏話のシェロ・ループラインに転生→数度にわたった転生ののちfateを創作物として見れる世界にいた1部プロローグ主人公に憑依転生→1部3話で無茶な投影したため主人公死亡。3話→1部ラストエピローグへ。

ここまでが衛宮士郎(初代)

1部4話から1部最終話までシェロ・ループライン(オリ主)というかつて衛宮士郎が乗っ取った魂の別人が主人公。記憶と意識を無自覚のうちに継承→1部最終話で自害する。

ここまでが1部の物語。
2部はシェロ・ループラインが自害した際、分かれた魂の一部(執念ちゃん)に何かがあって平行世界?の衛宮士郎にたどり着いた話。
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