衛宮士郎に憧れた少年   作:黒幕系神父

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かつての少女は、男を愛した。


6話「消えうせる少女」

とある少女がいた。その少女は家族を衛宮士郎に殺された。だが、それは仕方がないことだった。彼女の家族はもはや殺す以外では助からず、他者へ害悪を撒き散らす存在に成り果てたからだ。

だから少女は、ありがとう。と、そう衛宮士郎に伝えた。それが衛宮士郎にどのような影響を与えたか、それは遠い過去でもはやその少女にはわからない。

 

けれど――――それでも、少女自身は衛宮士郎に救われたのだ。家族を殺されて、確かに救われた。

自身の命を。そして、かつての家族を代わりに殺してもらえた。それがどれだけ孤独になった彼女の心の支えになったか。

彼女が抱く衛宮士郎に抱く感情は憎悪でも愛情でも友情でもなく、尊敬。敬意であった。ソレを抱いたからには、彼女が衛宮士郎に寄り添うのは仕方がないことだった。

たとえ最後に少女が衛宮士郎に殺されたとしても、その時彼女が抱いたのは安堵だけである。

だって、彼の信念を。感情を。求めたものを知っていたから。だから恋愛感情は抱かないと、そう思っていた。

そう、彼女は信じていた。

 

 

 

 

この身体は衛宮士郎のものだが、英雄のものではない。衛宮士郎を極めつくしたアーチャーのような身体能力はない。故にヘラクレスに勝てる道理はない。

――――それがどうした。

私には最強の記憶がある。あの時彼が見せた武の極み。それを知っている。

ヘラクレスの岩剣は左から来る。ならば――――右に受け流し、その勢いで相手の更なる追撃。蹴り――その一撃は私を絶命させるだろう。だが、先ほどの岩剣から得た力でカウンターする。

 

相殺。するも―――更なる攻撃は必須。ならばと手に持った剣で、一撃を軽く与える。

ダメージはない。もとよりこの宝具はランクC。ランクA以上じゃないとヘラクレスにダメージを与えることは出来ない。が、

 

思わず口角が上がる。一つでも間違えたらこの身体はズタズタに切り裂かれるだろう。極限の一刀。こちらの攻撃は効かず、されど相手の一撃を貰えば終わり。なんていうか、無理ゲーという奴だ。

 

されど、心は熱く、高ぶっていく。剣が交差する音が辺りに広がり、それが私の闘争本能を呼び覚ます。

背筋が冷たくなる。私は今にも死ぬかもしれない極限の闘い。だが――――

不思議と興奮が止まらない。さらに口の口角が上がるのを押さえることが出来ない。どうしようもなく命のやり取りが楽しい。

私は生きている。今、この瞬間生きていると実感できる。

 

だからこそ、今を生きる者だからこそ、我々の極限の一手一手に意味はある。

 

この時、衛宮士郎ならばどうしたか。これなら、衛宮士郎はどう返すか。

私に戦闘の経験はない。記憶は継承したが、自身は戦闘を行っていない。ならばこそ、記憶の中のかつての衛宮士郎を模倣する。

正しい場所に正しい速度、正しい力量で剣を空間におくだけでいい。それだけで戦える。

あの時みた最強の自分を思い出せ。この身体は脆弱。だが、そんな危険はあの男は何度も跳ね返してきた―――ならば私が負ける道理はない。

 

だが、相手はヘラクレス。都合よくいくはずもなく――――

 

―――動きが、変わった?この動きはなんだ。まさか――――。

クソ、これは―――大きく振りかぶった一撃。今から来る攻撃を直感で理解する。これは今までのカウンターでは回避不可能。だが、これなら―――

自身の宝具、右の剣に対して壊れた幻想を発動する。手にダメージを追わない最小限の爆破を持って、自身と奴の距離を離れさせ、再度剣を投影。

宝具を破壊する、という行為はヘラクレスに一瞬の隙を与え。ならば再度自身の手にある壊れた幻想を復元させた。それは今まで使っていた剣ではない。オーバーエッジ。強化魔術と重ねた本来の宝具をさらに一段階強くする魔術。アーチャーを超える投影技術を持つ私が放つ最大の利点。最速で紡がれたその剣は確かに一瞬隙を晒したヘラクレスを見定め。

 

ザシュ、と血が舞う音がした。一死。奴の心臓を確実に穿った。だが、これで終わりではない。ヘラクレスは12回殺さなければ倒せない宝具を持つ。それならば。

胸に剣を刺した状態で壊れた幻想を行う。ヘラクレスの身体を中心に膨大な爆風が辺りに広がり、それを利用して距離をとる。これにより二死。あと10回――――

いける、とそう確信しようとした瞬間。

 

―――甘かった。

しかして、英雄は危機的状況でも英雄的行動を取れるからこその英雄。ヘラクレスは自身のダメージの回復など無視して、衛宮士郎に襲い掛かる。最速の、かつ無駄のない拳の一撃を。

 

 

―――それすらも、読んでいる。

合気道を持って受け流し。柔道を持って跳ね返し。太極拳を持ってダメージを完全にゼロにし。剣道を持ってその英雄に剣のカウンター。それはアーチャーの技量を遥かに超えており。

 

彼、衛宮士郎は技量によりヘラクレスをも確かに圧倒した。

 

衛宮士郎は転生者であり憑依者である。何万回も憑依を行った男。正義をかつて目指した男。彼はその膨大な時間を使って様々な体術。剣術を持っていて、それを組み合わせることで最善の一手を作り出すことを膨大な時間を持って可能にした。

―――衛宮士郎に武術の才能は少ししかない。一流にはなれるが超一流には、最上位にはなれない。だからこそアーチャーは衛宮士郎の極地であるが、その剣術は他の英雄に少し劣る。

だが、それは本来の衛宮士郎である。

ケルト神話というものがある。その神話において最も強い英雄はクー・フーリン。ランサーであるとされるが、実際はそんな彼の師であるスカサハが彼を超えて最強であった。それは何故か。

彼女は不死である。不老である。永い年月を生きた魔女。それが彼女。ならばそんな彼女が才能でクー・フーリンに遥かに劣っていたとしても、その永い年月をもって鍛えに鍛えたら――――。

結果、彼女は彼を凌駕し、最強に至った。

 

ならば、強さを貪欲に、誰よりも求めた衛宮士郎がその領域に至らないはずもなく。

身体能力ならばともかく、こと技量においてヘラクレスを彼は圧倒している。そしてその記憶を受け継いだ執念もまた、かつての衛宮士郎に劣るとしても―――。

 

それでも、ヘラクレスを圧倒するには十分の技量が――――

 

 

 

「いい夢は見れたかしら?」

そんな、白い少女の声が響いて――――

 

 

それでもサーヴァントと人間には明確な差が存在する。

 

 

一瞬。その声に気をとられた一瞬を付いて大剣―――ではない。それすらもフェイント。本命は―――大きく振った蹴りだ。その巨体を最大限生かした一撃は、

 

「グッ、あッ――――」

一撃で、衛宮士郎を紙くずのように吹き飛ばした。

 

 

技量がいくらヘラクレスを超えようと。

たとえ、投影技術を持とうと。それでも、所詮は人間。所詮は成長途中の衛宮士郎。身体能力。絶対的な差。そこは、技術どうこうの次元ではない。

例え達人であったとしても熊には勝てないように。生物的な差は技術を圧倒する。

 

身体をバウンドさせて、ヘラクレスの蹴りの一撃は確かに衛宮士郎を再起不能にした。

 

 

「ク、ソ――――」

―――口は、動く。声は出る。もとより痛みはない。そんなもの今の私は磨耗しきっていて、感じることは出来ない。

でも、身体は動かない。もうボロボロで、何も出来ない。

私は負けるのか。私は負けたのか。

 

心が砕けそうになる。けれど、これでは終われない。まだ私は、最後の切り札を切っていない。

あの時、あの時衛宮士郎が世界を歩き続けて知った技術。それを再現するために、自身の魂の最後を使っても可能にさせる。

本来私自身では不可能なモノ。アーチャーとなった英霊エミヤすら不可能の弓の絶技。理論こそ知っているが、弓兵としてはとある英霊以外には絶対不可能な確実な一撃。

その彼を憑依経験させる。もとより投影はアーチャーを超えている。故にその絶技にいっぺんの曇りもなく、十全にその宝具の性能を引き出す。

 

「初めから、わかっていたんだ。私ではヘラクレス。アナタには勝てない。」

 

倒れふし、血にぬれた。そんな男の言葉は負け惜しみのようには聞こえず。

「けれど、それでもアナタの心の支えは折っておきましょうか。」

ゆえに、その男に敗北はない。

 

私は衛宮士郎であり、投影を極めた者。それが神が創りし宝具出ない限り、どんなものでも完璧に投影する事が出来る。

ならば、あの宝具を以って、彼を倒そう。

その宝具に真名を語る必要はない。その宝具は正確無比。確実にイリヤを貫くだろう。

 

今は夜。ならば星は浮かんでいる。星が見ている。あの時、この世界をゲームの世界に見える上位世界を求めて、それでも手を伸ばしても届かなかった。宇宙の果て。かつての世界。

ついには手は届かなかったけど、その手前にある星。

その星。いて座。それにはついに届いた。

 

「弓を構える必要はない。もうそれはすでに射抜かれているのだから。」

 

「ゆえに、宝具の真名を語る必要もない。この星の一撃、受けるがいいさ」

 

その宝具の名前は天蠍一射(アンタレス・スナイプ)

賢者であり最高峰のアーチャーであるケイローンの宝具。いて座となったケイローンが使う、いて座から穿たれた流星。

それはもう構えられている。弓は放たれている。星は常に外から人を見ている。星こそが弓であり、矢なのだから。構える必要はない。

 

ピシュン、と。音速を超える速度で放たれたソレは、凄まじい圧力を持って。

 

 

 

―――――世界から、音が消えた。

 

 

 

 

 

 

 

空から穿たれた矢。流星と呼べるもの。

だが、その威力は対軍宝具には届かない。しかして、正確無比な矢は、確かにイリヤを、否。寸前で彼女を守ったヘラクレスに致命的なダメージを与えた。

その宝具のランクはAには届かない。故にヘラクレスを倒すには余りにも脆弱な一撃。だが、その速度、タイムラグのなさは全ての英雄を置き去りにする

 

 

 

ヘラクレスは最強の英雄である。ならばその強さの根源は何か?

身体能力?

力というならば、なるほど最上位ではある。だがそれで強さは決まらない。当たらなければ意味がないのだから。

速度ならばアキレウスという英雄にまける。

賢さ?それも違う。彼より知性ある英雄はいくらでもいる。

 

彼が持つ最大の能力は瞬時の判断能力。そこにあるものを最大限に活用できる能力。

だからこそ、彼は身体能力では、頭脳では不可能な12の試練を制覇出来たのだ。

 

 

 

ヘラクレスとて、最上位の英雄とて空から穿たれたソレには間に合わない。それは違わない。だから、彼はとっさの判断でイリヤを守るために命のストックを全て消費し、自身の速度に上書きした。

そのような使い方は本来ではあり得ない。故にヘラクレス自身も始めて使うもの。だが、彼は迷うことなく全ての命のストックを消費した。それを選択できたのは彼の判断能力の高さにあった。

それは本来ならば不可能な力技。ゆえにその速度は一瞬だが、しかしその速度は音を超え、かの最速の英雄、アキレウスすら超越した。ならば、彼の矢からイリヤを守るには十分な速度で。

 

結果、彼はその攻撃を受けてもダメージはない。ない、が―――全ての命のストックが消滅した。ゆえに一撃。今、一撃を加えられたらそれでヘラクレスは終わる。

 

そして、それを見逃すあの赤い弓兵ではない。

 

ピシュン、と。音が響いて。

カラドボルグ。ランクにしてA。それを矢にして穿たれた一撃は決してはずすことなく。

イリヤを守るため、自身を超越した動きをしたヘラクレスは何も抵抗することなく呆気なく。

 

その矢はヘラクレスの胸に突き刺さり、さらに追い討ちをかけるようにその宝具を爆破させ。

 

そうしてヘラクレスは、叫び声一つあげることなく呆気なく消滅した。

だが、その時、爆破する瞬間の彼の顔はどこか、満足したようだった。

 

 

それを見終えた私は――――

 

力が抜ける。自身が生み出した、悪意が消えていく。

身体をまとう泥が落ちていく。ソレを見て、理解した。

 

―――終わった。私の役割は終わった。

最上の結果。ヘラクレスを打ち倒し、味方には死傷者がいない。恐らくセイバーもこの後原作通り元に戻るだろう。

そう、安堵したとき、ピシリ―――と。自分が壊れた気がした。

ああ―――もう、時間なのか。

意識が薄れていく。自我が消えていく。

遠坂が何かいっているが、イリヤが何か言っているが何も聞こえない。何も見えない。

 

永く、生きた。衛宮士郎に自身の魂を渡して、彼とともに歩き続けて何万年か。さらに衛宮士郎の自我が消えて、執念となってから何万年。何の因果かまたもや衛宮士郎に魂が混ざりこんで。そうして、彼を、今代の衛宮士郎を見てようやく気づけた。

シェロ・ループラインが知ったことを何万年もたってようやく気づけた。

もう、桜は救えない。救うことが出来ない。それは理論上でも、気持ちでも無理だと。

そもそも初めから矛盾していた。世界をなかったことにした。世界を消し去った。だからこそ桜を救わなくてはいけないのだと。

――――そも、初めの世界をなかったことにした時点で、桜を救うことなど不可能だと気づいてしまった。世界をやり直した時点で自身が求めた桜を救うことなど出来ない。たとえ、初めの世界にこの世界を書き換えたとしても、それは今の世界を消すこととなるのだから、そうしたら自分は今の世界を取り戻そうと必死になるだろう。そうして桜を消してしまう。

これでは結局意味がない。桜を救うために世界を消した。その罪悪感から桜を救おうとしているのに、世界を消して桜を助けるのでは意味がないんだ…。

 

――――気づいていた。初めから気づいていたさ、そんなこと。何万年も時間はあったんだ。とっくにそんなことには気づいていた。ただ目を背けていただけ。現実から目をそらして、シェロ・ループラインへ思い違いの恨みを持って、そうして何万年もたった子供。それが自分。ならば、何故自分は必死に生きていた。なぜこんな執念になってまで、自我を保ち続けたのか。

 

ああ――――そうか。

 

桜を救うことが私の幸せでは――――ない。初めからそんな事、どうでもよかったんだ。

だって、彼女は笑って死んだのだから。あの笑顔を知っている。

私は、私は初めから。シェロ・ループラインも、私も。その他大勢の魂があの時の衛宮士郎に付き添った。

自身の身体がなくなっても、かつての思い出が消えても私たちは

彼についていった。

それは―――――それはつまり、私たちの彼を思う気持ちは尊敬とか敬意とかではなく。

 

私の本当の願いは――――

衛宮士郎と、あの時自分を救ってくれた彼とずっとずっと傍にいたかったんだ。ただ、彼を愛していたかった。それだけを、願い続けたんだ。

自分の魂を彼に渡した理由。初めの記憶。

 

私は―――そんなことも忘れていたのか。

 

血にぬれた彼。剣を振るう彼。笑う彼。泣き叫んで、自身を殺そうとする彼。そうして、殺した彼。

あの日みた彼の思い出は雪のように消えていく。溶けていく。

 

消えていく。自分が消えていく。夢のように消えていく。

 

ああ、私は死ぬのだろう。文字通り完全に消滅するのだろう。

 

それに、後悔はないけれど。それでも、知りたかったなぁ。

 

もっと――――知りたかった。

 

好きという気持ちを。

 

 

そうして、何万年も生きながらえた執念は、最後にその感情だけを衛宮士郎に残して消え去った。

 

 




強さ的には
一部最終回衛宮士郎>今回の衛宮士郎です。そりゃハッピーエンドになるというもの。逆にいえばそれくらいの強さがないとハッピーエンドになれないということですが。

星への語りについては
1部の4話「桜への執念」でて語ってます。柳洞寺に向かう時のことですね。



執念の正体=1部裏話に出てきた緑色の肌の少女。
もう少しで最終回です。
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