次話は1週間後
全部でプロローグ+10話の合計11話予定
本物が憧れた。かつての正義の味方。
正義の味方の出来損ないである衛宮切嗣との出会い、そして別れ。
魔術とは何なのか。正義とは何なのか。倫理とは、またどのようにすれば正義の味方になるのか。
切嗣と話してわかった。これは、もうどうしようもない。
カリスマというものか、それがあるのかは分からないが。彼の言葉には。
彼の、その正義を語る全ての発言に力があった。
力の使い方。倫理観。その全てを許容する背中。そして、全てを諦めたかのような、けれど何かにすがりつくような、子供の目。
それがあの時。あの大火災で見た何かを救えた顔に重なるようで。
その全てが、どうしようもなく格好がよかった。正義の味方とはこういうものではないのかと。そう思わされた。
まるで、自分は衛宮士郎なのだと、衛宮士郎が切嗣にあこがれるのは必然だと、そんな運命じみたものを感じた。
でも、それは偽りだ。それだけは認められない。
だって、俺は衛宮士郎という存在に憧れたんだから。だから、切嗣に憧れることなんて出来ない。
大体、俺は本来の衛宮士郎の精神を消した。そんな俺が、切嗣に憧れていい理由がない。それは本物が持つべき感情だ。所詮、偽者。偽善者の俺が抱いていい感情じゃない。
所詮正義の味方のなりそこないと、機械の振りをした人間では本物の正義の味方になれないと、そう思い込んで。
彼の言葉を切って捨てた。
―――とある、満月の夜
僕の隣には自分が救った。こういってはなんだが、狂った少年がいる。ただ、それも悪いことでない。
彼は正義の味方に憧れている。その目は酷く以前の僕に似ていて。
―――だからこそ分かる。彼は決して僕のような殺人鬼にはならないだろう。
だから、せめて大人の義務として、子供を導こう。それが、最後の僕の仕事だ。
”子供の頃、僕は正義の味方に憧れてた”
ああ。正面に浮かぶ満月しか見えない。月光はまるで僕を迎えにきたようで、不思議と気分がいい。
僕は、もう長くない。今夜息絶えるだろう。
「何だよそれ。憧れてたって、諦めたのかよ」
”うん、残念ながらね。ヒーローは期間限定で、大人になると、名乗るのが難しくなるんだ。 …そんなこと、もっと早くに気づくべきだった。”
もうどうしようもないくらいに時間が過ぎた。あの時、確かに失敗して、全てを失って。後悔しかないけれど。
「そっか、それじゃしょうがないな」
”そうだね、本当にしょうがない”
もう本当に、どうしようもない。けれど…
”本当に…いい月だ…。”
こんな満月の中死ねるなんて、僕はなんて幸福なのだろうか。何も成し遂げれなかったけど、それでもこの光はとても美しい。
「じゃあさ、爺さんは正義の味方って何だと思う?」
その言葉に、酷く心が揺さぶられる。もう心なんて擦り切れているはずなのに
”それは――――”
まるで自分の人生を語れと、自分が得た答えを言えと、そんな視線を。士郎の眼は語っている。
満月の光しかもう見えないはずなのに、それでも確かに彼の瞳を一瞬、見てしまった。
だったら、嘘はつけない。彼の目を見て、あんな、あんな狂気に落ちた目を見て。
ああ、彼は僕とは違う。
士郎は、決して自分を見失わない。そんなことはこの5年間で痛いほど痛感した。
僕はもう消える身だ、だったら、心の底からその言葉を言わなくちゃいけない
どうしようもなく喉が渇く、それを言ったら最後、士郎は永遠と呪われた人生を送らないといけなくなるのかもしれない。それでも、かつての憧れは捨てきれない。
士郎のために、平和のために言わなくてはいけない。
”それはね、大切な人を、自分の大切な関係を守れる人間だ”
”自分を大切に出来ない人間に、他人を救うことなんて出来ない”
”全員を救うなんて、出来ないんだ”
…どの口がいうんだか。父を、母を、妻を、娘を裏切った自分が言うことじゃない。
僕はやはり偽善者だ。全てを救えと、そういえば士郎は正義の味方になるはずなのに。
ただ、士郎のことを思えばそんなこといえない。いえるはずがない。残った唯一の家族だ。
僕の答えは、案の定彼には届かなかった。当たり前だ、本心じゃないしそもそもこんな殺人鬼の言うことに意味はない。
「そっか。―――ごめんな、爺さん。本当はそうであっても、それが世界の真実だとしても、俺は認められないんだ。だってさ、爺さんは俺を救ってくれたじゃないか。あの地獄から。
何もかも零して、失ったけど。それでも俺は確かに救われた。だったら俺は皆を助けるよ。俺には爺さんが言ったそれが正義の味方だと思えないんだ。だって」
「―――全てを救おうとする考えは、決して間違いじゃないんだから」
その言葉に、心の底では求めていたであろう答えに、今までの人生を認められたような気がした。
今までの生き方が、世界平和を求めた工程を。あの聖杯を追い求めた過程を認められたような、何も成していないのに
決して、そんな言葉を認めてはいけないのに、ただ…その言葉に
「ああ…安心した―――」
―――その、酷く満足した顔を見た少年は
「安心して眠りなよ爺さん。俺は絶対に全てを救う。―――絶対に。」
決して自分の道は間違いじゃないのだと、勘違いをして
こうして彼の正義感はさらに歪んで捻じれていった。
5年後
「衛宮、もうすぐ聖杯戦争が始まるが大丈夫か?こっちはもう召喚を終えているけど?」
「ああ、こっちもとっくに触媒を用意している。今夜にでも召喚をしようと思う。俺たちの目的を決して忘れるなよ、慎二。」
「言われなくても分かってるさ。それが、僕が聖杯戦争に挑む理由なんだから。」
薄暗い教室で、周りに聞こえないよう話す青髪と銅髪の二人組。
衛宮士郎ともう一人、彼の名は間桐慎二。原作では外道として扱われた少年。
けど、彼は本来外道ではない。自分では扱えない魔術を使う高揚感。自分の本心を曝け出さない義理の妹である桜との関係。彼自身が親友と思っていた衛宮士郎の、人の言う事をきくだけの機械のような、まるで自分との友情は嘘だったかのような行動。
全てが絶妙に絡み合い、彼は外道となった。
そんな未来を知っている故に、正史と違い彼との仲はよくなった。
桜の仲は取り持ったし、魔術に対するコンプレックスの解消、そして衛宮士郎との友情。全てを完璧にした。理想の関係。
本来ではありえない、慎二との共闘。それが桜を救うために俺が取った道だ。
桜との面識はそれほど多くない。原作では桜は衛宮士郎の通い妻のようなことをしていたが、現実は数ある友達の一人、くらいの面識だ。
けれど、それで救わないなんて理由にはならない。
俺の魔術の起源は剣、どうあがいたって桜を救うことなんて出来はしない。ゆえに慎二と共闘して、桜の虫を取り除くための技術を持つ英霊を呼ぶことにしている。
その為に、聖杯戦争を勝ち抜くために、俺は自分の体を苛め続けた。
俺は英霊であるエミヤを知っている。将来の理想の姿を知っている。その成り方を、知っている。だから俺は強化の魔術よりも投影魔術を鍛えた。
勿論宝具なんて投影できるわけがない。所詮俺は偽者。贋作者としての才能は、本来の衛宮士郎に劣る。
けれど、原作開始時よりかは強い自信がある。決して悪に負けないために体を鍛えた。対マスターで優位になれるよう切嗣が置いていった銃の扱い方を覚えた。
衛宮士郎となってから10年、理想の自分になるために進み続けた。
そして今夜、俺はキャスター、裏切りの魔女・メディアを召喚するつもりだ。そのための触媒も用意した。
俺は本来の衛宮士郎より今の段階では強いし、最強の知識である原作知識がある。キャスターと知識を共有すれば負けはしないだろう。
一番の問題は英雄王であるが…自分の魔術である無限の剣製は英雄王の天敵だ。キャスターの補助があれば宝具の投影を可能にし、優位に戦えるかもしれない。
もっとも、これはキャスターを召喚できればの話だ。
自分の体にはあのアーサー王の触媒である宝具であるアヴァロンが眠っている。だからアーサー王を呼んでしまうのかもしれない。だが、アヴァロンは間違いなく最強の宝具だ。それを所有している限り負けはない。
桜に関しては自分を犠牲にしてアヴァロンを埋め込めば救えるのだから、なんの問題もない。
「でさぁ衛宮。お前はキャスターを召喚するつもりなんだろうけど、気をつけろよ?」
「気をつけるって何がだ?慎二」
「――はぁ。裏切られないよう気をつけろってことだよ。魔術師は外道が多いからな。」
「ああ…そういうことか。わかった。忠告感謝するよ」
「まあ、せいぜい死なないようがんばれよ」
青髪の彼は笑顔で、でも心の底から自分を心配していた。
ただなんとなく、それは嬉しかった。
夜
屋敷の離れには召喚紋があることはしっている。触媒も用意した。グズグズ召喚を先延ばしにしてキャスターを別のマスターに召喚されても困る。ゆえに急がねばならない。
真夜中、離れに切嗣が用意していた召喚紋。それを使う。
「素に銀と鉄。祖には我が大師シュバインオーグ。 礎に石と契約の大公。 降り立つ風には壁を。 四方の門は閉じ、王冠より出で、王国に至る三叉路は循環せよ」
「閉じよ。閉じよ。閉じよ。閉じよ。閉じよ。繰り返すつどに五度。ただ、満たされる刻を破却する」
俺は別にシュバインオーグを師にしていない。けれど、原作のセリフをそのまま使えば召還できるだろう。
「セット」
「―――――Anfang」
「――――――告げる」
「――――告げる。汝の身は我が下に、我が命運は汝の剣に。聖杯の寄るべに従い、この意、この理に従うならば応えよ」
不思議な、湧き上がるような感覚がある。まるで運命が何か糸をつなぐような。そんな不思議な。
「誓いを此処に。我は常世総ての善と成る者、我は常世総ての悪を敷く者。汝三大の言霊を纏う七天、抑止の輪より来たれ、天秤の守り手よ―――!」
―――ピキリ。
その時、確かに召還紋にヒビが入り。そうして
「―――ッガ!?」
入る。
入る。
入る。
何かが、入ってくる。何かが俺を浸食して、侵食して、心象を塗り替えて。これは―――!
ある、少年がいた。
その少年はとある火事でこれまでの全てを失って。
そんな少年を助けてくれた正義の味方に憧れた。
正義の味方の見せた笑顔がとても美しくて、どうしようもなくその存在になりたいと願った。
自分の死に場所を求めて、否。自分の命を削ってでも、人を助けたいと願った少年がいた。
そうして彼は人を助けて、人を助けて、人を助けて。
――そうして、結局助けた人達に裏切られて、殺された。
ただ、それは別に悲観すべきことじゃない。ただ彼が民にとって、大多数の人間にとって悪に見えたから殺された。ただ、それだけ。それだけならば彼は受け入れた。
死後、彼はかつての呪いから磨耗するまで、人を殺し続けた。
ただそこにいたから。ただ他に悪影響を及ぼすから。そんな理由で、善人も、悪人も。等しく。
殺して殺して殺して殺して殺しつくして―――――。
かつて、正義の味方を目指した。だから、そんな身勝手な殺人は。それだけは受け入れられなかった。だから、彼は―――。
そうだ、これは彼の記憶。いや、記憶ではない。
これは経験だ。頭の中に具体的な記憶はない。けれど、強烈な既知感がある。
”安心した”
ああ。そうだ。俺は、僕は。私は。
確かにあの時の切嗣の顔を見て――!
――終わった。
召還紋は消え去り、その役目を果たして。だが、俺の前には英霊は存在せず。
ああ。確かに。今の俺の目の前には英雄はいない。
ただ、俺が英雄になっただけ。
英霊エミヤのデミ・サーヴァント。衛宮士郎になっただけ。
――笑わせる。確かに、この体は衛宮士郎だ。だから彼の魂が合うのも必然である。
でも、これはないだろう。
別に英霊特有の筋力があがったわけでも、投影の技術が上がったわけでもない。エクスカリバー等といった最高の性能を持つ宝具を投影なんて出来ない。
ただ、貯蓄された。それだけ。俺がデミ・サーヴァントになったことで、俺の投影のバリュエーションが増えただけだ。
なるほど通常ならば脅威だろう。だがこれは聖杯戦争。投影のバリュエーションが増えた所でサーヴァントほどのアドバンテージはないし、ましてや身体能力がただの高校生レベルでしかない。これでは足手まといでしかない。
彼ではない、ただ経験を得ただけで記憶はない。だからその強さを再現することも出来ない。
これでは救えない。誰も救えない。聖杯戦争で犠牲になる人を救うことは出来ない。
最優の英雄もいなければ、裏切りの魔女も、理想の弓兵もいない。
――――ただ、それでも。例え、可能性が低くても。それでも諦めることなんて出来ない。
だって、力がないから諦めるなんて、あの時と一緒じゃないか。あの火事で誰も助けれなかったあの時と。
だから、未来は絶望的だけど。それでも頑張ろうと決意した。