地獄を見た
燃え盛る街。狂える人。哀しみの声。その全てがまるで自分のしたようで、否。これは自分で再現した地獄。
地獄を見た。
泣き叫ぶ声、血まみれの人形。その全てを破壊しつくした。
彼らが存在すると多くの人間が死ぬ。だから、善良なる人間を殺して。
1を殺して10を助けた。
地獄を見た。
ただ近くにいただけ。それだけの理由で、巻き込むように少年を殺した。そちらのほうがより確実に、人々を救うことが出来るのだから。
いずれ辿る、地獄をみた。
「ッ!―――はぁ…はぁ…」
今のは――――――恐らく英霊エミヤの記憶。
「――――――――――――――ックソ!」
無償に、イライラする。
衛宮士郎の失敗した未来。そんなものを見せられて。まるで全てを救うことは不可能だと言ってるようで。
それだけは認められない。
だって、俺は衛宮士郎に、正義の味方になるのだから。
全てを救うのだから。
だから、俺が信じる理想の正義。
衛宮士郎なら、あの時の地獄も救えると信じてる。俺はあの時衛宮士郎じゃない。だから救えなかった。それだけだ。
俺は英霊エミヤを、失敗した未来を否定しなくちゃいけない、でないと俺はなんのために、あの地獄を生き延び、見送られたのか…。
例えどんなことがあっても
俺は、正義の味方を張り続ける。
そして、全てを救ってみせる――――――
☆☆☆
翌日
衛宮が休学届けを学校に提出したらしい。アイツのことだ。なんかヘマをしたんだろう。
一応無事ということは電話で確認してるし、アイツが聖杯戦争で失敗してもまあ問題はない。第2プランに移るだけだ。というか藤村がうるさい。そんなに気になるなら家にいけばいいのに…。まあ、いいか。
僕は必ず桜を助ける。
それだけが、僕の唯一の願いなんだから。
☆☆☆
俺は10年ぶりに火災の焼け跡にきていた。ベンチ以外何もない、まるで荒野のような場所。
芝生でもまけばいいのに、とは思わない。
ここにいるだけで体が重い。まるで呪われたようだ。いや、実際呪われているのだろう。
こんな場所誰もよりたがらないし、仮に芝生を撒いたところで腐り落ちる。
なぜこんな場所にきたのか、俺の中の衛宮士郎が英霊エミヤとなんらかの共感をしたのか。理由はわからない。
ただ、あの時の、あの地獄を脳裏に浮かべて。
――――――うん。ここにきてよかったと思う。
自分の中の正義を再確認できる。
けして、決して10年前のあの事故を、今回の聖杯戦争で起こさせない。
いつの間にか夕方になっていたようだ。夕食も作らないといけないし、マスター殺しをしたであろうキャスター・メデュアを探さなくてはならない。
そうだ、桜を救うことはもう、キャスターがいなければ不可能だ。
アヴァロンはアーサー王の魔力がなければその性質を発揮しない。だから例え俺の中のアヴァロンを桜に渡したところで意味はない。それでは桜を助けれない。
だからこそ、俺は消えそうになっているであろう神代の魔女を探す。
それが俺に出来る、唯一のことだった。
数日後
収穫は何もない。大河からの電話ラッシュもスルーしてたら家にまで突撃してきたのには驚いた。
とはいえ大河の相手は楽だ。気負わなくていいし善性でもある。
切嗣の生前の知り合いに会っていたといったら笑って許してくれた。
けど、もう会ったのなら学校に来いとのこと。もう引き伸ばしは出来ないだろう。何より、大河に申し訳がない。
慎二とは電話で話しをしているが直接会ってこれからの計画も練っていきたいというのもある。
結果は敗北。キャスターは見つからなかった。現在は夜、明日から学校にいかなくてはならない。
まぁ、死にかけの女性を見つけるなんて元々無謀である。
あまり期待はしていなかったので落胆はない。
―――さて、どうしたものか。
桜は現在はそこまで問題ない。それならセイバールートを辿るべきか…?現状維持が最善か?
そんな、少し憂鬱な気分で帰路に着いたとき。
ふと――――風が吹いた。
冷たい。余りにも冷たいそれは。
これは――――。何かが、そうだ。何かがおかしい。
今の風には熱がなかった。
まるで人が周りにひとっこ独りいないかのような、そんな、無機質めいた風。
――――どうも不自然だ。そもそもここは大通りとはいわないが、それでも多少は人がいる。
だというのに人が一人もいない、まるでこれは――――!
そこに、確かな温かみを持った声が響いた。
「早く召喚しないと、しんじゃうよ?お兄ちゃん」
――――ふと、息がとまりそうになる。
ピシリ、と。魂が何かを訴えるようで。その声を聞いたとき、俺の心は確かに少し満たされた。
その声を覚えている。かつての俺が何度も何度もきいたことのある声。
俺のように養子ではない衛宮切嗣の実の娘。名をイリヤスフィール・フォン・アインツベルン。
まるで白い妖精のような、可憐な少女。ホムンクルス。実の姉。
だが、そんな彼女は決して善性ではない。
アインツベルンの呪いというべきか、それとも教育の賜物か。彼女はまともな善悪が存在していない。何が良くて、何が悪いかの線引きが出来てない、怪物。
危険だ。はっきり言って、彼女を救うことは俺に出来るとは…思えない。
俺では彼女を救えない。正義の味方失格の最低最悪の悪。それが俺だ。
でも、それでも現状維持はありえない。そうだ、彼女は危険だ。だから、
「トレース。オン」
小声でそう、心より浮き出た言葉を紡ぎ。
その剣に神秘はいらない。
切れ味はいらない。
ただ、ただ鋭く、人を確実に殺す剣。
すかさず投影した宝具ですらない無名の剣で
彼女の首を切断する――――――――
キィン!
――――ことは、できなかった。
突如現れた鉛色の巨人が、巨大な、とても人が扱うものとは思えない岩剣を持って俺の剣戟を防ぐ。
俺の持つ知識が、その存在を認識している。
ヘラクレス。
世界を支え、12の難行を乗り越えた、ヘラ(女神)クレス(栄光)の名を神より授かり、その後民草の信仰によって神となった大英雄。
ギリシャ神話最強の英雄が、そこにいた。
☆☆☆
「あはっ」
はしたないが、思わず笑みがこぼれる。英霊がいないとはいえいきなり殺そうとする奴に慈悲なんて与えない。
切嗣が助けた、まだ見ぬ弟にワクワクした過去もあったがそれは昔だ。もう私には彼は切嗣の息子で、復讐すべき敵でしかない。
だから自分の奴隷に、確実な命令を下す。
「やっちゃえ!バーサーカー!」
☆☆☆
――――失敗した。
失敗した、失敗した。失敗した。
当たり前だ。今は夜。いないはずがない。実体化させてなかっただけだったんだ。
ヘラクレス、最強の英霊、無敵の巨人。
その性質は12回殺さないと倒せない最強クラスの宝具にあらず、その武力は英霊最強。
そんな大英雄が確かに白い妖精を守った。彼女に傷一つつけないと、そんな狂気の目つきで俺を見ていた。
勝てない――――
そうだ、そんな事分かっている。だから―――
俺がとった行動は逃亡だった。どこに逃げるかなんて何も意識せずただがむしゃらに走り続けた。
人は恐怖を得た際安心を欲する。その為彼が意識していなくても常日ごろ魔術のためにいた屋敷の離れに向かったのは必然であった。
「ふーん、ここで切嗣と住んでたんだ。これは…ガラクタ?まあいいや、やっちゃえバーサーカー」
気づけば、何故かいつもの場所にいた。
俺は何でこんなところに来たんだ。
ここには投影に失敗したガラクタしかない。
俺が使うべき拳銃などは屋敷にあるのに。
――――いや。意味がない。
ヘラクレスに、否。サーヴァントには等しく拳銃なんてきかない。
イリヤに向けた所でヘラクレスは彼女を守るだろう。
ではなぜだ。なぜここに来たんだ。ここが安心するから?何かを求めていたから?
わからない。完全に失敗した。
ゆっくりと。確実に追い詰めるように、大英雄は俺の傍に近づいていき。
怖い、怖い怖い怖い。死ぬのが怖い。嫌だ。俺はまた、また死ぬのか。
そして、かの大英雄はその腕をゆっくりと上げ。
確実に彼を殺すために、岩のような大剣を振り下ろした。
ああ、俺は死ぬ。
――――もう、いいのかもしれない。
だって、どうしようもないじゃないか。
サーヴァントを呼ぶこともできず。衛宮士郎の魂を持っていないからか、投影技術も低い。
所詮、偽者だと、俺のしてきたことに意味はないと。そうヘラクレスが振り下ろしている剣は言ってるようで。
――――安心した。
違う。違う違う違う!
そうだ、違う。俺はあの時、確かに切嗣に託された。
俺は全てを、報われぬ者たちを助けると、確かにあの時誓った。
負けられない。決して、俺が弱くても、それでも人を助けることを、諦めることはできない。
俺は何もなしてない。誰も救えていない。
できない?関係ない、俺はやらなければならない。でなければ全てが消える。
投影技術は上がっていない。けれど、俺の体は衛宮士郎だ。
英霊エミヤのデミサーヴァントであり。
衛宮士郎の体を持つものであり。
彼に憧れたちっぽけな魂だけど。
それでも…!
「――――
工程など関係ない、間に合わない、そんなもの凌駕しろ、最強のあの剣を思い出せ。所有者の技量を完全に憑依、経験させろ。
求めるは最強の自分。
求めるは最強の剣。
求めるは最強の技術。
彼が、彼女と共に使ったあの剣。
挑むべきは自分自身。
あの時みた幻想を本物以上の形を作ることこそ俺の戦い。
早く、早く。
もっと速く―――――――
あっ
ピシリ、と。
――――――お、ちた。
確かに今、全てが消えた。完全に頭の中から、それを作り出すための燃料のような、そんなものが。
確かに、今頭の中から消えた。とても大切な何かが。
それは確かに大切なもので、でも何も思い出すことが出来ないもので。強烈な喪失感が、自身の胸に刻まれた。
これは、これは俺が、俺じゃなくなる。俺が衛宮士郎だという証明がなくなる。消えうせていく。やめろ、と心が叫ぼうと。ともすれば酷く残念で悲しい心が、そのナニカが消えうせた。
それが、でも、それがどうした。そんなものふるい落とせ。でなければ死ぬ。そうだ。
挑め、挑み続けろ。確かに何かが失おうと俺の体は衛宮士郎。故に俺の体は剣。魂が違おうとも、俺の身体が衛宮士郎ならば――――
今、ここに、幻想を結び剣と成す!
ピシリ、ピシリ。と編みこまれていく。圧倒的な魔力を帯びたその黄金が。俺のナニカ大切なものを失ったことで、それは完成した。
圧倒的な輝きと王気をまとう宝具。
本来俺では理解すら出来ない存在。それを投影した。
それは所有者に勝利をもたらす、勝利すべき黄金の剣。
カリバーン。
かの騎士王が引き抜いた。選定の剣。
本来ではありえない、限りなく劣化を抑えられた投影によって作り出された剣は確かに最強の剣であった。
「――――う、あッ」
プツンと、頭の何かが切れた感覚。
当たり前、だ。
今まで宝具の複製は成功しなかった。だのに、いきなりこんなものを複製すればこうなるに決まっている―――!
でも、それでも、俺は出来た。ならば。
「―――――――――うぉおおおオオオオオオオオオッッ!!!!!」
そうして、俺の全精力を持って振りかぶった黄金の剣は、その怒号とともに。真に迫った贋作は易々と大英雄の剣を跳ね返した。