衛宮士郎がもっとヤベー奴になってしまった件
まるで、重圧をかけられたかのように、声が出なかった。
死んだはずだとか、何故こんな所にいるのだとか、そんな事頭の中から消え失せていた。
今ここにある真実は、俺が彼と対面しているというだけ。
そうだ。俺は彼を殺した。
それが意図的でなかったとして、それでも俺は彼の人生を奪い取った。
そんな俺が、彼の前に立つことなど――――
「ああ、そんな顔をしないでくれ。俺は別にアンタを責めようとするつもりはない。」
―――は?
コイツは。何を言っている。
ありえない。
ありえないだろう、それは。それはアンタが言っちゃいけない台詞だろう。だって、俺は―――
「それにさ、嬉しいんだ。」
「だって。アンタは俺の代わりに正義の味方であろうとした。俺が生きているよりも多くの人を救えるだろうし。この選択に後悔はないさ」
俺の知識。原作知識を知っている。
だが、そんなことどうでもいい。
この人は…。
そうか。
俺は、何一つ衛宮士郎という存在を理解できていなかったのか。
コイツはただ、イカれている。それだけだ。
何十回も転生して、かつての記憶もなくなって。感情もなくなって。
そんな、まともとは言えない。化け物のような人生を送ってきた俺が、異常と断言できる思考回路。
それが、どうしようもなく輝いて見えて。
そうか。これが、衛宮士郎。
本物の正義の味方―――か。
ピシリ、と世界にヒビの入った音が響いた。
俺が憧れても、決して為れない訳だ。
こんな自分の命を最底辺に置く破綻者、真似など出来るわけがない。
俺は衛宮士郎を甘く見ていた。
ずっと、ずっと追いかけていたのに。
俺には正義の味方は無理だと。そう、突きつけられた。
指標がない。
俺は正義の味方に為れない。
なら、どうすれば―――
どうすれば、俺はどうやって生きていけばいい。どう、償えばいい。
ポロポロと、空間が、世界が崩れていく。
それは俺の心を表していて―――。
「ありがとう。俺の代わりに戦ってくれて。アンタならきっと―――」
その次の言葉は聞こえなくて。
世界は壊れて
―――――もし、私が悪い子になったら先輩はしかってくれますか?
そんな声が、ふと頭に響いた。
――――――――――――ッ!
目が覚める。体が先ほどより重い。
そうだ、この重み。重力。
この負荷が、俺が生まれた時からずっと共にいた現実と教えてくれる指標。
そうだ、ここは現実。先ほどの世界ではない。
あの世界に、何故俺が行ったのかは分からない。
だが、その理由に興味はない。問題はこの先だ。
キャスターはいない。だから、ルール・ブレイカーを投影することが出来ない。
俺は桜を、彼女を救うことが出来ないのか。
―――――違う。彼、衛宮士郎は言った。俺よりも救うことが出来ると。
fateルート。UBWルート。HFルート。その全ての知識を見て、なおそう言った。
このタイミングで彼があえて言ったのなら、それは桜を救う術があるということ。
衛宮士郎にはなくて、俺にあるもの。原作知識。
だが、何か違うと思った。
これは直感だ。だから信憑性も薄いが、何故か俺はそうじゃないと確信している。
原作知識じゃなく、俺が決定的に忘れた物。それが何か分からない。
それこそが、桜を救う鍵だろう。
そうだ、俺はこのまま突き進めば彼女を助けることが出来る。
俺よりも救うことが出来る。それはつまり、俺は聖杯戦争で生き残ることが可能ということ。
ならば、俺は俺の思うように進む。彼が認めたのだから。それに間違いはない。
そんな、決意をして、
唐突と。
「へぇー。この寺の状態。オマエさんがやったのか?」
そんな、声が響き―――――
「ほう?」
その男から、穿たれた真紅の槍をギリギリで回避する。
コイツは―――――
「その手の甲に、うん。やっぱりマスターか。ならば殺すしかねーよなぁ?」
ニヤリと。その男は笑みを浮かべ。
間違いない。ランサーのサーヴァント。クー・フーリンだ。
クー・フーリン。ケルト神話最強の大英雄。
ケルト版ヘラクレスとも呼ばれ、その槍は心臓を確実に穿つ運命を歪める槍。
確実に相手を殺す、最も殺傷能力に優れた宝具を持つサーヴァント。
けん制のように放たれた槍。その槍を
「――――投影、開始トレース・オン」
俺は現在ランクCまでなら投影できる。干将・莫耶をトレースできる、が。
その槍を両刃で防ぎ、けれど一撃の下。
ピシリ、と音とともにコナゴナに破壊された。
破壊された。つまりそれは行程が甘いということ。
だが、それがどうした。もとより俺は本来の衛宮士郎より投影技術は劣る。そんなこと知っている。
「――――投影、開始トレース・オン」
再度投影。硬度はある程度で妥協し、一撃を耐えれるだけにする。それならば、最速で投影が可能。
槍の2撃目を確実に防ぎ。
「――――投影、開始トレース・オン」
4振りの剣を投影。二つで防ぎ、もう二つを射出。防がれる。
ならば
「――――投影、開始トレース・オン」
8振りの剣を投影、二つで防ぎ、もう六つを射出。防がれる。
「テ、メェ―――」
そうだ、技量は俺のほうが低いし、俺は確実に彼より弱い。だが。俺は自身のサーヴァントを見せていない。
だから彼は俺以外を気にしなくちゃいけないし、それに宝具の投影だ。驚かないはずがない。
その隙を狙えば――――
「いい加減に、しやがれ!」
カキンと、槍と剣が交差する。だが―――
「グッ、あッ!」
重い。重すぎる一撃。
単純な力。サーヴァントと人の差。それによって剣ごと体が吹き飛ばされた。
だが、関係ない。吹き飛ばされただけ。自身を解析。骨は折れてない。ならば。
「――――投影、開始トレース・オン」
16振りの剣を投影。これでは足りない。ならば、もう一度
「――――投影、開始トレース・オン!!!!!!!!!」
64振りの剣。基本骨子も甘く。一撃で潰える虚像の剣。だが確かにそれは切れ味をもって
「―――――全投影連続層写!!!!」
射出する!
その剣をもって確実にランサーを…!
「あめぇよ」
その全てを、ランサーは一蹴した。
「―――なっ」
バカな。あり得ない。あり得ないだろうそれは。
いくらランサーが強くても。いくら投影した物が弱くても。それでも宝具。それを64振りだぞ。
それを―――――――
「じゃあなボウズ。楽しめたぜ。手向けとして受け取るがいい」
マズイ、マズい、マズい―――――――
だが、そんな俺の焦りなど何の意味もなく。
そうして、最速の槍兵は俺の心臓を
「刺し穿つ死棘の槍 ゲイ・ボルク!!」
因果の槍が、確実に貫いた。
「あばよ」
※独自設定
投影技術は士郎>オリ主です。これは変わりません。
ただ妥協した性能で投影してるので早く投影できるだけ。
贋作者たるシロウは投影で妥協しないので、投影がオリ主のほうが早くなるのです。
ちなみに妥協した宝具では英霊は絶対に倒せません。そこまで甘くないです。