1話目で過去編をしたのもそのためです。
―――天才という言葉は嫌いだった。
だって、才能がある。それだけでどんなにも努力をした人よりも上の結果を得るのだから。そう、思っていた。
けれど、けれどだ。何度も転生してふと思った。
本当に天才とはいるのか?と。
結果として、本当に天才と呼べるものはいなかった。異常な才、というのはいたがそれも一極集中型。天は決して二物を与えない。
それに近い人はいた。けれど、その人は他人とは比べ物にならないほど努力をしていた。それは天才ではない。それは努力をした人だ。天才という言葉で済ませていいはずがない。
魔術師にも天才と呼ばれるものはいる。たとえば遠坂凛。2つの魔術属性を持つだけで天才と呼ばれる世界で、5つの魔術属性を持つ鬼才の持ち主。魔力量も一級品。欠点はない。だが…天才か?本当にそうか?
戦闘力や魔術の希少性では衛宮士郎に劣る。
魔力量ではセイバーどころか彼女の数十倍の人間もこの世界ではゴロゴロいる。
いや、そもそも彼女と同じ才を持つ魔術師は明確に存在する。ルヴィア、という女性が。凛は、彼女は決して唯一無二ではない。ただ少し優れているだけで埋もれてしまう程度の人材。
俺は天才と呼ばれた事がある。それは何回も転生していたからで、結局はただの早熟というオチがついた。
天才とは、理不尽の塊だと思っていた。けれど、そんな理不尽はこの世には存在しなかった。
天才とは、努力をした人に対する侮辱の言葉でしかない。
そう思っていた―――――。それでも、戦闘の天才というのはいるのだと、実感した。
そうだ。俺は知っている。ただ目を背けていただけ。
あのセイバーを。ランサーを。バーサーカーを。アサシンを。
星により生み出された絶対的な聖剣を持つ少女の才を。
とある神話において頂点。最高峰の槍使いの半神の才を。
世界を力づくで支え、後にその偉業から神となった圧倒的な知名度を誇る英雄の才を。
ただ一つを極める。燕を斬るためだけに生涯をかけ、魔法使いにまで至った剣神の才を。
俺ではどうあっても、届かない極地。
心が、折れそうになる。
「――――」
声が、出ない。
孔が開いた。
胸に大きな。大きな孔が。
嗚呼、これは無理だ。どうあがいても、こんなもの助かることは不可能だ。
俺の命はあと数秒で尽きる。でも、それはダメだ。俺はまだ義務を果たしていない。
それだけは―――――
今まで、数え切れないほど救われてきた。
何度も何度も憑依転生を繰り返して、その都度本来の人格を追い払って。
何人、殺してきたのだろうか。何の罪もない人を、これから輝かしい人生を突き進む人達を。
家族に祝福され、世界に誕生した尊い命だ。そんな命を魂ごと消し去って。
ああ―――。それはとてもいけないことだ。でも、俺がどうこうしてもそれは止まらない。
俺がここで死んだら、また違う人を乗っ取ってしまう。それだけは、してはだめだ。
一人。殺した。だから一人救った。
それで、帳消し?…そんな訳がない。
一人の命を救ったところで、一人の命を奪った罪は決して消えない。
――――なくした物は、戻らないのだから。
だから、俺は全てを救おうとしたのかもしれない。
あの、燃えた人々を見て、そう改めて決意したのだ。
だから―――――
「あっ、あああァァァァアアァァ!!」
気力を振り絞れ。俺の中にはアヴァロンがある。それを全力で使えば、延命が出来る。
心臓がつぶれた?だからどうした。
脳髄が消し飛んでも、魂が吹き飛んでも、それでも俺は前に進むしかないんだ。
ならば自滅覚悟で、カリバーンを投影する―――!
カリバーンを持ちて、かつての所有者の技量を投影すれば、アヴァロンは俺をアーサー王と誤認するかもしれない。
だから
―――その時に、ふと。
「それは難しいな。そもそも、お前の魂は歪みきっている。」
「貴様が勝ちすすむには、本当の夢を果たすには。実現するには、二つの奇跡が必要だ」
「お前が本来の記憶を思い出して。そして答えを得る。それはほら、言いにくいけど、失われたものだからな。そんなこと起こりえない。それはただの夢物語だ。」
「―――でも、仮にそんな奇跡が起きたとして。それが本当にいいのかは別の話だ。お前が本来の自分を取り戻すということは、それまでの道程を捨て去るということに他ならない」
「ああ、勘違いはするなよ。正義の味方をやめろって話じゃない。俺はその夢を嫌悪しているが、お前の言う正義の味方と俺の言う正義の味方は違うから。まあ、応援してもいい。いや、切嗣と会った時点で、お前は骨の髄まで衛宮士郎だ。そんなお前から信念を取り除いたらどうなるか。それがお前なんだから。」
「それでも、お前は本来の自分に、前に。あの荒れ果てた荒野をつき進むのか?」
―――こんな声にわざわざ言われなくても、答えは決まっている。
俺は俺が決めた敵を倒さないといけない。前に進むしかない。それが俺の生き方なんだから。
お前に言われなくても、答えは決まっている。だろう?
「―――ああ、お前はやはり。俺とは違った道を歩んだ衛宮士郎なのだな。」
そうだ、俺は衛宮士郎だ。
かつての憧れじゃなく、決して敗北を認めず、ただの一つの勝利もなかった。あの男である。
震えている。体は冷たく、その心は歪。それでも。
それでも俺の体は――――!
「I am the bone of my sword」
剣で出来ていた。
ギシリ、ギシリ。
キン、キン。と、刃が合わさるような音とともに俺の胸の傷は回復していく。
いや、変質している。俺の体は剣。ただそれだけ―――。心が鉄になって動く道理はないけれど、それでもそれは一種の延命になっている。
もう、アヴァロンで修復することは困難だ。代替品の鉄の心がある限り、あらゆる治癒は意味を成さない。そこに心臓があるのだから、アヴァロンは心臓を決して再生させないだろう。
けれど、体は動く。命のともし火はまだ続いている。
それならばやっていける。たとえ一分後に命が潰えるとしても。それでも目の前の敵を倒せれば――――!
「う、おおおおおおおおおおおおおおおおお!」
手には何かすら分からない。ただの無銘の。宝具ですらない剣。だが、それでも―――!
ただがむしゃらに。
ただ直向に。
そうだ、あの男はただの一度の敗走も、敗北もなかった。それならば。俺がかつて憧れた衛宮士郎ならば。
俺が負けることはない―――!
そうして、身体の負担を無視した大振りのその一撃は。
キィン、と虚しい音が響き
「―――あっ」
その捨て身の攻撃はあっさりと防がれ。
何か、強い衝撃が体を襲って。
俺の体は吹き飛んだ。
たて、ない。
身体が、重い。
ああ。眠い。ここで眠ったら全てが終わるけれど、それでも。
もう、身体が動かない。
こんな、ところで…っあ、れ。
ふと、声が聞こえた。
「どうして―――」
誰か分からない。ただ、この声は聞いたことがある。
その時、身体は暖かく赤く輝いて。
嗚呼、これは。
とおさ―――――
「忘れるな、あの時抱いた苦しみを。」
――――…
ある所に、ただ。災禍に巻き込まれた少年がいた。
彼の名前は、■ ■士郎という名前。ただの、一般的な、平和に生きて、普通に笑う。そんな平凡な少年だった。
けれど―――
燃えた。
メラメラと、ゆらゆらと。美しくも気持ちが悪い。そんな矛盾を抱えた蒼く、そして赤い炎が突如として全てを燃やし尽くした。
理由はわからない。何故かはわからないが。突如発生したその炎は全てを燃やしたのだ。
まずは家が燃えて、その中にいた母が。妹が燃えて。それを助けようとした父親は家の下敷きになって。
あの時の父の、家族を助けようと必死な顔は。ボロボロになっても、必死にかつての炭となった家を必死に壊して。あの、涙を流しながら。もう救えないことに気づいて、それでも必死のあの顔は。
心に、魂に刻まれたのだろう。
彼はその父の姿を見て。悲しいとか、そんな感情よりも。
――――ただ、憧れた。
けど、そんな父の行動は無意味だった。
そうして、結局かつての家族はみな死んで。
かつての家族は言った。何がなんでも生き延びろ。と。
あたりは燃えて、何もかも燃えて。彼が■ ■士郎だったという証明は全て消えた。
でも、父親の遺言の生きろ、という言葉は忘れることは出来なくて。
周りの声が。助けてと。この子だけでもと。そんな声を無視して。逃げるように、ただ、生き延びようとした。
そうして―――
「生きてる。生きている!」
彼は、衛宮切嗣と出会い、衛宮士郎となった。
そして衛宮士郎となった彼は、かつての父を、第2の父である切嗣のような格好いい正義の味方になろうと、努力をした。だって、人を助けようとする心が間違いのはずないのだから。
けれど、無理だと悟った。だって、あんなに格好いい父が、切嗣が。失敗したのに、どうしてあの時逃げた俺が、と自嘲するように。
世界中の人間を幸せにすることなんて、そんな事出来ないのはわかっている。
だから彼は、せめて自分の周りだけでもと。自分だけのつながりを決して離さないと、執着した。
そうして、高校2年生に成長した彼は、とある魔術師の戦争に巻き込まれた。
聖杯戦争。魔術師とその使い魔が織り成す戦いの儀式。
正義の味方、それを目指す彼は聖杯戦争で勝利した。名前は衛宮士郎。アルトリア・ペンドラゴン。アーサー王をサーヴァントにした少年。
なし崩しの参加だったけど、少年が持つ特異な魔術と、義理の父親から譲り受け、所持していた宝具、アヴァロン。それによって少年は最終的に最強の英雄であるギルガメッシュを倒し、聖杯戦争は集結した。
結果として、彼は勝者となった。だが、彼は繋がりを失った。
かつての家族であり、自身が憧れた正義の味方の衛宮切嗣。その忘れ形見であり、自身の義理の姉のイリヤ。彼女を見殺しにし、そして彼女は聖杯となった。
親友の妹であり大切な後輩。いや、かつての信念を捨ててでも助けようとした最愛の人。間桐桜を―――殺した。
ギルガメッシュと少年の間に何かがあった。結果、ギルガメッシュは少年との戦いで敗北を認め、イリヤを犠牲にすることで完成した聖杯。ギルガメッシュが持つ宝具によって浄化された真っ白な聖杯を彼に渡した。
少年はただ、ただ願った。桜と、イリヤが幸せな世界を。でも、聖杯の力ではそれは不可能だった。
単純な話。そんなことを彼は本心で望んでいなかった。
だって、彼女たちを蘇らせるということは。かつて大火災から逃げたあの事実をなかったことにすることと同じだから。
だって、人は―――人は、様々な哀しみを、苦難を乗り越えて成長していく。
かつて悲劇があった。でもそれをなかったことにするのは、哀しみながらも前に進もうとする人の侮辱でしかない。そんなことをしていいはずがない。
―――かつてあったことをなかったことにする事は、彼には出来なかった。
―聖杯は願望器である。聖杯が。本心以外の、上っ面の感情を読み込むことはない。だから、本来聖杯はその願いに答えなかった。
けれど、それは上っ面であっても間違いなく彼の願い。ゆえに聖杯は、否。イリヤはその願いも内包した願いをかなえた。
だって、衛宮士郎が本心でそれを望んでいなかったとしても。そしてそれに気づいていなかったとしても。それでも桜を、大好きな人のために正義の味方を辞めると。そう言ったのだから。
だから、彼女は。泣いている弟の姿を見たくなくて。聖杯の機能が衛宮士郎の上っ面の願いを無視しても。彼女は、イリヤはその願いをかなえようとした。結局、それは歪な形となって成功した。
それが、衛宮士郎の。聖杯、イリヤの失敗。
そうして、彼は
「――――」
気づけば、彼は少年の。衛宮士郎になる以前の、■ ■士郎の時代に戻っていた。
正義の味方になり、かつ桜とイリヤが笑顔でいられる世界を作るためには過去に彼が逆行することしか方法がなかった。
かつての未来を経験した彼は、彼女達を助けるため、あらゆる手を尽くそうとした。
そうして、聖杯であったイリヤの後押しもあったのか、彼は自身が思い描く最強の自分。最高の結果を得るために魔術を勉強し、聖杯戦争屈指のマスターとなった。
潤沢な魔力量を持ち、聖杯を解析することでその呪いを解くことが可能なほどに。本来ならばあり得ないレベルで彼は自身を強くしていった。
それでも、失敗した。
ならば、と。何か他に理由があるのだと。もう一度、聖杯を手に入れた彼はループをした。
失敗した。
何度も、何度も聖杯戦争をループした。
最良の未来を得るために、最高の結果を得るために。
けれど、それは全て失敗した。
まるで運命がそう定めたかのように。その因果は収束する。
あらゆることをしようとした。どのような外法に自身を染めようと、彼女達を助けるために。そう思い、何度も何度も繰り返した。
それは全て失敗した。
自身を外法に染めようとしても、それは失敗した。まるで世界が、彼にそれを使うことは認めないと遠ざけるように。
成功したのは、自身が桜を殺さない未来。でも、他の要因で必ず桜は死んだ。
そうして、何度も何度も何度も何度も。
桜は死んで、イリヤは聖杯になって。その都度。聖杯を使ってループをした。
何回もループをし、ついに彼は理解した。もう、分かっている。運命を変えることは出来ないことを。結局、彼がどれだけ強くなろうと未来は変わらない。
人生はプラスマイナス0。この言葉が今では余りにも重い。でも、それでも諦められない。
そうだ。
彼だけが覚えている。かつてのあの、初めの世界で絶望した顔の桜を。
彼が殺した、間桐桜を覚えている。
嘘に見えたこともある。何度も逆行した為か。世界がどうしようもなく、既知感が世界を腐ったように見せてしまっていたこともある。
それでも、その時、決して彼は敗走をしなかった。
何度も、何度も繰り返した。世界を何度もやり直した。それはつまり、何度も世界を虚構に、嘘にしたということ。
哀しみも、喜びも。嘗ての世界を全て消し去った。
最低最悪の極悪人だろう。自身の願いのために、桜とイリヤを救う。それだけのために何十億もの人間を何回も、何回も消しているのだから。ソレを知っているのが彼だけであっても、それは決して許されることじゃない。
それが何度続いたか。
何度も。何度も。何度も…
憑依して、憑依して、憑依して、その全てで桜とイリヤの味方を張り続けて。
元々自身が持つ因果だろうか。何度も、何度も、何度も。
必ず自分が住む街は燃えて、自分を知る人は全て消えて。
かつての自分の記憶すら磨耗してなくなって、何故正義の味方を目指すのか分からないくらい自我が消えて、そうして、彼は遂には別人に憑依した。
単純に容量が足りなくなったのだ。何度も何度も憑依を。ループを繰り返したことでその数だけ魂の大きさは比例して大きくなっていく。
それでも、彼は憑依を繰り返した。
世界は矛盾を許さない。ゆえに彼の魂をそれに見合った体に。否、そんなものはその世界には存在しない。けれど世界は矛盾を許さない。
だから、彼の魂はその世界を創作物として見れる。その世界よりも上位の世界に召し上げられた。
世界を上位者と見れるようになったからか、存在が上位になったからか。彼は運命を、死を無自覚に操る魔術。否。魔法使い。第6魔法である
――――そうして、衛宮士郎だった少年は、デジタルの中でかつての自分と出会う。
例え彼が衛宮士郎でなくなっても、その根源が衛宮士郎である限り。
彼が正義の味方である衛宮士郎に惹かれるのは必然だった。
彼は進み続ける。原初の思い。
桜を救い、イリヤを救う。その願いのために。
彼は荒野を歩き続ける。
だって、大切な人を。好きな子を守ろうとする事が。正しくないはずないんだから。
タイムループ逆行物というオチ。
衛宮士郎になる前の家族はほとんど物語で出てないなぁ。と思ってそれを主軸にしました。この作品のテーマは父親。
衛宮士郎から別人に憑依してからも、何回も別人に憑依したあとに1話の主人公に憑依しています。
自身が衛宮士郎だと忘れていたのもそのため。
衛宮士郎→1話主人公→衛宮士郎 ではなく
衛宮士郎→別人(数多)→1話主人公→衛宮士郎 が憑依の順番です。