「殲滅戦・・・ってなんだっけ?」
試合会場に到着した大洗戦車道チームの面々。そこで文科省教育局の役人から告げられた試合内容に、一同は驚愕する。大学選抜チーム30輌と大洗女子学園9輌の殲滅戦ルールでの試合。ウサギさんチームの言葉が、まるで現実逃避に聞こえるほどの圧倒的不公平な試合構成である
「あの!30対9の上、いきなり殲滅戦と言われても・・・」
「プロリーグは殲滅戦が基本ルールとなるので、この試合もそれに準じてもらう。辞退するなら早めに申し出るように」
隊長のみほの抗議も役人は取り合わず、絶望的な状況に他のメンバーたちも表情を曇らせた
「あなた方は、これでいいのですか?」
「どういうことかな?」
そんな中、アイリは役人と、その隣で申し訳なさそうにしている日本戦車道の理事長に向かって口を開く
「明日の試合はエキシビションマッチの扱いで、練習試合ではないですよね?しかも廃校問題も関わった重要な意味を持つ試合です。それを30対9の殲滅戦で行えと、強要する文科省や日本戦車道連盟は、この試合で世界に『これが日本の戦車道だ』っと表明するということです。さて世界各国の戦車道ファンや戦車道連盟が知ったらなんて思うでしょう?世界大会の誘致に影響が出そうですね?」
練習試合はあくまで練習であり、公式試合の扱いではない。対してエキシビションマッチは公式の試合である。アイリの言葉に、役人は眉一つ動かさないが、理事長は『それは困る』と顔が青くなる
「さらにあなたは今回の試合はプロリーグのルールに準じると言いました。つまりこの試合は、『これがこれから発足予定のプロ戦車道リーグですよ』っと宣伝することにもなりますね。さてこんな不公平が平気で許される競技を見て、『わー楽しそう』なんて思う人がいるでしょうか?出資協賛する企業が出てくるでしょうか?」
「先ほども言ったが、試合に不服なら辞退すれば」
「違うでしょ?『辞退すればいい』、ではなく『辞退してほしい』ですよね?文科省と日本戦車道連盟が認めた公式試合で、こんなとても試合と呼べないような不公平条件、成立させて前例を作ってしまったら日本戦車道界の汚点にしかなりませんし」
「・・・」
「ってことで、やりますよ。ただ、例えあなたの望みどおり私たちが負けて学園が廃校になっても、あなた方もそれなりの損失を負うことになりますけどね。ま、世の中絶対はありませんし?こんな不公平条件押し付けておきながら、もし私たちが勝ちでもしたら、あなた方は大恥もいいところですね?」
「今からでもせめてフラッグ戦に、って?!」
理事長が役人にルール変更を言い出したが、役人はそれを無視して去っていった
「あーあ、キッツイなぁ。どうするよ?」
「林に誘い込んで各個撃破?」
「突撃して乱戦に持ち込んで指揮車狙いとか?」
「引き撃ち・・・はキツイか」
アイリたち4人は試合場の地図を囲み、作戦会議を始める。今までの本気半分な態度から一変した4人に、他の戦車道履修者たちは驚きで言葉を失う
「とにかく今は案を出そう。取捨選択して詰めるのはそれからだよ」
「そうだね」
「戦力差3倍以上だし、この遊園地跡で篭城戦も難しい」
「車外スピーカーでタイマン呼びかけたりとか?」
「相手が乗る乗らない以前に、声が届く距離まで近づけなさそう」
必死で頭を捻り、作戦案を出していく4人
まるで・・・
「お前たち、本気で勝つつもりなのか?」
「ハァ?何言ってんの?」
生徒会広報の桃が4人に声をかけた。恐らくこの場にいる全員が思った疑問を、4人に向かって投げかけると、アイリはそんな桃を睨みつけながら返した
「いや、だってどう考えたって勝ち目があるとは思えん」
「ハッ!今年から戦車道を復活させて全国大会優勝しろと隊長に迫ったヤツと同じ人間だとは思えないね」
「だって、あのときはそれしか方法が・・・っ!」
何かに気付いた桃はそこまで言って口が止まる
「そうだ。今回も方法はこれしかない。この毎度のこと詰めの甘い会長が、腹黒い大人にいいように利用されながら持ってきたチャンスに縋るしかない!『勝てるのか?』じゃない、『勝つ』んですよ!」
「相手の30輌の編成の詳細がわかれば・・・」
「大学選抜は確か、主力がパーシング、偵察用にチャーフィー、隊長車は愛里寿ちゃんだから、前にセンチュリオンに乗ってるって言ってたから、今回はそうだと思う」
「でも隠しだまがありそうだからなぁ・・・」
「相手の編成もそうだけど、問題は相手がこっちの編成を知っているのがなぁ・・・情報戦ですでに負けてるのが厳しい」
アイリが桃に向かっている間も、リカたち3人は真剣な表情で話し合いを続けている
「それに、『こんなのお前らに勝ち目なんてあるわけねーだろバーカww』っと高を括ってるあの役人の態度見て、おめおめと引き下がるなんて冗談じゃない」
「・・・」
「一応八九式以外は、距離にもよるけど、相手を撃破可能なんだよね。なら八九式には徹底して履帯狙いで、足回りに不安要素を与えられたら、機動力を削ぐことができる」
桃が何も言わなくなると、アイリはそんな桃に興味を失ったかのように話し合いに戻った
「山岳地帯におびき出して、各個撃破はどうでしょう?」
「西住・・・」
真剣に作戦を話し合ってる4人に、みほが参加する
「山岳地帯か、林のほうが見通しが悪くて分散させられないかな?被発見までの距離も縮められるから、砲の弱い戦車でも相手を撃破できる可能性が上がるし。煙幕を使って視界を奪って同士討ちを誘ったりできそうじゃない?」
「さすがに経験が多い大学選抜チームに同士討ちを期待するのは難しいんじゃないかな?」
それから徐々に話し合いに加わるメンバーが増えていく。カバさんチームの暦女4人が過去の戦争を例にした作戦を提案したり、アヒルさんチームのバレー部が根性論を展開したりと、いつの間にか圧倒的不利な戦いを嘆く者はいなくなっていた
・
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「・・・っで?昨日あんだけ話し合ったのに、結局無駄骨だったってわけ?」
「そうっぽいね」
「熱くなってたのがバカみたい」
「むしろ役人にあんだけ啖呵切って、結局増援が来てるってのが・・・超ハズい」
試合開始前の作戦タイム。仮設テントの外でアイリたちが呆然としている。彼女たちの視線の先にはズラリと並んだ30輌の戦車。黒森峰のティーガーのⅠとⅡにパンター、プラウダのT-34とIS-2とKV-2、サンダースのM4、聖グロリアーナのチャーチルとマチルダとクルセイダー、継続のBT-42、アンツィオのCV-33、知波単の九七式中戦車と九五式軽戦車
「ぶっちゃけこれでもまだ結構不利だよね。連携確認どころか全員の顔合わせすらしてないし、相手にはこっちの編成はまたバレてるし」
「性能面でも、真っ向勝負するにはキツイ戦車が多いし・・・」
「ってか、増援してもらっておいてなんだけど、なんで知波単が6輌も・・・その中の2枠くらいを黒森峰かプラウダの戦車に、いや、せめてシャーマンかマチルダ、クルセイダーにでも渡してくれたら」
「アンツィオのCV-33は、まぁ火力的には戦力外だけど、乗ってるのは腕も確かな人たちだから、偵察に徹してくれるだろうし、いいんだけど。知波単は突撃癖がなぁ・・・来てくれただけ感謝しなきゃなんだけど」
呆然としながらも、冷静に戦力を分析することを忘れない
「そういえば、戦力が揃ったことはいいんだけどさ。ウチの隊長って30輌の大隊指揮なんて取れるのかな?高校戦車道じゃ上限は20輌だし、黒森峰にいた頃でだって経験なんて無いはずだよね?」
「確かにね・・・」
「まぁ、それは信じるしかないね」
「そうだね。なんたって、たった数ヶ月で新規参入に近い戦車道を再開した学校を全国大会で優勝させたんだから」
ふとみほの指揮力に疑問を持ったアイリたちだが、すぐにその疑問を払拭する
「それに、あの隊長は間違いなく『持っている』人間だよ。愛里寿ちゃんと同じ、言葉にできない、才能だけじゃない、才能とは違った『何か』をね」
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試合開始して、大隊長のみほは隊を3つに分けた。右翼を進むたんぽぽ中隊、中央を進むひまわり中隊、左翼を進むあさがお中隊である。アイリたちごりらチームのセンチュリオンは中央のひまわり中隊に入っている
「こっつん作戦ね・・・正直いきなり大隊30輌での作戦を考えろと言われて、考え付くだけマシな部類なんだけど」
「よく言えば正攻法だけど、悪く言えば捻りが無い、か・・・」
「島田流で、経験豊富な大学選抜チームなら、裏なんていくらでもかける」
「うーん・・・」
アイリはみほの考えた作戦に難色を示す。そして少し考えた後、咽頭マイクに手をやる
「センチュリオンから中隊長と中隊副隊長へ、丘の奪取は止めるべきだと思います」
『はぁ?!何言ってんのよアンタ?!』
『理由を聞こう』
アイリの進言に、中隊副隊長のカチューシャと中隊長のまほは正反対の声色で返す
「相手はこちらが連携確認もできてないインスタントチームであることを知っています。ついでに言うのなら、あなた方増援が来てくれたことが、我々大洗女子学園にとって想定外であったことも、です。そんな状況でパッと思いつき、実行できうる作戦はそう多くありません。現在実行中のこの作戦も、相手は読んでいると考えるべきです」
『つまり罠の可能性が高いということか?』
「そうなります。相手の戦車の全ての編成もわかっていないわけですし。孤立するのは危険かと。この中隊には黒森峰とプラウダの重戦車と、他火力の高い車輌が入ってますので、真っ先に狙われるとしたら、この中隊だと思います。そろそろ相手もこちらの中隊編成を確認してるはずです。恐らく見通しのいい湿原があるたんぽぽ中隊のほうを適当な戦力で引き付けて、林を進むあさがお中隊を別動隊が強行突破、丘を取った私たちを本隊と別動隊で包囲する・・・ってところですかね」
アイリは島田流としての自分が予測した相手の行動を伝えた
『それでも、丘上を取った私たちのほうが優勢じゃない?!』
「ここからは相手の編成がわからないですから不確定要素が多いですが、それでも丘上の私たちをまとめて撃破できる策が向こうにはある、としか・・・」
『そんなの考えてたらキリないわ!』
『確かに、根拠に欠けると言わざるを得ない』
2人の言葉に、アイリは咽頭マイクから手を離して舌打ちした
「ハァー・・・そんな固い頭だから全国大会でウチに負けたんだろ・・・警告はしたからな」
役人とのやり取り、実際あの試合の結果に関わらず、あの役人は出世コースから外れますよね。世界大会の誘致に躍起になってるなら、普通大事にはしたくないんじゃないのって思うけどなぁ・・・
増援はセンチュリオンが増えた分は黒森峰のパンターを減らすことで帳尻合わせ。ってか、なぜ増援の枠は知波単が6枠なんだろう・・・?にしても変幻自在、臨機応変の戦術で戦う島田流に、連携確認すらしてないインスタントチームって・・・無謀だよね
センチュリオンはひまわり中隊でスタート。行動中にチームの欠点、作戦の穴を上に進言するも効果なし。この時点でカールを予想するのは4人が島田流でも流石に無理