GS芦蛍!絶対幸福大作戦!!! セカンド 作:混沌の魔法使い
その1
リポート19 魔狼の咆哮 その1
それは突然の出来事だった。山の中に結界を張り暮らしていた人狼族、だが昨晩突然結界が破られ蔵が荒らされた。そして人狼族の至宝である1振りの剣が奪われた……
「長老。では八房の剣の奪還には動かないと仰るのだな?」
日本家屋の中で向かい合う老人と2人の男。犬塚クロ、犬飼ポチの両名の顔は険しく、人狼族の長老は仕方ないと諦めの表情だった
「そうじゃ、クロ、ポチ。八房の剣に封じられた狼王「フェンリル」は既に我らに災いしか齎さぬ、人間は森を減らす。その裁きを受けてもらう、良いか。決して「「断るッ!」」な!?クロ!ポチ!何を言っているのか分かっているのか!?」
長老の言葉を遮り断ると叫んだクロとポチは立ち上がり
「人間全てが悪ではない、拙者は人間に助けられ、娘も救われた。八房の剣は霊力を求める、横島殿達に危害が及ぶのは間違いない。拙者は受けた恩を仇で返すような真似は死んでも出来ん」
「我等が奪われたのだ、奪還に向かうのは当然だ。裁きだなんだの言って守勢に回る長老に従う義理も道理も無い、友の友もまた友。道理を通さぬ、長老の言葉など聞けん。我等は行く、追放したければするが良いッ!!」
長老の家を飛び出すクロとポチ長老は待てと考え直せと叫ぶが、その声はシロとポチには届かない
「父上、ポチ殿。出発の準備は出来ているでござるよ」
クロとポチが家に戻ると、シロが既に旅支度を済ませていた
「シロ、お前は「拙者もいくでござるよ父上。横島先生には返しきれぬ恩があるゆえ」
シロもついていくという言葉にクロが顔を歪めるが、ポチは諦めろと言ってクロの肩を叩く
「お前の妻と同じだ。言い出したら聞かん、それに追っ手が掛かる前に出なければいかん。ここで押し問答をしている時間は無い」
村の中から響く雄叫びに包囲網は既に作られかけているとポチが言う。村で最強の剣士2人を失うわけには行かないと長老が動いているのは明白だった
「判った。行くぞ、シロ」
「はいッ!」
狼の姿に化けたクロの上に跨るシロと、荷物を身体に括り付けてから狼へと変化するポチ。2匹の黒い狼は自分達を包囲しようとしていた若い人狼達を蹴散らし、森の中へと消えていくのだった……
緊急集合と言う美神さんからの電話で事務所に行くとそこにはエミさん、冥子ちゃん、それにピートとタイガー、カオスのジーさんにマリアとテレサの2人。唐巣神父に西条さん……そして言峰神父にクシナさんの姿があり、俺もそれを見て只事ではないと一瞬で悟った。ピリピリとした緊張感を感じ、足元にいたうりぼーとチビを抱き抱え、邪魔にならないように少し離れた所に腰掛ける
「すいません、少し遅れました」
蛍が頭を下げながら事務所に入って来て、事務所に揃っている面子を見て緊張感に満ちた表情になる
「さてと、今回集まって貰ったのは僕が頼んだんだ」
西条さんがそう言って話を切り出す。その顔は真剣そのもので、懐から写真の束を取り出す
「緘口令が敷かれているから、知らないと思うが最近都内で辻斬りが出ている。その被害者は既に20人を越えている……非常に言いにくいが、被害者は既に全員死亡している」
その余りの被害の大きさに顔が歪むのが判る、もしかして手にしている写真の束は……
「被害者の写真だ。言っておくが、横島君達に見せるつもりは無い。僕はこういうのに慣れているが、それでも吐きそうになるほどに凄惨な遺体だ。高校生の君達は見ない方が良い」
そう言って美神さん達に写真を手渡す西条さん。美神さん達もその写真を見て眉を歪め、確かに酷いわねと呟いた。
「これ……霊刀の傷ね?」
「ああ、衣類は傷つけられず、人体は恐ろしいほどの切れ味で両断されている」
両断……その言葉を聞いて、思わず想像してしまって吐きそうになり口を押さえる。カオスのジーさんは西条さんの言葉を聞いて不味いなと呟く
「霊刀は魂を喰らえば喰らうほどに切れ味を増す。20人も切っているとなると……神魔でさえも恐らく切れるな?」
「はい、そして高純度の霊体を求めるようになる。横島君やピート君達が狙われる可能性が高い、暫くの間出歩くのを控えて欲しい」
【で、でもそれだと襲われた時に逃げたり、助けを求めるのに遅れが出ませんか?】
おキヌちゃんがそう言うと西条さんはそれも考えていると呟き
「ピート君には父親のブラドー伯爵が付いているから問題ない。タイガー君には言峰神父が付いてくれる。横島君はシズクさんや牛若丸に信長、沖田総司などが付いている。これは最初の方の処置だけだ、相手の正体を掴み。対策を練り次第また集合を掛ける。今はターゲットが一箇所に集まる方が危険なんだ」
霊力が集まり、そこに襲撃を仕掛けてくる可能性があるからと西条さんが言う。確かに一箇所に集まって襲撃を受けるリスクを考えればバラバラの方が良いだろう
「オカルトGメンから精霊石を支給する。襲われた場合、これを使って逃走してくれ」
俺達に2個ずつ精霊石を渡してくれた西条さんは時計を見て
「明るい内に家に戻って欲しい、夜は敵の時間だ」
どうも緊急招集は危険と言う事を伝え、精霊石を渡してくれる為だったらしい。ピートとタイガー、それに蛍と共に美神さんの事務所を出る
「おっかいない事件だな……もしかしてまたガープか?」
「魔人って線もあるわよ、横島」
こういう事件が起きると真っ先にガープを疑うが、蛍の言うとおり魔人と言う可能性もある
「その通りだ。横島忠夫、思い込みほど危険な物は無い。十分に警戒し、襲撃に備えるのだ」
「あ、ありがとうございます」
固い口調の言峰神父に顔が引き攣るのが判る。悪い人じゃないと思うんだけど、ちょっと苦手だ
「とりあえず西条さんに言われたとおり、明るい内に戻りましょう。僕はヴァンパイヤミストで逃げれますが、タイガーさんと横島さんは……「……いざとなれば飲み込む」……そうですね、その手段がありましたね」
……ミズチタクシーは本当に勘弁して欲しいのだが、緊急事態ならあれほど安全な逃走手段もないだろうから文句を言う訳には行かない
「蛍も気をつけて、ピートもタイガーもな」
「うん、横島もね」
「ありがとうございます、横島さん。皆も気をつけてください」
「何かあったら直ぐ電話しますけん」
お互いにお互いの名前を呼び、気をつけてと言って俺達は分かれ、早足で自分達の家へと足を向けるのだった……分かれた蛍は早足から走りへと変わったその理由は言うまでも無い、歴史が変わっている……おキヌから聞いていた人狼事件よりも被害者が多く、流れが違う。その事に言いようの無い不安を感じたのだ……そしてその不安は的中する事になる
東京の中に妙な気配を持つ奴が現れたのを私は感じ取っていた。人間でもない、獣でもない、だが魔族でもなければ、神族でもない
(なんだこいつは……)
魂を感じ取る能力を持つ私が、その全容を掴めない。こんなのは初めて……いや、横島と言う前例がいたな。だがあいつと奴は根本的に違う、奴を形作っているのは憎悪と殺意。どこまでも純粋で、どこまでも歪んだ感情だけだった。それ以外の魂を持たぬ、継ぎ接ぎだらけの魂……吐き気さえも覚える程に醜悪な魂だった
「さてと、どうするか……」
あの魂の持ち主がガープの手によるものならば、横島の身が危険だ。だが私は魔族と言う事を隠している、と言うことは全力は出せない。魔力を使うことは出来るが……次の失態は許されないので慎重に動かなければならない。奴の動きが活発になるのは日が落ちてから、まだ少し時間が有るのでブリュンヒルデの様子を見に行ってみるか……そう思いブリュンヒルデに会いにいったのだが
「わ、私はショタコン……変態……ぶつぶつぶつ……」
(ま、まだ引き摺ってるッ!!!)
ルイ様の苛めのダメージが尾を引いているのか、どんよりとしたオーラを纏いながら何かぶつぶつ言ってる!慌てて駆け寄り肩を掴んで体を揺する
「おい!ブリュンヒルデ!お前何してる!」
「え、あ……閣下」
ほんの少し理性の光が戻る。真面目なブリュンヒルデの事だ、考えすぎてド壷に嵌ってしまったんだろう
「ルイ様が私を年下好きの変態だと……」
「ルイ様のジョークだ、真に受けるな」
と言うか、今の姿の方がよほどドン引きすると思いながら大丈夫だと声を掛ける
「わ、私は大丈夫でしょうか。立てる……うん、立てる。あ……やっぱり駄目かもしれないです」
重症だな、これは……ジョークとして聞き流す事のできなかったのはやはり生真面目な性格による物だろう
「今東京に変な魂を持つものがいる、横島に危害を加える可能性がある」
私の言葉にブリュンヒルデの瞳に力が戻る。生真面目な性格だからこそ、任務を思い出せば再起動してくれると思ったのだ
「私も合流するつもりだが、力を見せる予定は無い。言っている意味が判るな?」
「……はい、大丈夫です」
話をする知人程度の私はまだ自分の力を見せている訳ではない、だから私は横島を護りはしない。有事の際に備え、側にいるが最悪の状況になるまでは動かない
「時間が無い、日が落ちればそれは既に奴の時間だ。急ぐぞ」
「はい、大丈夫です」
さっきのような沈鬱な気配は無い、この様子なら大丈夫だろう。私はブリュンヒルデと共に横島の家へと足を向けた、ゆっくりと沈んでいく太陽とそれに反比例すかのように強くなっていく奴の気配
(一体何がいるんだ)
正体を掴むことが出来ない不気味な存在。その存在を感じ取りながら、私はもう1度急ぐぞとブリュンヒルデに声を掛けた。夜は既にもう直ぐそこまで迫っていた……
それは唐突に現れた……黒い何かが目の前で集まったと思った瞬間、目の前に何かが現れていた。私も西条さんも勿論。ドクターカオスも唐巣先生も、警戒の為に冥子が召喚していた12神将も全く気付かなかった。唐突に私達の目の前に現れたそれはまるでゴミでも捨てるかのように、その手にしていた人間の上半身をこっちに投げつけて来た。血を撒き散らし、向かってくる肉片に誰しも動きが止まった。思考が再び動き出したのは、マリアとテレサが私達の前に立ったその瞬間だった
「マリア!テレサ!」
ドクターカオスの悲痛な叫びが聞こえる。2人はたった一太刀……その一太刀で片腕を細切れにされ、コンクリートブロックに頭から突っ込み動かなくなった。悲鳴も何も聞こえなかった、本当に一瞬の出来事だった……
「???」
不思議そうに自身が手にする刀を見つめる人影。目の前にいるのに正体が判らない、まるで黒い何かが目の前にいる。霊視をしてもその全容を掴むことが出来ない
「喰らえッ!!」
西条さんが私達を庇うように前に出て、銃を構えた瞬間。その黒い人影の頭が動いたように見えた、そして白銀の閃光が闇夜を駆ける
「うぐッ!?」
「西条さん!?」
閃光が走ったその瞬間、西条さんの身体が大きく弾き飛ばされる。その太刀筋も振り上げた刀も私の目には映らなかった
(こいつ……何者!?)
その動きを見せず、マリアとテレサを戦闘不能に追い込み、今こうして西条さんも一撃で倒した。正体がまるで読めない相手の強襲に完全にパニックに陥ってしまった
「皆~やっつけてーッ!」
「冥子待って!」
止めようとしたがもう遅かった。冥子の影から飛び出した式神が黒い影に向かった瞬間
【【【ぎゃんッ!?】】】
360度から襲い掛かったにもかかわらず、式神は一太刀……ううん、一太刀に見えただけで実際はもっと多かったかもしれない。その一撃で両断され、冥子の影の中に消えていく
「え」
目の前の光景が信じられず、呆然とする冥子に西条さんを引き裂いた閃光が走る
「冥子!」
近くにいたし、しめ鯖丸の一撃を防いだ鎧を着ている事もあり、その閃光の前に立った瞬間。鎧が砕ける音と、頭が一気に軽くなる……
(これ不味い!)
髪を切られただけならまだいい、だがそこから霊力をごっそり持って行かれた
「エミ!」
「判ってるワケ!」
これ以上戦っても各個撃破されるだけだ。エミの名を叫ぶと精霊石のペンダントを引きちぎり、霊力を込める。その炸裂する一瞬、倒れていたマリアとテレサが立ち上がり、駆け出してくる。マリアはその背中にドクターカオスを背負い、無事なほうの左腕で私と冥子を掴み、テレサは気絶している西条さんを背負った唐巣先生を右手で掴み
「背中に乗って!早く!」
「判ってる!」
エミを背中に背負い地面を蹴る。空高く跳び上がったマリアとテレサによってその場を逃れるが、月の光の中私は見た。姿形は人間に近いが、その影が巨大な狼の姿になっていた事を……そして現れた時と同じく弾ける様にその姿を消したその姿に恐怖と共に寒気を覚えたのだった……人智を超えたその存在を、黄金に輝くその瞳を目にしたその瞬間に……自分が巨大な何かに食い殺される姿を見た。エミやドクターカオスも同じだったのかもしれない、その顔からは完全に血の気が失せていたから……
暗い闇の中に紛れるように佇む、モノクルを身に付けた男性……ガープの姿がそこにあった。だがその声は女性の……もっと言えば美神の声だった
「ええ。そうよ、情報が集まったから事務所に来て頂戴。ええ、出来るだけ急いでね」
『はい、判りました。美神さん』
闇の中から聞こえてくる横島の声。その声には一切の不信感や警戒の色は無かった、ガープは手を振り、魔法陣を消すと振り返り
「私の言葉が判るか?」
「……」
黒い影は返事を返さない。ある存在の依り代となる事を選んだこの人狼に既に言葉を理解しても返事を返すと言う知性は持ち合わせていなかった。既に概念と成果てている人狼に感情などは無いからだ
「すまないな、質問が悪かった。この地で霊力が異常な流れをしている場所は把握しているか?」
2回目の問いかけに黒い影は頷く、ガープはそれならばいいと返事を返し、アスモデウスに向けるような親愛に満ちた表情で口を開く
「ならばそこに行くがいい、そこに極上の餌が待っている」
「……」
その問いかけに頷いた黒い影は弾ける様に姿を消す。だが道路にはその姿が刻まれていた、闇の中を駆ける巨大な狼の姿を
「私が手助けするのはここまでだ」
己を捨てる覚悟をし、感情も、記憶も、名すらも捨てた人狼。だが表たって協力する事は出来なかった、何故ならあの人狼に宿った存在は神魔すらも憎んでいるから、まだ力が足りず宿った存在が目覚める前だからこそこうして話をすることが出来たが、恐らく次は無い。ガープ自身すらも餌と見なし、牙を剥く可能性が高い
「願わくば、お前の願いが叶うことを祈っているよ」
狼とは大神。神に準ずる聖なる獣、自然を壊す人間に対する憎悪と殺意は本物であり、そして己を救わなかった神魔を憎んでいる。だからガープが手を貸すのはこれで最初で最後。後は己をどこまで取り戻すか、そしてガープの研究成果がどこまで効力を発揮するかに掛かっている
「……惜しいな」
うっすらと見える月。それが満月ならば良かったのだがなと呟き、ガープは杖を付きながら、影の中に溶ける様に消えていくのだった……
リポート19 魔狼の咆哮 その2へ続く
今回は登場キャラはかなり大目で書いて行こうと思います。出来る限り全員を活躍させたいと思っております。それでは次回の更新もどうかよろしくお願いします
視点が変わる時にそのキャラの視点と言う事を表記するべきか
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サイドまたは視点は必要
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今のままで良い