GS芦蛍!絶対幸福大作戦!!! セカンド 作:混沌の魔法使い
リポート19 魔狼の咆哮 その3
闇の中から姿を現したのは、軽自動車よりも遥かに巨大な狼だった。その背中に俺達を追いかけていた黒い影を乗せ、自身も口に刀を咥えた余りに巨大な化け物……金色の瞳が俺達を射抜き、その視線に足が竦む……アリスちゃんが怖いと言って震えるが、俺も恐ろしくて仕方無かった
「あれは……まさか。いえ……でも……似ている」
「……ああ。似てるな、フェンリルに……気配だけだが」
聖奈さんと高城さんが険しい顔で何か話をしている。そう思った瞬間、空気が爆発した音と共に狼が美神さんと蛍の前に狼が一瞬で移動する。危ないと咄嗟に飛び出しかけたとき、誰かに腰を掴まれ完全に動きが止った。狼が刀を振るった瞬間、思わず目を閉じたが周囲に響いたのは甲高い金属音だった……
「せんせーッ!だいじょうぶでござるか!?」
背後から聞こえてきた声に振り返ると、赤いメッシュの入った白髪の少女が視界に飛び込んでくる
「シロ!?え、じゃあクロさん!?」
砂煙の向こうにはクロさんともう1人男性の姿があった。2人は刀をXの字にして狼の刃を止め、力強く踏み込みながら狼の巨体を弾き飛ばす
「犬塚クロッ!」
「犬飼ポチッ!」
「「義によって助太刀致すッ!!!」」
その力強い咆哮で、初めて狼の反応が変わった。失望したような、落胆したようなそんな気配の後。狼は大きく息を吸い込み、周囲を振るわせる凄まじい雄叫びを上げた……その凄まじい音に、足から力が抜けてへたり込む。立ち上がろうにも足が震えて力が入らない……美神さんや蛍、神宮寺さんも同様だった……何が起きたのか唯一動く目で周囲を確認する事しか出来ない
「魔力を雄叫びに乗せて叩き付けたんだ。それで体の感覚が麻痺している、無理に動くな」
高城さんが俺の肩に手を当てて、動くなと強い口調で口にする。
【……やばすぎじゃろ……霊力吸収に……魔力の……波動とか……バグか!?】
【うう……上手く……具現化……出来ないです】
おキヌちゃんとノッブちゃんの姿が明暗を繰り返し、今にも消えそうになっている。雄叫びに攻撃が付与されていたのは明白であった
「……みむ」
「ぴぎ……」
「チビ!?うりぼー!?」
小さく鳴くと目を回してぽてっと落ちてくるチビとうりぼー。動く事が出来ないが、運よく倒れこんだ俺の腹の上に落ちてきた事に安堵する
「グルゥ……」
タマモは何とか踏み止まっているが、それでも今にも倒れそうだ……
「シズクさん、横島さん達をお願いします。動けないようですから」
「……判った。倒せとは言わないが、退けるくらいはやってくれ。私は治療をする」
聖奈さんが槍だけを持った姿ではなく、鎧姿になり狼と応戦しているクロさん達に合流する姿を見ながら、怖いと震えるアリスちゃんに大丈夫だよと俺は声を掛けることしか出来ないのだった……
影を使いながら高速で駆け回る狼……その速度は完全に拙者を超えていた、幸いなのは拙者とポチだけを狙って来る事だが
「ぬっぐうっ!この馬鹿力がッ!!」
ポチが悪態をつきながら噛み付いてきた狼の横っ面を殴りつける。先ほどまで咥えていた刀……妖刀「八房」は狼の背に乗っている黒い影が手にしているが、その影は人狼族の着物を着ていた……何者だと言う疑惑が湧くが、今はそんな場合ではない。地面を蹴り、目を狙って突きを繰り出した瞬間。影が盛り上がり刃となる
(止れん……このまま行くしかッ!?)
既に最高加速に入っている。ポチの拙者を呼ぶ声がするが……そのまま踏み込むしかない。そう思った瞬間
「エイワズッ!」
凛とした声が響き、拙者の前に奇妙な文字が浮かぶ。それは伸びてきた影の刃を弾き飛ばす、何の憂いもなくなった拙者は全力で刀を突き出す。だが周囲に響いたのは甲高い音
(目を狙ったと言うのに!)
急所なのは間違いない。だが何かに弾かれてしまった、大きく後に飛びのき刀を構える。すると信じられない事に切っ先が存在していなかった……まるで切り落とされたかのように……見えなかったが狼か、影か何かが拙者の刀を切り裂いたのだ
「大丈夫ですか?」
「……助太刀感謝します」
薄い紫の鎧と大きな槍を手にした女性が声を掛けてくる。その声から、拙者をさっきの一撃から護ってくれた文字の使い手だと判断する
「犬塚クロと申します」
「ご丁寧にどうも、私はオーディンの娘。ブリュンヒルデと申します」
挨拶を程ほどにかわし、巨大な狼に視線を向けると、弾丸のような勢いでポチが吹っ飛んでくる
「ちいっ!固いッ!!!」
地面を削りながら止ったポチが大きく舌打ちする。刀を見ると、やはり拙者と同じく刃毀れしている……
「しくじったな、もっと良い刀を盗んで来れば良かった」
「全くだ」
拙者とポチの刀は人狼の刀鍛冶が打った刀だが、長老の家に侵入して八房に並ぶ刀を盗んで来れば良かったと後悔しながらも、獲物を失ったくらいで戦えぬほど人狼は弱くは無い
「「はっ!!」」
拙者とポチの気合の入った声が重なり、折れた部分から霊力の刃が姿を見せる。霊刀と霊波刀は人狼のお家芸だ、刀を失った程度で戦えなくなる訳が無い
「あの狼は影を基点に転移しております、私の術で転移は封じ切れないので……テイワズ・エイワズ!」
奇妙な文字が拙者とポチの前に展開され、それが身体に吸い込まれるようにして消えていく
「むっ、これは……力が満ちてくる」
「ルーン魔術です。私の槍では有効打になりませんので、支援をさせていただきます」
そう笑うブリュンヒルデ殿に小さく笑い返す。あの狼が拙者たちを狙う理由。それは霊刀の有無だろう……雄叫びで動けなくした横島殿達には目もくれない、それは拙者達を脅威、もしくは厄介と判断しているのだろう
「ポチどうだ?」
「問題ない、爪と牙の1本でも折ってくれる」
気合に満ちているポチ。疲労はあるが、気力は充実している。この様子ならば問題ないだろう……俺達を睨み周囲を移動していた狼が牙を大きくむき出しにて、飛びかかってきた瞬間
「ふっ!!」
黒い影が飛び出してきて、狼の横っ面に拳を叩き込む。信じられない事に狼の巨体が吹き飛んだ
「ふむ。固い……だが殴れない訳ではないようだ」
黒い奇妙な服を着た男が拙者達の戦いに加わったのだが……その指が折れているのは見えていた
「大丈夫なのか?人間。指が「指がどうした?私は私の信仰を貫く、助けを求める者を救うのだよ」
指が折れた事など全く意に介した素振りを見せない男に、それ以上に尋ねるのは非礼になると判断した。既に体勢を立て直し、こっちを睨みつけている狼を睨み返し、拙者とポチは霊波刀を振りかざし、狼へと駆け出していくのだった……
シズクの治療の甲斐があってか少し身体の感覚が戻ってきたが、それでもやはりまだ手足が動かないし、立ち上がる事も出来ない。言峰神父がどうやって追いついてきたのかは判らないが、合流してくれた事に心から安堵の溜息を吐く
「この私までも……あの犬……」
くえすが唇を噛み締めて凄い目で狼を睨みつけている、魔女である自身に強い誇りを持っているくえすだ。彼女にとって魔力を伴った攻撃で動けない自分に激しい憤りを覚えるのは判る。だが相手は私達の常識を超えていた
【ウオオオオオンッ!!!】
雄叫びを上げながら縦横無尽に駆け回るその巨体。軽く掠っただけでも人間ならば一瞬で挽肉になるであろうその身体……そして影から影へと移動すると言う異常な動き、攻撃手段はその背中に背負った黒い影の刃とその巨体を生かした体当たり、そして影を刃に変えるの3種類だが、悔しい事にそれら全てが抜群にかみ合い、攻守共に隙が無い
「……大丈夫か?横島。気持ち悪いとか、そういうのは無いか?」
「うん、大丈夫だよ」
アリスちゃんとシロの側にいる横島君が平気そうな表情で返事を返す。魔人絡みかと思ったけど、あの様子なら違いそうだ。マタドールの時も、だいそうじょうの時も、今思えば横島君の様子はどこかおかしかった。心眼の声が聞こえないのは、きっと横島君の魂の調整をしているのだろう。おキヌちゃんとノッブが姿を消しているのだ、私達も魂にダメージを受けている可能性は高い
「ちっ……決め切れない。なんだあいつは……」
戦況を見つめていた高城が大きくした打ちする。人外の範疇にいる言峰綺礼にブリュンヒルデ、それにクロさんにもう1人の人狼と言う布陣なのに追いきれず、有効打は丸で無い……あの異常な攻撃力に堅牢過ぎる守備。弱点がまるで見当たらない
「状況はかなり不味いですね。美神さん」
「うん……こうやって見てる場合じゃないのは判っているんだけどね」
動けるなら合流するべきなんだろうけど、意識こそハッキリしているがまだ手足は麻痺して、思うように動くことが出来ない。この状況で戦いに出るということは完全に足手纏いになると言うことだ。邪魔にならないように精霊石の結界を作り身を守ることが今の私達に出来る最善である。しかし不思議なのは、どうしてあからさまに足手纏いの私達を狙わないのか、何故執拗にクロさん達を狙うのか?
(そこに何か手掛かりがある?)
さっきまでは私達を執拗に追いまわしていたが、クロさんの姿を見てからはクロさんだけを狙っている。そこにあの狼の弱点を知る何かがあるのだろうか?
「お兄ちゃん。あの狼……生き物じゃないよ?」
「え?」
アリスちゃんが横島君にしがみつきながら、震える声でそう告げる。横島君がどういうことか尋ねると、アリスちゃんは月を指差して
「月と同じ気配がするの……」
影を渡る能力とアリスちゃんの言葉であやふやだった何かが形になろうとしている。だがアリスちゃんの言葉は私達だけではない、あの狼にも、そしてブリュンヒルデ達にも届いていた
【ガアアアアアアアッ!!!】
怒りの咆哮が初めて私達に向けられ、影が高速でアリスちゃんと横島君達に迫る。それはこれ以上自分の正体を知られるわけに行かないと言わんばかりの攻撃だった。反射的に蛍ちゃんと一緒に持っていた精霊石で結界を作るが……伸びた影はまるで氷を貫くように一瞬で精霊石の結界を突き抜ける。その信じられない光景に一瞬完全に思考が停止した
「……やらせるかッ!」
シズクが氷の壁を作り出すが、それはなんと氷の前で弾ける様にして分かれ、横島君達目掛けて伸びていく……
「コーンッ!」
タマモが身体を揺らしながら炎を放つが、影の刃はまるで意思を持ったようにその炎をかわし、横島君達へと伸びていく……私達は危ないと判っていても、身体が動かないので横島君の名前を呼ぶことしか出来ない
「危ないッ!くっッ!?」
私達が動けないのに、横島君は弾かれるように立ち上がり、サイキックソーサーを展開するが、影の刃はそれを簡単に貫き横島君の肩を抉る
「せんせっ!っぐうっ!」
「お兄ちゃん!シロッ!?」
シロが横島君の名前を呼び、短い霊波刀で刃を切り払おうとするが、シロも黒い刃に切り裂かれる。だが2人が立ち塞がった事で、アリスちゃんは守られた。だがアリスちゃんの悲痛な悲鳴が周囲に響く……こんな状況でも動けない。一体あの咆哮にどれだけの魔力が込められていたのか……動かない身体に歯噛みするが、横島君とシロの作り出したその短い時間は高城が横島君達に駆け寄る時間を与えていた
「シッ!」
鋭い声と共に繰り出された霊刀が、影の刃を両断し消滅させる。その圧倒的な技量に驚愕し、ただ切り裂いただけじゃない、一瞬放たれた魔力で何かを切り裂いた所までは判断がついたからだ
「っぐうっ!!このおッ!!伸びろーッ!!!」
肩を抉られた事で、その顔を苦痛に歪めながら横島君が突き出した手から霊波刀が伸びる。それは信じられない速度で狼へと伸び
【グッルウウウウッ!?】
狼の右足に突き刺さった。初めて苦悶の声を上げた狼は大きく後ずさり、横島君を暫くにらめ付けるとアスファルトを砕きながら跳躍し、山の中へと消えて行った……
「……横島ッ!」
一瞬の攻防のあと、弾かれたようにシズクが横島君の元へ走り。ブリュンヒルデ達も駆け寄る中、横島君は肩からの出血で顔を青白くしながら懐から札を取り出し、それに文字を刻むとシロに貼り付けてその場に倒れこんだ
「お兄ちゃん!?」
「おい!横島ッ!?」
アリスちゃんと高城の悲鳴を聞きながら、この状況でも身体が麻痺して動けない自分に、腹が立って、腹が立って気が狂いそうになりながら、今自分に出来る最善をする
「この近くにGS協会が所持している別荘があるわ!そこなら薬とかもあるかもしれない!」
もとよりその場所に逃げ込むつもりだった。ここまで来ればそう遠くは無い
「判りました。横島とシロが危険なので私が美神と横島とシロを連れて先行し、到着後にルーンで皆さんを直接呼び寄せる。それで良いですね?」
良いも何もまともに動ける面子が少ない今。私達は反対出来る立場に無い
「クロ、お前は残れ、拙者がシロに付き添う」
「し、しかし」
「娘の事になるとお前は冷静になれん。少し頭を冷やしておけ」
ポチという人狼はそう言うと、狼に変化しシロをその背中に乗せる。私と横島君はブリュンヒルデに抱き抱えられ、月が照らす夜空を飛び立つのだった……
ブリュンヒルデ殿の術で一瞬で屋敷の前に移動した拙者達は一晩寝ずの番を行い、日が昇ると同時に屋敷の中に足を踏み入れた。大きな屋敷の一室で横になっている横島殿とシロ。だがシロは横島殿が倒れる前に施してくれた術のおかげか出血も少なく、今は穏やかな寝息を立てている。横島殿は汗が酷いが呼吸は整っていて、命に別状は無いだろう。そんな横島殿に寄り添うように眠る幼女と小さな猪と子悪魔、その姿を見れば横島殿の人となりはある程度ポチにも理解出来ただろう。そして拙者はまた横島殿に借りが出来てしまった、拙者の命と娘の命……横島殿にはただただ感謝しかない
「それでクロさん、ポチさん、あの狼何か心当たりがあるの?」
美神殿がそう問いかけてくる。あの狼に関しては正直拙者もポチも知っている事など殆ど無いのだが……持ち出された刀については知っている
「あれは八房。人狼族最高の刀鍛冶が我らの祖先、フェンリル狼の牙を用いて作った妖刀と聞いている。まぁ、そのフェンリル狼とやらがなんなのかは知らないのだが……それが昨日何者かに奪取され、拙者はクロと共に奪還に来たのだ」
ポチが頬をかきながら八房と拙者達がどうしてこの場所に居るのかという理由を話す。だが美神殿達はフェンリル狼の名を聞いて顔を引き攣らせる
「私のお父様の命を1度奪った魔狼ですわね……」
「神と精霊が満ちていた時代の狼ね……世界を滅ぼすほどの力を秘めているわ」
長老から偉大な狼の神と聞いていたが、まさかそこまでの存在とは知らなかった……世界を滅ぼす力を秘めた強大な神と聞いていたが、正直話半分で聞いていたので、まさかそんな相手だったとは夢にも思わなかった
「フェンリル狼となると、今の神魔では勝てぬ相手だな。ブリュンヒルデ様、グレイプニルを借り受けることは可能ですかな?」
あの狼と殴り合いをしていた男。言峰という男がブリュンヒルデ殿に問いかけるが、ブリュンヒルデ殿は顔を歪め
「それが天界とも魔界とも連絡がつかないのです。恐らく妨害電波が発生していると思われます」
「となると、あの狼はガープの手の者という訳か」
小柄な少女だが、威厳と威圧に満ちた少女がそう告げる。拙者の尻尾が逆立ったままなので、見掛けと違うと言うのは嫌って言うほど理解していた
「聖奈さん、それは天界や、魔界からの支援は絶望的と言う事ですか?」
横島殿の額に濡れたタオルを置いていた蛍殿が振り返りながら尋ねる
「……申し訳ないですがそうなります。元々電撃戦を得意とするガープ達です、情報の分断は彼らの得意技です」
天界や魔界と言う場所から応援が望めないとなれば、応援を頼む事ができる場所からになるだろう
「クロさん。人狼の里からって応援は頼めるかしら」
「……難しいでござるな」
元々長老は完全に傍観するつもりだったと告げると美神達の顔が険しくなる。元々人狼は人間が好きではない……協力を得るのはかなり難しい
「最悪武器をかっぱらって来るぞ。里には銀の槍や弓が有る、あれがもし八房を持ち出された時に使えと言われている武器だ」
応援が絶望的ならば武器を奪うしかない。ポチの意見には拙者も全面的に賛成だ
「……だが、あれはフェンリルとは言いがたくないか?魔力も神通力も足りていない」
水神様がそう告げる。あれでも十分すぎるほどの脅威だったのに?あれよりもまだ強くなるのかと戦慄する
「月の魔力で偶像を形にしていたと私は考えます。フェンリル狼はもっと巨大ですから、恐らく横島さんに傷を付けられた事で警戒心が生まれたのでしょう」
あの高密度に圧縮された霊波刀か……あれは確かに拙者も驚いた。まさか人間であそこまで強力な霊波刀を使うとはと驚愕した物だ。だがそれは、相手が凶暴なだけではなく、少しでも不利な条件があれば撤退するほどの知性を持っているという証拠で、状況の悪さを如実に示していた
「凶暴性だけではなく、冷静さも持ち合わせているか……厄介な相手だな」
「そうね、とりあえず。琉璃に連絡を取って見るわ、満月まで10日あるし……くえすも何か調べているみたいだしね」
今朝から姿を見せない、黒い魔女殿。あの触れれば切られるような気配を持った少女の姿が見えない理由に納得した。こうして話し合うよりも、まずは敵の情報収集を選んだのは決して間違いでは無いからだ
【とりあえず皆さんも食事にして、少し休んだ方が良いですよ?】
幽霊のおキヌ殿が食事の準備も出来ましたしと笑う。昨日からろくに休んでいないので、身体を休めることも大事だ。向こうも怪我を負っているのでいきなり襲撃を仕掛けてくることは無いだろう
「私は朝の祈りを捧げていないので、それをしてから頂こう」
言峰殿はそう告げると部屋を出て行く。固い気配を伴った巌のような男……その力強さを見れば、どれだけの修練を積んできたのかが判る。味方にいてくれるという事はこれほど頼もしい事は無いだろう
「う、うーん……あいててて……あれ?ここ何処?」
横島殿がゆっくりと身体を起こし、周囲をきょときょとと見回している
「横島!良かった。大丈夫?気分が悪いとかは無い?」
蛍殿が嬉しそうに笑い、気分はどうだと尋ね、水神様が水を手渡している姿を見て小さく苦笑していると、シロが何事か呟く、慌てて駆け寄ったその時。シロの姿が光り、光が収まった時そこには幼女から少女と言える年齢に成長した姿があった
「……成長期か?シロ?」
「判らないでござるよ、せんせー」
なんか間の抜けた会話をしている2人に緊張感に満ちていた部屋の中に笑い声が零れる
「超回復だわ。そうね、そうよね。これだけ魔力とか、神通力に満ちているんだもん。吸収して身体を回復するのは判ってた事だわ」
美神殿がうんうんと頷きながら、この現象を説明してくれる。娘が急成長したのは驚いたが……元気になってくれたなら良かったと思った瞬間。ぐーっと言う音が重なり
「「腹減った……」」
横島殿とシロの声が重なり、先ほどまで部屋の中に満ちていた重苦しい沈黙は何時の間にか何処かへと消え去っていたのだった……
リポート19 魔狼の咆哮 その4へ続く
次回は人狼の里の話や東京で待機しているエミ達の話と横島達の修行風景を書いて行こうと思います。あとはその次ガープ陣営とアルテミスを出して行こうと思います。それでは次回の更新もどうかよろしくお願いします
視点が変わる時にそのキャラの視点と言う事を表記するべきか
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サイドまたは視点は必要
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今のままで良い