GS芦蛍!絶対幸福大作戦!!! セカンド 作:混沌の魔法使い
リポート23 妙神山 その3
~小竜姫視点~
朝靄が掛かる中、ややぼんやりとした思考のまま廊下を歩いていると、庭の方から横島さんの声が聞こえてきた。思わず欠伸しかけたのを噛み殺し、下駄を履いて庭に出る。
「うきゅーうきゅきゅー♪」
「良し良し、上手上手」
横島さんが庭に片膝を着いて擦り寄っているモグラちゃんの頭を撫でている姿が見える。
「よし、今度はうりぼーだ。とってこーい」
「ぷぎゅーッ!」
円盤を優しく投げると、うり坊がそれを追いかけてダッシュする。見た目はとても可愛いのですが、その身に秘めている神通力は凄まじい。まだ覚醒こそしていないようですが、もし目覚めればそれこそ神獣クラスに間違いない、一体何処で拾って来たのでしょうか。
(横島さんらしいと言うところですかね?)
動物に好かれ、動物を大事にする。ちょっと大事にしている動物が普通じゃないですが、こうしてみている分には微笑ましい。
「あら?」
こつんと足に何かが当たる感触がする。少し考え事をしていて、飛んで来た円盤に気がつかなかった
【ノブー】
ちょこちょこと言う感じで駆け寄ってくる小人。英霊織田信長の分身の術で生まれたらしい、それはとてとてと寄ってきて、私が手にしている円盤を見つめる。
「あ、はい。どうぞ」
【ノブー♪】
「んーあったか?あ……小竜姫様。おはようございます」
円盤あったー?と言いながらこっちに歩いてきた横島さんが私に気付いてぺこりと頭を下げてくる。
「おはようございます。随分と早いですね?」
「いや、あはは。モグラちゃんが遊ぼう、遊ぼうって騒ぐから、シズクにうるさい!って部屋を叩き出されちゃって、シズクが朝弱いって始めて知りましたよ」
モグラちゃんを抱き抱えて笑う横島さん。シズクさんは竜神ですが、元は蛇の大蛇。寒さには強いですが、朝は低血圧は上手く動けないようですね。ただでさえ、山の上で気温が低いので余計にそうだろう。
「横島さんは大丈夫ですか?修行をするのにこんなに朝早くから起きて。結構ハードですよ?」
1から徹底的に叩きなおすので辛いですよ?と言うと横島さんは抱えていたモグラちゃんを地面の上に降ろして、遊ぼうと言わんばかりに自分の側に集まってくる小動物達の頭を撫でながら、本当に楽しそうに笑う。
「修行始まると遊んであげれないですからね。だから少しくらい早起きしても全然平気ですから」
「みむう!」
グレムリンがボールを抱えて浮かび上がるのを見て、じゃあ次はボールだなと笑う。
「じゃあ小竜姫様。失礼します」
ぺこりと頭を下げ、再び広い所に移動してボールを投げる横島さんを見て、思わず笑ってしまった。無邪気な少年と言う感じがして、なんと言うか可愛いと思ってしまった。
「ふふ……なんと言えば良いんでしょうね」
楽しそうに鳴くモグラちゃんやうりぼー達と白い息を吐きながら遊ぶ横島さんの姿を見て、なんと言えば判らないが、とても微笑ましい気持ちになりながら、朝食の準備をする為にキッチンに足を向けるのだった。朝食の準備を始めてから30分ほどでダダダダッ!!と廊下を走る音がして、キッチンの扉が勢い良く開きシズクさんが姿を見せる。
「……コンロは空いているか!?」
「え、ええ。大丈夫ですけど?」
味噌汁の準備は終わり、今漬物を切っている所なのでと言うと、シズクさんは味噌汁に蓋をすると、鍋敷きの上に移動させ。片手鍋を手にして、冷蔵庫から牛乳を取り出す。
「何をするんですか?」
「……こんなに寒い所では身体が冷える。温かいココアを作って横島に持っていくんだ」
ココアの粉と砂糖を鞄から取り出してマグカップに入れている姿は、とても八岐大蛇の系譜の最上級の蛇神には見えず。なんと言うか世話焼きの妹みたいな感じで思わず笑ってしまった。
「……何か言いたいことがあるのか?」
「い、いえ!あ、横島さんは卵焼きは甘いのですか?」
物凄い目で睨まれなんでもないですと言って、慌てて話題を変えるとシズクさんは甘い方と呟きくと、ココアを手にしてキッチンを出て行った。
「下手な事は考えない方がいいかもしれないですね」
少なくとも2週間は滞在するのだ。関係がギクシャクするのは良くない、それに何よりも、今のあの目。温かみなど一切無いその瞳、丸くなったと思いましたが、そんな事は無いのだと一目で悟った。
「さてと後はご飯が炊き上がれば朝食の準備は終わりですね」
健全な精神と魂は健全な肉体から、修行の前にしっかり朝食を取ってからだ。今日は美神さん達の基礎身体能力の確認とする為に軽く模擬戦の予定だ。ヒャクメは少し忙しいので、夜にしか来れないという話なので、待っていて1日ロスするのは余りに惜しいので、ヒャクメの診察を後回しにして、先に美神さん達がどれだけ成長しているのか、それを確認する事にしたのだ。
【ぐっ、惜しい……あれだけ無防備で、しかも笑顔を浮かべる私だったならば……】
そして小竜姫の魂の中の未来の小竜姫は先ほどの無防備な横島を見て、とんでもない好機だったのにと、唇を噛み締めるのだった……。
~美神視点~
朝起きて顔を洗いに行く途中で縁側に腰掛け、ココアを啜っている横島君と、その脇に置かれているボールとフリスビーと、頭を抱え小さくなっているチビ達の姿。
「……朝から遊んでたみたいですね」
「そうね。ちょっと注意しておきましょうか」
普段の修行とは違うのだから、しっかり休むように注意しようと思って足を其方に向ける。するとシズクの声が聞こえてきた。
「……遊んでやりたいのはわかるが、修行の事も考えろ。お前心眼に怒られると思って、心眼を置いて行っただろ?」
「……はい」
一言言ってやろうと思ったんだけど、既にシズクに叱られているようなので何も言わずに、昨日案内された洗面台に足を向けるのだった。
「では今日は軽く模擬戦などをしたいと思います」
朝食の後の小竜姫様の笑顔の言葉に、いきなり死ぬんじゃないかしら?と思った。神族で武神で竜神と組み手どう足掻いても勝てないんだけど……厳しい訓練にしても厳しすぎる。
「あ、でも安心してください。体術や武器の扱いを見るだけなので、そこまでやる気は無いですし、まずは英霊の皆さんからです」
【【【え?】】】
なんかボロボロの状態の3人が引き攣った声で返事をする。小竜姫様はにこにこと笑いながらも、額には青筋が浮かんでいた。
「昨日ずいぶんと暴れてくれたみたいで、元気が有り余っているようですから」
ああ、昨日の騒ぎってノッブ達だったんだ。いつまでもバタバタしていると思った。
「うー眠いー」
「ほら、タマモ。しゃきっとして、ちゃんと朝ご飯食べないと」
机の上に突っ伏して欠伸をしているタマモにご飯を食べるように言う横島君に、私は食後のお茶を啜る。
「それ、横島君もよ」
「うん。早く食べないと身体動かないわよ?」
私と蛍ちゃんの注意に、横島君はうっと呻く。今までチビ達の世話をして、今度はタマモ。全然食事が進んでいないので横島君も早くと注意する
「せんせー、まずは食べて軽くストレッチをして、身体を解すでござる」
【周りを気にするのはいいが、自分の事も優先しろ】
「……はい」
皆に注意され、しょんぼりしながら自分の分の朝食にやっと箸を伸ばす横島君。
【あ、お味噌汁温めてきますね?】
「うん、ごめん。お願いするわ」
既に冷めている味噌汁をおキヌちゃんに渡し、温めなおして貰う間、卵焼きと漬物で白米を食べる横島君。温かい内に食べないからと思う。
(まずはノッブ達の動きで小竜姫様のパターンを見ましょうか)
(そうね)
先にノッブ達が戦うのは、何も昨日暴れたからだけでは無いだろう。まずは肉体的疲労が無い英霊から戦い、自分のパターンを私達に見せて、その上で体力なり、神通力が消耗した段階で私達と戦うと言う小竜姫様の考えだろう。
「……ほら、食え」
「ぶぶ!ちょっと!無理矢理詰め込まないでくれる!?」
私達が真剣に考えているとなりでタマモがシズクに無理矢理食事を詰め込まれ、呻いてるのを見てどうも締まらないなあと思うのだった……
GS試験でも用いられた互いの霊力にダメージを与える結界の中での模擬戦になったんだけど、周りに被害が出ない。そして全力で攻撃しても大丈夫と言う環境で初めて牛若丸やノッブの全力を見た。
【シッ!】
「そうそう簡単に貰いませんよ!」
光のようにしかも見えない牛若丸の刺突を小竜姫様は剣の腹で受け止め、受け流しと同時に横薙ぎの一撃を繰り出す。
【こちらも簡単には直撃は貰いません】
身を捩りながら跳躍し、結界の上を蹴って小竜姫様から距離を取り、刀を構える牛若丸。片足で軽くリズムを取って、距離を一定に保つ。
「ノッブちゃんから見て、優勢なのは?」
既に模擬戦を終えたノッブに横島君に尋ねる。ノッブは胡坐をかいて、顎を手の平に乗せ、牛若丸と小竜姫様の戦いを見つめる。
【小竜姫じゃなあ、ワシも牛若丸も自分の意識の感覚と、身体の動きに差がある】
感覚と身体の動きの差異。それを治したいと言っていたけど、そんなに大きな差異なのだろうか。
「そんなに酷いのかしら?」
蛍ちゃんがノッブにそう尋ねる。何度か除霊を一緒にしているが、そういう素振りは無かったと思うけど……本当にそんなに問題が出るレベルなのだろうか?と思うのは当然だ。
【んー普通に弱い相手と戦うなら全然平気じゃ。ただ相手が格上もしくは同格となると、身体と感覚の差が出てくる。ほれ見てみい】
ノッブに言われて小竜姫様と牛若丸の対決に視線を向ける。
【くっ!】
「間合いと呼吸が乱れましたねッ!」
今まで完全に間合いを保ち、剣の打ち合いをしていた牛若丸と小竜姫様。その間合いと打ち合いのリズムが大きく乱れ、小竜姫様の切り上げで牛若丸の手から刀が弾き飛ばされる。
【参りました】
「いえ、いい勝負でした」
牛若丸が両手を上げ、降参の意を示す。だがその目は全く負けたと思っているようには見えない、それは自分の思うように動かない身体に対する苛立ちが目に見えていた。
「霊力のバランスが整いましたら、また1勝負しましょう」
【……ええ、次はこうは行きませんので】
眼光鋭く結界から出た牛若丸はそのまま、横島君の所にダッシュして来て、深く頭を下げる。
【うううう!す、すみません!負けましたぁ!!】
「うんうん、大丈夫俺は牛若丸が強いってよーっく知ってるから、次があるよ、次が」
良し良しと言いながら牛若丸の頭を撫でる横島君。なんかこう、溢れる包容力が見え隠れしてる。
【ノブ!】
「みむみー」
「ぷぎゅー♪」
【うう、ありがとう。次は!次はこんな無様な姿は見せません!】
チビ達が持って来たタオルとジュースを飲んで、握り拳を作る牛若丸。その気合に満ちた表情を見れば判る、妙神山にいる時間全てを使って小竜姫様にリベンジをしようとしているのがよく判る。
【では次は私ですね。では横島君、行って来ます】
「頑張ってなー、あ、でもあんまり無理をしないように」
【コフるなよ、へっぽこ人斬り】
横島君の言葉には嬉しそうに笑い、ノッブの言葉にうるさいですと怒鳴り結界の中に入る沖田ちゃん。
(相手は幽霊だからね?)
(判ってます。判ってますよ)
蛍ちゃんがぶすっとしているけど、相手は幽霊だから、絶対に横島君を結ばれることは無いんだからね?と声を掛ける。
「せんせー。沖田殿と小竜姫様。どっちが勝つと思うでござるか?」
「気持ち的には沖田ちゃんだけどなあ、多分小竜姫様じゃないかな」
膝の上で丸くなっている子狐モードのタマモの背中を撫でながら、横島君が言う。
【それは感情的に言っているのか?】
「いんやあ、違うぜ?沖田ちゃんとかノッブちゃんとか牛若丸とか、良く組み手とか、戦い方を教えてくれていたから思うんだけど」
そこからの横島君の言葉は私も蛍ちゃんも驚いた
ノッブちゃんは剣も銃も使えるけど、どっちかと言うと銃の方が得意だから、間合いを詰められると弱いし
牛若丸は機動力が命なのに、結界の中じゃあ思うように動けないし、何より刀だから下手に小竜姫様の剣を受けると刀が折れる
沖田ちゃんも機動力が武器で、刀は切るんじゃなくて突くように使うから、死角を取れればチャンスはあるかも
と告げた。それは的確で正確な状況判断能力で、その話を聞いていたノッブが満足そうに笑う。それは自分の弟子の成長が嬉しくて仕方ないと言わんばかりの物だった。
(これはちょっと気合を入れていかないと不味いかもね)
横島君がどんな英才教育を受けているのか?それを改めて知った。師匠としてあんまり情け無い姿を見せるわけには行かないと私も気合を入れ、次の小竜姫様との組み手の事を考える。
「だ、大丈夫ですか?」
【ケフ……む、無念】
そして小竜姫様と沖田ちゃんの勝負は予想通りと言うか、なんと言うか、沖田ちゃんが吐血し、顔面から倒れこんでの敗北となった……。
「……お昼は天ぷらでもするか」
【あ、それなら天つゆ作りますね】
そして修行をしないシズクとおキヌはのんびりと昼食の準備を始めているのだった……。
~小竜姫視点~
美神さんと蛍さんとの組み手も終わり、最後の横島さんとの組み手の前に正座をし、一時気を静める。脳裏に過ぎるのは先ほどの蛍さんと美神さんとの組み手だ。
(同じ道具使いですが、2人ともまるで戦術が違いましたね)
英霊の3人と比べれば(1人だけは映霊でしたが)人間の2人は魂の出力や身体能力で劣る。だから霊具ありで、装備も万全での戦いとなったのですが、蛍さんは終始待ちの戦闘スタイルで、破魔札を敢えて私に切り裂かせる事で、切り裂かれた破魔札の中の力と霊力を共鳴させての大火力による一発逆転を狙いながらも、霊体ボウガンと自身の得意技能である幻術を組み合わせ、ほんの少し、ほんの少しずつ私の間合いを崩すと言う2段構えの耐久戦を仕掛けてきた。
「うーやっぱ相手の踏み込みが厳しかったわ」
「大丈夫か?」
横島さんが霊力の消耗でダウンしている蛍さんをタオルで仰ぎながら、水を差し出す姿を見て小さく笑う。蛍さんの戦術は素晴らしい物で、確かに近接を得意をする相手にとっては厄介な戦い方だった。ただ蛍さんの言うとおり、私の踏み込みそれと幻術による、間合いの撹乱。それがどうしても蛍さんの計算を上回っていた為、幻術による撹乱が中途半端だったのが敗因だ。結界で私にはある程度の能力の制限がかかっていたからこそ、私にも効果が出ていた。これが普通の人間や妖怪相手なら十分有効な戦術だっただろう、神魔には効果が薄いでしょうが、人間や弱い幽霊相手には実に効果的だと思う。
(美神さんは彼女らしいと言いますか)
美神さんが取った戦術はシンプルな物だった。神通棍で殴りかかると思わせて、精霊石の粉末による目晦ましを至近距離で使い。私の視界と霊力を感知する能力を麻痺させ、自身は防御札を全身に貼り付け、1発2発貰ったとしても、私の感覚が麻痺している間に少しでも痛打を与え、あわよくば結界で制限されている私の霊力を削りきると言う事を考えた突撃。普通に戦っても、持久戦に持ち込んでも勝てないのならば、短期決戦で少しでもダメージを与えると言う戦法を取った。それが思いの外苦しい戦いになった。
(これは私も気をつけないといけないですね)
絡め手や間接攻撃はさほど得意では無いからこそ、完全に美神さんの策に嵌ってしまった。勝てないと覚悟して、少しでも痛打をと、全力で打ち込んできたと思い。その一撃をあえて受けて、返しの一撃でと思って身構えた瞬間の零距離での精霊石の爆発。竜族や神族だったとしても感覚が麻痺する痛烈な閃光だった。視界は見えない、霊力は感知できないでそれは終始苦しい展開となってしまった。
「ぐ、あいたたた……あの剣で居合いとか予想外すぎるわよ」
見えないのなら見なければいい。自分の間合いに入った瞬間の一太刀。それで美神さんを行動不能にした、少々力が入りすぎてしまったが、それだけ私を追い込んでいたと思って貰えると幸いですね。
「良し」
やっと視界と霊力を感知する感覚が戻ってきた。ゆっくりと立ち上がり、横島さんの名前を呼んだ。
「横島さん。お待たせしました」
「あ。うっす!シロ、悪いけど、シズクを呼んで来てくれるか?蛍と美神さんの様子を見て欲しいって」
「判ったでござる!すぐ戻ってくるでござるよー!」
シロさんにシズクさんを呼んでくるように頼み、立ち上がった横島さんの手には木刀が握られている。横島さんが武器を持つ所はあんまり見た事が無いですが、彼の事だからきっと面白いものを見せてくれると思い。結界の中に入ってきた横島さんと対峙する。
「よろしくお願いします」
「はい、よろしくお願いします」
横島さんがそう頭を下げ、木刀は左手で片手で持ち、右手は霊力で出来た篭手。右手を突き出し、左手の木刀は切っ先を下に向け、斜め下に、そして横島さん自身が斜に構えているので右手がやけに大きく見える。今まで相手した中でこんな構えの相手と戦った事が無い、何をしてくるか判らないので今までと異なり自分から攻め込む事が出来ない。
「!」
突然右手が巨大化した。巨大化したように見えたとか、攻撃で霊力の篭手が伸びたとかでは無い。文字通り、霊力の篭手が横島さんが開いた手の形で巨大化し、私に迫ってきたのだ。
(軽い!?)
神剣で迎撃しようと横薙ぎに振るったのだが、それは驚くほど軽く。簡単に弾き飛ぶ、だがそれと同時に困惑した。
(どこへ!?)
横島さんの姿を一瞬見失った。だが背後から気配を感じ、腰に挿した2本目の神剣を後手で抜き振るう。
「とっ!っと……やっぱ駄目か」
「いや、今のは結構良い線行ってましたよ」
霊力の篭手を伸ばすと同時に切り離し、自身はその篭手を影にして移動。相手が篭手を切り裂いた瞬間に霊力が霧散し、視界を奪った間に背後に回る。いきなり手が巨大化すれば、相手は困惑する。それを利用した中々面白い攻撃でしたが……。
「でも面白いだけではッ!」
反転し、横島さんを正眼に構えようとした瞬間。その姿が消える……いえ、違う!これは!即座に顔を上げると横島さんの姿は私の頭上にあった。
「よっと!」
篭手を結界の上に伸ばし。それを縮めることで一瞬で上空へ退避した!?結界の上を蹴って離れた所に着地する
(読めない)
横島さんの行動がまるで読めない……流石に眼魂を使うとは思えないですが、それでも横島さんの動きが読めない。自由にさせてはいけないと思い、前に足を踏み出した瞬間。ガクンっと態勢を崩す。
「これは!?」
何が起っているのか判らなかったが、横島さんが何かをしたのは判る。態勢を崩している私に指を噛み切った横島さんが空中で文字を描いた。
「急急如律令ッ!氷精招来!」
空中に刻まれた文字から冷たい靄が溢れ出し、私の手元を包み込む。
「つ、冷たい……」
ダメージは殆ど無い。だが手がかじかんで力が入らない。
「行きます!」
木刀を両手で構え振り下ろしてくるのを、後ろに飛んでかわす。馬鹿正直に声を……。
「伸びろーッ!」
「しまっ!?」
霊力の篭手が伸びて私の足を掴む、ぐんっと引っ張られる感覚と共に横島さんの方に引き寄せられる。完全に引っ張られる前に、短い方の神剣で霊力の篭手を切り払い、地面に手を付いて大きく距離を取る。
「うーん、今のも駄目か」
横島さんは不満げだが、正直少し焦った。奇策、徹底的に奇策なのだが、柔軟すぎる発想が怖い。
「ちょ!?横島君!?今札無しで陰陽術使わなかった!?」
「え。あ、はい!前に人形使いに襲われた時に使えるようになりました!すッごい疲れるんであんまりやりたくないですけど」
陰陽術は札を必要とするのが前提なのに、それを覆した。才能と言うのか、それとも型にはまらないとでも言うのか、どっちにせよ恐ろしい能力だ。だが次の横島さんの行動は完全に驚かされた。
「俺が思いついたのは駄目だったので、今度は……これで挑戦します」
霊力の篭手を解除し、木刀を両手で構え正眼でこっちを見つめる。それは鏡合わせのように私と同じ構えだったのだ……。
~蛍視点~
結界の中で木刀と神剣がぶつかる音が何度も響く。私はその光景を見て心底驚いた、こうして打ち合う前の横島の戦術も驚かされたが、今目の前の光景はその驚きを越えていた。
「「シッ!」」
同じタイミング、同じ呼吸、同じ腕の振り全て同じで振るわれた木刀と神剣がぶつかり、ガツンという重い音が響き、弾かれたように横島と小竜姫様が間合いを取る。だがその姿は完全に同じで、頭が混乱してくる。
【別に驚くことでもなかろうに。横島は自分の経験では届かないと判断した、じゃあ届かせるにはどうすればいいか?簡単じゃ、相手の真似をすればいい。一挙手一投足その全てを真似している】
【主殿はそれを平然とやりますしね】
ノッブと牛若丸の声が聞こえるが、私の頭の中はありえないの言葉で埋め尽くされていた。何処の世界に相手の動きを見て、真似して神族と打ち合える人間がいると言うのか。
「……お前と美神がいるから、追いつこうと頑張って、頑張って、それでも届かないから届く為に横島がたどり着いたのが真似をすることだった」
「見取り稽古という奴でござるな……でもそうだとしてもせんせーは凄いでござる」
小竜姫様は手加減してくれている。それでも人間には反応するのがやっとの境地だろう、私では1回か2回打ち合うのが限界だ。
「本当に全て真似をするのですね?」
「……」
小竜姫様の問いかけに横島は返事を返さず、小竜姫様が放った突きからの薙ぎ払いを完全に真似し、再びガツンという重い音が響く。
「ふふっ、修行中と言う事を忘れそうなくらい楽しいですよ」
小竜姫様の酷く上機嫌な声が聞こえる。袈裟、逆袈裟、薙ぎ払いに突き、そして足裁き。その全てを真似してみろと言わんばかりに横島に向かって繰り出し、横島もそれに必死に喰らい付いて行く。
(これが横島の才能なの?)
天性の才能に胡坐をかく事無く、研磨し、磨かれ続けた横島の才能。人界の鬼札とまで言われたその実力が開花された……。
「そろそろ限界ね。シズクお願い出来る?」
「……言われなくても」
美神さんとシズクが何か意味深な話をしてどう言う事か尋ねようとした時。それは起きた……お互いに木刀を振り上げ、振り下ろそうとしたその瞬間。
「へもお……」
「っきゃ!?え、え!?」
【「ちょっとー!?」】
急に横島が訳の判らない奇声を上げて倒れこみ、そのままの勢いで小竜姫様を押し倒すのを見て、私と沖田さんの声が重なった。やっぱりこいつは敵か!?今認識した。タマモが狐の姿で吼えていたのは無視する。
「ちょっ!?ど、どうしたんですか!?」
「う、うぎい……腕も足も……全身がいたいい……ううう」
ぴくりとも動かず呻き声をあげて言う横島の下から、小竜姫様が這い出てくる。
「小竜姫様みたいにずっと剣術を鍛えている相手の真似をしたら、鍛え方が足りない横島君じゃあどっかおかしくなるもの当然よ」
美神さんがぴくりとも動かない、横島の前に立ち無理しすぎと怒る。
「うー……そうなんですかあ?」
【鍛え方がまだ足りなかったか】
呻いている横島と、心眼の残念そうな声を聞き。沖田さんとにらみ合いをしながら、私は横島の元へと駆け寄る。
「大丈夫?」
「……いひゃい。動けにゃい」
……舌が回ってない横島の声に思わずときめていると、うりぼーが駆け寄ってきて、横島のお腹の辺りに頭を突っ込み、お尻を振って横島の下にもぐりこみ、巨大化する。
「うきゅ!」
「みみう」
モグラちゃんが運びたかったと抗議するが、うりぼーの方が早かったとチビに窘められる。
【まぁ、良くやったほうじゃな】
【そうですね。でもやっぱり剣の修行をして無い分が響きましたね】
観戦をしていたノッブと牛若丸が立ち上がり、吐血している沖田さんの足を掴んで引き摺って行く。
【よ、よごじまぐーんんん】
うつ伏せになっているので物凄いだみ声で横島を呼ぶ。横島に父性を感じるとか言っていたけど、本格的にやばい人だったようだ。
「拙者、せんせーが心配なので組み手はまた後にして欲しいでござるよ」
「……え、え。あ!そうですね!横島さんの治療を優先してあげてください。結構無理をしていますから」
顔と耳が真っ赤の小竜姫様にまさか?と思いながらも、横島の方が心配なのでうりぼーに乗せた横島を建物の中へと運ぶのだった。
「……筋を痛めてるか、湧き水が良い所で良かったな。心眼、もう少し横島の突撃癖を何とかしろ」
【やりたいと言う事は挑戦させる方がいいだろう?】
部屋での治療の一幕が、過保護な母親と放任主義の父親みたいな感じで、思わず笑ってしまった。安静の為に部屋から出た所で、美神さんが声を掛けてきた。
「横島君の成長速度は凄まじいわね」
「そうですね」
美神さんは既に成長しきっていると本人も自覚している。私はまだ霊力とかは伸びるが、技術的には既に成長しきっている。横島は知識も技術も足りないからこそ、その成長幅と速度が私達よりも遥かに大きい。
「ちょっと本格的に小竜姫様に相談しよう」
「ですね」
慕ってくれていて、そして私達を立てようとしてくれているのに、そんな私達が横島よりも弱いのでは話にならない。自分の限界を感じているが、それが限界なのか、それともその先があるのか小竜姫様に相談することを決めるのだった……。
リポート23 妙神山 その4へ続く
次回は修行を見ていた老師と小竜姫の反応から書いて、夜にヒャクメと言う感じで話を進めて行こうと思います。今作は仮面ライダーも混じっているので、横島=仮面ライダーと成りがちですが、それ以外の能力もちゃんと伸びているのでご安心ください。それでは次回の更新もどうかよろしくお願いします
視点が変わる時にそのキャラの視点と言う事を表記するべきか
-
サイドまたは視点は必要
-
今のままで良い