GS芦蛍!絶対幸福大作戦!!! セカンド 作:混沌の魔法使い
リポート23 妙神山 その7
~美神視点~
夕食の後、小竜姫様、竜神王、そして老師の3人と私で横島君についての話し合いを始めた。ヒャクメもいると思っていたんだけど……その姿が無い事に、少し違和感を覚えた。
「ヒャクメは本当なら休暇ですから、でも詳しい話は聞いているので大丈夫ですよ」
私の怪訝そうな顔を見たからか、小竜姫様がそう付け加える。休暇……か、嘘だと思ってたけど、本当に休暇だったみたいね。
「それじゃあ、今回はよろしくお願いします」
神族……しかも竜族のトップが直々に動いてくれているのだ。これはただ事では無いと思い、姿勢を正し頭を下げる
「そう緊張しなくてもいい、神魔が思うように動けず、人間達に迷惑を掛けている事は私達の不甲斐なさだ。神魔大戦の折りの敗戦者と侮っていた神魔全体の落ち度でもある」
敗戦者……か。確かに1度負けて敗走した相手がこれほどまでの力を付けて戻ってくるなんて普通は思わないわよね。
「それもあるが、神魔同士の利権の争いなどが邪魔をして、思うように動けぬと言うのもあるからの」
「……厄介な連中ですからね。反デタント派は……」
神魔だからそんな事は無いと思っていたけど、どうも神魔のほうも人間みたいな政治的なやりとりがあるのね……話には聞いていたけど、ここまで酷いとは思ってなかった。
「それよりもだ。大事なのは横島の状態だ」
ヒャクメから預かっていると竜神王が言いながら、鞄から何かの書類を取り出して、私達に手渡ししてくる。まさか、竜神王から手渡しされるなんて思ってなかったので、内心驚きながらそれを受け取る。
「見終れば廃棄する。内容は出来る限り各自で覚えてくれ」
その言葉に頷き渡された書類を捲る……1番最初のページはカルテだった。
(こっちの方は大丈夫みたいね)
マタドールとの戦いでのマスタードラゴン。その後遺症で横島君が味覚や痛覚などを失ったが、それに対する副作用などは無いようだ。それを見て小さく安堵したのだが、次の書類を見て、その安堵は一瞬で消し飛んだ。
(……え?な、なにこれ……!?)
それは前にヒャクメが来てくれた時の私達の検査結果。私や蛍ちゃん、それにノッブ達は大した変化も無い、強いていれば筋力が上がっているとか、霊力が上昇しているとか、そんな感じだ。と言っても私の場合は誤差の範囲と言えるだろう、蛍ちゃんは成長期なので良く能力が伸びている。これは納得なのだが、横島君の場合。身体能力も霊力も恐ろしいほどに成長している……いや、これは成長なんて言葉で片付けてはいけない……これではまるで進化だ。
「……横島の能力の伸びが恐ろしいの、これは真か?」
「はい。ヒャクメが何度も検査した結果なので確実とのことです。そしてその上で、ヒャクメと私なりの推測をして見ました」
別人というほどに変化している横島君。その理由を推測したと言う竜神王。そしてその理由は私からすれば如何しても納得できないものでもあった。
「横島は英霊や神霊と融合し、そしてその度に魂に強い負荷をかけてきた。常人ならば、神魔の魂に自分の魂が蝕まれ、自我を失っていてもおかしくは無い」
それはヒャクメにも聞いていた。横島君が人外になるかもしれないという危険性として……だから私も蛍ちゃんも気をつけていたつもりだ。ただ横島君の突撃癖には悩んでいたし、それに最近後遺症も弱くなっていると言う事で、複数の眼魂を使わなければ大丈夫なのでは?と思っていたのだが……。
「普通なら取り込まれるはずの人間の魂が逆に神魔の魂を取り込んで強化しているのではないかと考えている。人間の魂のままで駄目ならば耐えれるように変化すればいいとなったのかもしれない、横島の魂は人間のまま、人間の殻を破ろうとしている。人間のチャクラが中立として、神族の魂が陽、魔族の魂が陰、それらが交じり合うことでどうなるのか、老師ならば判るでしょう」
「ちょっ、ちょっとまって!人間のまま人間の殻を破ろうとしているってどういう意味よ!?もっと判りやすく説明してくれない!?」
意味が判らない、私にとって大事なのは横島君がどうなるのかだ。そんな専門的な事を言われても理解出来ない。
「簡単に言うとじゃな、横島は……ワシ等に近い存在になる。尸解仙……肉体ではなく、魂こそが存在の証となる……簡単に言えば仙人とも言える」
「ま、待ってください。横島さんが仙人なんてそれは飛躍しすぎではありませんか!?」
黙って話を聞いていた小竜姫様がそこで声を荒げたが、それは竜神王の落ち着けと言う言葉で黙らされた。
「魔人ヘルズエンジェル……速さこそ命と言うあやつは韋駄天の友ならばと、身体と霊使構造を調べることを了承してくれた。その結果でもある、魔人は……邪仙と呼ばれる存在とほぼ同じ存在であると言う事が判った」
「仙人と邪仙って何か違うの?」
同じ仙人だと思うのだけどと言うと老師がキセルを吹かしながら、より詳しく説明してくれた。
「基本的には同じじゃが、邪法と呼ばれる物に精通していたり、己の欲望に忠実であったり、仙人らしからぬ仙人とも言えるかの」
本当はもっと細かい分け方があるが、そこまで説明する必要もあるまいてと老師は笑うが、私からすれば笑い話では無い。
「横島君が魔人に近づいているというのと何か関係があるの?」
「それは判らない、ヘルズエンジェル曰く、魔人は死んで蘇ると言う事から仙人の生まれに近いとは思うが、確信は持てぬ。かと言って確信を得るために横島を殺すわけにもいかん」
「「当たり前です!!」」
私と小竜姫様の怒声が重なる。竜神王は勿論そんなことをするつもりは無いというが、その顔は険しい。
「魔人=仙人と考えるのはまだ危険ではあると思う。なんせ魔人自体が良く判っていないからな。ただ横島が変質しかけているというのもまた事実」
横島君の変化。それは確かに深刻な物だ、今直ぐどうにかなるという訳では無いが、それでも十分に警戒する必要がある。
「老師。修行をみている時に横島の状態はどうですか?」
「可でもなく、不可でもなく……普通にしている状態では、特に何も感じないが……戦闘による極度な興奮状態が関係しているのかもな……なんにせよ、様子見が必要じゃな」
横島君が変化していることは判ったが、前例の無い事なので様子見が必要と言うのが今回の話し合いで出た結果だった。
「今は何も出来ないが、どんな事でも私達は協力する。不安にさせることしか言えず申し訳ないが、そこは許して欲しい」
許して欲しいと深く頭を下げられ、駄目だ等と言える訳が無い。しかし私も何を言えばいいのか分からないのも事実……まさかこんな事になるなんて夢にも思っていないのだから……、もう大丈夫と言う安心が欲しかったのにより悩む結果になるなんて考えているわけが無い。
(どうしてこんな事に)
横島君は最初こそスケベな面があったが、今では落ち着き。本来の性質であろう穏やかな面が強くなってきた、何度も思う、横島君の天職はきっと保父のような仕事だろう。最も戦いから縁の無い性格のはずなのに、戦いの中心になってしまう横島君……それが運命だというのならば、なんと過酷な運命なのだろうか……。
(蛍ちゃんと出会ったのが間違いなのか、それとも私の事務所に来たのが間違いだったのか……)
どうして横島君が霊能なんて物に携わってしまったのか?もしも霊能に関係なく、生きていたのならと思わずには居られなかった。
「なんにせよ、横島はこれからも戦いの中心になるじゃろう、あれはそういう運命の元にいる。ワシも何度も見てきた」
戦いなんて縁の無い性格をしているのに戦いの中心になってしまう。乱世の時代ではよくあったことだと老師は言う、思わず声を荒げてしまいそうになったが、深い悲しみを湛えたその瞳に何も言えなくなってしまった。
「じゃが横島は1人ではない、それこそが横島の救いとなるじゃろうな」
勿論ワシ達も協力するがと老師は言う。横島君を1人にしないこと、そして横島君1人に負担を掛けないこと……それが私達が妙神山に来た理由なのだ。
「明日より、本格的な修行に入るがよろしいな?」
「よろしくお願いします」
師匠として、何時までも横島君にだけ負担を掛けたくない。それが今回の妙神山での修行の目的だ、今よりも厳しくなると聞いたが、私は迷う事無くお願いしますと頭を下げるのだった……。
「美神さん、横島の様子は?」
「とりあえず今は大丈夫みたいだけど、魂が変化しかけてるのは確実らしいわ。ただそれが良いか悪いかはまだ判らないらしいけど」
深夜まで話し合っていたのに、起きていた蛍ちゃんに横島君の今の状態を伝えると、その表情が明らかに曇るが、正直神魔でさえも判らないという結果では不安にしか思わないのも当然だ。
「でも横島君を1人にしてしまえば、魔人みたいになるかもしれないけど、そうじゃないでしょ?」
横島君の周りには色んな人がいる。だから横島君を1人にしないこと、そして怖いと思わないことが大事で、支えてあげることが大事なのよと言うと蛍ちゃんは小さく頷き、布団を被る。多分色々考えたことがあったのねと思いながら私も明かりを消して布団を被る。前々から思っていたけど、蛍ちゃんと横島君には何か特別な縁があるのでは?と思った。人間じゃなくなるかもしれないという言葉に、信じられないほどに表情をゆがめた蛍ちゃんに私はそう思わずにはいられないのだった……。
~横島視点~
時間は少し遡り、美神達がそんな話をしているなんて夢にも思っていない横島の部屋では……とてもほのぼのとした時間が過ぎていた。
「ぷぎゅう♪」
「可愛いです」
人懐っこい性格のうりぼーとそんなうりぼーの顔の近くにしゃがみ込み、頭を撫でる天竜姫や、シロやタマモ、それに清姫、シズクの姿もあり、しんみりとしている美神達の部屋とは異なり、明るい空気に満ちていた。
「ふっふーせんせー、今度は拙者がせんせーに美味しいお肉を食べさせてあげるでござるよ」
「結構動物も見るしね、やっぱり鹿ね。赤身が多くて美味しいわ」
明日は自分が美味しい肉をとってくるとやる気に満ちているタマモとシロ。俺は膝の上のモグラちゃんの毛並みを整えながら、注意事項を口にした。
「うり坊と猪は絶対駄目だからなッ!」
「ぷぎゅ?」
呼んだ?とこっちを見るうりぼーに違うというと、また畳みの上に頭を伏せる。仮に違うと判っていても、猪とかは食べれそうに無いので駄目と手で×しるしを作る。
「判ってるでござるよー、拙者の狙いは熊でござる!」
「くう?」
「熊も駄目」
クマゴローがいるので熊も駄目と言うとシロはううーむと唸り始める。もしかしたら明日の狩猟には着いて行った方が良いかも知れないと思わずには居られない。
「っととどうした?」
「うきゅ」
膝の上で大人しくしていたモグラちゃんが急に動き出し、膝の上から下りてどこかに歩いていく……。
「……喉でも渇いたんじゃないか?」
「そうかな?」
シズクが水分補給だと言って差し出してくれた湯呑みを受け取る。
「おお、心眼。見てくれ、茶柱だ」
【本当だな、何か嬉しい気持ちになるな】
茶柱が浮かんでいるのを見て、思わず笑いながら緑茶をズズうっと啜る。コーヒーとか、紅茶を飲むけどやっぱり一番落ち着くのは緑茶だなと思う。
【ノブノブ】
「……何?お前も欲しいのか?」
【ノブゥ】
なんとチビノブまで緑茶が欲しいと言うので、シズクが湯呑みに入れてやると両手で湯呑みを持って俺の隣にちょこんと座る。
【ノーブぅー】
ほっとした表情で溜息を吐く、チビノブは色々食べるけど、緑茶の味まで判るとか凄いなと思わず感心する。
「みみーむ!」
「うきゅ!」
チャキーンっと言う感じでチビとモグラちゃんがポーズを取っている。みむうーとうきゅーっと唸りながらポーズを変えているのを見て、可愛いと思うのと同時に何をやっているのだろうと言う疑問が過ぎると、見ていただけのクマゴローもその中に加わった。
「くーうーん!」
チャキーンっとクマゴローもそのポージングに参加する。
「ぷぎゅうっ!」
うりぼーまでも参戦した。なんだろう、全員が可愛いと勇ましいの中間のようなポーズをしているけど、マスコット同士の力争いか何かなのだろうか……。
「……あらぶるマスコットポーズだ」
「強さと可愛さの両立らしいわね」
翻訳を頼んだ結果、タマモとシズクから告げられた言葉に俺はそっかと呟くのだった。
(荒ぶるマスコットのポーズとかなんだろう?)
【あれじゃないか?何か勇ましい】
チビが小さい翼を目一杯広げ、両手を伸ばす。モグラちゃんは前足を突き出すようにして背伸びをして、うりぼーはくるくる回って悩むような素振りを見せた後、何故か丸くなった。クマゴローはちょこんと座り牙を剥き出しにした、可愛いというポーズとうーん?と唸るのが混じっているが……確かに可愛いと言えば可愛いと思う。
「可愛い♪」
天竜姫ちゃんがそんなチビ達を見て嬉しそうに笑っているので良いかと思い、湯呑みを机の上に置いた。
「横島様。修行の方はどうでしょうか?」
「んーどうだろ?」
朝の暴走具合の影は微塵も無い清姫ちゃんにそう尋ねられる。朝の肉食獣の気配は恐ろしかったが、普通にしていれば本当に美少女なんだよなと思いながら、皆に聞いてみる事にした。
「実際俺ってどうなの?」
自分では判らないのでシズクにそう尋ねる。シズクは持ち込んだ煎餅の大袋を開けながら、うーむと唸った。
「……まずまず基礎的な体作りは確認が終わっているだろうから、明日からさらに発展した修行になると思う」
「あ、それなら私の術とかも教えてあげよっか?」
「それでしたら私の薙刀もお教えしますよ?」
……皆色々教えてくれるって言ってくれるけど、そこまで覚えきれるだろうか?と言うか……俺に言うべき事ではないと思う。
「小竜姫様とか老師に相談してくれるといいんじゃないかな?」
俺は修行させてもらう側なので、教えてくれるなら何でも覚えようと思っているが小竜姫様達が良いよと言ってくれたら覚えるよと言う。
「それなら聞いてみようかなー、横島って多分炎系って相性良い様に思うんだけどなー」
「……それを言うなら、氷だってそうだと思うけどな」
「薙刀は良いと思いますよ」
なんか盛り上がってしまったなぁ、修行期間が短いのであんまり詰め込みだと何処まで覚えきれるかなあと不安に思っているとおキヌちゃんが、洗濯物を手に部屋の中に入ってくる。
【はい、洗濯物乾いてましたよ】
「ありがと」
修行出来ないおキヌちゃんは小竜姫様のお手伝いをしてくれている。洗濯物もその一環だ、おキヌちゃんが畳んでくれた洗濯物を受け取り、鞄の側に置いた。
「あ、そう言えばノッブちゃんとかは?」
姿の見えないノッブちゃんの事を尋ねると、おキヌちゃんは深く溜息を吐いて、肩を竦めた。
【今は道場で足に重りを乗せられて、反省中です。ヒャクメさんが子供の時のトラウマとかを永遠呟いていますよ】
何でも俺の風呂を覗こうとしていたとか……普通逆だろと思いながらも、そっかと呟き……あんまり気にしないことにした。
「ほら、暖かいぞー」
「みむう♪」
「うきゅう♪」
チビ達の寝床のタオルを干されたばかりの暖かいタオルに交換してやるのだった……なお寝る前にしれっと気配を消し、部屋に隠れようとした清姫ちゃんだったが……シズクセコムには勝てなかった。
「……ふんっ!」
「げふっ……」
シズクの氷のハンマーで頭を殴られ、悶絶している間に足を引きずられて強制退去となり、シズクはそのままシロとタマモを凄まじい目で睨みつける。
「……お前達も早く部屋に帰れ」
「「はい!」」
シロとタマモを見て、告げられたドスの聞いた声に2人敬礼して、回れ右をして俺の部屋から出て行いった。
「おやすみなさい、おいでクマゴロー」
「くうーん!」
「うん、おやすみ」
おいでクマゴローと言って、クマゴローと共に部屋を出て行く天竜姫ちゃんを見送り、布団に入って眠りに落ちるのだった……。
「裸で敦盛」
【あれは酒のノリでぇ……】
「年下に父性を感じてるのね~?」
【あうあうあうあう……】
動けない相手なのでヒャクメが嬉々とした表情で、ノッブと沖田の恥ずかしい過去を語り続け、何か新しい性癖に目覚めかけていた……微々たる物であろう……。
~老師視点~
竜神王とそしてヒャクメもいる中、美神達の修行は次の段階に入っていた。妙神山に満ちている竜気にもなれ、それを自身の霊力に混ぜる事が出来るようになった。普通はこれだけでも相当な時間を有するのだが、3日で成し遂げるとは思っても見なかった。
(本来は加速空間でやるんじゃがのー)
加速空間で魂に過度の負荷を与え、新しい霊能に覚醒させる。それが妙神山での最高峰の修行だ、無論生きるか、死ぬかの二択となるが、それは与えられた竜気に魂が耐え切れず、魂が自壊してしまうことにある。加速空間での修行には劣るが、日常的に竜気に触れる事で美神達の霊力も変わって来ている。
「ゆっくりです、ゆっくりでいいので私の真似をしてください」
身体をゆっくりと動かし、一歩の踏み込み、拳を握り、突きを繰り出す動作、呼吸と共に霊力を循環させる事。基本的な型の見本を小竜姫が見せ、それを横島達が見て真似をしているのだが、その額には大粒の汗が浮かび今にも倒れそうになっている。
「無理そうなら倒れるがよい、無理をすれば心身ともに傷めるだけじゃぞ」
ワシの言葉にまず蛍が膝をつき、次に美神、その次に信長、牛若丸、沖田と倒れ、最後まで型に着いて行ったのは横島だけだった。
「ゆっくりと踏み込んで、霊波を手から放つ」
「……っくっ……ふー」
小竜姫を真似を最後までして、横島が霊波を手から放ち、その場に尻餅をつくように倒れこんだ。
「疲れたぁ……」
「ふふ、お疲れ様です」
横島に柔らかく微笑む小竜姫を見ながら、キセルを縁側に置いて立ち上がる。
「霊波を取り込みにくい状況での霊力の運用はどうだったかの?」
今までは霊力を過度に与えて、霊力の覚醒を促す。そして次の段階では霊力を極端に削る、周囲の霊力を取り込むと言うのは霊能者ならば誰でもやっていることだ。だがそれを制限される事で何が判るかと言うと潜在霊力のキャパが判るのだ。
「元々横島さんの潜在霊力は~かなり多いのね~蓄えている量が多いから今回は最後ま出来ただけなのね~」
ヒャクメが縁側に座りのほほんと笑いながら告げる。
「まぁそういうわけじゃな、横島が優れているという訳では無いので安心するが良い」
元から蓄えている量が美神や蛍の倍近いのだ、今回は出来て当然じゃな。とは言え、それをコントロール出来ていないので、宝の持ち腐れに近いのが残念だが、この修行で少しでも己の力を使いこなすと言う事を覚えてくれれば幸いだ。
「さてと休息は終わり、次の修行じゃ」
今回からは蓄えている霊力を完全に使い切ってもらうと告げると、英霊組の顔色が変わった。
【霊力全部使い切ったらワシら消えるじゃん!?】
【さ、流石にそれは私達も嫌なのですが】
【……コフ!】
1人吐血しているのは無視して、ワシは心配ないと笑う
「消滅しかけたら霊力を直接叩き込んでやるから心配ないわ!横島達もじゃ、じゃから安心して……三途の川をメドレーリレーしようか?」
笑いながら言ったワシの言葉に美神達の顔が面白いように引き攣る。それを見てカッカッカと笑っていると小竜姫が苦笑する。
「1度身体に残っている古い霊力を全部使い切り、新しい霊力に入れ替えるんです。だから擬似的な霊力の枯渇なので心配は無いですよ……まぁ本当に枯渇しかける時もありますけど……」
光の消えた目で意地悪をあんまりしないでください老師と言われ、ワシはなおの事カッカっと笑う、擬似的な臨死体験ほど魂に過負荷を掛ける物は無い、これこそが最も効果的な修行なのだ。
「死ぬほど辛いが死にはせん、霊力が枯渇したら外から与えてやるから心配も無い、だから安心して……擬似的な死を体験してもらうかの」
手にしていたリストバンドを横島達に渡し、身に付けるように言うと、のろのろとした素振りで身につける。
「「「「うぐっ!」」」」
「カッカッカ!重かろう?それがお前達の霊力の約半分の重さじゃ」
全員が腰を曲げ、冷や汗を流している。横島だけは両手が地面すれすれじゃな、元より霊力量が多いので異常な重量となっているのだろう。
「老師……竜神の装飾具を何て使い方をしているのですか?」
「カッカ、文句を言うな。これも使い方の1つじゃぞ」
ワシの修行の見学をしていた竜神王が眉を顰める。あのリストバンドは本来は咎を犯した竜族を処罰する為の物だが、霊力を限界まで消費させるという目的では十分に使える。
「ヒャクメ、休暇中悪いのじゃが霊力が限界まで減ったら外すように指示してやってくれるかの?小竜姫は美神達を連れてランニングじゃ」
高地トレーニングに霊力に制限が掛かるので、体力的にはすぐ底をつく筈じゃが、心と身体を同時に鍛えるならこれが1番じゃな。
「判りました。では行きましょうか、こっちです」
「行ってくるのね~」
返事もなく歩くような速さで小竜姫の後を追って走り出す美神達を見送り、縁側に腰掛けキセルを咥える。
「かなりのスパルタで行くようですな」
「まぁの、こうでもせんと間に合わん」
ガープの侵攻は日に日に激しくなり、英霊も戦力としている。どう足掻いても標的にされるのならば、自分達である程度は迎え撃てるように鍛えるのが師の心と言う物じゃからな、後は次にやってきた時に加速空間での修行で霊能を開眼し易い下地を作ると言う目的もある。
「ロン殿は?」
「孫と一緒にシロとタマモを見ておるよ」
スパルタの美神達のコースでは一緒には出来んからなと笑い。キセルを吹かす、身体に蓄積されている澱んだ霊力を全て排出し、新しい霊力に入れ替えさせる。その後からはより本格的な修行に入っていく予定だ。
(横島が問題じゃなあ)
霊力の回復量も蓄積量も多い横島の霊力が尽きるまでどれだけ時間が掛かるかの、2週間の間にある程度形になれば良いがとワシは深く紫煙を吐き出すのだった……。
「ふーふーやっぱりご飯は竃です、おキヌさん、お味噌汁はどうですか?」
【バッチリです、山菜たっぷりのが出来そうですよ】
【ノッブノブー】
そして清姫達は修行に参加しない分、昼食などの準備を進めていた。
「あら、上手ですね」
【ノブ!】
漬物を切り分けているチビノブの頭を撫で、今度はお茶を沸かす清姫におキヌは味噌汁の味を調えながら、首を傾げた。
【かなり濃いですが大丈夫ですか?】
「ええ、濃い方が良いですわ。老師の修行はかなり厳しいですからね、塩分は大目にしておきましょう、シズク、おにぎりの中身はどうするのです?」
「……横島が好きな鮭と梅干にする。後は卵焼き」
「では鮭を焼きますね」
仲は悪いのだが、同じ作業をすると息が合う清姫とシズクにおキヌは小さく笑った。
【じゃあ私は皆さんが戻ってきたときのタオルとかの準備をしてきますねー】
と言って厨房を出て行った。万全な状態での修行をするためのバックアップ体制は恐ろしいほどに整っていたのだった……。
~くえす視点~
一方その頃東京では……
「私の屋敷に何をしにきたのですか?」
「……つかれたの、少し休ませて」
書斎で魔道書を見ていると急に訪ねて来た琉璃に思わず眉が上がる。私は基本的に騒がしいのが嫌いなので、急に訪ねて来られてももてなすつもりなんて微塵も無い。
「……横島君がいないから不機嫌」
「殺しますわよ」
睨みつけると琉璃はひらひらと手を振りながら、怖く無いわよと笑う。この猫みたいな性格はどうも好かない……。
「ダンタリアンとゴモリーが今東京にいるわ。何か大きい事件が起きそう」
その言葉に読んでいた魔道書を閉じて手を叩く、すると妖精メイドがティーポットを手に現れる。長い話になりそうなので、もてなすつもりは無いがそれなりの物は準備した方が話もしやすい。
「詳しく聞かせて貰いましょうか」
疲れて逃げてきたと言うのは嘘で、私に情報を流しに来たのだろう。
「とーぜん、勿論そのつもり。ビュレトさん繋がり、だから結構正確な話よ。何が起きるかまでは判らないけどね」
後横島君達が戻ってくるかも判らないし、何時事件が起きるかも判らないと付け加えられる。
「柩には?」
「この後予知を頼みに行く予定」
柩の予知でどこまで情報を入手できるか、そこも重要なポイントになるでしょうね。問題は柩の存在をガープに捕捉されるかもしれないという危険性ですわね。
「査察の連中は?」
「教えてない、もう1回ガープの襲撃を受ければいいのよ」
ガープの侵攻など嘘と言っている連中だったので、1度ガープの襲撃に巻き込まれれば、ぐうの音も出ないだろう。
「これお願い出来る?」
「貸ですわよ?」
判ってると言う琉璃から紙を受け取る、内容は準備して欲しいもの、橋渡しをして欲しい相手の事が事細かく記されていた。唐巣神父や、小笠原エミなどの有名所に琉璃が行き来していたら何かあるかもと疑われる結果になる、だから元々素行が良くないと言う事で国際GS協会にもオカルトGメンにも良く思われていない私に白羽の矢が立ったのだろう。
「やれやれ、忙しくなりそうですこと」
「ごめんね?」
別に琉璃に文句を言っているわけでは無いですわと返事を返し紅茶を口にする。
「とりあえず横島君を護るためってことで納得してくれた?」
「……それで弄るのはやめてもらいましょうか」
睨みつけると琉璃はくすくす笑いながら、クッキーに手を伸ばす。妙神山には私はいけないので、横島がどれだけ成長して帰ってくるのを楽しみにしているのは事実だが……それでからかわれるのは好きではない。
「横島君の事大好きなくせに」
「うるさいですわよ」
あはは照れてると笑う琉璃に軽い殺意を覚えながらも、こんな話をするほど他人を懐に入れている事に気付き、これも横島の効果ですかね?と心の中で呟き、今横島は何をしているのか?そんなことをぼんやりと考える。
「それで視察団は?」
「あー全然視察とかして無いし、三蔵さんの所もけんもほろろに追い返されたらしいわね」
三蔵をどうせ自分達の国にとか、そんなことを考えていたのでしょうね。そっけなく対応され、肩を落としている姿が容易に想像出来る。
「ちなみに今回は何処までの脅威と考えてますか?」
「……最悪の場合東京の民間人の一斉避難まで」
なるほど、最悪東京が壊滅することまで視野に入れている。もしくは視野に入れる必要があると告げられていると……。
「あれ、貴方の妹がいる氷室神社の方、あっちも注意した方が良いですわよ」
「とりあえず伊勢神宮とか、太宰府天満宮も注意してるけど、そっちも?」
「私の勘ですけどね」
今までのパターンで言うと、確実にそれだけでは終わらない。更に複数の手が用意されていると見て動くべきだ、むしろ有名所よりも、マイナーな方が危ないと思う。
「アドバイスありがとう、そっちも気にして見るわ」
「あんまり戦力を分散するのも嫌ですけどね」
ガープの厄介な所はその戦術と戦略の広さにある。東京で動きながら、他の場所で何をしてくるのかそこまで考えないといけないのが厄介さを段違いに跳ね上げている……。
(これだったのかもしれないですわね)
霊感が囁く……霊能者特有の感覚。ここ最近の胸騒ぎがガープの動きを感じ取っていたのか……なんにせよ。またとんでもない事が起きようとしているのは確実だろう。そして邪魔をされるかもしれないので水面下でしか動けないのが厄介だ。
「権力問題と言うのは何処も厄介ですね」
「……本当にね。白髪生えそう……」
乙女なのにと嘆く琉璃にご愁傷様と笑い、私は紅茶を口にする。霊能関連の事件が起きていないこと、それが嵐の前の静けさであると言う事は明らかなのだった……人間で足を引っ張り合っている場合では無いというのに……本当に人間とは業が深い、私は溜息を吐かずにはいられないのだった……。
リポート23 妙神山 その8へ続く
次回は少し時間を飛ばして書いて行こうと思います。あんまり長くしてもあれですしね、次回からは妙神山のサイドだけではなく、他の陣営の話も交えて書いて行こうと思います。それでは次回の更新もどうかよろしくお願いします
視点が変わる時にそのキャラの視点と言う事を表記するべきか
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サイドまたは視点は必要
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今のままで良い