GS芦蛍!絶対幸福大作戦!!! セカンド   作:混沌の魔法使い

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どうも混沌の魔法使いです。今回はシロとタマモの狩猟の所から入っていこうと思います。その後は少しずつ時間を飛ばしながら、美神やノッブなどの視点で書いてみようと思います。それでは今回の更新もどうかよろしくお願いします


その8

 

 

リポート23 妙神山 その8

 

~横島視点~

 

老師との新しい修行でグロッキーになった物の、狩りを見に行くと約束していたので止めといたら?と蛍と美神さんが言う中、俺はシロとタマモの狩りの見学に来ていた。

 

「ぷぎゅう?」

 

「うきゅー?」

 

勿論チビ達も同行しているが、俺のほう見て大丈夫?と尋ねてくるうりぼーとモグラちゃんの視線に笑う。言葉は喋れないけど、本当に表情豊かだ。

 

「うん、大丈夫。でもゆっくりな?」

 

ぴぎっと元気良く返事をするうりぼーの背中に揺られながら森の中を進む。

 

【調子が悪くなったら無理をしないで言ってくださいね】

 

「判ってるよ。おキヌちゃん」

 

俺が調子が悪くなったら、シズクや美神さんに連絡に行くために付き添っているおキヌちゃんに判ってると返事を返す。

 

【ノブノブ!】

 

「判ってるよ、シズクにも怒られるし」

 

チブノブに背中をぺチぺチと叩かれ判ってると返事をすると今度は心眼が俺に注意の言葉を口にする。

 

【判っていたら約束だとしても大人しくしているだろう】

 

その余りに正論に返す言葉もありませんと言って、暫く進む。チビ達は散歩気分で楽しそうなので、筋肉痛みたいな感じで痛いと思っても、思わず笑ってしまう。

 

【肉!狩らずにはいられない!】

 

【余りはしゃぎ過ぎないように、1人1匹ですよ】

 

そして肉を食べたいと言い出したノッブちゃんと、そんなノッブちゃんをたしなめる牛若丸も同行してくれている。沖田ちゃんは付いて来る事を希望していたが、吐血したのでお留守番となった。

 

「では捕まえてくるでござる!」

 

暫く進むと、切り株のある開けた場所に出たので、ここで待っているように言われる。シロは軽く準備運動をしてから期待しているでござるよおおおーーーっ!と言う叫び声を残して山の中に消えていくシロ、止める間も注意する間もなかった。

 

【肉!焼肉じゃああ!】

 

同じような叫び声を上げて山の中に消えていくノッブちゃん。牛若丸に視線を向けると小さく頷いてくれた。

 

【しっかりと見張りますので!主殿は動かないように!】

 

そう言って木の枝に飛び乗り、枝から枝にジャンプして移動していく牛若丸を見送る事にした。

 

「じゃ私も何か捕まえて来るかな。まぁどうせすぐは食べれないだろうし」

 

「え?そうなの?」

 

すぐに食べれないと言うタマモにそうなの?と尋ねるとタマモは髪を整え、腕まくりをしながらどうしてか説明してくれた。

 

「私とかシロは全然平気だと思うけど、硬かったり、獣臭かったりするし、シズクとかなら美味く料理してくれると思うけど、2~3日は寝かした方が人間の舌には馴染むと思うわよ?」

寝かした方が人間の舌には馴染むと思うわよ?」

 

じゃ、行って来るからと言って森の中に入っていくタマモを見送り、うりぼーに括りつけてきた鞄からキャンプシートを取り出して引いてその上に寝転ぶ。

 

「ふう、やっぱり寝転ぶ方が楽だなあ」

 

身体のあちこちが痛い、この感じは最初に変身した時に似ているなと思いながらキャンプシートの上に寝転がると、モグラちゃんがおなかの上に登ってくるので少しだけ身体を起こす。

 

「どうしたー?」

 

前足の横に手を入れて持ち上げるとうきゅうっと楽しそうに鳴く、どうやら構って欲しい様だ。俺はゆっくりと身体を起こし、シロ達が戻ってくるまでの間、ここでチビ達と遊んでやる事にした。

 

「そーれ」

 

「うきゅうー♪」

 

ボール遊びがうりぼーもモグラちゃんもお気に入りなので、ゴムボールを投げてやるとぽんぽんと軽やかに跳ねていくボールを楽しそうに追いかけるモグラちゃんとうりぼーは見ているととても和む。

 

【ノブノー】

 

俺の隣にちょこんっと座り背負っていた鞄をごそごそし始めたチビノブ。

 

「みむ?」

 

「何探してるんだ?」

 

チビと一緒に何をしてるんだ?とチビノブの手持ちを覗き込んでいると、チビノブは鞄からじゃーんっと言わんばかりに煎餅を取り出した。

 

【ノブゥ!】

 

どうぞと言わんばかりに差し出してくるので、それを受け取り半分に割って、半分をチビノブに差出し齧る。木の枝に風が当たり、さわさわと音を立てる音と、ボールを前にうきゅうっ!ぷぎゅうっ!と争奪戦をしているモグラちゃんとうりぼー、そして膝の上からしょうがないと言わんばかりに飛び立つチビと俺の隣でもきゅもきゅと煎餅を齧るチビノブ。

 

「凄い平和だなー」

 

【あのとても平和とは思えないのですが?】

 

おキヌちゃんが引き攣った顔で言うが、俺の家の日常的な平和なので、誰がなんと言おうが平和なのである。その時背後からガサガサと音がして振り返る、シロ達でも戻って来たかな?と思ったのだが、そこにいたのは中学生くらいの身長で、艶やかな黒髪をツインテールにした赤眼の少女がいた、誰?と言うか、森の中に似つかわしくないブレザー姿に首を傾げていると、その少女は地面を踏みしめながら、俺に近寄って来た。

 

「また会いに来るって言って全然来ないし!この嘘つきッ!」

 

といきなり物凄い声量で怒鳴り込んできた。その怒声に思わず眉を顰め、嘘つきってえーっと思ったのだが、あっと思い出した。

 

「もしかしてイタチちゃん?」

 

「みみむう!」

 

チビと一緒に言うと、黒髪の少女は目を吊り上げながらぶすっとした表情でそうよと返事を返す。

 

【えっと横島さん?知り合いですか?】

 

「知り合いって言うか、あれだ。イタチちゃんだよ、ほら前に妙神山に来た時に俺とチビがはぐれた時に会ったんだ。でも凄いなー、妖怪だったんだ」

 

「……妖怪になったのよ。カマイタチに」

 

動物から妖怪に……モグラちゃんと一緒かと思うよりも先に、俺は頭を下げた。

 

「ごめん!また来るって言ったのに、全然来なかった俺が悪い!」

 

「みむう……」

 

チビも申し訳ないと思っているのか頭を下げる。2人で頭を下げるとイタチちゃんは手を振りながら、慌てた様子を見せる。

 

「あ、あたしが勝手に待ってただけだし!で、でも会いに来るって言ったら来るのが普通じゃないの!?」

 

良いって言ったり怒ったりするイタチちゃんに俺とチビはどうすれば良いか判らない。

 

【ノブノブ?】

 

【えーっとイタチさんは横島さんに何をして欲しいんですか?】

 

チビノブとおキヌちゃんの言葉にイタチちゃんは、そわそわしながら、俺を何度もチラチラと見つめてくる。

 

「えっと、ほらあの時はあたし普通の動物だったし、今は……カマイタチになったからさ」

 

指を動かすと風がくるくると動き回る、その動きを見て思わず拍手が出てしまう。

 

「だからその、今度はあたしも……」

 

何かを言いかけた時、ガサっと音を立てて鹿を担いでいるシロ達が戻ってきて、イタチちゃんは顔を青くさせた。

 

「た、たべられるううううう!」

 

ぴゅーっと走り去ってしまった。シロとタマモは鹿を俺達の前に下ろしながら、イタチちゃんの走り去った方向を見つめる。

 

「知り合いでござるか?」

 

「……妖怪っぽいけど?」

 

【凄くいい所に帰ってきてくれました】

 

グッとサムズアップするおキヌちゃんと困惑しているシロとタマモを見ながら、時間を見てイタチちゃんを探さないといけないなと思った。何か言いかけていたからきっと大事な用があるはずだ。

 

「それで知り合いでござるか?」

 

「クロさんと天狗の勝負の時に案内してくれたイタチちゃんなんだ」

 

なんと!それでは父上の命の恩人でござる!と叫んだシロは担いでいた巨大な鹿を俺の目の前にドスンと下ろした。

 

「探してくるでござる!」

 

イタチちゃんが飛び込んだ藪の中に行ってしまった。がさがさと凄い音を立てて、イタチ殿ーっと叫ぶ声が聞こえる。

 

「で?なんだって?」

 

「妖怪になったからって今度はとか言っていたけど、なんだろう?」

 

最後まで聞けなかったからと言うとタマモは何かを察したような表情をする。

 

「まぁ、逃げたんだから大事な用じゃないと思うわよ」

 

【そうですよ、大したこと無いことですよ】

 

タマモとおキヌちゃんに口を揃えて言われると、それもそうかなあって気もする。

 

「みむ?」

 

「だーめ、迷子になるから」

 

追いかけようか?と言う感じで俺を見るチビ達に駄目と言って、再びボールを転がすと、今度はチビとチビノブも混じり楽しそうにボールを追いかけ始める。その姿をのんびりと見ていると心眼が疲れたように小声で何かを呟いた。

 

【人外吸着体質か】

 

「なんか言った?」

 

あんまり良く聞こえなかったので、何か言った?と尋ねるとなんでもないと言われる。俺はそれならそれで良いけどと呟いて立ち上がり、チビ達と遊んでやる事にした。

 

「よーし、ボール遊びするぞー」

 

きゃーっと楽しそうに足元にじゃれ付くチビ達を見て、俺は手にしているゴムボールを軽く投げるのだった。どうも俺が座っているので、近くでチョコチョコしていたが、遊び足りないようなので、少し身体は痛いけど、俺も混じって遊んでやることにするのだった……。

 

「押しかけ使い魔か。横島の事を甘く見てたわね」

 

【本当ですね。まさか動物から妖怪に進化するまで執着するなんて】

 

きゃっきゃっと楽しそうに遊ぶ横島達を見ているタマモとおキヌの視線は茂みの中に向けられ、また何処から出てくるかもしれないイタチちゃんを常に警戒しているのだった……。

 

【横島ー!捕ってきたぞ!今夜は焼肉じゃあ!】

 

【何匹も捕まえようとするのでとめるのが大変でした】

 

「おーおかえりー、じゃあシロを見つけたら帰ろうか……牛若丸悪いんだけど、シロ探してきてくれない?」

 

【了解です!すぐに探してきますね!】

 

茂みを掻き分け山の中に消えていく牛若丸を横島達が見送り、シロと牛若丸が戻ってきたのは1時間後の事であった……なおシロ達が捕まえてきた鹿肉は当面の間。良質な筋肉を作ると言う目的の元、様々な調理を施され、夕食の机の上に並ぶのだった……。

 

 

 

~美神視点~

 

 

霊力を1度空にして新しい霊力に入れ替えると言う私が教わってきた霊能とは真逆の教え。霊力の枯渇は生死に関わると言うのは知っていたのだが、信じられないほどに身体の調子が良い。

 

「人間界での霊力の質が悪く、密度も薄い場所では霊力を循環する、しない以前の問題じゃ。毒素に満ちた霊力が空になった霊体に入って調子を崩したり、寿命を縮めるのは当然。妙神山の清らかな霊力と入れ替えれば、調子が良くなるのは当然の事じゃよ」

 

老師の説明を聞いて、なるほどと納得すると同時に、これで下界に戻ったとすると弱体化するんじゃないかという不安が過ぎる。

 

「いらぬ心配じゃよ。霊体を鍛えている段階じゃ、今度妙神山に来る時は命を賭けた修行をすれば霊能者として確実にランクアップする」

 

命を賭ける修行か……確実にランクアップすると聞いても流石にそう踏ん切りはつかない。

 

「まぁ今直ぐの話では無い、良く考えて決断するが良い、ではそろそろ今日の修行を始める。まずは霊力を循環させる型から入る、今日は全員倒れてくれるなよ」

 

老師の監視の下、ここ数日何度も繰り返し型を始める。ゆっくり息を吸って、力強く踏み込みながら霊力を放出する。普段ならなんてことの無い動作なのだが、霊力の密度が下がっているからか、本当に軽い動作なのにすぐ額に汗が浮かんでくる。

 

【くっ……ぬぬう……】

 

【うっ……くう】

 

ノッブや牛若丸の苦悶の声が聞こえてくる。霊体であるノッブ達の方が負担は遥かに大きいのだろう……かと言う私も相当しんどい。

 

「こりゃ!人の事を考えてる暇があるのか!」

 

老師の怒りに怒声に自分の事だけに集中する。私も今は蛍ちゃん達の師匠と言う立場ではなく、等しく修行をさせて貰っている身だ。自分の修行に集中する。ゆっくりと地面を踏みしめ、腕を突き出し、拳を握る。やっている事は穏やかだが、その疲労具合は桁違いだ、手が震えてくる……10通りほどの動作を30分ほど、それだけで汗が滴り落ち、肩で大きく深呼吸をする有様だ。横島君も疲れている様子だが、まだけろりとしている姿に基本的な霊力の差かと改めて思い知らされる。

 

「よし、ではそのまま組み手じゃ、相手を打倒するのでは無いぞ?」

 

型が終わってすぐ、組み手という指示が出る。正しこれはただの組み手ではなく、打撃と共にお互いの霊力を交換し、相手との霊力を循環させる物だ。相手の霊力と自分の霊力を合わせれば痛みは出ないが、少しでも感覚が狂うととんでもない激痛となる。自身の経絡に自分と違う霊力が通るのだ、魂の拒絶反応が出て当然だ。

 

「蛍は牛若丸と、ノッブは沖田と、美神は小竜姫とじゃ、横島はモグラとじゃな」

 

シロとタマモは今回の修行に参加できるレベルじゃないので、別口だ。私と蛍ちゃんが組み手をすることはなく、ノッブや沖田ちゃんと順番で組み手となっている。

 

「お手柔らかに」

 

「はい、大丈夫ですよ。ちゃんと手加減しますから」

 

にっこりと笑う小竜姫様に背筋に冷たい汗が流れる、小竜姫様は勿論竜族でしかも神族。一瞬でも調整を間違うと、その瞬間にダウンする……あの激痛は言葉で表現するのは難しいが、肋骨が折れてうっとなった時に、蝶野にフルスイングのビンタを喰らって、倒れた瞬間に小錦が落ちてくるような、そんな痛みだ。

 

「これくらいはどうですか?」

 

【もう少し上では無理ですか?】

 

【ワシがメインでやる】

 

【ええーやですよ、ノッブ霊力の調整とか下手糞じゃないですか】

 

組み手をする前に霊力をあわせる必要があるので念入りに準備するのが普通なのだが、横島君はそんなものを一切せずにモグラちゃんの前に立った。

 

「うっきゅーうきゅうきゅー」

 

「ていていてい」

 

打ち合わせもなしにぺちぺちと組み手を始める横島君。横島君の場合、元から竜気に相性が良いのと、モグラちゃんと仲良しなので打ち合わせも無しで可能なのだ、なおノッブ達がやったときは初激すら受け止めきれず、地面に沈んだ。勿論私や蛍ちゃんでも結果は同じだろう。

 

「ではそろそろ始めましょうか?」

 

「……はい」

 

小竜姫様の言葉に恐怖を感じながら頷き、自然体で構える。小竜姫様が避けてくださいといわんばかりのスピードで拳を繰り出してくるので、それを横から絡め取るようにして腕を動かすが、私と小竜姫様の腕が触れた瞬間。形容しがたい不快感が駆け巡る、それは私のチャクラに小竜姫様の竜気と神通力が駆け巡る感覚だ。

 

「あいただああ!?ちょっとぉ!?」

 

【む?間違えましたかね?】

 

すぐに響く、蛍ちゃんの悲鳴に私も集中力が途切れ、激しい痛みが全身を駆け巡る。

 

「あいたたたたああ!?無理無理無理!!!」

 

「はぁ、では少し休んでまたやりますよ?」

 

鬼めと心の中で呟くが、これは霊的な攻撃に対する防御と、霊視の強化を兼ねている。霊力での攻撃が主な神魔と戦う上での必須技能なので、息を整えて立ち上がると私の目の前には衝撃的な光景が繰り広げられていた。

 

「うきゅきゅきゅきゅきゅー!」

 

「ていていていていていい!!!」

 

横島君とモグラちゃんが凄い突きの速さ比べをしているのを見て、私は思わず小竜姫様を見る。

 

「あそこまで出来ないと駄目?」

 

「い、いえ、流石にあれは私でも無理かと……」

 

相性が良すぎるとあんなふうになるのね……相性がいいのは沖田ちゃんとノッブも同じだ。

 

【ぐぎいいいいい!叫んだらどうですかぁ!?】

 

【にっひひいいいい!叫ぶのはそっちじゃああ!?】

 

相手より強い霊力を送り込み、我慢比べをしていたんじゃ意味も無いと思うんだけどね。私は深呼吸をして、調子を整えてから立ち上がった。

 

「じゃあ、もう1回お願いします」

 

「はい。今度はちゃんと集中してくださいね」

 

小竜姫様の言葉にわかってると返事を返し、私は再び組み手の集中し始める。相手の動き……ではなく霊力と竜気の動きに意識を傾け、同じ量に調整した霊力を纏わした拳を突き出す。

 

「そう、いい具合ですよ」

 

同じ霊力同士だと磁石のように反発し、腕が跳ね返される。今度は私が踏み込み、拳を突き出すと、軽い感じで出された拳が私の拳とぶつかり乾いた音を立ててお互いの腕が弾かれる。

 

「【……】」

 

蛍ちゃんと牛若丸も勢いが出てきたのか、軽やかな音を立てて、拳を繰り出しあう光景が横目に写るが、真正面の小竜姫様だけに意識を向ける。霊力の量を増やしてきたので、私も霊力の量を増やして対応する、だが今度は霊力を極端に減らしてきたので、私も霊力を限界まで落として、その手刀を払う。

 

「いい感じです。良く観察してください」

 

霊力の細かい操作、普段やるよりも遥かに高レベルなそれに大粒の汗を流しながら、量を自在にコントールする小竜姫様にあわせ、私も何度も何度も霊力を調整しながら何度も何度も拳と脚を交差させるのだった。

 

「今日の修行はここまでじゃ、午後からは霊力と魂を休ませるように」

 

キセルを吹かしながら、今日の修行は終わりじゃと言って奥の部屋に向かう老師を見送り、私達は尻餅をつくように倒れこんだ。霊力の細かいコントロールに霊視、精神的にも肉体的にもめちゃくちゃ疲弊した。

 

「ご飯の準備を手伝ってきますね。美神さん達は身体を休めていてください」

 

軽やかに歩いていく小竜姫様。判っていたけど、やっぱり私達とは体力とかが桁違いなのね。

 

「つ、疲れました……」

 

「そ、そうね」

 

大分慣れてきたけど、霊力の密度が極限まで下がっているので、霊力を回復させるのも難しく美味しいご飯を食べてさっさと休みたいと思う。

 

【横島くーん、眼魂……】

 

【ワシもぉ……】

 

眼魂をと言って横島君に這い寄るが、横島君は渋い顔をして手で×マークを作った。

 

「駄目って言われてるから駄目、小竜姫様と老師に怒られるから」

 

そんなあーっと呻く馬鹿英霊2人を尻目に横島君は縁側にチョコンと座って待っていたチビ達に駆け寄り、鞄からボールを取り出す。

 

「よーし、じゃあボール遊びするぞー」

 

「みっむうー!」

 

「ぴぎゅう!」

 

【ノブノーブー!】

 

「うっきゅー!」

 

【あ、主殿ー、私も行きますー】

 

マスコット軍団を引き連れて、庭に出て行く横島君。私と蛍ちゃんはその後姿を見て、凄いなあと思った。

 

「横島君のスタミナとか打たれ強さって絶対私達の倍以上よね」

 

「……ですね」

 

動く気力も無い私と蛍ちゃんに対して、庭でボールを追いかけて遊ぶ横島君達の姿。山の中だから良く声が聞こえるのだが、物凄くはしゃいでいる声が聞こえてきて、男だからとか言う理由じゃなくて、根本的に私達よりも霊力が多いと言う事を確信し、ゆっくりと胡坐に座りなおしながら横島君を見つめる。

 

「もうちょい頑張らないと駄目みたいね」

 

「そうですね」

 

私達も成長していると思っていたけど、横島君の成長率の凄まじさは私達を遥かに超えている。それを改めて実感してしまい、私と蛍ちゃんは成長しているのに素直に喜べないのを感じていた……。

 

 

 

~蛍視点~

 

 

妙神山での修行は恐ろしくハードだが、その厳しさゆえに自分がスキルアップしているのが良く判る。霊視も霊力の操作も前よりも確実にスキルアップしていると確信出来る……のだが、横島は私や美神さんよりも遥かにスキルアップしている。元々横島は才能の塊であり、軽い指導でも成果を上げてきた。そんな横島が朝から晩まで修行漬け、しかも理想的な師に指導を受けていればどうなるかなんて火を見るよりも明らかだ。昨日の修行で見せられたあれは凄まじかった。

 

「横島よ。そこにある人形にはワシの仙術で霊力を通してある。良く観察し、ここだと思う所に霊力を込めた打撃をしてみるが良い」

 

「は、はい」

 

成人男性と同じくらいの大きさの人形の前に立った横島は肩幅に脚を開いて立ち。ふーっと言う短い呼吸と共に力強く踏み込み、心臓よりも少し下、わき腹の辺りに拳を軽く打ちつける。

 

「どわあ!?」

 

バンって言う炸裂音と共に人形の頭と手足が吹き飛ぶ。とてもそんな威力のある打撃には思えなかったのに……一体何が起きたのだろう?

 

「カカカカ!正解じゃ、今のが相手の霊力に自身の霊力をぶつける技じゃ、相手の霊力の流れ、薄い所を見極める霊視なくては出来ぬ技じゃ」

 

「いやいや、相手死にますよ!?」

 

上機嫌に笑う老師に横島がそう叫ぶと老師はますます笑いながら、さっきの技の説明をしてくれた。

 

「判りやすくしただけじゃ。人を殺すほどの威力は無いよ、まぁ精々気絶させたり、身体を麻痺させるくらいの効果じゃが勿論殺す気で打ち込めば、体内からボンなのは確実じゃけど」

 

その説明に横島が青い顔をする。人が内側から爆発する技なんて横島の性格的には使えない技だろう。

 

「さて次は蛍と美神じゃ。やってみろ」

 

印を結ぶと現れた人形を目を凝らして見つめるが、とても霊力の溜まっている場所なんて判らない。

 

「まぁこれは感性の問題もあるからの、居る間にコツを掴めばよい」

 

何度も挑戦したが結局私も美神さんも成功せず、横島も次のステップに進んでそこからは1回も成功する事は無かった。

 

「気を落とすことは無いですよ?私もずっと修練していますけど、成功した方が少ないですから」

 

どうも小竜姫様でもめったに成功しない秘術らしい、相手のチャクラに同調させ、魂を麻痺させる。そんな技をそう簡単に習得出来るはずが無い、横島が成功したのも初心者用人形だったという理由が大きい。

 

「心眼を使ってみますか?」

 

コツを掴むためにと心眼をスカーフのように巻いてやって、私も美神さんも最初の人形はクリアできたが、これは心眼のアドバイスが大きい上にかなりの精神集中が必要だったので、とても実戦で使える技では無いだろう。

 

「老師は自分の感覚で技を教える癖を何とかしてください」

 

「カカカカ!今は無理でももっと歳を重ねれば使えるとワシは確信しておるよ」

 

今は使えないけど将来的に使える技とか教えられても困るんだけどなあと思いながら、その日の修行は終わりとなったのだが今日はさほど疲労感も無いので、そのまま横島と美神さんと一緒に自主練習をする事にしたんだけど……やっぱりよく判らない。

 

「見える?」

 

「いえ、全然」

 

美神さんと向かい合い、相手の霊力の流れを確認しようとするが、全然判らない。組み手の時の身体の外に流れている霊力ならまだしも、相手の体内の霊力の流れを察知するとか、難しいとか言うレベルではなく、異次元のレベルの技術だ。

「せんせー!せんせーも修行終わりでござるかー?」

 

「はー横島聞いてよ。この馬鹿、物覚え悪すぎ」

 

馬鹿じゃないでござるーっと叫ぶシロと疲れた様子のタマモ。良く喧嘩するけど、2人の相性の良さは良く判る。

 

【おおう……しむうう】

 

【ちょっと冗談じゃないんですけど】

 

【コフッ……】

 

道場から這い出てきたノッブ達は疲労困憊と言う様子だ。3人がやっているのは霊気の向上、なんでも今の3人は英霊のランクとしては下から数えた方が早い段階らしい、英霊の格は3人とも高いのだが……それとは別に霊力を改善しないと本来の強さには程遠いらしい。

 

「お主らが霊力の容量を上げたいというから付き合ってやっているのだぞ?」

 

「父上、お疲れ様でした」

 

水を持って天竜姫がとてとてと竜神王様に駆け寄る、その後からはクマゴローはてちてちと言う音を立てて歩いている姿が見える。

 

「うむ、ありがとう」

 

縁側に座り水を口にする竜神王様。その後からヒャクメさんが出てきたのだが、英霊組みは瀕死寸前でその場に倒れこんだ。

 

「頑張ってるからそろそろだと思うのね~?」

 

【【【その前に死んでしまう】】】

 

もう死んでるから大丈夫なのねーとにこやかに笑うヒャクメさん。彼女も彼女でほんわかしてるけど、毒舌な部分があるのよね。

 

「よこしま!チビ達と遊んでも良いですか?」

 

「まだ修行でやりたいことがあるから、面倒見てくれるならお願いしようかな?」

 

「はい!クマゴロー行くよ」

 

「くう!」

 

クマゴローと共に庭に出てチビ達と遊び始める天竜姫を見送り、教わったことを話し合う。

 

「拙者はあれでござる、霊力を刃にして飛ばす術を教わったでござるよ!」

 

弾ける笑顔でとんでもない事を言うシロに横島は良かったなあっと笑うが、とても笑いながら話す事では無いと思う。

 

「シロとタマモが教わったのは、霊力を放出するってことかしら?」

 

「そうなるわね。でも今まで使ってたのよりも遥かにいい感じよ」

 

本能的に使う霊波砲を更に洗練させたと言う事だろう。タマモがそういうのなら、間違いなく段違いに良い技術なのだろう。

 

「まぁ良く理解して無いから、上手く説明出来ないけど、そのうち教えてくれると思うわよ」

 

私達とシロとタマモの修行が違うのは、シロとタマモが付いていけないというのもあるがもう1つ、2人の身体は人間よりも遥かに霊力を扱うことに適している。人間と同じ修行をする事は2人にとってあんまり旨味は無いのだ、その後は風呂が沸くまでの時間あーしたら良い、こーしたら良いと話し合いながら、教えてもらった技術を自分のものにする為の話をするのだった。

 

「あんまり成果が出てるように思えないのよね」

 

「そうなんですよね」

 

お風呂が沸きましたよと言うおキヌさんの言葉に1度話し合いと練習を止めて立ち上がる、頑張っているのだが、あんまり実感が無いなあ……。

 

【だが私から見ても妙神山に来る前よりも遥かにレベルアップしているぞ】

 

心眼のお褒めに言葉にありがとと返事は返す物の、果たしてこれで神魔相手に戦えるのかと言う不安は如何しても付き纏う。嫌でも、ガープを相手にすることを考えなければならないのだから……。

 

【相手は神、神殺しなんて本当なら冗談や御伽話の世界なのにな】

 

「本当にね」

 

神殺しなんてそれこそ神話や御伽話の中での話だ。それなのに私達には嫌でも神魔と戦う可能性があるなんて本当に冗談じゃない。

 

「ちょっとうりぼー達と散歩に行こうかな」

 

「「駄目!」」

 

散歩に行くと言う横島を2人で止める。タマモに聞いたのだが、この近くに横島の所に押しかけようとしているカマイタチ【人化習得済み】がいるらしいので、出歩かせると確実に遭遇するので駄目だと言う。

 

「えーでも、拙者もせんせーと散歩したい……「黙れ、馬鹿犬」ふぐう!?」

 

タマモの流れるようなボデイブローがシロに叩き込まれ、シロが蹲り痙攣する。その姿を見て横島が引き攣った顔をしているのを見ながら、散歩が駄目な理由を考える。

 

「今は霊力の入れ替えをしてるから普段よりも霊力の防御力が落ちてるから、大人しく庭で遊んだ方が良いわ」

 

「あ。そっか……普段と同じ感じでした」

 

美神さんの適切すぎる説明に心の中でガッツポーズをとる。横島の所に行く為だけに妖怪に進化したカマイタチなんて冗談じゃない、確実にタマモの同類じゃない、これ以上は流石に小動物が増えるのも美神さんにも負担になるから出来るだけ避ける方向で行きたいし、この説明に納得してくれたようで横島は散歩は辞めにしようと言ってくれたのが本当に良かった。

 

「じゃあゴムボールで遊ぼう、今取って来るなー」

 

そう笑って自分の部屋に向かっていく横島を見送る私達、横島がいなくなったのでタマモにカマイタチについて尋ねてみる。

 

「で、実際そのカマイタチってどうなのよ?」

 

「見た感じ横島にべた惚れよね、妙神山を出てもしつこいかも」

 

タマモの観察眼は間違いないので、性格も確実に当たっているだろう。なんで横島を自由にするととんでもない物を拾ってくるのだろう?個性と言う言葉で片付けられないレベルになってきていると私も美神さんも思うのだった。

 

「ペットボトルをバットにして遊ぶか!」

 

【ノブー♪】

 

「私も良いですか?」

 

OKOKと笑い、ペットボトルをバット代わりにして、ゴムボールで野球みたいにして遊び始める横島達。横島の周りはチビ達にクマゴローに天竜姫にシロとタマモに復活してきたノッブ達……明らかに人間が少ない光景に、私も美神さんも溜息を吐かずにはいられないのだった……。

 

 

 

一方その頃妙神山近くの大木の枝の上では艶やかな黒髪をツインテールにしたブレザー姿の少女がその真紅の瞳に怒りの色を浮かべ叫んでいた……。

 

「あーっもう!なんで人狼に妖狐がいるのよ!おっかないったらありゃしない!」

 

横島の所に押しかけて来ていたカマイタチが枝の上に座り、遠くに見える道場を忌々しそうに見つめていた

 

「理想的な主人を見つけたのに!凄い事に成ってるし!会いに来るって言っても来ないし!来たと思ったら人狼と妖狐までいるし!なんか色々増えてるしッ!なんなのよ!もーっ!!!」

 

枝の上でうがーっと怒鳴り続けていた少女はふーふーっと荒い呼吸を肩で整える。怒ってはいるが、彼女にとって横島は理想的な主人であり、人狼と妖狐が居たとしても横島を主人とする事は既に決定事項であり、それを覆す予定など無い。

 

「何のために姉と妹と分かれたのか、わかりゃしない!」

 

カマイタチとは3人で1体の妖怪であり、長女は転ばせ、次女の彼女は風を操り人を切り裂き、妹は傷を癒すと言う三位一体の妖怪ではあるが、今はGSも多く、妖怪界全体もバタバタしているので妖怪として活動して無いこともあり、単独で行動しているので、むざむざ帰る事等出来ないと言って枝から飛び降りた少女は風を操り軽やかに着地すると、再び妙神山へと視線を向ける。

 

「ぜったいぜったいぜーったいに!主人にしてやるんだからぁ!!!」

 

力強くそう叫ぶと風を纏い、凄まじい速度で山の奥へと消えて行くのだった……。

 

 

 

リポート23 妙神山 その9へ続く

 

 




次回はシズクやノッブの視線で書いて行こうと思います。カマイタチの少女は典型的なツンデレを書いてみたかったので書いてみました
勿論今後のシナリオにも関係があるのでちゃんと出てくるので安心してください。それでは次回の更新もどうかよろしくお願いします

視点が変わる時にそのキャラの視点と言う事を表記するべきか

  • サイドまたは視点は必要
  • 今のままで良い

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