GS芦蛍!絶対幸福大作戦!!! セカンド 作:混沌の魔法使い
リポート23 妙神山 その9
~シズク視点~
妙神山での修行も10日目、予定では後4日で東京に戻る予定だ。やはり理想的な師という存在は大きいのだろう、東京にいる時よりも横島の霊力が格段に強くなっている。
【のぶー】
「……うん、上手に出来たな」
全員分の洗濯物を一緒に畳んでいたチビノブがにぱーっと笑う。妙神山には洗濯機はないが、そこは私の水神としての力を使えば、水を回転させて洗濯機のような効果を発揮させるのは簡単なことだ。洗濯さえ済めば、日差しと風で簡単に洗濯物は乾く。
「……横島の分は持っていくか」
【ノッブぅ♪】
広間に置いておけば全員勝手に持っていく、風呂場にはタオルくらいは置いておくかと洗濯物を手にして広間を出る。
「愛!して!まーす!!!」
清姫がなんか薙刀を振るって叫んでいる。一緒に居る美神達が遠い目で見ているのにもかかわらず清姫はにっこり笑うが、その掛け声は突っ込み所しかない。
「気合の入る掛け声が良いんですよ」
「……そうなんだ」
襲われかけた横島がめちゃくちゃドン引きしているが、清姫はニコニコである。10日で霊力の循環と霊力操作が一定の技量を超えたので、残り4日だが戦闘技術の向上の訓練に切り替わり、それならと意気込んで修行に参加しているが、完全にから回っている。
【ノブゥ……】
「……あいつはちょっと残念なんだ。ほっておけ」
我が道を行く性格であり、そして尚且つ思い込んだら一直線で周りのことを気にしない性格だ。空回っていようが、横島を鍛えようとしているのなら別に邪険にすることも無い。
(流石に無理だったしな)
最初は妙神山の霊気と竜気に満ちた土地で私の術なども教えるつもりだったが、基礎的な霊力と身体能力の向上で終わった。だが、これで必要な身体能力や霊気は獲得出来たと見て間違いない。後はまた時間を見て指導していけばいいだろう、なんせ私は横島と同居しているので時間はたっぷりあるのだから。
【ノブゥ?】
「……ああ。すまない、少し考え事だ」
立ち止まっている私を見上げるチビノブにすまないなと謝り、私はチビノブと共に横島と私の部屋に向かい、丁寧に畳んだ洗濯物を置いて、そのまま厨房に足を向けた。竃や囲炉裏とどっちかと言うと、見慣れて、使い慣れた設備なので料理もしやすい。ただ電子レンジ等が無いのは些か不便ではあるが、それは高望みと言う物だろう。それにそういう設備だから出来る料理と言うのも少なからずある。
「……今日は鹿肉でハンバーグでも作るか」
温度を調整して熟成させているので、もう問題なく食べることが出来る。今日は挽肉にしてハンバーグでも作るかと言うと、チビノブは肩を落として小さく鳴いた。
「……メロンパンは無いからな。戻るまで待て」
【のぶうー】
お手伝いのスタンプカードは既に5枚溜まっている。だがここは妙神山でメロンパンを買える環境では無い、私なら転移で東京に行けなくも無いが、それをするとノッブもうるさくなるだろうから、ここは我慢させる。
「……戻れば横島が買い物について行ってくれるさ。ちょっと高級なのも買ってくれるかもな」
私の言葉にぱあっと笑うチビノブ。普段は1個100円の安いものだが、横島もチビノブが頑張って手伝いをしているのを知っているので、もしかしたら中にメロンクリームとメロンの果肉入りの1個500円のメロンパンを買ってくれるかもしれないぞと言うと、嬉しそうに笑う。その姿を見ながら厨房に足を向けようとすると、道場から竜神王が出てきた・
「シズクか」
「……お前もずいぶん暇そうだな。若造」
私の言葉に竜神王がふふっと笑う。天界にいれば相手の立場を考えてもう少し謙虚な対応をするが、ここは妙神山で中立の土地だ。竜神王相手だったとしても下に出る必要は無い。竜としての格を言えば、私の方が遥かに上なのだから。
「ミズチの連中は良いのか?」
「……興味ないな」
今の私の興味は横島にしかない、そもそも元々私は群れることも、ミズチを統率することもなく自由気ままにやっていた。今更ミズチを統率する事に興味は無い。
「……前に竜族とミズチが横島を殺しに来たぞ、次そんなことをさせてみろ。どうなるか判ってるだろうな?」
態々天界に行くのが面倒だったから私の中で留めておいたが、こうして顔を見合わせたのだ、文句くらい言わせてもらう。
「……オロチと先代竜神王の孫娘、それが怒りのままに暴れたらどうなるだろうな?」
「肝に銘じておく」
引き攣った顔をする竜神王にお前は甘いと助言する、角が立たないように、そして丸く丸めようとしているがそれが駄目だ。
「……竜もまた実力こそ全て、時に非情な決断をすること勧める」
先代と比べれば丸すぎる。あの男は既に死んでいるが、罰則や規律を何よりも徹底させた。代替わりして変革をと謡うのも判るが、それでは軟弱者と思われるだけだぞと助言し、私は竜神王から背を向けて厨房に足を向ける。
【あ、シズクちゃん。今日はお昼何にしますか?】
「……鹿肉のハンバーグにする、おキヌは芋餅を作ってくれ。作り方知ってるか?」
多分大丈夫ですと返事をするおキヌによろしく頼むと言って、手を洗っていると厨房の扉が開いた。
「シズク様、私もお手伝いします」
「くうー!」
天竜姫とクマゴローが厨房に来る。私は苦笑しながら、クマゴローを指差す。
「……クマゴローは駄目だ。手伝えること無いからな、チビノブ。クマゴローと遊んでやれ」
【のぶー♪】
今日はチビノブの変わりに天竜姫に手伝わせる事を告げると、チビノブはクマゴローの背中に乗りとてとてと厨房を後にした。
「何を作るんですか?」
「……ハンバーグ」
ハンバーグ?と不思議そうにしている天竜姫に説明しながら、私は調理を始めるのだった。なおその姿を見ていたおキヌは後で横島に姉妹みたいだったと言っていたりする……。
~タマモ視点~
縁側に座り、剣を振る横島とシロ、そして神通棍を手にする美神と蛍を見ながら大きく欠伸をする。
「タマモちゃんは~修行しないのね~?」
「いやよ、めんどくさい」
ヒャクメの言葉にそう即答する。ロンから効率的な霊力の使い方は教わったが、それ止りだ。と言うよりも別の問題があるのだ。
「私がどうやって修行するって言うのよ」
九尾の狐。それは妖獣では最上級の存在であり、神と魔の力を扱い。その力は神魔にさえ匹敵するという飛び切りの存在だ、私が頑張らなくても、この身体は魂は、効率的な力の使い方を知っている。私に出来る事と言えば、それは1つしか存在しない。
「知識をつけることじゃないの」
知識をつけ、応用力を高めること。身体を動かす修行ではなく頭を鍛える修行、それが私に必要な物なのだ。
「本を探してくるように言われてるのね~」
「それ間に合わないじゃないの」
後4日で妙神山を去るが、4日間はヒャクメは休暇なので、絶対に本が手元に来る事は無い。
「東京に行く口実が出来るのね~」
こいつ案外強かよね……私はさっき自分で淹れて来たお茶を飲みながら、訓練をしている横島達に視線を向ける。
「ささ!横島様!剣などは置きになられて、槍を扱ってみてはどうですか?」
「き、清姫様?今は私が稽古を見る時間でして」
「小竜姫?何か言いましたか?」
い、いえっと小竜姫が引き攣った顔で返事をするけど、明らかに納得はしていない。横島は横島でおろおろしてるし、本当に何をやっているんだが……。
(へタレ)
私の知っている横島と今の横島は全然違う。まずは女に飛び掛らないし、思い切りがいいし、頭の回転もいい。正直逆行する前でも気に入っていたんだけど、今の横島は九尾の本能から見ても好意的に見える。
(そもそもなのよねえ)
私はそもそも護ってくれる相手を求めるという本能がある。理想を言えば金も権力もある相手が理想だが、横島は金も権力も無いが、陽だまりの中に居るような心地よさがある。だから離れたいとは思えない、1度近づいたら離れる事が出来な引力を横島を持っていると思う。
「じゃ、じゃあ後で教わるから。今は小竜姫様の訓練を先にさせて欲しい」
「むう……そう言われるのなら」
横島の言葉にぶすっとした表情で離れる清姫、あいつお姫様なのに行け行けすぎるわよね。
「うむ良い感じじゃ、神通棍を伸ばすだけではなく、それを軸に形状変化させるのだ」
「「はい」」
美神と蛍は霊力の形状変化の仕方を老師に教わっている。形状変化と言えば横島の十八番だが、普通は修行を積んだ霊能者がやっと出来る術であり、いきなり使える霊能ではない。まぁ私はそういうのは出来るけど、めんどくさいからやらない。狐火とか使ってるほうが楽だしね。
「踏み込みをしっかりと意識して、自分の間合いと相手の間合いを把握してください。特に横島さん、貴方は感覚に頼りすぎです」
「うっ、はい」
横島は色々出来るからどれも中途半端なのよね。でもどれかに絞ると、横島の強みがなくなるから指導するの難しいらしいのよねと思いながら真面目に修行している横島達を見ていると道場の扉が爆発する。
「「「何事!?」」」
突然の爆発に全員の視線が道場に向けられ、煙の中から沖田達が姿を見せるんだけど……その姿は大きく変わっていた。
【自分だけ姿変わらないからって霊力を暴発させるのは駄目だと思うんですよ!沖田さんは!!】
沖田は桜色の着物から、ミニスカートのような丈とノースリーブの着物姿になっていて、続いて出てきた牛若丸もその姿が変化している。
【全く酷い目に合いました】
牛若丸は上半身裸同然の服装はそのままに右腕と右足に甲冑を装備していた。
【なんでじゃあ!なんでワシだけそのままなんじゃあ!?】
最後に出てきた信長は煙を放つ、茶器を頭上に掲げていて、それはチビノブの茶器爆弾と同じ物と言うのが良く判ったのだが……それは完全に悪手だと思う。
「貴女は何をしてくれてるんですかぁ!!!!」
【ぎゃー!不慮の事故なんじゃあ!!!】
小竜姫が怒りの形相で駆け寄ると、茶器を抱えて逃げ出し。数分後、道場の外れから天誅と言う叫び声が聞えた。
【のっぶああー!?】
茶器が爆発し、上空に吹き飛び絶叫する姿が縁側からでも見えた。あいつ……本当に何しているのよ。
【主殿!霊力が向上しました!】
「お父さん!そんな格好許さないって言っただろ!?早く着替えなさい!」
横島に霊力が向上しましたと喜んできた牛若丸は横島にそう怒られてしゅーんっとなっていて、気のせいでなければ垂れた尻尾と耳が見えた。
「服着替えたのかしら?」
【いえ、霊力が増えたと思ったら服が変わってました。前よりも身体が軽いですし、今ならもっと活躍……コフッ!?】
沖田は何時も通り突然吐血し、牛若丸はしぶしぶと言う感じで着替えるために居住エリアに足を向ける。
「今日という今日は許しませんからね!」
【……ノブゥー】
黒焦げのノッブを小竜姫が引き摺ってくるのを見ながら、煎餅を齧り、お茶をすすって一言呟く。
「平和ね」
「絶対違うと思うのねー?」
うるさいわね、横島と一緒に居るとこんなのしょっちゅうあるから全然動揺しないのよ。
「美神さん、これだけ騒ぎになると修行所じゃないですね」
「そうね」
「仕方あるまい、少し早いが午前の修行は終わりにするかの」
小竜姫が激怒しているし、庭でチョコチョコ遊んでいたチビ達も横島を心配してこっちに来てるから修行所じゃないしね。私は縁側に持って来ていた水の入ったペットボトルと紙コップを手に立ち上がった。
「訓練終わったなら一息つくと良いわよ。はい、お水」
「お、ありがとなータマモ」
1番最初に横島に手渡し、美神、蛍と順番に水を手渡し、シロにはペットボトルを押し付ける。
「酷いでござるよ」
「あんたじゃ紙コップじゃ足りないでしょうよ」
蓋を開けて、口をつけて飲み始めるシロ。紙コップで足りないからそのまま渡したのよと思い、心配そうに寄って来たチビ達に声を掛ける。
「横島は大丈夫だから心配ないわ」
私の言葉に嬉しそうに鳴いて横島に駆け寄るチビ達を見ながら、私は皆が飲み終えた紙コップを回収するのだった……。
~ノッブ視点~
皆が食時の時、ワシだけ正座だった。道場を破壊したのは悪いが、ワシの目の前で光って姿が変わった2人に対して、ワシだけなんも無いとか理不尽じゃね!?
【ぷふー♪】
【笑うなあ!一応ワシの分身じゃろ!?】
【ノッ!】
鼻で笑われた。ワシの分身の癖に生意気な奴じゃ!いや、そもそもワシの言う事なんて数えるくらいしか聞いたこと無いけど!
「それでノッブちゃんは変化して無いの?」
【……霊力は上がっておるよ?でもなんでワシだけ変身無いの!?】
横島にも怒鳴るが、これは横島のせいでは無い。しかし何故ワシだけ……姿が変わらないのかが判らない。
「まぁいいじゃない、パワーアップしたんだから」
「そうだと思うわよ?」
美神も蛍もパワーアップしたからいいじゃないかと言うが、2人が変身してるのにワシだけそのままというのがどうにも納得行かないのだった……昼食の鹿のハンバーグと芋餅とサラダを終え、ワシ達も修行と思いきや、ヒャクメがワシ達を呼び止めた。
「はーい、霊体の検査をするのね~」
ヒャクメによって霊体の検査をする事になり、修行に参加することは出来なかった。
【横島君動きがずいぶん良くなってますね】
【本当ですね】
検査と言っても病院とかでは無いので、普通の部屋で検査待ちするだけ。庭で修行している横島の姿も見える。
「っとと!ひい!?」
「そんなにおびえるな、恐怖は身体を硬くするぞ?」
猿と組み手をしている横島が、避ける度に悲鳴を上げる。だがそれもあの豪腕なら当然の事だろう、だが当たる気配も無いのだからそこまで怯える事はないと思う。
【主殿は才能の塊ですからね】
【全くじゃ】
本人の気質から、役に立っていないが横島は戦闘に関しても恐ろしい才能を秘めている。それが開花するのは何時になるかのう……何か切っ掛けがあればいいんじゃがな。
【それにしても遅いですね?】
【じゃな?】
少し検査の準備をするからって言って、かれこれ1時間。昼寝してるんじゃないかと思い、襖を開けると其処には信じられない光景があった。
「ちらっと見える感じがいいのね~」
ヒャクメがでっかいカメラを構えて横島を盗撮してました……ワシが何を言っているか理解できないと思うが、ワシも理解出来ない。しかし今やるべき事は1つしかない。
【【みーちゃった♪みーちゃった♪よーっこしまに言ってやろー】】
「!?!?」
しまったという顔をしているヒャクメ。散々好き勝手言ってくれたのだ、やり返される覚悟は出来ているんじゃろうな!
「いやいや!ちょっと魔が差しただけなのね!?」
違うからと言うヒャクメ。じゃがその言葉を信じる馬鹿は居ない、何故ならば証拠が山のようにある。
【そこの山積みの写真はなんですか?】
オワタと言う顔をしているヒャクメ。どうも霊力を用いての横島の盗撮の常習犯の疑いがあるな。
【どれどれ】
「あ、あ!だめなのね!?」
その写真の山に手を伸ばそうとすると、ヒャクメが止めに入る。
【神でありながらなんと言う事をしているのですか!?】
生真面目な牛若丸が妨害に入り、ヒャクメの手がワシと沖田に伸びることはなく、裏返しにされている写真を引っくり返してみる。
【はわわわ!?】
【ほほう……】
そこにはズボンこそ穿いているが、上半身は裸で首からタオルを下げている横島の写真(腹筋がいい感じに割れている)。
チビやモグラと一緒に昼寝している写真に、抱き抱えてころころしている写真。
【これを公表したらどうなるか】
【……は!そ、そうですね!】
……沖田。今のお前はとんでもなく酷い顔をしているのに気付いておるかの?指摘するか悩むが、その写真の束を取り上げようとする。
「待って!待って!出来心!出来心なのね!?」
【【【出来心でこの量はおかしい】】】
ワシと沖田と牛若丸の声が重なった。どう見ても1000枚近くある、きわどい物も多い、これは変態の所業であると言わざるを得ない。
「欲しいのを上げるから黙っていて欲しいのね」
【……おい、馬鹿やめろ】
沖田が写真を着物に突っ込もうとするのを止める。だが沖田の目はぐるぐるしていて正気じゃない……こいつも良い感じにやばい奴だ。
【だってこんなに可愛い】
【ああ。それはワシもたまに思う】
昼寝している写真とか、モグラとかの毛並みを整えている姿とか確かに愛らしいとは思う……あ、待てよ。
【ワシもちょっと貰っておくかの】
「じゃあ言わないでくれるのね!?」
盗撮犯を突き出せないのは残念じゃが、この写真には使い道がある。牛若丸が汚物を見るような目でワシを見るが、個人的に使うのではなく、これは防衛策として使えるはずだ。
【いや、シズクとか、くえすとか怖いじゃろ?これで何とかなら無いかなと】
【あ。そうですね。じゃあ私も貰っておきましょう】
横島命のシズクとくえすは怒ると死に直結する。あの2人なら死んでいても殺すとか普通にやりかねないので、これはワシの命綱になりそうじゃ、写真を選んでいると綺麗に梱包されているのを見て、それに手を伸ばそうとしたんじゃが……。
「あ、それは駄目なのね。それは頼まれてるのなのね」
誰に?とワシ達が首をかしげた瞬間。襖が開き小竜姫が姿を見せた……まさかの人物に一瞬思考が停止した。
「ヒャクメ頼んで……」
【【【……】】】
ワシ達と小竜姫の目が合い、言葉に詰まる小竜姫とワシ達の嫌な沈黙が広がり、小竜姫は回り右をした。
「じゃあそう言う事で」
【待て待て、何事も無いように帰ろうとしてるんじゃ?座れ、な?】
これはまたとないチャンスであり、ここで小竜姫の弱みを握ってしまおうとワシが思うのは当然の事であり、逃げようとした小竜姫の肩をワシは即座に掴むのだった……。
「すみませんでした。出来心で、横島さんには内密に……」
小竜姫が横島に恋慕していると言う事を知った瞬間でもあった。
【全く写真で見るくらいなら、近くで見たほうがいいのに】
そして明後日の発言をする牛若丸に診察部屋が一時騒然となったりと、とてもぐだぐだじゃったが、診察自体は済み、霊力の向上と身体能力と魂の感覚へのラグが減った事がヒャクメによって告げられるのだった……診察のはずが、犯罪者と遭遇するというとんでもない一幕が広げられている頃横島はと言うと……。
「ふっふーん♪」
「ぷぎゅー♪」
モグラちゃんやうりぼーの毛にブラシを通していた。
「ずいぶんと楽しそうね?」
「だって、櫛を通すともふもふになって可愛いじゃないですか」
美神の言葉に櫛を通し終え、ピカピカになったうりぼーを掲げてみせる。
【まぁいいじゃないか、馬鹿な事をするよりよっぽど良い】
「そうなんだけどね、あんまり増えすぎるとね」
「でも横島が悪いわけじゃないですし」
横島に向こうが懐いてしまい、付いて来るのであって、横島が悪いわけじゃないからとフォローする蛍の前で、横島は膝の上に乗ってきたタマモの9本の尾に丁寧に櫛を通しながら、リボンの束に手を伸ばす。
「リボンを赤いのから白いのに変えようか?」
「コン!」
首元に結んでいるリボンを交換しようかととてもほのぼのした表情でタマモに告げているのだった……。
「よこしま!クマゴローもブラシしたい!」
「くう!」
お風呂から出てきたクマゴローと天竜姫に横島は苦笑し、鞄からブラシを取り出して天竜姫の方に視線を向ける。
「おいで、やりかたを教えてあげるから」
「判った」
天竜姫にブラシを渡し、毛の方向に逆らわないようにと注意しながらクマゴローのブラシの仕方を教えていた。
「……なんか見ていてホッとしますね」
「そうね」
【本当ですね~】
「……日常って感じだな」
修行場である妙神山ではあるが、穏やかなその雰囲気に美神達もホッと溜息を吐いていた。修行、訓練続きではあるが、こうして気を緩める事もまた修行では大切な事なのであった……。
~老師視点~
お気に入りのゲームをやるでもなく、自室でキセルを吹かしていると襖が開いた。
「失礼します」
「おうなんじゃあ?」
竜神王が失礼しますと言って部屋に入ってくる。姿勢を正している竜神王に生真面目な奴めと心の中で呟く、まぁこの真面目さが無ければ竜神王なんて立場にはおれんな。
「横島達のほうはどうでしょうか?」
「いい具合じゃな」
妙神山の本来の修行形式では無いが、14日。つまり2週間の修行で考えれば後4日残して、十分に鍛える事が出来たと思う。
「本当ならもう一歩踏み込みたい所じゃがな」
加速空間で魂に負荷をかける所まで行きたいが、今回はそこまでは無理そうじゃな。次の機会に楽しみに取っておく事にしよう。
「それで何のようじゃ?」
竜神王と言う役職はそれほど暇な役職では無い。それなのに妙神山に滞在する、なにか特別な理由があると言うのは即座に理解できる。こうしてワシが1人でいる時に訪ねて来たと言う事はその理由を伝えに来たと見て間違いないだろう。
「……魔界正規軍より、ダンタリアンの予知が使えなくなったと……恐らくガープの侵攻が起きるかと」
「厄介じゃな」
キセルを鉢の上に置く、ガープの侵攻とダンタリアンの予知が使えないと言うのは相当不味い状況だ。元々ダンタリアンの予知能力に頼ったことは無いが、ダンタリアンの持つ書物には全てが記録されている。それが使えないと言う事は定められていた何かが既に砕け、未来が不安定になっていると言う事でもある。
「お前が妙神山に滞在しているのは横島達を逃がすためか」
「……建前は老師が妙神山を破壊したと言う事にしてますけどね」
建前でもなんて理由にしてくれたんじゃと頭を抱えるが、妙神山は間違いなく侵攻の中心になるだろうし、神魔が多く襲ってくるのは確実だ。
「東京とどっちがましかの?」
思わずそう呟いた。ガープの侵攻は恐らく人間界、魔界、天界の3つの世界で同時に行われるだろう。妙神山に横島達を匿うのが正解か、それとも東京に戻すのが正解か、難しい所じゃな。
「もしもの時はお願いします」
「うむ、心得た」
妙神山は特殊な立地でもあるし、天界側の霊界チャンネルを持つ拠点でもある。妙神山が落とされる事は何があっても避けなければならない、最悪の場合はワシ自ら妙神山の防衛に出る事になるだろう。
(出来れば何事も無いといいんじゃがな)
妙神山と天界と魔界に侵攻があり、東京……もっと言えば、人間界に態々ガープ達が出てこなければ良いと願うワシだったが、その願いは叶わず、新たな戦いの幕開けはもうすぐ側に迫っているのだった……。
リポート23 妙神山 その10
次回はややシリアスで書いて行こうと思います。リポート24に繋げるための話ですね、残り4日滞在できる予定でしたが、それも怪しくなりましたね。前半3つとの温度差が大きい、最終視点ですが、これもGSかなあっと思います。次回は妙神山以外の視点も絡め、別件無しでリポート24にはいりたいと思います。それでは次回の更新もどうかよろしくお願いします
視点が変わる時にそのキャラの視点と言う事を表記するべきか
-
サイドまたは視点は必要
-
今のままで良い