GS芦蛍!絶対幸福大作戦!!! セカンド   作:混沌の魔法使い

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どうも混沌の魔法使いです。今回は、転移で一緒に東京に来れなかった小竜姫の視点から書いていこうと思います。96時間しかない猶予、絶望的な戦力さの実感などを書いていこうと思います。それでは今回の更新もどうかよろしくお願いします


その3

 

 

 

リポート24 反逆者達の進軍 その3

 

 

 

時間は少し遡り、美神達が地面に落下したのと同時刻、結界の外で小竜姫、竜神王の2人もまた同じように地面に叩きつけられていた。いや、美神達よりも2人の状態は深刻な物だった。結界に弾かれると同時に、悪魔達の強襲……ダメージを回復する暇も無い戦いに2人は疲弊しきっていた。

 

「はぁ……はぁ……うっ……」

 

「ぐっ……罠に飛び込んだか……不覚……」

 

津波のように押し寄せる悪魔達を殲滅した頃には小竜姫も竜神王もダメージによって立ち上がることも出来ず、その場に膝を付いた。

 

「……ぐっ……りゅ、竜神王様……なんとかして……私だけでも中に入れませんか……」

 

右腕から血を流し、その着物を真紅に染めている小竜姫が剣を杖代わりにして立ち上がり、竜神王にそう懇願する。

 

「そんな有様で無茶を言うな……それに……今は東京には……入れん」

 

一緒にいた美神達は恐らく結界の主。つまりガープに招待されていたので入る事が出来たが、招かざる客は東京に足を踏み入れることすら叶わぬと竜神王は忌々しそうに結界を睨みながら告げた。

 

「……撤退だ。このままでは、私もお前も危ない」

 

「で、ですが……くっ」

 

竜神王に詰め寄ろうとした小竜姫だが、それも叶わず膝を着く。いまの自分では助けになる所か足手纏いと悟った小竜姫は悔しそうに、顔を歪め足を引き摺りながら竜神王の側に向かう事しか出来なかった。

 

「対策を整えて、あの結界を突き破る必要がある……やつらめ、とんでもない事をしてくれる」

 

「……そんな!?」

 

竜神王の視線の先を見て、小竜姫は悲鳴を上げる。2人の視線の先には徐々に近づいてくる巨大な星の姿があったのだった……

 

 

 

~美神視点~

 

優太郎さんのビルの応接間、そこで高城に告げられた言葉に頭の中が真っ白になった。

 

「ごめんなさい、もう1回言ってくれる?」

 

どうか私の勘違いであって欲しいと思い、もう1度言ってくれと頼む。高城は溜息を吐きながら、受け入れ難い事実だろうがと前置きして、詳しく説明してくれた。

 

「東京の中心に現れたあの塔にむかって星が落ちている……私達に残された猶予は96時間……4日であの塔を破壊しなければ……日本は滅ぶ」

 

聞き違いじゃなかった。96時間でもう1度あの塔へ向かい、なおかつ強くなっている筈の沖田ちゃん達を一撃でKOし、変身している横島君を常時圧倒していたあのライダーを倒して、あの塔を破壊する。どう見積もってもそれは不可能としか思えなかった。

 

「更に言うと、結界内の神魔は著しく弱体化するし、外から援軍を呼ぶことも不可能だ」

 

追加で齎された情報に思わず琉璃がヒステリックに叫んだ。

 

「そんなのどうやっても不可能じゃないですか!?」

 

「そうだな、私もそう思うよ。だがやらなければ日本に住む全員が死ぬ、何もせずに諦めるのか?」

 

挑発するような高城の言葉。普通ならこんな話を聞けば、ヒステリックに叫ぶか、諦めるかの2択だろう。だけど、私には何か手があるのが判っていた。

 

「貴女のボスが横島君を死なすのをみすみす見逃すとは思えないわね。業と挑発するようなことを言ってるけど……手が無い訳じゃないんでしょう?」

 

私の言葉に高城はふんっと鼻を鳴らしてから、ソファーにどっかと腰掛ける。香港であった明けの明星、どうも横島君を気に入ってる様子だから、むざむざ死なせるわけがないと信じたい。最悪でも横島君や蛍ちゃんと言った次代のGSだけでも日本から避難させて欲しいと思うのは当然の事だ。

 

「手は無いわけじゃない、だが100回やって1回成功すれば良い程度の勝率だ。正直に言おう、こんなものは作戦とも言えん、命を賭けた大博打だ」

 

100回やって1回成功するかどうか、大博打も良い所だが、それしか手が無いならそれに賭けるしかないだろう。

 

「詳しく聞かせて、時間は有限なんだから」

 

96時間……4日しかないのだ、時間は1秒だって無駄には出来ない。

 

「今の段階で判明しているのは、あの塔は魔族の扱う結界術をベースにしていると言う事だ」

 

「土角結界とか、火角結界ですね」

 

高城の言葉に琉璃が即座に結界の種類を言う、火角結界はGS試験でも見たのでとても印象深い結界だ。そして魔族の結界術の中でも極めてポピュラーな物でもある。

 

「ああ、だがベースにしているというだけで、その結界に当て嵌まるわけではない。基本的なシステムが同じという事だ、つまり、中心を

破壊すれば結界は機能を停止する。そしてあんな塔を作り上げたんだ、結界のコアは紛れもなく登頂部にあるだろう」

 

ここまで聞けば作戦と言うのは大体理解した。と言うか理解してしまった……作戦なんて言えない、限りなく特攻に近い物だ。

 

「塔に突入して、登頂部のコアを破壊する事が作戦?」

 

「そうだ、結界を破壊し、隕石の誘導を停止させる。そうすれば後は力を取り戻した、私達も協力出来る」

 

殆ど特攻に近いそれが私達に残された、生き残るための道。しかも神魔の力を借りれないとなると、負傷している横島君も当然借り出されるし、エミや、冥子に、ピート達も総動員されての作戦になるだろう。

 

「予定としては2日。2日を使い、塔の内部の情報を可能な限り集める、そして装備を整える。突入が無理な場合は」

 

優太郎さんはそこで言葉を切り、窓の外を見つめる。そこには既にゆっくりと降下している隕石の姿があった……。

 

「隕石を破壊するという方向でドクターカオスに連絡を通している」

 

突入し登頂部を目指すか、隕石を破壊し、96時間と言うタイムリミットを無くすかの2つ。明確な目的が出来たのは良いが、その前には横島君を完膚なきまでに叩きのめしたライダーの撃破という大きな壁が立ち塞がる。

 

「これ、横島君を徹底的に叩き潰したライダーの戦闘記録。これの対策が絶対必要だわ」

 

私の手から飛び立ったトカゲデンワが壁に映像を映し出す、映像記録としては5分ほど、だがその記録映像で相手の脅威は十分に伝わるはず、私はそんなことを考えながらノイズ混じりながら横島君が必死に記録した、相手の姿に視線を向けるのだった……。

 

 

 

 

~カオス視点~

 

今東京に向かって落ちてきている星の情報を可能な限り集めているのだが、集めれば集めるほどに状況が絶望的なのだと思い知らされる。

 

「ええい!また駄目じゃ!マリア、テレサ!パターンDの解析記録を回してくれ!!」

 

隕石を破壊するには霊力では駄目だ、純粋な攻撃力と火力が必要なのだが、神魔は弱体化し、そして他の支部や政府とも連絡が取れない。恐らく既に対策に動いているじゃろうが、連絡が取れないのでは連携の取り様も無い。

 

「ドクターカオス、どうぞ」

 

「これ!」

 

マリアとテレサがくれた資料に必死に目を通し、どこかに突破口を探すが、考えても考えてもあの隕石を破壊する手段など思いつかない。

 

(ミサイルを強化するか?)

 

自衛隊基地の戦闘機用のミサイルを改造するにしても時間がない、しかもあの面積だ。ミサイルで何とかできるとも思えない……。

 

「……はい!もしもし!!!」

 

電話が鳴りいらだちながら受話器を手に取る。

 

『もしもし、ドクターカオスか!?僕だ。西条だ!』

 

西条からの電話と言うことでほんの少しだけ冷静さを取り戻す、今は仲間内で仲間割れしている場合では無いからだ。

 

『時間がないので要点だけ言う、自衛隊の武器は既に悪魔によって破壊されていて使い物にならない!戦闘機や戦車も同様だ』

 

その報告に舌打ちする、戦闘機を無人に改造して隕石にぶつけると言う作戦は実行する前に潰れた。

 

『芦優太郎と言う人物のビルに令子ちゃんや神代会長がいるんだが、横島君が重症だ!』

 

「なんじゃと!横島が重症じゃと!?」

 

ワシの言葉にマリアとテレサが椅子から立ち上がる、妙神山にいるはずなのに何故横島が東京にいて、重症なのかそれは知りたかったが、そんなことを悠長に話し合っている時間は無い。

 

『良いかい、今から白竜寺の雪之丞君、クシナ君、陰念君。そして三蔵さんと綱手さんの5人が貴方の家に向かう!その5人と合流し、優太郎さんのビルに向かってくれ!』

 

それはこのまま個別に対策をしていても、何にもならないと言う事であり、そして横島の治療の人手が必要だというのが判った。

 

「判った準備を整えて、出発の準備をする!」

 

『そうしてくれ!僕はこのまま、六道の屋敷へ向かう!』

 

西条はその言葉を最後に電話を切った。兎にも角にも生き残り全員を優太郎の元へ集め、残された96時間で隕石と塔を何とかする。その方法を考えないといけない。

 

「マリア!テレサ!霊薬の材料を全てバッグに詰めろ!ワシは開発中の霊具を運ぶ!時間がない!急げ!!」

 

「「は、はいっ!!」」

 

ワシの珍しい怒声にびくんっと身を竦め、行動に出るマリアとテレサ。2人を見ながら地下の研究室へ走る、試作段階の霊具が培養液の中に浮かんでいるので、それを急いで排出する。

 

「ええい、まだ実戦段階では無いというのに!!!」

 

未来でのアシュタロス戦役の時に見た、竜の牙やニーベルングの指輪による、美神の強化。流石に神具による強化は負担が大きいので、擬似神具……聖句や聖水で清められた素材と擬似精霊石で作り上げた神具を研究していたのに……試験の前に実戦投入しなければならないことに舌打ちする。

 

「結局ぶっつけか!いつもこんなんじゃ!!!」

 

調整している時間はあると思うが、それでも安定起動するか不安が残る試作品を鞄の中に突っ込みマリアとテレサと共に家を出る。ガーゴイルをふっ飛ばしながらドリフトを決めて停まる車に絶句する、だがそうしなければ振り切れないと言う事なのだろう。

 

「早く乗れ爺さん!」

 

「誰が爺さんじゃ!」

 

ワシの事を爺さんと呼んだ陰念に文句を言いながら車に乗り込む、運転席でハンドルを手にしていたのは予想外にもクシナで、助手席には着物姿の女性があった。

 

「喋ってる時間は無いですから口を閉じて、なんでも良いから掴まって下さい!綱手さん!」

 

「判ってる」

 

指で印を結ぶと同時に車が霊力……いや、これは神通力か、それに包まれ急降下してきた悪魔を弾き飛ばす。

 

【よっし!クシナ行っちゃえ!!!車なら後で買いなおすわ!!!】

 

「はい!全力で行きますよ!!」

 

ゾンビや悪魔をぶっ飛ばしながら走り出すバン。その凄まじい加速に思わず座席に抱きつくようにして耐える、その時に雪之丞と陰念と目が合う、諦めきったその目を見て、ここに来るまでの惨劇が容易に想像できる。

 

【行け行けー!!!】

 

「人間の反応は無いからぶっ飛ばしなッ!!!」

 

「はいっ!!!」

 

アクセルを容赦なく踏み込むクシナ。ブレーキ役がいない所か凶悪な焚きつけ役が2人もいる、2人がとんでもなく遠い目をしている理由が判った頃にはもう遅い、ジェットコースターのように上下左右に振られることに歯を食いしばって耐える事しか出来ないのだった。

 

「はわわあああああ!?無理無理無理いい!目が回る!?気持ち悪い!!!」

 

「あわわあああああ!?無理無理無理ですう!!横島さーん!!!!」

 

気持ち悪いと叫ぶテレサと横島に助けを求めるマリア。もうなんと言うかバンの中はほんの数分で地獄絵図と化しているのだった……。

 

 

 

~蛍視点~

 

お父さんのビルの地下の結界で護られた1番奥の部屋で横島は眠っていた。シズクが作った水の布団に包まれ、ほんの少しだけ身体が浮いている。

 

「くえすも聞いたでしょ、96時間であの塔を攻略できると思う?」

 

「正確にはもう90時間切ってるでしょうね」

 

私の言葉にくえすが即座にそう訂正する。その言葉に、もう6時間経ってるのかとぼんやりと思った、ドクターカオスや、マリアさんとテレサさん、それに白竜寺の面子と言う全員が集まったのがもうずいぶんと遠くのように思える。ドクターカオスとシズクと綱手さんの治療で横島の顔色はずいぶんと良くなったが、それでもその顔色は悪い。皆追い詰められているのに、ベッドの側に腰掛け横島の側から離れる事が私も、くえすも出来なかった。美神さんや琉璃さんは私達の事を考えてくれたのか、何かあったら呼んでといって私達をこの場に残してくれたが、皆が動いているのにと言う罪悪感がどうしてものし掛かってくる。くえすも私も黙り込んで沈黙していると、部屋の中から叫び声が響いた。

 

「あいだだだだあああああ!!!!痛い!身体がバラバラになりそうなくらい痛いいいぃ!!!」

 

横島が目を覚まし、痛いと叫び始める。その声に椅子から跳ね起きて扉を開ける。

 

「シズク!シズクー!!!横島!横島が起きたわー!早く!早く!!!」

 

ブラドー伯爵や唐巣神父の治療をしていて、別の部屋にいるので早く来てくれと叫んだ。

 

「横島!暴れては駄目です!」

 

その後ではくえすが横島に暴れてはいけないと声を掛けて、身体を押さえている。1人では抑え切れないと思い私も手伝うと、横島は暴れるのを止めたが、その代わりに大粒の汗を流し呻き始める。

 

「がっぐうう……あぐう……」

 

今負傷者の中で1番重症なのは間違いなく横島だ。早くシズクに来てほしいと思っていると扉を蹴り開ける勢いでシズクが飛び込んでくる。

 

「……横島、動くな。大丈夫だ、すぐに痛みは無くなる」

 

シズクがペットボトルの蓋を開けて、中身を横島に振り掛ける。それは横島の体に触れるとゼリーのように硬化し、横島の身体を包み込んでいく。最初は私もくえすも驚いたが、飲ませるのも今の横島では危険だし、傷だらけの身体に直接振りかけるのも無理と言う事で、こうしてスライム状にして、横島の身体を包み込むようにするのがもっとも回復が早いとシズクは言っていた。

 

「……お前の霊力に調整してある。下手に動かなければ大丈夫だ、後1~2時間で身体の痛みは引くはずだ」

 

シズクが横島にそう声を掛けると、治療の効果が出ているのか、徐々に横島は穏やかな表情になり。額に大粒の汗こそ浮かんでいるが、それでもさっきのような死人のような顔ではなく大分落ち着いていた様子で、私もくえすもやっと一息つく事が出来た。

 

「ありがとう」

 

シズクに礼を言った横島は自分がどこにいるのかと思ったのか、頭と視線を動かし始める。そして私を見つけると、顔だけをこちらに向ける。

 

「蛍……あの後どうなったんだ?」

 

あの後……横島が光の柱に飲み込まれた後の事を聞いているのか、それともここに来るまでのことを尋ねているのか……恐らく両方だと判断する。

 

「あの後聖奈さんと高城が助けに来てくれて、奇襲で相手を蹴り飛ばして、ルーンでお父さんのビルまで逃げてきたわ」

 

2人とも弱体化していたらしく、確実に助けれるタイミングを計っていて、結局全員ボロボロになるまで割り込めなかったと2人に謝られた。だけどこうして全員無事とは言いがたいけど、逃げ切れたのは彼女たちのおかげなので文句を言うつもりは無かった。横島が口を開こうとした時、くえすが指でその口を塞いだ。

 

「今は自分の身体を回復させることに専念することですわ」

 

だから眠りなさいとくえすが言うが、横島は無理にも身体を起こそうとするので私もくえすも咄嗟に手が出てしまった。

 

(全然身体に力が入ってない)

 

力なんか全然入れてないのに、横島の動きを簡単に止める事が出来た。それだけ横島が重症なのだと判った、本当に死ぬ一歩手前だったと判ると額に冷たい汗が流れるのが判った。

 

「私達の怪我なんて軽い物なのよ、横島。今横島が1番重症なの、シズクの言うとおり治るまでは大人しくしていて」

 

「その通りですわ。状況は後で説明します、今は身体を休めてください」

 

2人で大人しくしていろ、休んでいろと言うと横島の顔から表情が消えた。その顔に思わず息を飲んだ、横島のそんな顔は見た事が無かったから……。

 

「誰か死んだとかは無い……よな?」

 

不安そうに言う横島。自分が気絶している間に誰か死んだんじゃないのか?と不安でしょうがないのだろうと判った。

 

「大丈夫、怪我をしてる人はいるけど、死んでる人はいないわ。本当に横島が1番重症だから、今は無理をしないで」

 

「嘘じゃないよな?俺を安心させようとしてるとかじゃないよな?」

 

動かない身体を無理に動かして、私の腕を掴む横島。その手は小刻みに震えていて、目には涙さえ浮かんでいる。

 

「大丈夫ですわ。全員無事ですから、私と蛍が嘘をつくと思いますか?」

 

「そうよ、大丈夫だから今は眠ってて横島」

 

横島の頭を撫でながら言うと、横島は不満そうにしていたが、その内目を閉じて穏やかな寝息を立て始める。

 

「……外も中もボロボロだ。88時間と言うタイムリミットがあるが、横島自身は10時間で完全回復する目安だが……私は横島を戦わせるのは反対だ」

 

シズクに言われなくても全員が反対するのは判っている。でも全員が反対したとしても、横島は戦うことを選ぶだろう。

 

「ジャンヌ・ダルクの事があるわ」

 

私も美神さんも意図して黙っていた。すぐに美神さんの事務所の事もあり、説明する時間が無かった。だけど横島の今の反応を見て、やはりジャンヌの事は横島にとって根深いトラウマになっていると確信した。

 

「ジャンヌ・ダルク?英霊が何か関係しているのですか?」

 

「……中世でガープが呼び出して、属性を反転されたジャンヌに横島は助けられたのよ。でも、ジャンヌは横島の目の前で消滅させられて

眼魂になっても横島を助けた」

 

正直発狂し、魔に堕ち掛けていた横島を引き戻せたのはジャンヌがいたからだ。もしそうでなければ、横島は完全にガープの手に落ちていたと思う。

 

「……チッ、トラウマか……」

 

「……そうなるか」

 

目の前で知人がいなくなる事、それが横島にとって根深いトラウマとなっている。仮に、横島を縛り付けて、私達だけで塔に向かったとしても横島は何をしても合流しようとするだろう。それだけ根深いトラウマとなっている……今のあの必死の表情を見て私はそれを確信してしまった。

 

「デリケートな部分過ぎて踏み込めないですわ」

 

「……だから黙ってたのよ」

 

心の中でもデリケートすぎる部分だ。そう簡単に触れてはいけない部分なので敢えて黙っていたが、東京に着てすぐくえすの元に駆け出したのも、トラウマの事だと思う。

 

【あのー、蛍ちゃん、神宮寺さん。美神さん達が呼んでいるので、そろそろ会議室にお願いします。私とシズクちゃんで見ているので】

 

壁から顔を出したおキヌさん、横島をおいて行くのは不安だったけど、今のやり取りも美神さん達に伝えないわけに行かないので、おキヌさんとシズクに任せて部屋を出る。

 

「はぁ……」

 

「溜息も出ますわね」

 

近くにいる筈の私達よりも、もう会えないジャンヌの方が横島の心に近い。それを知ってしまい、おもわずくえすと共に深い溜息を吐くのだった……。

 

 

 

 

悪魔やゾンビが闊歩する街。その場所には似つかわしくない2人の美少女が鼻歌交じりで闊歩する。

 

「全く、ずいぶんと面白いことになってるではないか」

 

「そうだね」

 

自身に向かってくるゾンビや悪魔を日傘で容赦なく殴り、突き刺し、切り裂き、そんなものは障害にもならないと言わんばかりに世間話を続ける少女達。青のエプロンドレスと真紅のドレス姿とこの場には相応しくない、服装でありながらも、そうあるのが当然と言うべき雰囲気に満ちていた。

 

「しかしだな。明星よ、こうなる前にあやつらを潰すという選択肢もあったのでは無いか?」

 

「そうだね。でもね、あんまり甘やかしても成長は見られないじゃないか、女帝」

 

言わずもがな、その少女達は史上最強の堕天使ルシファー事ルイ・サイファーと666の女帝ネロの両名だった。今までアスモデウス陣営の出鼻を挫き、面白おかしく戦況を引っ掻き回していた2人がこうして東京に戻ったのはつい2時間ほど前の話だ。正直この2人がいなければ天界も魔界も人間界もとっくにアスモデウス達に掌握されていてもおかしくなかった。だが2人の妨害が合ったからこそ、宣戦布告に留まっていたのだ。

 

「窮地に追い込み、横島がどんな力を発揮するか見たくないか?」

 

「うむ、それは……面白そうだ」

 

だろう?と笑いあうルイとネロ、だがその顔は邪悪とも言える色に満ちていた。

 

「仲間を失い、復讐心に芽生えるか」

 

「それとも仲間を生かし、自ら死地に歩むか」

 

そこで言葉を切った2人は楽しくて仕方ないと言う様子で笑いながら

 

「「どちらにせよ、横島には素晴らしい試練となる」」

 

より強靭に、より強く、その魂を磨き上げるためには劇的な試練が必要だ。だからこそ、ネロもルイもこの地に滅びの塔が建つのを敢えて見逃した。

 

「まぁ死ぬようならば、そこまでの人材と見るさ」

 

「だな、だが余の勘では横島は成し遂げるぞ。あの塔の破壊を」

 

そんなのは私も同じだよと笑いながら、ルイとネロは歩む、今から始まるであろう人間達の戦いを最も楽しめる場所へと……

 

隕石落下まで後……88時間

 

 

 

リポート24 反逆者達の進軍 その4へ続く

 

 




次回は美神達の作戦会議などの視点で書いていこうと思います。リポート24は今までの難易度よりも遥かに上で進めて行こうと思っておりますのであしからず、それでは次回の更新もどうかよろしくお願いします

視点が変わる時にそのキャラの視点と言う事を表記するべきか

  • サイドまたは視点は必要
  • 今のままで良い

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