GS芦蛍!絶対幸福大作戦!!! セカンド 作:混沌の魔法使い
リポート26 妖怪病院 その6
~夏子視点~
海のマークがある扉の場所は非常に遠く、更に幽霊の数も桁違いに増えていた……当然ながら、出会う度に除霊していては、弾切れを起こすのは明白だったので、必然的に隠れながら先に進むことになる。安全を考慮して隠れながら進む事を選択したのだが、それが緋立病院の謎を解き明かすことになるんなんて夢にも思わないのだった……ただし、それは絶対に知りたくない事実でもあったのだが……
【手足は繋いだ、これで動く、動くはずなんだ……何故動かぬ】
ぶつぶつと呟きながら、手を動かし続けるボロボロの白衣の医者。その手元には何も無いが、その呟いている言葉で何をしようとしているのかは判る
「……うっぷ……想像するだけで吐きそう」
「そうだね……でももうちょっと我慢しよう」
この部屋の外では兵士の幽霊がうろうろしている。だから後もう少しはこの部屋にいないといけないわけで……懐の除霊銃を手に取り、忍び足で医者の幽霊の後ろに立って目を逸らしながら引き金を引く
【うがあああああ……】
断末魔の悲鳴を上げて成仏する幽霊……その場にはこの廃病院には似つかわしくない金の懐中時計が落ちていた。
「結果オーライ?」
「まぁそうなるんじゃないかな?」
隠れてるのに不気味だから除霊しただけだけど……これは明らかに何かのキーアイテムだろう。それを拾い上げて開こうとするけど、全く開く気配が無い
「なんやこれ?」
「ちょっと貸して」
エルちゃんも懐中時計を手に取り引っ張ったり、回したりするが開く気配は微塵も無い。机の上において2人でうーんと唸る
「これもしかして時計じゃないんやないか?」
今まで進んできて判った事だが、どうにもこの軍病院を建設した人物はよほど時計に拘っていたと思う。だからこれも時計をモチーフにした何かであって、実際には時計ではない物かもしれない。そう判断して、時計を開ける事を諦めて鞄の中に戻しておく
「時間……かぁ、もう大分この中にいるよね」
「そやね」
少なくとも3時間は経過していると思う。だけど、まだ日は昇らない。信じたくないけど、この中では時間は流れていないのだと思う、ずっと静止した時の中に私もエルちゃんも居るのだろう
「とりあえず、何とかして脱出するか、外と連絡をとろ」
「……そうだね、行こうか」
この場所に留まっていても、何も変わらない。と言うか……この場所で死体同士をつなげて、蘇生実験をしていたとしればこんな場所には居たくなく、私もエルちゃんも外に亡霊が居ない事を確認してからゆっくりと扉を開いて外に出る。かび臭い空気と湿度が高いのにひんやりしている、そんな奇妙な通路の中を周囲を警戒しながら進む
「……森の扉だね」
「そうだけど……これ通れないやん」
鍵はないけど、駄目元でノブを回してみたらあっさり扉が開いた。だが開いた先の通路は穴が空いており、とても通る事が出来ない。どう考えてもジャンプしたり、橋を使って通れる幅ではない……
「あの時みたいのが必要なのかもしれないね」
「あーあれか」
果物の鍵を使って見つけた時計、あれを回したとき廃墟の中身が変わった。つまりまた似たような仕掛けが施されていると見て間違いないだろう
「……気が重いけど進もうか」
「そうだね、行こうか」
元々の目的は太陽の鍵が使えるかもしれない海の扉だ。とりあえずこの先に何かあると判っただけでも御の字と思うしかない、ここまで来れば海の扉は近い。この扉のことは少し後回しにして、今は先に進む事を考えよう
「よいしょっと」
エルちゃんに懐中電灯で照らして貰い、開いてくれと思いながら太陽の鍵を海の扉に突き刺す。ガチャリと何かが嵌る音がして、ゆっくりと鍵を捻る。果物の鍵と同様で回しきると鍵が折れてしまったが扉が開く
【○月○日 死体同士の結合実験の開始】
【△日△日 霊力の過剰投与により、一時的な蘇生を確認。ただし発狂した事により、頭部破壊処理実行。被検体14号の破棄を決定】
【□日□日 軍病院の霊的防衛施設化の了承を得た。これで私の邪魔をするものはいない】
【●日△日 僅かに生きている人間に死体の手足の移植実験の開始。拒否反応は少なく、これで戦闘不能の兵士の戦線復帰の可能性が出てきた】
【▲日□日 生き返った人間だが、戦闘中に発狂し、敵味方を関係なしに虐殺後。泡を吹いて死亡、被検体124号の破棄が決定された】
【■日●日 私の実験を危険とし、軍人が押しかけてきたが、霊力を持たない人間など恐れるに足らず。この蘆屋道貞を止める事などは出来ぬと知るが良い】
【■日21日 悪魔が私の空間に迷い込んできた。今までは私が殺した兵士で実験をしていたが、生きの良い個体を手に出来たのは幸運である。我が因果をより強い物にしてやろうではないか】
開けた扉から次々に聞こえてくる声。しかし最後の声に私の顔は引き攣った……21日。それは昨日の日付……
「……このさきにいるんか」
不死の兵士計画を実行した狂った霊能者の幽霊が居るかもしれないと思うと、どうしても足が止まる……だけど、ここまで調べてきて、先に続く物は無かった。
「行こう……見つからなければ何とかなると思うよ」
「そやな……そう思うしかないよな」
この先に進まなければ、私もエルちゃんもこの廃墟にいつまでも囚われたままだ。だから前に進むしかない……だけど
「手つなごか?」
「……うん」
1人では恐ろしくて前になんか進めない、私とエルちゃんはしっかりと手を繋ぎ。今もなお不気味な呟きが続く廃墟の中を歩き出すのだった……
~銀一視点~
通路の陰に隠れながら、必死に前に進む。幽霊兵士がこれでもかと歩き回り、その白濁した目が向けられる
(あーくそ、怖えッ!!)
大体俺はアイドルでこういうのは俺のキャラじゃないのに……心の中でそう呟きながらも、前へ進む足は意地でも止めない。夏子も俺と同じ目に会っていると知っているのに、足を止めれる訳が無い
【ギャッ!】
亡霊兵士が俺の横を通り過ぎるのと同時に、頭に銃口を突きつけて引き金を引く。発射された破魔札が幽霊を一撃で成仏させる、一瞬警備網が乱れた隙に扉の中に駆け込み、大きく息を吐く
「時計は……止まってるか」
入るまでは動いていた時計も今は止まっている。俺の感覚では大分歩いている感じがするが、それは幽霊が近くに居るという恐怖からそう感じているだけで、実際はさほど時間は過ぎてないのかもしれない。
「……弾は……まだ余裕はあるか」
もう1カートリッジは使ったが、後2本残っている。銃弾の数は多分……後30くらいだと思う。問題は、上の階層に続く階段が見つからない事と、亡霊兵士の姿が余りに多い事だろう
「な、何だ!?」
突然柱時計の音色が廃墟の中に響き渡る。その余りに音にびっくりして、大声を出してしまい。慌てて口を塞ぐ……暫くそのままでいると、廃墟だったはずの部屋の中がビデオの逆再生のように真新しい木の部屋に変わる
【蘆屋。お前は優秀な霊能者だが、やりすぎたな】
【おやおやおやおやぁ?そんな物を向けて……ヒヒヒ、どうするおつもりですかな?】
部屋の中に突然現れた2人に思わず身構えるが、2人は俺の存在には気付かない様子で話を続ける。腕章をつけた軍人と向かい合うのは着物を着た不気味な青年だ
【決まっている、貴様を処分する。このイカれた大量殺人者がッ!】
【ふふふふふ……はははははッ!これはおかしな事をお言いになられる。戦争なんてやっているんですよ?どちらも殺人者ではないですか?】
【黙れ!何が霊力で不死の兵士だ!貴様が!貴様がやっているのはッ!!】
【殺人でしょうか?死体と死体を繋ぎ合わせて、霊力で現世に魂を呼び戻し、命令を遂行すればまた死体にもどる。命令にも忠実で、死なない。貴方の注文どおりでしょう?】
【ふざけるなあッ!誰が死体を増やせといったッ!私は傷を癒せと言ったのだ!その間に不死に出来ると言うから、お前の話を聞いた。それなのに死体にするとは本末転倒だッ!!】
「……話を聞いてるだけで胸糞悪いな」
話を聞いているだけで判る。この着物の青年は死体を繋ぎ合わせ、霊力で魂を呼び戻し兵士として使っていた……この軍人さんが怒るのも納得だ。
【それにお前が主導になって開発している、霊的防衛兵器!起動するのに20人の生贄が必要だと!何を考えている!】
【死なない、傷つかない、そして大量殺戮が出来る。戦争にこれ以上無い武器でしょう?……酷いですね】
【な、何故!?何故死なないッ!!】
青年の言葉を遮り、銃の引き金を引いた軍人。その銃弾は青年の頭を捕らえ、その半分を吹き飛ばす……だが青年はゆっくりと立ち上がると、ぽんと言う音を共に姿を消す。空中をひらひらと舞うのは人型だ
【なっ!?】
【さようなら、貴方も私の人形になりなさいな】
青年の腕が軍人の胸に突き刺さる。きょとんとした顔をした軍人だが、その痛みに我に帰ったのか血涙を流しなら叫び声を上げる
【ぎ、ギィアアアアアアアッ!】
【ああ、良い。人間の悲鳴とは何故こうも心地よいのですか】
血にぬれる腕を見て恍惚とした表情を浮かべる青年……いや人の姿をした化け物を思わず睨みつける。だがこれは過去の記憶だ……俺と青年の目が合うことは無い
【さてさて、これで生贄も十分に確保できますね。くふふふ……時縛りの法を使えば、私の願いは成就するッ!!!】
青年が両手を大きく伸ばすと同時のその姿は掻き消え、青年と虚ろな目をした軍人の変わりに部屋の真ん中に魔法陣が浮かび上がる
「……これしかないのか」
この階層に階段やなどは無かった。これに入らなければ前に進むことは出来ないと悟り、俺は覚悟を決めて魔法陣の中に足を踏み入れる。
「……もうなんでもこいや」
一瞬で別の部屋の風景に変わった。ほんまもんの魔法陣かと思うと完全に開き直ることも出来る。ただ、さっきの会話が気になる
【うがあああ……】
【あああ……】
「ほんま、冗談きついわ」
あちこちから聞こえてくる呻き声……ただの亡霊ならいいのに、今一瞬見えた人影は明らかに両腕が人間の物ではなかった。きっと、あれが、蘆屋と言うキチガイが作った死体の兵士……それがまだこの廃墟の中に居る。そう思うと戸惑っている時間は無い、早く夏子を合流しなければと言う気持ちが強くなる。もう見つかって追い回されて無ければ良いのにと心配し、俺は手にしている除霊銃のカートリッジを交換し、部屋の外に出る
【ああああ……】
【ぼおおお……】
「くそッ!怖くなんてないからなッ!!掛かって来いやあッ!!!」
両腕が獣のような腕になっている兵士、両腕が無く、顔にレザーマスクをし、背中から蟷螂の刃が生えている死体兵士になきそうになりながら、まずは先制攻撃と思い、精霊石の粉末を投げ付け、手にしている除霊銃の引き金をがむしゃらに引くのだった……
~エル視点~
「おやおやおや、ここまで迷い込むとは、いやいや、運が悪いですねえ」
僕を追いかけるように聞こえてくるねちっこい男の声に舌打ちする。割れた鏡で背後を確認すると軍服を着た生きているとは思えない白い肌をした男が手足や頭部が人間ではない幽霊を引き連れて追いかけてくる
(夏子がいなくて良かったよ、本当に)
心の中でそう呟き、椅子の上に飛び乗ると同時に椅子を蹴って跳躍し、壁の装飾品にぶら下がってそのままガラスの無い天窓を通って反対側の通路に飛び込む
「おお!実に素晴らしい、貴方ならば良い兵士になりますよ!」
嬉しそうな男の声を聞きながら暗い通路を走り出す。背後の壁からは殴りつける音が響いてくるので、少しでも距離を取っておきたい。そんな事を考えながら走り続け、どうしてこんなことになったのかを思い出していた……
「行き止まりやね」
夏子が残念そうに呟く、あの海の扉の先は一直線の通路で脇道などは何も無い。本当に一本道の通路だった……2人できょろきょろを通路を見回していると、ある一箇所で目が止まった
「夏子、道はあるかも知れないよ。僕しか通れないと思うけど……」
壁の上のほうに天窓があり、そこが開いている。夏子を踏み台にすれば僕なら反対側にいけると思うと提案する
「いやいや!駄目やろ!行けても戻ってこれへんやんッ!?」
「でもこの先に行かないと、多分僕達は出れないよ」
多分さっき見つけた金の懐中時計を使うのはこの先にあると思う。僕がそう言うと、夏子は駄目だという理由を考えようとするのが判るが、それでも僕を止める理由が見つからないのか困ったような表情を浮かべる。
「何もいきなり行くとは言わないさ、1回開いてる部屋からシーツを持ち出して、それを繋ごう」
それが命綱になると思う、そのシーツの先を持って反対側の通路に向かい。向こうで金の懐中時計を使ったら戻って来て、シーツを掴んで戻ってくると提案する
「……判った。じゃあエルちゃんがぶら下がっても大丈夫なくらい、丈夫なシーツをさがそ」
あちこちの病室を見て、比較的綺麗で傷の無いシーツを何枚も繋いで、心配そうに僕を見つめる夏子に大丈夫と声を掛けて、僕は天窓から反対側の通路に向かった
「……夏子が来なくて正解だよ」
着地して直ぐ、僕の目の前に広がったのは血で汚れた通路だった。
「エルちゃん大丈夫そうかー?」
「うん、大丈夫だよ、でも進む前にシーツを試しても良いかい?」
夏子の返事を聞いてからシーツにぶら下がる、反対側の通路の柱に結んであるからかなり丈夫だ。後は壁を蹴りながら登れば、元の通路には戻れそうだ
「大丈夫そうだね。じゃあ、行ってくるよ」
「気をつけてなー」
壁を挟んでいるので大声で返事を返し、僕は懐中電灯で通路を照らしながらゆっくりと歩き出す。通路は鮮血だけではなく、奇妙な文字で埋め尽くされている
「……なんだろうね、この感じ」
夏子と出会うまでは自分と言う存在があやふやで、夏子と会ってから自分がしっかりしてきたと思う。そして今はこの血塗れの通路を見ても動じない、良くは判らないが何処かでこんな光景を見たような気がしなくも無い。
「とにかく急ごう」
早くこの通路の仕掛けを解いて、夏子と合流しよう。やっぱり1人だと不安になるし、夏子の事も心配になるからね。気配を殺しながら通路を早足で進んでいく
「……趣味が悪いね、本当に」
部屋の中を覗き込んでみるんじゃなかったと後悔する。この通路は壁の先と同じく一本道だが、左右に扉がある。何があるのか?と思い部屋の中を見て、見るんじゃなかったと後悔した。そこに培養液に浸された四肢の一部が獣に取り替えられた人間が何体も収容されていた……今まででキチガイと判っていたつもりだが、まだ全然足りなかったようだ
「ほほう。なるほどなるほど、悪魔とはこうなっているのですか、いやいや、実に興味深い」
【ギ、ギイイイイイッ!!!】
薄暗い通路の先から男の声と暴れ回る何かの音と苦悶の悲鳴が聞こえてくる……この先にこの惨劇を作り出した本人がいる。小さく深呼吸して扉を開けて別の通路に出る、扉の先は病院と同じ作りであちこちに部屋と机や椅子が置かれている。だけど、あちこちに壁やバリケードがあって、最短ルートで進むことは難しそうだが。それがかえって隠れ場所や相手を巻く事が出来ると判断し、僕はゆっくりと歩き出す。
(ここがこうか、覚えておこう)
目的地は奥の部屋だが、恐らく金の時計を使えば何らかのリアクションがあると思うので迂回次いでに逃走経路を確認する事を忘れない
「ほーほう。なるほど、霊体を肉体に押し込めればダメージを受ける。いやあ、面白いですねえ」
【ギ、ギグアアア】
悪魔の苦悶の声と暴れることでぶつかり合う鎖の音。それを聞きながら部屋の中を覗き込む、軍服の男が馬の悪魔の前で何かをしている……いや、何かなんて言えないね。悪魔を生きたまま解体してる……
(……あれか)
壁で仕切られ、男が悪魔を解体している部屋の前に銀の壁掛け時計が見える。ゆっくりと扉を開き、部屋の中に忍び込む
(うわあ……)
部屋の壁に等間隔で並んでいる異形の兵士……しかも幽霊ではなく、生身の肉体なので何らかの術でこの状態で保存されているのが判る。
なんにせよ、部屋に入る前に逃走経路の確認をしておいてよかったということだね。僕は壁に掛けられた銀の時計の文字盤の中心に金の懐中時計を嵌めた
「おやあ?まさかここまで潜り込んだ人がいるとは、いやいや、驚きですね」
音や動きと言う反応はなかったが、キチガイは何かを感じ取ったようで、首だけを動かし僕を見つめる。即座に踵を返し、背後から聞こえてくる男の声と不気味な呻き声を聞きながら来た道を全力で引き返すのだった……
「いやいや、よく逃げましたね。素晴らしい運動神経ですよ……ええ、全く素晴らしい、貴方ならば良い素体になりますよ」
「そりゃどーも……」
追い詰められたわけではない……あともう少しで夏子が待っている通路だけど、この男と一緒に戻るわけには行かない。だからあえて立ち止まったけど……こうしてみると本当に異様な男だ。軍服の上に着物、死人のように白い肌と、へんな化粧……服装も変だが、身に纏う気配はもっと異常だ……だけどもっと異常だと思えるのが、自分自身だ。これだけ不気味で異常な雰囲気の男と顔を見合わせているのに、恐れるわけでもない、動揺する訳でもない。自分の中で何かが研ぎ澄まされているような……そんな気がするのだ。
「人間を素体にする上で1番の課題は、霊力の有無。しかし優秀な霊能者を捕らえるのも難しい、となるとある程度の妥協と言うものは必
要になるわけです、しかししかし、貴方は素晴らしい。実に良い逸材だ、どうです?人間を超える力に興味はありませんか?」
聞いてもないのに喋り続ける男をじっと見つめていると、男はぽんっと手を叩く。
「おや、ああ、なるほどなるほど、お前達下がりなさい」
男が手を上げると周りにいた異形の兵士達は男から離れていく、なんか勝手に納得して、勝手に行動したけど……僕が無口なのは化け物が恐ろしいからと解釈してくれたようだ。
「さて、これで話しやすいでしょう?今ならばまだ麻酔を打ってから処置してあげますよ」
満面の笑みで告げる。だがそれは逃げれば麻酔なしで生きたまま解剖すると言う事だろう
「お断りだッ!!」
ここまで来る間に見つけた精霊石の粉末を男の顔に投げ付ける。着物は着物の袖で粉末を受け止める、その隙にと横を駆け抜ける
「手癖が悪いですねえ、まぁ、この程度で何とかなると思うとは……いやいや、子供は愛らしいことです」
男は全く怯む事無く、僕の肩を掴んだ。その事に驚いていると男はニヤニヤと笑いながら
「なにもおかしいことではありますまい?私は人間、人間に精霊石の粉末が効くとお思いですか?」
「……がっ!」
首を掴まれ吊り上げられる。片手で人を吊り上げておいて人間等とよく言えたものだ……だが、こうして捕えられてはどうしようもない
「追いかけっこは楽しかったですが、それもここまで、さぁ。行きましょうか?男か女なのか、それも調べてあげましょうね」
下卑た笑みを浮かべる男に、自分の中で何かが嵌ったような音がした
「……僕に……汚らわしい手で触るなッ!!!」
金色の粒子が舞ったと思った瞬間。男の首が宙を舞い、僕は薄汚れた通路に尻餅を突いていた。何が起こったのは判らなかったが、僕は直ぐに立ち上がり夏子が待つ通路へと戻る。すると夏子の隣には除霊銃と鉄パイプを背負った青年の姿があった……夏子と一緒に僕のお見舞いに来てくれた青年だったから、その姿は僕も覚えていた。
「エルちゃん!良かった無事やったんやな」
「夏子がまっとったのは君か」
僕を見て安心した様子の夏子とその隣の青年の手を引く、詳しく説明している時間がない……今は早く、この場所を離れないと……
「急いで!化け物が追いかけて来てる」
僕の声に続くように化け物の雄叫びが響き、壁に重い何かを叩きつける音が響く
「逃げるでッ!」
「判っとるわッ!!!」
あの化け物相手では、この壁なんてどれだけ持つか判らない。僕達は脱出経路を知っていると言う青年に先導され、その場を後にするのだった……
「いやいや、油断しましたねえ」
頭と胴体が離れ、完全に死体になった筈の男。だがその頭は胴体から離れているのに喋り続けていた……
「くふふふ、英霊でしたか。いやいや、これはとんだ掘り出し物……逃がすわけには行きませんねえ」
ゆっくりと立ち上がった胴体は地面に落ちている頭を拾い上げ、切断面に頭を乗せる。数秒で傷はふさがり、男は首を鳴らして、口についた血を拭う。
「ふふふ、ははははははッ!!ああ、楽しくなってきましたねえッ!!!」
白目と黒目が反転し、男の身体から瘴気とも取れるどす黒い魔力が吹き上がるのだった……
一方その頃横島達も病院の近くに訪れていた。うりぼーに跨り、病院の方に視線を向ける横島
「あのさ、心眼。あれやばくない」
【……横島、私は引き返す事を勧める。これはお前1人では無理だ】
【そうじゃな、この距離でも判る】
視界でも確認出来るほどの高密度の魔力溜りとなっている緋立病院。心眼とノッブの言う通り、引き返すのが正解なのだろう……
「駄目だ。夏子と銀ちゃんがいるから、ここまで来て引き返せない」
心眼達の忠告を聞いてもなお、横島は緋立病院に向かう事を決める。それを聞いて横島の隣に牛若丸が姿を見せる
【判りました。では私が先行して、先に様子を見てきます。可能ならば主のご友人も保護します】
「うん、頼むよ。牛若丸」
横島の言葉に牛若丸はお任せくださいと満面の笑みを浮かべ、木の枝の上に飛び乗り恐ろしいスピードで緋立病院へと向かう
「みむう?」
【ノッブー】
「うん、行こう。美神さん達も追いついてきてくれると思うし」
自分達が先行をしているのはシロ達が伝えてくれている筈、だから横島は前へ進む事を決断しうりぼーに跨ったまま緋立病院に向かうのだった……
「いやいや、今回も面白そうだねえ」
緋立病院に向かう横島を見つめる2人の人影……ルイ・サイファーとルキフグスだ。緋立病院を覆っている凄まじい濃度の魔力を見て、楽しそうに笑っていたが、ふと思い出したようにルキフグスに問いかける。
「さてと、で、ルキフグス。横島の家でメイドとして活動して何か判ったかい?」
ポーカーで負けた事で、横島の家に預けた自身の部下にそう尋ねる。するとルキフグスは目を逸らして
「いえ、挨拶回りが済んでなくてですね。それに横島にもまずこの街になれてからで良いと言われて……まだメイドらしいことは何一つ……」
「……それじゃあ駄目じゃないか、私が面白くない事が嫌いだと判っているだろう?」
睨まれ申し訳ありませんと頭を下げるルキフグス。その姿を見てルイはにやりと笑い
「今回は許すけど、もっと横島に接触して、私を楽しませてくれよ」
「……はい」
ルイの言葉に震えた声で返事を返すルキフグス、ルイはそんなルキフグスを見て心底楽しいという笑みを浮かべ、緋立病院に向かう横島に視線を向ける。こうして表に立って見に来ているのはルイだけだが、様々な場所……天界、魔界と言う場所から横島を見つめている視線を感じ、ルイは更に楽しそうな笑みを浮かべる。人間も、神魔もその全てが理解しているわけではない、だが横島が望む、望まないは別にして、横島は全ての出来事の中心へとなっているのだから……
リポート26 妖怪病院 その7へ続く
次回で横島と夏子達の合流の話まで書いていこうと思います。ただ今回の敵が、とあるキャラに似ていると書いた後に気付きましたが、このままで行きたいと思います。それでは次回の更新もどうかよろしくお願いします
視点が変わる時にそのキャラの視点と言う事を表記するべきか
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サイドまたは視点は必要
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今のままで良い