GS芦蛍!絶対幸福大作戦!!! セカンド 作:混沌の魔法使い
リポート28 切り開け、己の未来 その6
~蛍視点~
東京から持ってきた霊具や装備を身につけ、シズの本体である御神体の捜索の準備を進める。正直レブナントがいることは想定していなかったのでレブナントに対応する装備はないが、それでもそれ以外の相手には何の問題も無く対応できると思う
「結界札と防御札は少し多めに持っていくわよ」
「はい、ありがとうございます」
美神さんが用意していた結界札と防御札を自分用の霊札ホルダーにセットしておく、あの昆虫軍団や、木が変化した人型だけでも十分に厄介だ。装備はいくら準備していても足りないだろう
「じゃあ、そろそろ行きましょうか」
「はいっ!」
美神さんの言葉に気合を入れて返事を返す。危険であることは想定していたが、私達を待ち構えるのは想定したよりも遥かに危険な状況……一瞬も気を緩めることは出来ないわねと気合を入れて氷室神社の庭に出る
【ノブノブー♪】
「おーウィリーだ。凄いなチビノブ」
【ノッブー♪】
チビノブサイズのバイクを乗り回しているチビノブを見て、今まで全身に満ちていた気合が一気に抜け落ちた気がした。琉璃さん達も凄く複雑そうな表情をしている
「ぷぎゅーぴぐぐー」
「みむー」
うりぼーが短い足をぴこぴこ動かして空を飛んでる……そう言えば、前も飛んでたけどうりぼーの新しい能力なのだろうか、そんな事を考えているとうりぼーの高度が徐々に下がり、横島がそれを抱き止める
「急急如意令、風精招来」
「ぷぎゅー♪」
横島が陰陽札を貼り付けると、再びうりぼーが空へと舞い上がり、バイクではなくUFOの上に座ったチビノブも混ざって空の上で遊び始める
「美神さん、頭痛がします」
「奇遇ね、私もよ」
横島のフリーダムさをまだ私達は甘く見ていた、煩悩がなくなったのを喜ぶべきか、悲しむべきかは微妙なんだけど、この天然さは間違いなく嘆くべきだと思う
「蛍ー美神さん、おはようございまーす」
弾ける笑顔の横島に私も美神さんも疲れたように手を振り返すことしか出来ず、同じ様な表情で縁側に座っていた琉璃さん達は
「なんか、良い感じに気が抜けたって感じなんですよね」
「横島が楽しそうですから、別に良いんですけどね」
「……最近ますます馬鹿になってる気がする」
シズクの評価が辛辣すぎる。だけど、その顔は笑っているので本当に馬鹿とは思ってないのが良く判る。むしろ微笑ましい物を見つめていると言う感じに見えなくも無い
【ま、気負いすぎても良い結果は出んぞ、これくらい脱力してる方が丁度良い】
【焦りは失敗の元です。敵地に向かうのですから、ある程度の緊張は必要ですが、やはりある程度の脱力も必要ですよ】
ノッブと牛若丸の横島へのフォロー。確かに気負いすぎは良くないだろう、横島がそこまで考えているつもりはないと思うけど……いい感じにリラックス出来たと思えば横島の行動は決して間違いではないだろう
「せんせー、拙者も頑張るでござる!」
「ま、ほどほどに頑張りなさいよ。ほどほどにね」
シロとタマモのコンビが横島にじゃれ付いている姿を見ていると、微笑ましい物か、それとも嫉妬するべきなのか正直少し悩む。くえすも複雑そうな表情をしているので、判断に悩むところなのだろう
「良し良し、頑張ってくれるのは良いけど怪我はしないで、全員無事でまた戻って来ような」
引率の先生って感じね、でも一番無茶をする横島が言っているので、残念ながら説得力は全くの皆無だけど……
「そろそろ出発しましょうか、山の陰気が薄まって来ましたから」
山の力のバランスを確認していた小竜姫様の言葉に頷く、本当なら朝早く出発して早い段階で戻りたい所だ。だけどここまで山奥だと、陰気が満ちていて、悪霊や妖怪の出現確率が増す。それならばリスクを少しでも減らす為に日が十分に昇ってから出発すると言うのは決して間違いではない筈だ
「じゃあ出発前に、今回の作戦を説明するけど、全員驚かないで頂戴ね」
「私と美神さん、それと小竜姫様で考えたんだけど、多分これが最善の方法だと思うの」
そう前置きされた作戦は驚き、異論を口にしたくなる内容だった。正直、リスクとリターンの吊りあいが取れてないと思ったが、説明を聞いて、それしか方法が無いと言うのは嫌でも思い知らされた
「仕方ないですわね、それで行きましょうか」
「……だな」
この作戦の要となるくえすとシズクが美神さん達の計画を受け入れた。2人の説得が一番面倒だと思ったが、恐ろしいほどに素直に認めてくれたので安堵する。
【途中までの案内は私がします。では出発しましょう】
出発して、帰ってくる場所が滅ぼされていると言う自体は避けなければならない。シズとナナシとユミルの3人を氷室神社に残し、私達は御神体を目指して山の中へと足を踏み入れるのだった……
~美神視点~
御呂地岳は初心者にも登りやすい山だ。正しそれは通常の登山ルートに限る、御神体が眠るのは氷室神社の人間だけが知っている山道の奥の奥……通常の道では辿り着けない場所にある
「ふう、結構厳しいわね。皆大丈夫?」
氷室神社を出発してから1時間険しい山道を登り、開けた場所に出たので休憩する事にする。正直何時敵が襲ってくるか判らず、そして装備も万全なので体力の消耗は激しい
「まだ大丈夫ですわ。ただ、敵が出てくるとなると何とも言えないですわね」
「ここまでは敵も出てないですしね」
くえすと琉璃が額の汗を拭いながら返事を返してくる。確かにその通りだ、敵も御神体を奪われる訳には行かないと言うことは理解しているはず、それなのに敵が出てこないのには違和感を覚える。行きは良いが帰りは地獄……罠に誘い込まれている気がしてならない
「シズク、心眼、今のところ何か気配はある?」
索敵能力に秀でた2人に尋ねてみても何の気配も無いと言う返事が返ってくる。これはおかしいわね
「小竜姫様、どう見ますか?」
「……十中八九罠でしょうね。ですが、私達には前に進むという選択肢しかありません」
あの巨人が御神体を手にしてしまえば、それこそ無尽蔵の神通力を得てしまう。そうなれば私達に勝ち目はない、なんとしてもレイよりも先に御神体を入手しなければならない……とは、思っている。だけど最悪の場合も想定しなければならない、敵の奇襲、そして自分達の計画が失敗しているかもしれないという不安を抱いて行動しているので、肉体的な疲労よりも精神的な疲労が大きくなってくる
「ぷぎゅう」
「うりぼーも大丈夫そうだな。大変だけど頑張ってくれな」
荷物を運搬してくれているうりぼーの頭を撫でる横島君。うりぼーがいてくれるから、大荷物を運ぶ必要は無いので、これには本当に感謝するしかないわね
「……」
「……感じるでござるか?」
「遠いけどね」
シロとタマモが山頂を見つめてその顔を険しくさせている。動物的な勘で何かを感じ取っているのかもしれないわね
「シロ、タマモ何か嫌な感じがするのか?」
「……変な感じって感じかしらね、どこかから纏わりついてくる……蛇みたいな気配がするのよ」
「気持ち悪いでござるよ、しかもどんどん気配が強くなってきているでござる」
蛇みたいな気配……か。敵はレイとあの巨人の眷属だけじゃない、もしかするとガープが召喚した魔界の獣と言う線も捨て切れない
【進むなら今と言う所じゃな、長期戦になる可能性もある。もう少し霊脈が太い所を見つけておいた方が良い】
【結界を作るなら、そっちの方が好都合ですよ】
どの道前に進むしかないのだ、ノッブと牛若丸の言う通り、スピードが大事なことは十分判っているけど、最悪の場合に備えて霊脈が十分な場所を見つけておくのも必要なことかも知れないわね
「じゃあそろそろ出発しましょうか、周囲への警戒を怠らないでね」
そう声を掛け、登山道から獣道へと足を踏み入れる恐らくここからが、本番になる筈……それが全員判っているので、凄まじい緊迫感を維持したまま周囲を警戒しながら、山の奥へと足を踏み入れていくのだった……
~琉璃視点~
御神体に近づくに連れて氷室神社を出発してから感じていた嫌な予感はどんどん増していた。敵が現れない事、それすらも不安を煽る
「琉璃さーん、大丈夫ですか?」
「だ、だだーー大丈夫ー!!!!」
切れかけの縄の橋を渡るとか冗談じゃないけど、この先に行かないといけないのだから高所恐怖症だって意地でも我慢してみせる
「……腰。抜けるかもしれない」
「我慢してよねッ!?」
蛍ちゃんが真顔で腰が抜けるかもしれないと言うけど、山の間だから凄まじい強風が吹いているし、縄を切れそうだし、板も切れそうで本当に踏んだり蹴ったりである
「琉璃さん……私泳げないんです……落ちたら死ぬ……」
「そんなカミングアウトいらないわ!と言うか不吉な事ばかり言わないで頂戴!」
一緒に橋を渡っているわけではない、蛍ちゃんが一番最後なのだけど不安に駆られすぎてさっきかたネガティブな事しか言ってない。本当なら小竜姫様や、うりぼーに乗せて貰うと言う形で渓谷を渡る所なのだが、身動きの取れない空中で襲われる可能性を考慮すると橋を渡り、回りの皆に守って貰うのが一番安全な形なのだ。だから我慢するしかない、我慢するしかないんだけど……本当怖すぎる。お願いだから、橋を渡っている間に敵に出てこないで欲しいと祈る事しか出来ない
「は、はぁ……はぁ……わ、渡り切ったわよ……」
橋を渡りきり、地面に足がついた時その場に思わず蹲ってしまった
「大丈夫ですか?水飲みますか?」
「……う、うん。ありがとう」
横島君から水を受け取り、口に含む。冷たい水が喉を滑り落ちていく感じが実に心地良い、今までの緊張感が一気に緩んだ気がする……
「蛍ちゃん!後は貴女だけよ、頑張って!」
「蛍-頑張れーッ!」
【み、見た目はボロボロですけど、橋は結構丈夫ですからー】
【私も分析している、大丈夫だ。落ちることは無い】
顔面蒼白の蛍ちゃんに声を掛けている横島君達を見ながら立ち上がり、乱れきった呼吸を整える
「琉璃、来ますわよ」
何が来るなんて言うまでも無いだろう、蛍ちゃんに横島君達が声を掛けているのは橋を渡った瞬間。この周辺の空気が変わったからだ……暗く澱んだ闇の気配とも言える。蛍ちゃんが橋を恐れているのは判っているけど、一刻も早く体勢を立て直す必要がある
「……駄目だ、時間切れのようだな」
「そうみたいですね!」
茂みが大きく動き、待ち構えていたと言わんばかりに樹木で出来た狼が飛び掛ってくる。
「拙者の前で出来損ないの狼を見せるとは……挑発でござるか?」
【!】
擦れ違い様の一閃で樹木で出来た狼の首は乾いた音を立てて、地面に落ち溶ける様に消えていく
「来た!蛍ちゃん!急ぎなさいッ!」
「急げ、蛍ッ!心眼ッ!」
【判っている】
蛍ちゃんの背後からも樹木で来た異形が地面から生える様に現れ、逃げ腰で橋を渡っている蛍ちゃんに迫る
「うう……ううううーッ!!!」
目を閉じて橋の上を走り始める蛍ちゃん。橋が激しく揺れているが、ゆっくり渡っている時間は無い。横島君が両手に栄光の手を作り出して、タイミングを計っているのが見える。恐らく射程範囲に捉えたら、手を伸ばして蛍ちゃんを引き寄せるつもりなのだろう。それならば……
「シズク、うりぼー達に攻撃の指示をお願いします、タマモちゃんは炎を!小竜姫様とくえすは敵の迎撃を!シロちゃんとノッブと牛若丸は背後からの襲撃に対応してください」
矢継ぎ早に指示を飛ばしながら、私は荷物から精霊石の粉末と結界札を取り出す。敵の数に限りは無い、山の中に居る以上どこにいても、敵は再生し現れる。まずは安全な拠点を作り、そこで休みながら戦わなければ間違いなく数の暴力で敗北する。私達は敵のホームグランドに足を踏み入れてしまったのだから……
(明らかに強くなっている)
団子虫とトンボの姿は消え、代わりに樹木で出来た狼と鳥が新しく出現している。それは団子虫とトンボでは対処できないと判断したからだろう、シズは知性は無いと言っていた。だけどあの巨人には明白な意思があるという証拠だ
「うっし!蛍、少し目を閉じてろよッ!!」
「え、きゃっ!?」
蛍ちゃんの短い悲鳴と美神さんのでかしたと言う声が聞えてくるので、栄光の手による蛍ちゃんの回収に成功したのだろう
「……狙え、撃て!」
「「「「ぴぐぐーッ!!!」」」」
整列したうりぼーがシズクの指示で霊波砲を放ち、空中から襲撃しようとしていた鳥を次々撃ち落していく……谷川の近くで少し間違えば谷底にまっさか様に落ちることになる、だがここで相手の攻撃を食い止めるしか私達には手段はない、例えこれが敵の罠でレブナントが現れる時間稼ぎだとしても……戦わないという道は私達の中には存在しないのだった、何故ならばこの事態は私達にとって、想定外ではなく……想定内に過ぎなかったのだから……
~横島視点~
ボロボロの橋を渡り終えると同時に、先ほどまでの敵の気配が無い状態は一転し、雪崩のように敵が襲ってくる。出発前に美神さんたちが話していた最悪の展開になっていると俺は確信した
『出発前に話しておくけど、もう敵が御神体を確保している場合があるわ。その場合はくえすの魔法で氷室神社まで撤退する事になるわ』
『こちらが先に回収できれば御の字だけど……敵も御神体が必要な事は判ってる筈。出発する前に、気勢を削ぐような事を言うけど、多分7ー3で敵が既に御神体を回収していると思って欲しい』
美神さんも琉璃さんもこの事態を想定していたのだ、そしてその上で今回の作戦を考えていた。それは樹木の敵の細胞を手に入れること……生物と樹木の中間の姿をしていたとしても、生物ではなく植物だ。そしてその植物はおキヌちゃんの一喝で砕け散った巨人の体細胞と同じ物であるというはず
『……それが判っているなら、全員で出ることは無いんじゃないのか?』
『敵も馬鹿ではないですからね、こちらが少数人数で出れば最初からレブナントをぶつけてくる可能性があります』
レイが変身するレブナントは正直俺よりも遥かに強い、東京では見逃された形になるが戦いになれば俺に勝てる要素は何処にも無い。罠だと判っていて無策で突入する馬鹿は居ない、最悪の場合……つまり御神体を相手側に確保されていた場合。樹木の兵士の体細胞を回収し、神宮寺さんの魔法で離脱する。それが美神さん達の立てていた計画だった
【ノーブーッ!!】
機械音を立てて、UFOが変形した戦車と合体するチビノブは流石に想定外だけど……多分それ以外は美神さん達にとっては想定内だろう
【ちいっ!思ったよりも厄介じゃぞ!】
【そうですねッ!!】
問題は敵の身体の一部を回収したいのに、倒した傍から消滅してしまうことだろう
「……なるほど、中々賢いようですわね」
「……共食いか」
神宮寺さんとくえすがそれぞれ、氷と土で相手を拘束するが、拘束された傍から樹木が集まり拘束されている物を貪り食う。
【不味いな、知恵を確実につけている】
心眼が舌打ちしながら告げる。敵は知性が無いはず、だからこそ、相手を回収する計画を立てていた。だけど相手はそれを完全に越えてきた……本能的か、それともガープに入れ知恵されたかは判らない。だけど、俺達に樹木を回収させる木は一切無いのが良く判る
「そこッ!」
「せいッ!」
タマモの狐火とシロの霊波刀の一閃が樹木の化け物を貫く、だが先ほどまでは一撃で倒せていた化け物はいまだ活動を続けている
「くっ、硬くなってるッ!」
「蛍!頭を下げろッ!」
神通棍で殴りつけても、止まる事無く歩き続ける樹木の化け物を見て蛍に頭を下げるように叫び、栄光の手で殴りつける。先ほどまではこの一撃で、相手を倒すことが出来ていた。だが俺の手に跳ね返ってくる衝撃はまるで鋼鉄を殴りつけたような重い手応えだ
【主殿ッ!!】
【!?】
牛若丸が木を蹴りつけてその勢いを利用して、敵を胴体から両断する。これは敵の細胞を回収できるかもしれないという期待を抱いたが、地面に落ちる前に敵の身体は霊力に変換され霧散していく
(蛍ちゃん、横島君。どうも今回の作戦は最低限の目的を達成するのも難しいかもしれないわ)
美神さんが深刻な表情で告げる、敵はこちらの想定よりも強く、そして回収する筈の敵の身体も回収する前に消えてしまう。御神体の社に辿り着くにも、この場に足止めされていては御神体所ではない
「……こんにちわ」
「ああ、こんにちわ」
そして更にレイまで現れた。状況は悪化の一途を辿っている……しかもレイが出てきてしまっては、俺が出ない訳には行かない
「今回は貴方を捕獲するように言われていますので、大人しくてくださいね」
【セットッ! レブナントレディ?】
レイが身につけている篭手から濃いブルーのパーカーが飛び出し、レイの後ろに滞空する
「貴方達が探している物はもう私が回収しました」
銅鏡を取り出し、俺達に見せ付けるレイ。それを見ておキヌちゃんが御神体と叫ぶ、シズから聞いていた御神体の特徴を全て満たしている……敵が強くなったのはレイが御神体を手にしたのが理由のようだ
「お前から奪い返すって言うのもありだと思わないか?」
「出来るのならば、どうぞ?でも私も手加減はしませんけどね」
俺とレイの視線が交差する。昨日の穏やかな視線ではなく、絶対零度の視線をぶつけられ背筋に冷たい汗が流れる。だけど、ここで引くわけには行かない、懐から取り出したウィスプ眼魂のボタンを押し込む
「行くぜ、心眼」
【やるしかあるまい】
【アーイッ!シッカリミナー!シッカリミナーッ!!】
ウィスプパーカーがレイへと飛び掛り、レイの背後のパーカーとぶつかり、何度も何度も交錯を繰り返す。その間に俺とレイの姿はトライジェントにへと変化している
「「変身ッ!」」
【ヒガンヒガン!ファントムコールッ!!】
【開眼ウィスプ!アーユーレデイ?OK!イ・タ・ズ・ラ! ゴ・ゴ・ゴーストッ!】
同時に変身して駆け出す、レイが出てきてしまった以上。もはやこの作戦は失敗だ、奪い返すとは言ったが、正直レイから御神体を奪い返す自信は無い。神宮寺さんとシズクの撤退の準備が整うまでの時間は稼いでみせる。俺はそれだけを考え、拳を強く握り締めるのだった……
~くえす視点~
敵が既に御神体を手にしている可能性は美神達に説明を受ける前から考えていた。ガープはそこまで馬鹿じゃない、あの巨人を維持するのに御神体が必要となれば即座に回収に動くと私は思っていた。そうなると氷室舞を攫う事を命じた理由が不明瞭になるが、恐らく氷室舞の神楽舞を必要としていたのでは推測することは出来る
「がっ!」
「前も言った筈です、抵抗は無意味だと」
横島とレイの拳が交差するが、吹き飛ばされるのは横島だけだ。体格では完全に横島が上回っている……だが狂神石でサポートを受けているレイの方が膂力も反射神経も横島を完全に上回っている
「ちいっ!鬱陶しいですわねッ!」
こうなれば一刻でも早く氷室神社に戻る必要があるのだが、そうでなければ横島だけが消耗し、一番奪われてはいけない横島がガープに奪われる事になってしまう。だが転移魔法を発動しようにも敵の攻撃が余りにも激しい
「ふっ!!!」
「……邪魔をするなッ!」
今もなお敵を一撃で倒すことが出来ているのは小竜姫とシズクの2人。私達はチームを組んで漸く戦えるレベルだ、御呂地岳は霊山と言うことは把握していたが、その山の中に隠されている霊脈の数も質も並みの霊地を遥かに越えている
【ぬっくっ! ええい、邪魔邪魔じゃッ!!】
【そこを通せッ!!!】
ノッブと牛若丸が敵陣の強行突破を図るが、そうはさせないと樹木の化け物が私達を分断する。高火力の炎で薙ぎ払う事が私には出来る、だがそうなると転移魔法へ向ける意識が弱まり、転移までの時間が長引く結果になりかねない
「美神さん、蛍ちゃん。くえすのフォローに、タマモちゃん!全力でお願いッ!」
自身も霊刀を振るい敵の攻撃を防ぎながら琉璃が矢継ぎ早に指示を飛ばす、こうなってしまえば御神体がどうとか言っている余裕は無い。少しでも早く、この場所から離脱する必要がある
【ノブノブノブノブーッ!!!】
UFOと合体して、戦車の下半身と、両腕にガトリングガン。背中にキャノン砲を背負ったチビノブが射撃で敵の勢いを削いでいるが、倒しきるには攻撃力が足りない
「みーむううッ!」
稲光が走り雷が落ちるが、樹木の敵には当然効果が薄い……だが動きが鈍った事は私達にとって紛れもなく幸運だ
「せいっ!!!」
「狐火ッ!」
動きが鈍った僅かな隙にシロとタマモが相手の首を切り落とし、あるいは火炎を叩き込み確実に敵を倒す
「くえす!まだなの!」
「早くしろって言うなら、私に詠唱に集中させなさいッ!」
敵への攻撃をしながら、自分への攻撃を防ぎ、そして転移魔法の完成を急ぐ。そんなの魔法の天才を自負している私でも不可能だ、私が何よりも早く魔法を完成させようとしているのに、急げなんて言われると怒りがこみ上げてくる
「このっ!ぐっふっ!?」
「遅いですよ、止まって見えます」
横島の拳を回避し、その両腕を横島の首に回したレブナントはがら空きの胴体に何度も膝蹴りを叩き込み、横島を地面へと叩きつける。呻き声を上げる横島を見て、思わず駆け出しそうになるが、それを唇を噛み締め耐えこの場から離脱する為の魔法を完成させることに意識を向ける。
【当たってくださいッ!】
「横島立ち上がらないでよッ!!」
「……凍ってろッ!」
「プギイイイイイッ!!!」
トドメを刺そうと拳を振り上げたレブナントにおキヌのポルターガイスト、蛍の霊体ボウガン、シズクの氷の光線、そしてうりぼーの牙の間から打ち出された極太の霊波砲が命中する。並みの神魔ならば、一撃で行動不能になってもおかしくない攻撃だった。だが、レブナントにダメージが通っている様子は無い、僅かにパーカーから煙が上がっているだけだ
「シッ!」
「……竜神族、小竜姫。要注意神魔」
攻撃は通らなかった、だけど僅かにレブナントの意識が逸れた。その瞬間に小竜姫が超加速でレブナントに切りかかる
「ふっ!せいッ!はっ!!!」
「鬱陶しいですね。貴女に用は無いんです」
息もつかせぬ連撃。だがレブナントにはその全てが見えていたのか、上段からの振り下ろしを回避するとカウンターで小竜姫の腹に拳を突きたてる
「かっ!」
衝撃で周辺の木々が揺れる、いかに神魔と言えどあれだけの一撃を喰らって意識を保っていられる訳が無い
「タマモ!ノッブッ!」
美神が2人の名を叫ぶと同時に狐火と霊波砲、そして精霊石がレブナントに向かって放たれる。少しでも小竜姫への追撃を防ごうとするための行動だったが、レブナントは美神達の攻撃に視線も向けず、強烈なカウンターで宙に浮いている小竜姫の顔面に容赦なく拳を叩き込んだ
「がふっ!?」
地面に叩きつけられ、ボールのように弾んだ小竜姫の身体が凄まじい勢いでこちらまで吹き飛んできて、蛍とシズク、そしてシロの3人で受け止めるがその衝撃を殺しきれず。4人とも吹き飛ばされ、地面を転がっていく
「化け物めッ!」
横島の姿を分析して作ったと言う癖にその強さは完全に横島を越えている。これ以上に戦いは死者が出る可能性が高すぎる……1度氷室神社に戻って、ビュレト様やブリュンヒルデに来て貰う必要がある
「わ、私は自分になるとか……言ってて……結局は……命令に従うんだな……そんなのに……どこに自分があるんだ?」
横島が咳き込みながら立ち上がり、レブナントにそう言葉を投げかける。安い挑発……の筈だった。だがレブナントの様子は一瞬で変わった
「わ、私……私じゃない?え、え、違う……私、私私私……わたしわたしわたしわたしわたし……私……私は……私……私……私って何……違う、違う違う違うッ!私……私は……レイ……試作0番じゃない。私、私……私はレイ。レブナント……違う違う違う……私はれい……レイって何……」
横島の一言でレブナントは急に不安定になった……いや、違う?あれはパーカーに入っていた狂神石の赤いラインが消えている。もしや狂神石はレブナントの力の源だけではなく、レイの精神を安定、いえ、あの様子では余計な事を考えない様に精神誘導していた可能性がある
「横島!早く!逃げますわよッ!」
だがこの隙は逃げるのに役立つ、転移魔法が完成させる事が出来た。横島を呼び寄せ、転移魔法の発動の最終段階に入る。横島が転移魔法の範囲に入ろうとした瞬間
「違う違うッ!私はレイ!0番じゃないッ!」
【カイギガンッ!!カザシテミナー、カザシテミナーッ!!】
篭手に真紅に輝く眼魂をセットし、レバーを引くレブナント。篭手の先の銃口から漆黒の球体が発生する、それは自身の近くにいた樹木を削り、周囲の小石を吸い込み消し去っていく
(まさかブラックホールッ!?)
なんの魂が宿っているのかは判らないが、重力制御……もしくはブラックホールを作り出す能力だと判断する。
「横島!急ぎなさいッ!!」
あんな物がこんな至近距離で炸裂したらどうなるかなんて考えるまでも無い、ここら辺一体が消し飛んでもおかしくないのだ。私だけではなく、美神たちも叫ぶが、既に発動している重力に引き寄せられているのか変身しているのに全く距離が縮まらない。そしてその時は訪れた……
【コブラッ!オメガストライクッ!】
「う、うっうわああああああああーーーーーーッ!!!!」
錯乱したレブナントが放った漆黒の球体、放たれた重力波で足元が崩れ去る中、転移魔法が発動し、氷室神社へと引き戻されていく中。私は見た、1人だけ、重力に引き寄せられ、転移魔法の範囲から外れた琉璃が漆黒の闇の中に吸い寄せられていく姿を……そして転移魔法の中から飛び出した横島の背中を……もう魔法をキャンセルすることは出来ない、私は山奥から氷室神社へと瞬間移動する中。琉璃の手を掴んで自分の胸の中に抱き寄せた横島がそのまま崖の下へと転落していく姿から視線を逸らすことが出来ず、茶化すように聞えてきたチャオの言葉が耳から離れることは無いのだった……
『はっはー、随分と面白いことになったなあ』
重力で抉り取られた谷川を見て、レブナント……いや、赤いオーラを纏うレブナントではない何かがワラウ。真紅に輝く鋭い目を急流に向けると、そこには琉璃を背負い、急流を流されていく横島の姿が見えている。だが変身が解除され、今にも沈みそうな……それこそ殆ど溺れているような姿だが、それでも琉璃を背負い続ける姿にナニカは深い笑みを浮かべる
『良いねえ、ああ言う愚かな奴は大好きだッ!やっぱり人間っていうのはこうじゃないとなぁッ!』
ナニカは上機嫌で笑いながら崖の上から飛び降りる
『少しだけサービスだ、助けてやるよ』
空中で静止したナニカは横島と琉璃に手を翳す。すると沈み掛けていた横島の周りに光が集まり、その姿を僅かに浮かせる
『さてと、じゃ、お前も一緒だ、今のままじゃ詰まらんからな。それに……俺も時間切れでね。上に戻るのは無理だ、ま、運が良ければくたばることはないだろうよ……チャオ~♪』
篭手からレブナント眼魂を引き抜いたナニカ、一瞬で赤いオーラに包まれたレブナントの姿はレイの姿に戻り。意識を失っているレイは横島達と同じ様に急流に飲み込まれ、あっという間にその姿を消すのだった……
リポート28 切り開け、己の未来 その7へ続く
横島、琉璃、レイの3人は水に落ちて流される、鉄板の生存フラグだと思います。そして暴走するレイ、コブラと男の口調で何かは判ると思いますがお口にチャックをしてくださいねー、それでは次回の更新もどうかよろしくお願いします
視点が変わる時にそのキャラの視点と言う事を表記するべきか
-
サイドまたは視点は必要
-
今のままで良い