GS芦蛍!絶対幸福大作戦!!! セカンド 作:混沌の魔法使い
リポート28 切り開け、己の未来 その8
~横島視点~
ぼんやりとした意識の中ずっと聞えていたのは、「逝くな」と言う声だった。どこに逝くなと言われているのは判らなかったが、とにかく今自分が進もうとしている方向に逝ってはいけないのだということは判った。後……
【よ、良かったのだわ。あ、危ない所だった】
どこかで聞いたような心底安堵した様子の少女の声が聞えた事も覚えている。上下左右、前後の感覚も判らないが逝くなと言う声と俺の手を引いた誰かの存在……それがあったから俺は多分死なないで目を覚ますことが出来たのだと思う。
「……んあ」
寝ぼけた声と共に目を覚ました俺が感じたのは、包み込むような暖かさだった。だけど、身体が冷えすぎていたのと、血を流しすぎていたのが原因だと思うのだが、頭がまともに回らず。気絶している間に救助されたのだと思い、暖を取ろうと思い殆ど本能的にその暖かい物を抱き寄せた。
「んんううん……」
だがその時に聞えてきた艶やかな声に一気に意識が覚醒し、そして俺は混乱した。俺はトランクスこそ穿いていたが全裸に近く、暖かい……俺が最初にうりぼーだと思っていたのが下着姿の琉璃さんで、俺の胸板で琉璃さんの胸が潰れているのが見えたのだが、下着の姿は見えず、雪のように白い肌が目の前一杯に広がっていた。
「!?!?」
心臓が止まってしまうかと思った、目覚めてすぐ目の前には殆ど全裸の琉璃さんで、しかも俺も殆ど裸で抱き合っていて、俺の両腕はラベンダー色のショーツに包まれた琉璃さんのお尻を鷲づかみにしていて……柔らかいじゃなくてッ!!。
「あ、あああ……あの、る、るるる……琉璃さん」
腕の中の琉璃さんに声を掛ける、この体勢は不味い。本当に不味い、必死に他の事を考えていないと下腹部が起きだしてしまいそうだった。
「ん……んん?」
俺が声を掛けると琉璃さんの真紅の瞳がゆっくりと開かれる、その美しい赤に俺は魂まで奪われてしまうのではないかと本気で思った。
「おはよう」
「おお……おお……はよう……ございます、あ、あああ……あの、こ、これは……」
極自然に挨拶をしてくる琉璃さんに対して、俺は噛みまくりで目を逸らして、琉璃さんの身体を見ないようにするのに必死だった。
「とりあえず……服を着ましょうか?」
そしてそんな俺を見て、くすりと笑った琉璃さんは両腕で胸を隠し、服を着ましょうと声を掛けてくる。
「は、ははは……はひッ!」
俺は逃げるように琉璃さんに背を向けて、Gパンを穿いてTシャツを着る。男の着替えなんて一瞬だが、巫女服の琉璃さんは時間が掛かる。洞窟の壁を見つめて、背後を見ないようにするのだが……。
(うっ……これは)
狭い洞窟なので琉璃さんの甘い香りが充満している上に、衣擦れの音が聞えてきて心臓が爆発しそうなくらい高まるのが判る。
「横島君」
「は、はい、そ、そのなんで……抱き合って……」
俺の考えを見抜いたかもしれない、俺は顔を青くさせ、先ほど見た琉璃さんの身体を思い出して頭に血が上ったりして、多分100面相みたいになっていたと思う。
「おねーさんの裸は安くないんだからね?」
「え!?えうえう……」
琉璃さんの言葉に俺が何かしてしまったのではないかと、俺は頭に上っていた血が一気に下がったように感じた。
「私が目を覚ましたら、横島君が低体温症になりかけてたから人肌で温めることにしたのよ」
2人とも着替え終えると琉璃さんがどうして殆ど裸で抱き合っていたのか、その理由を教えてくれた。
「ご迷惑を掛けてしまったようですいません」
「迷惑なんてとんでもないわよ、私は助けられた側だしね。助けられて、そのままって言うのは私の性じゃないの」
ウィンクしながら言う琉璃さん、でもある意味良かったと思う。もしこれで一線とかを越えてしまっていたら、俺はそれこそ命を懸けて償わないといけない筈だ。男の裸なんてたいした事はないが、女性の裸は違うのだから。
【一晩経ったが、シズクが現れないのはおかしい】
「そうね、多分ここら辺が結界で覆われているか、それとも霊力が濃くて思うように探せないか……それとも両方かね」
【うむ、結界に覆われているなら私が見つける、霊力の濃度が濃いならば】
「私が何とかするわ。これでも神卸しの巫女だからね、膨大な霊力の扱いには慣れてるわ」
心眼と琉璃さんがどうやって美神さんと合流するのかと言う話をしているのを聞きながら、震える足に活を入れて立ち上がる。
「横島君、大人しくしてなさい。血を失いすぎてるのよ」
【無理をするな、大人しくしていろ】
文珠は作らないように言われているので、心眼が俺に使った物しかない。霊力も余り使えないが、それでも栄光の手は使える。
「食料を取ってくる、川で魚くらい取ってくるよ」
自分に出来る事をしたい、俺だけが足手纏いになるのは嫌だと思い言うと、琉璃さんに手を引かれた。
「っとっと、わぷっ!?」
殆ど力が入ってないのに、俺はバランスを崩し、再び琉璃さんに抱きしめられる形になってしまった。
「焦らなくて良いの、3人寄れば文殊の知恵って言うでしょ?」
大丈夫よと言って頭を撫でられると、なんと言うか気持ちが落ち着いてくる。だが、それと同時に気恥ずかしさもだが……何故か、その気恥ずかしさが心地よいと思えるから不思議だった。
「私は知ってるからね、横島君が頑張ってるの。だから無理をしないで、おねーさんとの約束。良いわね?」
「……はい。すいません」
「よろしい、じゃあ、2人で川に向かって、そこで川魚を取れるか考えて見ましょう。心眼もそれで良いわよね?」
琉璃さんはそう笑うと、俺の背中に回していた手を退けて、穏やかに笑う。その笑顔を見て……多分、俺はこの人には一生頭が上がらないと思った、美神さんとはまた違う親しみを感じていた。
「そういえば、さっき心底安堵したって顔をしてたけど、私が嘘を付いてたらどうする?」
「うえ?」
「ふふふ、もし一線越えてたら……責任取ってくれる?」
「取ります、何をしても」
男としての責任を取らなければならない状況になっていたら、俺はその責任を果たす必要があると思う。
「ふふ、冗談よ。でも……横島君なら良かったかもね」
普段冗談をよく言う琉璃さんだけど、その時だけは本当の事を言っている……俺はそう感じるのだった。
~蛍視点~
横島と琉璃さんは行方不明になって、1晩経った。夜中の捜索は危険と言う事で全員引き帰してきたが、有力の手がかりは無かった。
「水で匂いが途絶えてるのよ……途中まで、ここら辺までは匂いを追えたわ」
「滝になってる辺りって事ね。つまり2人は滝を落ちて、そこからさらに先……ここら辺に流されてるって事ね。もしくは支流に入って、ここら辺か……」
タマモの報告を聞いて、美神さんが地図に丸を付ける。それは何の因果か、御神体が安置されているはずの峠の近くだった。
「シズクさん、転移で移動出来ますか?」
「……駄目だな、高密度の神通力が集まってる。恐らく、いや、確実に神域だ」
神通力と霊力が密集して作られた神域。そこにいるから、転移は出来ないとシズクが断言した。だがそれは決して不幸な知らせではなかった……。
「少なくともせんせーは無事と言う事でござるな」
「川から上がっていればって条件はつきますが……恐らくは大丈夫でしょう」
シズクが転移出来ないほどの高密度の神域となれば、ガープ達もおいそれとは動けない筈……となれば問題は2つだけあるだけだ。
「私は同行できないって事ですね」
「私もですわね」
先祖がえりとビュレトさんの魔力を持つくえすはその神域に入る事が出来ない、昨日に引き続き氷室神社で留守番となる事が決定した瞬間だった。
「ここで待ってるしかないって嫌ね」
「そうですわね」
必ず横島と琉璃さんを連れて戻ってくるといって出発した美神さん達を見送った後、私とくえすは縁側に並んで座って待つ事しか出来なかった。無事な可能性があるのは嬉しいけど、よりによって高密度の神域とか無いわ。
「あのうりぼーを見つけた山では平気だったんですの?」
「痩せ我慢だったけど?」
定期的に魔力を開放する事で身体の作りが変わってきている。あの時は、ちょっと身体が重いなー程度に感じていたけど、多分今では絶対に無理だと断言できる。
「ブリュンヒルデさん達は?」
「もう少しで合流してくれる筈ですわよ」
そっか、そうですわっと言う会話で私達の会話は途絶える、元々友人と言う関係でもない。どっちかと言うと横島を奪い合う敵同士に近いし……。
「横島無事かなあ」
「……川に流された以上、服はびしょ濡れ、しかも雪山で濡れた服……琉璃に食われてなければいいですが」
何を馬鹿な事をと言う事は出来なかった。横島は変身していたので確実に霊力と体力を失っている、そうなれば陰陽術なんて使えないわけで……そうなると暖を取れる方法は1つ、人肌だけになってしまう。
【琉璃さんって横島さんの事好きでしたっけ?】
話を聞いていたおキヌさんが縁側の上に浮かびながら尋ねてくる……正直判らないけど、琉璃さんは横島に何回も助けられているわけで……。
「琉璃って結構横島の事が好きなように思えますわね」
「……私も」
横島の好みの年上でナイスバディの美女だ、しかもそんな相手と雪山で1晩……死んだとか以上に最悪の予想が脳裏を過ぎる。
「考えをへんな方に誘導しようとしてるでしょ?」
「悪い方向に考えるよりかはマシですわ」
【いや、十分悪い方向ですけど!?】
横島や琉璃さんが生きていてくれるのは嬉しいけど、戻ってきたら失恋しているとか本当お願いだから止めて欲しいんだけど……。
「まぁ妾とかありますわよね」
「なんでそれを容認出来るの!?」
「私は横島が自分の物になるのが一番ですけど、無理なら自分が横島の物になるのもありだと思いますわ」
そしてくえすと自分の余りにかけ離れた恋愛感覚に蛍とおキヌは絶句するしかないのだった……。
「蛍さん達、落ち込んだり、叫んだりどうしたのかな?」
【なに色恋は複雑と言うことじゃな、所で舞は横島がお前の兄なったらどう思う?】
「え?嬉しいけど?」
【そっか、それならばワシが言うことはないの】
「え?横島さんは琉璃さんとお付き合いしてるだか?」
【ワシの見立てでは奪い合いになってるって所かの】
「そっかー、横島さんは良い人だべ、仕方ないだな」
「優しい人だしね、でも私は横島さんがお兄ちゃんならそれはそれで良いと思う」
恋愛を知らない舞と、横島の人柄からモテるのは仕方ないと笑いあう早苗を見ながら、シズは顔を上げる。
「シズ、神魔が近づいておるぞ」
「男と女、男のほうは馬、女は空を飛んでいる」
周辺を警戒していたナナシとユミルの報告を聞いて、その方角に視線を向けるシズ。膨大な神通力と魔力が近づいてくるのを感じながら、シズは笑みを浮かべる。ゆっくりとだが、反撃の準備は整い始めているのだった。
~琉璃視点~
「横島君がいてくれて本当に良かったわ」
「そうです……かね?」
栄光の手で川魚を捕まえてくれたから、今こうして焼き魚を口にすることが出来ている。雪解け水が流れ込む渓流は水が冷たく、とても水の中に入れるレベルではなかった、そんな中横島君は栄光の手を網状にして一網打尽にしてくれたのは本当にありがたい。
【これだけ川の側にいても、シズクは現れない……か】
「やっぱり神域か結界ね」
川の側で食事をしていても、横島君には恐ろしいほどに過保護なシズクが現れない。洞窟で話していた、結界か神域かと言うのが真実味を帯びてきた訳だ。
「とりあえず敵が出ないだけでもありがたいって思うべきね」
「そうですね、俺も反動出てますし」
足に太い木の枝が刺さっていたと言う横島君は足に傷を負っているし、私を背負って匍匐前進で進み続けたからその手の平と腕も酷い有様だ。そしてそこに変身のリバウンドが重なれば、横島君は戦闘が出来る状態ではない。
「ごめんね、あんまり効果が出なくて」
「い、いやあ、大分楽ですよ。本当ですよ?」
ヒーリングを施したのだが、傷は殆ど回復しなかった。変身のリバウンドが原因か、魔人に近づいているのが原因かは定かではないが、横島君には普通のヒーリングの効果は薄いようだ。
【洞窟の場所は覚えている、とりあえず神域の切れ目、もしくは結界の基点を探そう】
美神さん達と合流する為にも行動するしかない、魚の骨を地面に埋めて私と横島君は森の中を歩き始める。
「大丈夫?」
「っ平気です」
足を踏ん張れない横島君は明らかに歩みが遅い、大丈夫か?と尋ねると大丈夫と返事を返してくれるが、その額には脂汗が浮かんでいる。
(最悪の場合を考えたほうが良いかも知れないわね)
タマモちゃんとシロちゃん、それにうりぼーとチビ、ノッブと牛若丸に美神さんと小竜姫様にシズク。くえすと蛍ちゃんは先祖返りなので高密度の神域には侵入しにくい。となると私達を探しているのは9人、一晩経っている事からある程度は私と横島君が流れ着いた場所を逆算して捜索してくれている可能性は高い。
「もう少し調べたら、洞窟に戻りましょう。少し熱が出て来てるみたいだし」
「……すみません」
ハンカチで汗を拭ってあげて額に手を当てると尋常じゃなく熱い、昨日の怪我の影響で身体が熱を持ち始めているのだろう。そんな相手を森の中を連れ回すわけには行かない
【……文珠は最後の1個があるぞ】
「それは最終手段にとっておきたいから」
万能の霊具「文珠」確かにその能力は凄まじいの一言に尽きると思う。だけど、横島君への負担が大きくて禄に研究していない霊具にそこまで頼る事は出来ない。レイも周辺にいることを考えれば、それはレイからの逃亡用に残しておくべきだろう。
「ここに札だけ配置して戻りましょう」
除霊の最中に逸れた時用の救難信号を出す札を木の幹に貼り付けて、引き返す事を決める。やはり今の状況の横島君を連れ回す事はリスクが大きすぎる、かと言って1人で残すのも危険だ。あの洞窟で救助を待つか、時間を掛けてヒーリングで足の傷だけでも癒すまで洞窟に隠れておくべきだと思う。本来川に向かったのは食糧確保と、シズクが見つけてくれないかって言う期待を込めた物だけど……シズクが現れないのならば、地力で美神さん達と合流するのは難しいと思う。
「俺なら大丈夫ですよ」
「大丈夫とか、大丈夫じゃないって問題じゃないのよ。聞こえる?」
熱でぼーっとしている横島君は不思議そうにしている、やっぱり注意力も散漫になってるわね。横島君が大丈夫って言っていても洞窟に引き返すべきだと判断する。
「滝よ、滝が近くにある。私達が滝壷に落ちたのかは判らないけど、何の装備もなしで崖は登れないわ」
【ここが一番私達が川に落ちた所に近いが、滝は登れない。それにここまで相当消耗しているだろう、引き返すぞ】
滝を登れるような装備は当然無いし、栄光の手が伸縮自在と言っても、今の酷いコンディションの横島君に無理をさせるわけには行かない。つまり、私達に出来ることは、自分達がこの近くにいると言う痕跡を残し、美神さん達が見つけてくれるのを待つしかないのだ。心眼も強い口調で引き返すぞと横島君に告げる。
「と言うわけで引き返しましょう。肩、貸してあげるわ」
私も感じていたが、足取りは怪しく、木にもたれかかるようにして呼吸を整えていた。変身の反動と怪我でまともに動ける訳が無いのだ、これ以上は無理だと私も心眼も判断し、洞窟に戻るから肩を貸してあげると言う。
「だい……っと」
大丈夫と言おうとしてよろめいた横島君を抱き止める。霊力の枯渇から回復したとは言え、十分な医療環境が整っていた訳ではない。横島君の体調は最悪に近い、弱い、連続する呼吸を見てもそれは間違いない。
「戻りましょう、今は無理だわ」
「……っ……はい」
自分の体調は自分が一番判っているのだろう、悔しそうに唇を噛み締める横島君の頭を撫でる。ここで無理をしても、何も変わらない。やっぱりリスクはあるけど、洞窟で身体を休めてヒーリングを使って体力が完全に回復するまで歩き回るのは避けたほうがいいわね。そう判断した、脱力する寸前の横島君に肩を貸して洞窟へ引き返そうとした時、心眼の叫びが周囲に響いた。
【待て!誰か来る!凄い神通力だ】
心眼の言葉に私と横島君の顔に緊張が走り、茂みが大きく揺れるのと同時に誰かが倒れこんでくる。
「……琉璃さん……彼女は……」
「レイ……ね」
法衣のような服と黄金のような金髪……その白く透き通る肌に無数の切り傷を負ったレイが私と横島君の目の前に倒れていた。
『いい所に居てくれた、彼女を助けてくれ』
『正直私達もそろそろ限界でしたから』
レイの身体から溢れ出した神通力……陽炎のように揺らめく神通力が揺らめく人影となり、私と横島君に声を掛けてくるだった。
~???視点~
レイをここまで導いて来た、レイの体力が限界を向かえる前に2人の人間に出会えたのは紛れも無い幸運だった。
「どういうことか説明してくれますか?」
ぐったりと倒れているレイを警戒する2人の人間……横島と琉璃の2人はレイを怪訝そうに見つめている。
『詳しく説明するのは難しいのじゃが……ワシもこやつもレイを形作る神性の1つと思ってくれれば良い』
『すっげえ、イケ魂、こんなの見たことねえッ!』
『おい、馬鹿者。真面目にやれ真面目に』
決して馬鹿じゃないと判っているが、真面目な話をしている時にふざけるのは止めて欲しい。
「形作る神性と言うことは、貴方達はもう神としての姿は……」
『いや、気にする事は無い。我等は古き神、もはや人間にも神魔にも関わらぬと隠遁した身だ。その段階で死んでいると思ってくれて構わない』
レイを形作るのは世界から隠遁した古き神々。この世界から去った段階で、既に死した身に等しい……まぁワシは不死なのだが、眼魂とやらに封じられて、劣化した神性として自分の人格が再生されているに過ぎないと告げる。
「……すいません、えっとどういうことなんですか?」
『簡単に言うとですね、オリジナルから引き離された性格のコピーと思ってくだされば大丈夫です、オリジナルと似た性格と記憶を持ちますけど、オリジナルでは無いと言うことです』
説明されても今一理解していない様子だが、ワシ達にも時間が無い。
『ファントムコールダーを外しておけば、レイが好戦的になることは無い。あれは変身だけではなく、レイの制御装置でもある』
『今は狂神石がないから私達も自我を保てますが、それも時間の問題』
試作型として作成されたレイは他の量産型と違い、善性の神の神核をこれでもかと組み込まれたレイは、この時代に生まれた全く新しい神と言える
『レイの自我を芽生えさせろ、レイには善悪が無い、己が何をすればいいのか理解していない。だから命じられた事を行動するしか出来ない』
『でも決してレイは悪ではありませんわ、狂神石から遠ざければ自我は芽生えます。与えられた仮初の人格と自我ではなく、彼女自身の本来の自我が芽生えることでしょう』
狂神石によってワシ達も何時まで自我を保てるか判らない……だがこれだけは伝えておかなければならない、狂神石が枯渇し、そしてあの忌々しい蛇がレイに干渉した今が最大の好機だ。
「自我が芽生えれば、味方になってくれると言う事でしょうか?」
『そこはレイ次第じゃが、完全に狂神石に呑まれれば、恐ろしい脅威となる。それを避ける方法と思って欲しい』
レイの力は凄まじい、あのガープでさえもリミッターをつけることを選択するほどに……だが狂神石に完全に呑まれ、リミッターと制御が必要なくなった時、レイは人間にとっても神魔にとっても最狂最悪の存在になる事は間違いない。
『ガープ達が接触する前に、疑問を抱かせろ、自分のあり方に困惑させろ』
『そうすれば、レイは考えるでしょう。1度芽生えた心を消す事は出来ません』
本当はもっと伝えたいことがある、だけどそれを全て伝える時間はもう無い様だ。
『ワシ達は神であるがゆえに、狂神石には勝てない』
『もうすぐ完全に塗りつぶされるでしょう』
ワシ達全員で干渉して、自分が自分であると言う事を意識させることは出来た、だがそこまでだ。そこから先は人とのふれあいでしか芽生えることが無い、人間に頼むしかないのだ。
『目覚めればレイ本来の性格と人格となるだろう、その時に色々と声を掛けてやって欲しい』
これだけ声を掛ける事が出来れば、少なくとも敵として行き成り殺されると言うことは無いだろう。その言葉を最後にして、ワシ達は再び眼魂へと封じ込められて行く、その間にレイのぼんやりとした声が響く、何も判らないレイが森の中に放置される事がないことに安堵し、レイを託した2人がレイをガープの呪縛から解き放ってくれる事をワシは心から祈るのだった。
~レイ視点~
私を見上げる2人の人、私はその2人を見つめて、見つめて……そしてお互いにどれくらいそうしていたか判らないが、私はゆっくりと口を開いた。
「誰?」
誰か判らない、どこかで見たような気がしないわけではないんだけど……相手が誰か判らない。
「……これって」
「多分子供と同じ状態、これが本当のレイって事ね」
ぶつぶつ何か呟いているけど、それも何か判らない。腕を見つめる……何かがここにあったような気がするんだけど……あると凄く嫌な気持ちになったのを覚えている、だから無くなっていて良かったと思う。
「名前はわかる?」
「……レイ、私は……レイ」
名前は覚えている私はレイ、そう、レイだ。これだけは忘れてはいけない、大事な事。
「俺は横島、よろしく」
「……横島。ん、覚えた」
赤い布を巻いた青年の名前、その名前も顔もどこかで見たような気がするんだけど、やっぱり判らない。
「私は琉璃、よろしくね。レイ」
「……ん、琉璃。よろしく」
空みたいな髪をした赤い目の女性……彼女も見たことが在るような……無い様な……そんな事を考えていると、懐に何か入ってるのに気付いた。
「何これ?」
鏡みたいな何か、なんでこんなのを持っているのか判らなかった。だけど、横島と琉璃がそれをジッと見つめている。
「欲しいの?」
「え?く、くれるの?」
「欲しいならあげる」
横島が欲しいと言うならあげると言って、琉璃に鏡を押し付け、横島の腕を掴む。
「ぽかぽか……」
「……さいですか」
暖かそうと思っていたけど、実際にくっついても本当に暖かい。この暖かさがあるなら、あんな重いだけの鏡なんて要らない。
「はふぅー」
何か眠くなってきたので、横島の腕をしっかりと抱えたまま目を閉じる。今まで冷たい、寒いと言うことしか覚えてなかったけど……この暖かいは覚えておきたい……私はそう思うのだった。
「あの琉璃さん、これって完全に子供じゃ?」
「そうみたいね。このファントムコールダーを外したのが良かったみたいね、それよりも、御神体も入手出来たのは大きいわね」
「でもレイはどうすれば?」
「とりあえず、横島君に任せるわ」
眠ってしまったレイは横島の手を放すことはなく、外見は横島と同年代の少女なのに精神年齢は5歳ほどの幼児と大差が無かった。
「ファントムコールダーと、狂神石……か、このまま小竜姫様に会えたらレイを預けても良いかもしれないわね」
「そう……ですね。前も会いましたけど、この子って戦うこととかに向いてないように思えますしね」
穏やかなに寝息を立てるレイ、そんなレイを見つめる横島と琉璃。レブナントとして出会ったのは2回だが、こうしてみるレイにレブナントとしての敵意も脅威も無く、先ほど消えてしまった2柱の神が言っていたことが真実だと信じざるを得ず。横島と琉璃はレイを戦いから遠ざけるべきだと考えていた。だが洞窟の天井に張り付いている金色の蝙蝠が、一瞬の内に洞窟から飛び立っていったのに最後まで横島と琉璃の2人は気付く事は出来ず、悪意はゆっくりと横島達へと迫っているのだった。
横島と琉璃がレイを見つめている頃、美神達は2人が拠点としている洞窟の近くまで訪れていた。
「ぷぎ、ぷぎゅうーーー!!」
「ココーンッ!!」
「ワンワンワンンッ!!!」
匂いを見つけたのか興奮した様子のうりぼー達。だが、肝心な道がない……やはり、横島と琉璃は滝の下に落ちていたのだ
「シズク……は、もう先行してるみたいね。ザイルで降りましょうか?」
「いえ、危険ですので私が抱えて滝を降ります。ノッブと牛若丸は先に先行して、下りる場所の確保をしてください」
【了解じゃ、行くぞ。牛若丸】
【はい!これでやっと主を助ける事が出来ます】
英霊である2人にとってこれくらいの高さはどうと言うことは無く、小竜姫に言われると同時に滝の上から飛び降りていく。
「小竜姫様、気付いてる?」
「ええ、嫌な流です。急ぎましょうか」
小さくなったうりぼーを抱えて、滝を降りていくチビと、UFOの上にシロとタマモを乗せて降下していくチビノブを見つめながら、2人は顔を上げる。今まで快晴だったのが、急に曇ってきた。山の天気は変わりやすいと言うが、ここまでの変化はおかしいと感じていた。
「急ぎましょう、横島さんも心配ですし」
「ええ、敵が出て来ても困るしね」
横島は変身でダメージを受けている、そんな相手を庇いながら戦うのは以下に美神達にとっても厳しい。敵が現れる前に、横島と琉璃を救出して氷室神社へと戻ろうと考えていた、だがそんな考えを嘲笑うかのように悪意は美神達に向かって、その牙を向けようとしているのだった。
リポート28 切り開け、己の未来 その9へ続く
レイを形作る神1「イケ魂大好き」、その2「やや古臭い口調」まぁ、判る人は判ると思いますが、ここはスルーでお願いします。
レイ(ファントムコールダーなし)だとただの子供になります、横島と琉璃は知ってるけど、記憶とは結びつかないって感じとなっております。でも身体は大人なのでロリィではありませんのであしからず、次回は半分ほど戦闘シーンを書いて、次の話に続けていこうと思います。リポート28で終わるつもりでしたが、29へ続けてもいいかもしれないですね。それでは次回の更新もどうかよろしくお願いします
視点が変わる時にそのキャラの視点と言う事を表記するべきか
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サイドまたは視点は必要
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今のままで良い