GS芦蛍!絶対幸福大作戦!!! セカンド   作:混沌の魔法使い

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その12

リポート28 切り開け、己の未来 その12

 

 

~横島視点~

 

美神さん達の懸念は的中する結果となってしまったようだ。地響きを立てて進んでくる巨人の本体は写真で見た蠍に似た下半身に加え、両肩から触手が伸び、その先は牙を剥き出しになっている龍の顔が生えている。写真で見たものよりも小さくなっているが、それでも10mはある巨体だ。

 

「横島、判っていると思いますが決して戦場に出ようなんて思わないことですわ」

 

「……神宮寺さん、はい。判ってます」

 

正直俺は今回は戦力外となっている、その理由は2つ。1つは変身の反動、もう1つは琉璃さんが影響している。俺は正直良く判っていなかったのだが……俺の霊力の質は「魔」に近いらしい、それに対して琉璃さんの霊力は完全に善?んー神?良く判らないけど、小竜姫様に近い性質らしい、つまりマタドールとの戦いで使ったマスタードラゴン。それと似た現象が今の俺に起きている訳だ、身体の痛みなどはないが霊力の細かいコントロールが出来ない。陰陽札などは問題なく使用出来るが、栄光の手や勝利すべき拳などの細かい霊力制御を要求する技が一切使えないのだ。

 

「貴方が今すべき事は私の魔力の強化、それと相手にこちらを認識させない事の2つですわ」

 

「了解です、上手く出来るか判りませんけど……頑張ります」

 

東京からシンダラによって運ばれてきた特別な陰陽札と、エミさんが作ったと言う細菌弾が3発……それが俺達の切り札となる。

 

【あれは確かに本体だが、本体と直結している肉体なだけだ。あの規模だから破壊できれば相当な影響を与えれるが……無理に破壊する必要はない】

 

【そういう訳だ。あの導師が作った兵器は破壊したのだからな】

 

導師の幽霊は昨晩強制的に成仏させた。その理由は美神さん達の警戒していた通り、あの導師は既に6割方怨霊になっていたのだ。それが琉璃さん……つまり神代家の人間が来た事で一気に怨霊化が進み。おキヌちゃんだけではなく、あろうことか俺達さえも生贄にして霊力兵器を使おうとしていたのだ。これは俺達が寝ている間に小竜姫様、ビュレトさん、ブリュンヒルデさんの3人が対処してくれたらしいが……人間の姿ではなかったとだけ聞かされ、導師がこの世に残る触媒としていた霊的兵器も破壊する事になったのだ。

 

【一応最終兵器で残しておきたかったんですけどね……】

 

「おキヌちゃん、それやったら2度と口を利かないからな?」

 

じょ、冗談ですとおキヌちゃんは言うが、俺としては誰かを犠牲にして勝つということはしたくない。折角生き返れるかもしれないのに、そんなおキヌちゃんが再び死ぬなんて認める事は出来ないのだ。

 

「……まぁ、あのレベルになるとお前の魂だけじゃ足りないからな、そもそもあんな外道な物は存在しない方が良い」

 

俺たちの護衛として一緒に行動しているシズクが目を細めながら呟く。本来ならば、シズクもあの巨人の攻略に参加するはずだったのだが……シズクはミズチつまりは「水」だ。地面や木の属性のシズとは相性が悪いから氷室神社と俺の守りに参加している

 

「……術式の第一段階完了、横島ッ!」

 

「は、はいッ! かの者の力を増幅させよ!急急如意令ッ!!」

 

精霊を呼び寄せるのではない、神宮寺さんの魔力に干渉してその魔力を増大させる。

 

「……後3割。ゆっくりと増大させてください」

 

「は、はい」

 

ぼんやりと感じる神宮寺さんの魔力に干渉して霊力を注ぎ込む。さっきも言った通り、今の俺に細かい霊力調整は出来ない。

 

【すこしばかり霊力が多いな、こちらでコントロールするぞ】

 

「心眼、頼んだ」

 

心眼に俺の霊力の細かいコントロールをして貰い、陰陽札を媒介にして神宮寺さんに俺の霊力が譲渡されていくのだが……。

 

「ん……ッ」

 

(気まずい)

 

神宮寺さんの声に艶が混じるので、霊力の操作を間違えそうになるし、おキヌちゃんの目も怖い。唯一普通に接してくれているのはシズとシズクの2人だけと言うこの状況……本当なら前線に出てる方がよほど気が楽だと思う。

 

【それくらいに留めておけ、暫くはその魔力量を維持するべきだ】

 

「で、ですわね……くっ……結構きついですわね」

 

普段の余裕に満ちた表情から一転、冷や汗を流している神宮寺さん。厳密に言えば神ではないのだが、肉体だけでも神と言う事で呪いを掛ける事に対する難易度が恐ろしいほどに上昇しているのだろう。

 

「大丈夫ですか?」

 

「大丈夫に決まっているでしょう?本免許持ちのGSを舐めてはいけませんわ」

 

そう笑う神宮寺さんだが、その笑顔が無理をしているようにしか思えなくて……

 

(無理なの……かな)

 

自分でもコントロール出来ないほどに霊力が増加している今ならば、不安定になってしまう文珠の作成。これだけ霊力が増えているのならば……文珠を生成して美神さん達の手助けが出来ないかと考えてしまう。

 

「……間違っても文珠を単独で作ろうとするな、今のお前の霊力では暴発するかもしれないからな」

 

「シズク……うん、判ってる」

 

自分でも制御できない霊力。どれだけ力があっても、これでは何の意味もない。強い霊力が欲しい訳ではない、自分で使いこなせる自分の技量と比例した霊力だけあればいいのにと思わずにはいられない。

 

【なにそこまで心配することはない、ナナシとユミルは強いよ】

 

「本当に?」

 

【勿論だ、あの2人なら神魔にも匹敵する。戦場の心配をするよりも、今自分の出来る事をするがいい】

 

チビ達と共に美神さん達の戦いに参加しているナナシとユミル、正直ハムスターサイズなので心配ではある。だけど、六道での試合もあるからきっと大丈夫なのだろう……と言うかそうでも考えてないと美神さん達が心配で、駄目だと言われているのに戦いに合流しそうになってしまう。

 

(今自分にできる最善……か)

 

今は戦えないと言う事が判っているので、裏方に回るしかない。その事が悔しくて、俺は拳を握り締め遠くに見える巨人に視線を向けるのだった……。

 

 

 

 

 

 

~蛍視点~

 

 

東京からシンダラによって運ばれてきた支援物資、そして呪いの効果だけを強化した陰陽札。それによって神の肉体が出てきたのは間違いなくこちらにとっては計算通り、今も確実に敵の弱体化は行われている……筈。

 

「ちっ、再生能力が高いな」

 

「地面から完全に切り離さない事には再生能力を無効化することは出来ないでしょう」

 

腐っても地霊、地面に接している限り相手の能力全てを抑制する事は出来ない。だがあの巨体では、地面から切り離すと言うのも難しい

 

【ちえいッ!!】

 

「はッ!!」

 

現れた時は10m近かった巨体は今は5m近いサイズまでに小さくなっている。だが、それでも巨体は健在だ。ビルを簡単に両断するであろう蠍の鋏を牛若丸と小竜姫様が弾き続け、ブリュンヒルデさんとビュレトさんが大技を叩き込む。それによって相手の動きの大半を抑え込んでいるが、地面から生えてくるように現れる昆虫や木人の頻度も少なくはなっている……。

 

【ノーブ!ノノーッ!!!】

 

チビノブが手を掲げると空中に「N」の文字が浮かび、そこから車のような機械が現れる。

 

「美神さん、あれどうなってるんでしょうか?」

 

「知らないわ、ドクターカオス脅威の科学力とでも思ってなさいッ!!」

 

木人の一撃を受け流しながらの私の疑問に美神さんが怒鳴ってくる。でも転移してきてるわよね……同じ科学者としてその技術には強い興味がある。

 

【ノーッ!!ノッブーーーーッ!!!】

 

勢い良く飛び上がったチビノブと、Nの文字から出現した車が真ん中から左右に分かれてチビノブの両腕に装着され、ヘルメットがチビノブの顔を覆う

 

【ノーブーーーーーーッ!!!】

 

肥大化した両腕を下にして急降下してくる姿に強烈な嫌な予感がし、慌ててチビノブから距離を取る。そしてその直後地面に腕を叩きつけるチビノブ、叩きつけられた両拳を基点に凄まじい振動が周囲を襲う。

 

「な、なんてパワーよッ!?」

 

「も、もしかしてさっきの私達のほう見て鳴いていたの警告だったんじゃないですかねッ!?」

 

立っていられず、思わず膝をついたが今こっちを見て鳴いていたのは、もしかしたら危ないと言う警告だったのかもしれない

 

「「「「ぷぎぎーッ!!!!」」」」

 

空中から空を飛ぶうりぼー達が編隊を組んで急降下してくると同時に牙の間から霊波砲を連続で打ち込んでくる。

 

「チャンス!今の内に体勢を立て直すわよッ!」

 

「はいッ!」

 

横島の方にはシズとくえす、それとおキヌさんの3人が付いているのでマスコット組みも全員こっちに参加している。近くで守るよりも、敵を倒した方が横島が安全と判断しているのか、非常に攻撃的だ。

 

「みーむ!」

 

「ぴぐうッ!」

 

チビの合図で旋回し、今度は回転しながらの牙アタックで木人を吹き飛ばす。正直、囲まれ始めていたのでチビ達の攻撃で1度陣形を立て直す事が出来た。

 

【余り前に突っ込むなよ】

 

「地面から出てきて囲まれたのよ、私達のせいじゃないわ」

 

背後に召喚した火縄銃で支援をしていたノッブ。でも私達も別に孤立したかった訳ではない、地面全てが敵が出現する領域と言うのを少々甘く見ていたのだ。

 

「それよりも琉璃の方は大丈夫なの?」

 

【問題ないわい、ただここまで静かだと些か心配じゃがな】

 

琉璃は今結界の中で祈りを捧げている。神代に伝わる神卸の技術の応用……人間界に一時的に神魔でも行動しやすい空間を作り上げる。それには極度の集中と膨大な霊力が必要になる、精霊石と結界札にルーン魔術で作られた強固な結界の中にいる琉璃。

 

(保険のまま済めば良いけど)

 

前に分析用にと回収した文珠が2つ。回復の復の文字が刻まれた2つの文珠、これで琉璃の霊力を復活させて結界の維持を願っている。

 

「美神殿ー!こっちの手伝いを頼むでござるよぉッ!」

 

「そっちが分断されてこっちが大変なんだからねえッ!」

 

タマモとシロの助けを求める声を聞いて琉璃はノッブに任せて2人の方に駆け出すのだが……

 

「ふっははははっーーーッ!!!弱すぎるわぁッ!!超級妖精幻影弾ッ!!」

 

「我はユミルッ!氷室舞の剣なりッ!!チェストオオオオオッ!!!」

 

霊力を纏ったまま体当たりをするナナシと、凄まじい長さの大剣を振るうユミルの姿に私も美神さんも絶句する。もう、あれ絶対妖精じゃない、それが私と美神さんの間違いない共通の認識だと思うのだった……。

 

 

 

 

~くえす視点~

 

横島からの霊力の譲渡には1つ問題があった。琉璃の霊力が今横島に混じっている事……などではない。魔と聖が混じると強烈な反発作用を引き起こす、だが横島は信じられない事に聖と魔の両方に強い適正がある。神にも魔族にもなれる体質と言っても良いでしょう、そんな横島の体内で交じり合った霊力は既に聖でも、魔でもない、純粋な力の塊だ。魔その物の私の霊力にも問題なく融合してくれる……問題は霊力などでの問題ではなく、純粋に私の羞恥心の問題だった。

「ん……」

 

身体をまさぐられるような感覚……これが問題だった。ビュレト様の魔力に引かれて人間らしい感性が殆ど死んでいるし、訓練で色事にも強い筈なのに、この感覚だけは慣れない……いや、慣れる事が出来ないのだろう。

 

(……でも当然ですわね)

 

思いを寄せている男とそうではない男、身体や心の反応が異なるのは当然だ。何よりもこの感覚は、私が確かに人間であると言う証明のようにも思える。もう少し、もう少しだけこの感覚に浸っていたいと思うが……そろそろ限界だ。

 

「力の増幅を止めてください……これ以上は無理ですわ」

 

「りょ、了解ですッ!」

 

私の力のキャパの意味でも、声を押し殺すにも、平気そうな表情をするのも限界なので霊力の譲渡を止めさせる。

 

【……】

 

おキヌがジト目でみているがそれは完全に無視する。シズクとシズは大して興味も無さそうと言うか事実無いのでしょうね、霊力の譲渡は房中術に近い側面がある。平安時代の竜神と、それよりも古い時代の神では大して目くじらを立てる事でもないと言う事でしょう。

 

「……呪いの効果は十分に出てますが、ここまで効果が出てくるとそろそろ危ないですわね」

 

最初に出現した状態から考えれば既に半分以下にまでサイズダウンしている、それでも3m強とかなり巨大な事に変わりはない。

 

【ガアアアアアーーーーッ!!!】

 

真紅の1つ目が輝き、鋭い牙が剥き出しになる。完全に飢餓状態一歩手前と言う所ですわね……。

 

【御神体とおキヌの存在で完全に霊脈の支配権を奪えると思ったんだがな……】

 

【あと少しが無理でしたからね】

 

霊脈と完全に断たれれば自分が死ぬ、向こうも必死で霊脈のコントロールを取り返そうとしている。だけど、御神体と霊脈の巫女が揃っているので支配権はこちらの方が完全に上……どう足掻こうが、霊脈のコントロールを相手が奪い返す事は出来ない。

 

「どれくらい持って行かれてますか?」

 

【んー、2割くらいです】

 

「そう……ですか」

 

霊脈の力は膨大だ。仮に2割としても中級神魔レベルの力はあるのは確実。これから神魔と戦う事が多くなる可能性が高いのだから、良い練習になると思えますかね。

 

【来るぞ、霊力が足りないからこちらにな】

 

「想定通りですわ」

 

心眼の警告が響くよりも早く、銃の引き金を引いた。銃口から飛び出した魔力弾が樹の洞から飛び出した悪趣味な昆虫の頭部を打ち抜いた。

 

「な、なんで!?」

 

今まで襲われなかったのに何で急にと驚く横島、余り知識の詰め込みはよくないですがもう少し神魔に関する知識は与えておくべきでしょうに……。

 

「神魔は人間界では十分に活動出来ません、それは知っていますね?」

 

それ位は知っているのか小さく頷く横島、私の話に耳を傾けながらも陰陽札を手にしているから戦いになる事は十分に理解しているのでしょうね。

 

「神魔の力の源となるのは人間の魂になります。無論これは悪神と呼ばれる存在に堕ちる事を意味しますが、既に神でもない肉体だけでは足りない力を補う為に人間を喰らおうとするのは当然の事ですわ」

 

魂食い、これが足りない力を補うのに一番手っ取り早い。霊脈から断たれ、今もビュレト様達の攻撃を受けて小さくなっている事を考えればたった2割だけ確保出来ている霊脈では足りないと判断したのだろう。

 

「じゃ、じゃあ早苗さん達も危ないんじゃ!?」

 

「……それは心配ない、霊能者としての格が低いからな」

 

既に霊能の半分ほどが廃れているので、霊能者としての格はさほど高くないという言葉に偽りは無いだろう。それに私や横島、それに美神や蛍と言った強い霊力を持つ餌が近くに居るのに、食べた所で大して腹の足しにならない人間を襲う事は無いだろう。

 

「シズク、少しの間お願いしますわね?」

 

「……お前はどうでもいいが、横島を護るついでには護ってやろう」

 

それで十分、シズクはどこまで行っても横島の守護者。そのついでで私は十分だ、そもそも死ににくい体でもあるのですから、多少の怪我など何の問題でもない。

 

「組み立てますわよ。このライフルを」

 

ドクターカオスと芦優太郎の作り上げたこの特殊ライフルならば、地面も貫通してシズの本体を貫けるだろう。

 

「は、はい!」

 

おっかなびっくりと言う様子だが、手先が器用な横島を残したのはこのスナイパーライフルを組み上げる為ともう1つ。

 

「私ではこれを撃てませんからね、貴方が撃つのですよ」

 

「せ、責任重大ですね……」

 

引き攣った顔をしているが、事実だ。いかに魔力などで身体能力などを強化していても、私は所詮女なのだ。これだけ長大のスナイパーライフルを撃つには骨の強度が足りない。それならば、横島を強化して撃たせた方がまだ命中する可能性が高い。

 

【地面が揺れ始めてきましたね……】

 

「まぁ、当然ですわね」

 

巨体を操っている本体は地中だ、本来なら人形で私達を喰らうつもりがそれすらも失敗すれば慌てて地上に出てくることは計算の内だ。

 

【……だが気を緩めるな、あくまで私は植物だ】

 

「判ってますわ」

 

植物、つまり株分けなので分身が作られる可能性もある。現に木人と言うのはシズの肉体の分身である事までは判明しているのだから……。

 

【今の所は分裂した気配は無い、狙うなら今だ】

 

索敵能力に特化している心眼がそう言うのならば間違いないだろう、恐らく分裂してターゲットを逸らすという知恵も無いほどに劣化しているのでしょう。

 

「では行きますわよ」

 

私が良く使う浮遊術ではない、それではスナイパーライフルの反動には耐えられないだろうし、不安定だから横島も射撃に集中できない。魔力の消費が多くなるが、シズクの氷を土台にして空中へと浮かび上がる。

 

「ちょっと冷たいですね」

 

「……我慢しろ」

 

地面は全てあいつの肉体になると言っても良い、地面を持ち上げてそれと同時に包み込まれたのでは抵抗など出来ない。ならば、多少の冷たさは我慢して氷を浮かび上がらせる方が得策だ。

 

【……もう少し上。そして左だ……そこから斜め下……良し、そこだ】

 

シズが自分の核の場所を特定し、横島がそこに照準を合わせる。姿は横島の陰陽術とルーン魔術で隠しているので見つかる事は無いだろう……無論警戒を緩めるつもりはないが……。

 

「すーはーすーはー……ふー」

 

深呼吸を繰り返し、集中状態になった横島が氷の上に寝転び、スナイパーライフルの引き金を引いた。凄まじい轟音を伴ってエミの作った植物を死滅させる呪いの込められた銃弾が地面に突き刺さる。

 

【-----ッ!!!!】

 

声にならない獣の断末魔が響き渡る、心眼の言う通り核を分裂させていなかったようだと安心したのも束の間。

 

「なッ!?」

 

「……しまっ!?」

 

【小癪な知恵をッ!!行けッ!!】

 

【横島さんッ!!!】

 

強烈な振動と浮遊感を感じ、自分が落ちていると気付いた。そして視線を上にあげると、切り落とされた筈の龍の首が涎を垂らしながら、横島を噛み砕こうとしている姿が目の前に広がっていた……。

 

「舐めるんじゃないですわッ!!!」

 

落ちながらでは魔法を組み上げる時間がない、魔力をただ炸裂させ、シズクも巨大な氷柱を打ち出す。それは正確に龍の首を捉える……だがそれでも、首は一瞬怯んだだけで再び横島へと牙を向けようとした……。

 

【■■■ーーーーーーーッ!!!!!!!】

 

だが獣の咆哮が響き、下から飛び上がってきた何かが首を蹴り飛ばし、空中で横島を抱き止める。

 

【■■■】

 

大事な物を抱きしめるような仕草をする獣だと思ったのは獣ではなかった。白い猪の被り物をした長身の女……しかも桁違いの神通力を放っている……それは間違いなく神、しかも最上級の神だ。

 

「乙事主ッ!!横島をこっちに!治療するッ!!!」

 

シズクがその神の名を叫ぶ、乙事主……うりぼーの正体だと思っていた死した神……それが横島の危機に降臨したのだった。

 

 

 

 

 

~???視点~

 

怖いと思ったのだ……いつも一緒に居てくれるのに、その人が居なくなってしまうことが何よりも怖いと思ったのだ。

 

「みむう」

 

チビは大丈夫と言ってくれるし、タマモとシロも無事と言ってくれるけど……それでも怖いと思ったのだ。

 

【ノーブウ】

 

「ぴぎゅう……」

 

ご主人が居なくなるのは初めての事だった。チビやタマモは経験しているかもしれないけど、チビノブも自分も初めての事だった。撫でてくれない、抱っこしてくれない事が寂しくて……それ以上に怖いと思ったのだ。

 

(人は弱い)

 

どれだけ優しくて、暖かくても人は弱い。その事を初めて知った、今回は無事に帰ってきてくれた。それでも次は?その次は?いつか大きな怪我をして居なくなってしまうのではと思うと怖かった。だからご主人を奪わせないように戦う事を選んだのに……それなのにご主人が奪われようとしている。

 

【----ッ!!!】

 

切り落とされた龍の首がご主人を飲み込もうとしているのを見た、その瞬間弾かれたように走り出した。まだ間に合うかもしれない、まだ届くかもしれない

 

(……遅い)

 

ご主人は可愛いといってくれるけど、この小さい身体が憎い。

 

(ああ……嫌だ嫌だ……)

 

誰よりも早く走り出した筈なのに、距離は縮まらない。この小さい身体では……見えていても届かない。

 

(掴めない……)

 

この手では仮に間に合ったとしても、その手を掴む事が出来ない。ご主人の仲間も走り出しているが、距離があり過ぎる。届かない……届かない……居なくなってしまう、あの化け物に喰われてしまう。

 

(嫌だッ!!)

 

今欲しいのはあの化け物を倒す力。

 

今必要なのはあの距離を縮める事の出来る足ッ!!!

 

今必要なのはご主人の腕を掴める腕ッ!!

 

(色んな物を貰った)

 

何も知らない自分に暖かさをくれた。

 

安らぎをくれた……。

 

幸せとは何かを教えてくれた……。

 

(無くさない、奪わせないッ!!)

 

何よりも大事な者なのだ……。

 

自分にとって■■■にとってご主人は必要な存在なのだ。

 

(届け届け届け届けッ!!!)

 

地面を蹴る短い足が憎い……。

 

何も掴む事が出来ないこの爪が憎い……。

 

(欲しい……)

 

今まで気付かなかった、欲しい物は1つだった……。

 

愛された分、ご主人を助ける力、護れる力が欲しい……。

 

今なら判る、時折頭の中に響く声は……。

 

自分を呼ぶ声は……。

 

寝ている時に見る、何処かの光景は……。

 

きっと己だったのだ、今の自分になる前の自分の記憶……。

 

力を取り戻せと言われていたのに、自分は可愛いうりぼーで居たかった。

 

ああ、なんて愚か……。

 

力を取り戻しても己は己だ、可愛いうりぼーで居れたかもしれないのに……それを拒絶したのだ。

 

だが今は力が欲しい、自分がどうなっても良いから力が欲しい……。

 

(ああ……欲しい、力が欲しい……)

 

どうなってもいい……嫌だけどうりぼーじゃなくなってもいい、その代わりに……。

 

(ご主人を助ける事が出来る力をッ!!!)

 

突然視界が高くなった気がした……。

 

地面を蹴っていた足が力強く大地を踏みしめる足に変わった……。

 

雪のように白い手を目の前で握り締め顔を上げる。そこには龍に飲み込まれそうになっているご主人の姿が見える

 

【返せッ!!!!!】

 

ご主人はお前なんかが触れて良い存在じゃない、地面を力強く蹴ると身体が宙を舞う。そのままの勢いで龍の顔に蹴りを叩き込みご主人を抱き止める

 

【……生きてる】

 

暖かい、心臓が動いている……良かったという気持ちが自分を埋め尽くし、そしてそれと同時にあの化け物に対する強い殺意が生まれる。

 

「乙事主ッ!!横島をこっちに!治療するッ!!!」

 

乙事主……そうだ、それが自分の名前だったはず……でも自分はやっぱりうりぼーが良い。自分を呼んだシズクの元に飛んで、ご主人を渡す……そしてそれと同時に顔を上げる。

 

【ガアアアアアーーーッ!!!】

 

獲物を取られたと言わんばかりに怒りの咆哮を上げる龍。盗人猛々しいと言うのはこの事だろう、ご主人は自分達のご主人なのだ。だから……ご主人を喰らおうしたあの化け物を許すつもりは無いッ!!!

 

【■■■ーーーーッ!!!】

 

雄叫びを上げると同時に地面を蹴って宙を舞う。ご主人が無事なら、後はもうどうでもいい……きっとシズク達が護ってくれるだろう……だから己がやる事は1つだけ

 

【殺してやるッ!!!】

 

自分達からご主人を奪おうとしたこの化け物を殺す、もう自分はそれだけしか考える事が出来ないのだった……

 

 

 

リポート28 切り開け、己の未来 その13へ続く

 

 




うりぼーが神化して乙事主(バーサーカー)にクラスチェンジ。マスコットから神へと劇的超進化です、次回は戦闘シーンを寄り細かく書いていこうと思います。ナナシとユミルの大暴れも書きたいですしね、それでは次回の更新もどうかよろしくお願いします

視点が変わる時にそのキャラの視点と言う事を表記するべきか

  • サイドまたは視点は必要
  • 今のままで良い

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