埋没短編集   作:シュトレンベルク

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単発物第五弾(原作:魔法科高校の劣等生)

「国連軍の魔法師、ですか?」

 

「ああ。風間少佐の情報だが、国連軍に所属しているとある魔法師が日本を訪れているらしい」

 

 東京の某所にて生活している二人の兄妹――――司波達也と司波深雪は食事を共にしていた。そんな中、思い出したように達也がその話題を振った。

 

 魔法師という特別な力を行使する存在によって各国のパワーバランスは大幅崩れた。そんな中、大きな戦争が起こるような事態に際して投入される国連軍。そこに属しているとある魔法師がこの国を訪れるという情報を、知人から聞いていたのだ。

 

「国連軍の方が日本に?そんなに大きな戦いがあったという話は知りませんが……」

 

「まぁ、そこまで特別な話ではないらしい。国連軍の魔法師自体は様々な国に在中していて、上官が数年毎に入れ替わっているらしい。その上官が代わるタイミングが来た、らしいんだが……どうも今までは少し違うらしい」

 

「今までとは違う……?」

 

「ああ。……どうも魔導十星(アリストテレス)が来ているらしい」

 

魔導十星(アリストテレス)というと、世界規模で認定を受けている戦略級魔法師ですよね?そんな有名な方がいらっしゃるのですか?」

 

 魔導十星(アリストテレス)は世界的に有名な国家戦略級魔法師に分類される魔法師の事をさす。状況を一変させるだけの魔法師の総称であり、彼らの実力は普通の魔法師を凌駕する。だからこそ、彼らは多くの人間に注目されている。

 世界中で確認されている戦略級魔法師『十三使徒』とは別枠の扱いを受けている。これは存在こそ世界中に知られているが、その役割が誰なのかがはっきりしていないため。精々一般人が知っているのは、彼らが常軌を逸した魔法の使い手であるという事実だけである。

 

「どのような方なのでしょうか?」

 

「流石にそこまでは分からないな。しかし、個人的には会ってみたいとは思うよ」

 

 敵か味方かは分からない。しかし、どれほどの実力を持っているのかは気になる。それに応じて、その人物に対する警戒度は変わってくる。どちらにしても、警戒するだけの存在である事は事実なのだ。達也はそれだけ魔導十星(アリストテレス)の事を評価している。

 誰かにもよるが、単騎で泥沼状態の戦場に参戦して終戦まで導くだけの圧倒的な力を持つ。まさしく、化け物という言葉が相応しい魔法師集団。それこそが魔導十星(アリストテレス)という集団なのだ。伊達や酔狂で名乗れるほど、その言葉は軽くはない。

 

 達也がそんな事を考えていると、電話の音が鳴り渡った。出ようとする深雪を留め、達也が電話を取った。電話の画面にはちょうど話をしていた人物が映っていた。

 

「こんばんは、風間少佐」

 

「達也か。こんな夜分にすまないな」

 

「いえ。それより何かありましたか?確か、今は国連軍の方の相手をしていらした筈では?」

 

「言いにくい事ではあるんだが……実はその件で連絡させてもらったんだ」

 

「……どういう事ですか?」

 

 風間少佐――――風間玄信は本当に言いにくそうな表情をしていた。彼らしくもない様子から、達也は首を傾げた。風間は実直な人間であり、言うべき事ははっきりと言う人間だ。そんな彼が、達也が見た事もない表情を見せる事に達也は疑問を隠せない。

 

魔導十星(アリストテレス)の一人が来日している事は以前に話したな?」

 

「はい。つい先程までその話を深雪としていましたので」

 

「そうか。その魔導十星(アリストテレス)――――タイプ・マーズがな。高校に通いたいと言ったのだ」

 

「は?」

 

 達也は思わず聞き返さずにはいられなかった。まさか天下の魔導十星(アリストテレス)が高校に通いたいなどと言いだすとは思わなかったからだ。それは風間にしても同じ事だった。実際、タイプ・マーズにそう言われた時は彼も面食らったものだ。

 

「タイプ・マーズ――――彼は君と同年代の日本人なんだが、諸事情で義務教育終了前に日本を出ていたらしい。もちろん、高校生レベルの教養は身についているし、大学の卒業資格も持っている。しかし、日本の高校に通ってみたいという想いがあるらしい。しかし、そこらの高校に入れる訳にはいかない。それは分かるな?」

 

「はい。それは当然の事かと」

 

「しかし、彼の要望を無視する事も出来ない。魔導十星(アリストテレス)の要望を無視したとなれば、我が国は他の国々からどのように評価されるかは目に見えているからな」

 

 まず間違いなく、バッシングを受ける事は避けられないだろう。魔導十星(アリストテレス)が化け物集団とはいえ、彼らは世界の治安を守るために行動している。その行動は間違いなく正義その物であり、彼らを責め立てる事など誰にも出来ない。そんな人物の頼みを断れば、間違いなく負い目となる。その負い目を他の国々は決して見逃しはしないだろう。

 

「そこで、我々は彼を第一高校に遅れての入学という形で入れる事にした」

 

「なるほど。それは正しい選択かと。もしかして、彼のサポートをして欲しいという話ですか?」

 

「……そういう事だ。君も多忙だと思うが、どうか協力してほしい。学校にいる間だけで構わないから、彼のサポートをしてやってほしい。頼む」

 

「……分かりました。自分でよろしければ、喜んで」

 

「すまない。助かる」

 

 平和のために揮われる最強の軍事力――――魔導十星(アリストテレス)。彼らにとって何でもない事が、他の人間にとって大きな影響を与える可能性は非常に高い。彼らはそれだけのスペックを有している人間である事は事実だからだ。人の総意の許に揮われる天災という名は彼らにこそ相応しい。

 

 魔法師としての土台が違いすぎるのだ。単純極まりない暴力装置でもある彼らにとって、魔法というのは文字通りの手足。ランク付けなど無価値で、分類分けなど無意味、才能の差に絶望する事もない。そんな低俗の域に彼らは決して存在することはない。それが彼らの素養による物である以上に、教育の賜物だと人々は知らない。

 知らないからこそ、彼らの事を人々は自分たちと同じ人間だと思う事がない。生まれた瞬間から存在する絶望的な素養の差、与えられた教育の差、かけられた時間の差……総ての事柄が隔絶しているのだ。彼らの存在価値が魔法にしかない事を、彼らは決して知る由がない。

 

 友人を作る喜びも、誰かと共に過ごす幸せを、誰かと共に遊ぶ楽しさを、彼らは知り得ない。最初から戦力としてしか見られず、自分の存在価値を認められた瞬間こそが彼らにとっての幸福なのだ。だからこそ、彼らは証明し続けなくてはならない。自らの存在価値を。そうでなければ、彼らは生きてはいけないのだから。

 地獄の中で彼らは生きていく。天に輝く天体の名を冠するために、彼らは冥府を歩いてきた。冥府帰りを最後までやりきった彼らは天体になった。世界を見守る天体の具現となった彼らは決して止まる事を知らない。そんな事で終われるほど、彼らは甘い世界を生きてはいない。

 

「さて、木星の奴(ジュピター)も何を考えてるんだろうな。態々俺を日本に送るなんて……てっきりすぐさま本部に戻されると思ってたのにさ」

 

 ホテルの一室、そこで夜景を眺めている青年――――『タイプ・マーズ』こと火野慧人は置いてあるコーヒーを手に取った。インスタントながらその出来栄えに笑みを隠せなかった。少しだけ口に含んだ後は傍に置いてある資料を手に取った。渡されていた通う予定の高校の資料だった。

 

「国立魔法大学付属第一高校、ね。まぁ、学校自体は別にどこでも良いんだけど。利便性は高い方が良いか」

 

 手に取った資料を放り投げ、懐から一枚の写真を取り出した。何度も触ってきたのか、色が抜けてきている写真だったが心底大切そうにその写真を眺めていた。そして、写真から眼を離して再び夜景に目を移した。

 

「君たちは今もどこかにいるのかな?二人とも……また会える日が楽しみだ」

 

 そう呟きながら、写真を再び懐に入れた。彼が今まで生きる事を諦めなかった理由であり、彼が止まる事のなかった存在。世界中の何よりも大事な二人との再会を夢見て、彼は生きてきた。幼き頃に冥府に引きずり込まれた彼が、地上で最後に手に入れたかけがえのない思い出なのだ。

 たとえ、目の前に何でも叶える悪魔がいたとしても。これだけは渡せない。これだけは譲れない。奪うというのなら、悪魔すらも燃やし尽くすまで。それが火星の名を与えられた魔法師たる彼の確固たる意志であるが故に。火星の王者は敵の総てを何の呵責もなく滅ぼす。

 

 これは二人の兄妹の織り成す物語に混ざった一人の化け物のお話。大切な者を守るためならば、己の命は愚か世界中の総ての命を犠牲にしても良い。自然とそう思ってしまう程、人間から外れてしまった悲しい獣の物語である。




主人公紹介
名前:火野慧人
役職:国連軍治安回復部隊魔導十星(アリストテレス)所属火星の王(タイプ・マーズ)
経歴
 本来は気安く度量もある兄貴肌で友達を大勢作れるタイプ。ただ、自分の大切な者に手を出される(物理的な意味で)されると怒り狂う。やった奴を絶対殺すと口にする程度には怒り出す。
 小学三年生程度までは日本で過ごし、その素養を国連軍のとある人間に見抜かれる。それによって地獄とも言える魔法師としての道を歩まされる事となった。その際、唯一の心のよりどころとなったのが幼馴染たちとの思い出。ぶっちゃけ、これが無かったからぶっ壊れていた可能性が非常に高い。

 実力は達也に匹敵、場合によっては凌駕するレベル。単純な戦闘能力の高さも然る事ながら、その真価は精神干渉にある。相手の精神に干渉するという四葉が長年求め続けてきた物を自力で叶えた調整体ならぬ自然体の極致。その素養は最早常人とは隔絶した領域にある。
 彼の最も恐ろしい点は大切な人を除けば自分すらも殺す対象となり得るところ。国家戦略級魔法の最大射程が地球の半分という制約を齎されている魔導十星(アリストテレス)の中でも一番の危険人物。過去、冗談半分で幼馴染の話をした水星の王(タイプ・マーキュリー)が素で殺されかけた。
 その点を除けば基本的に人畜無害かつ自分の領分を守る。そのため、彼の地雷に触れない事は魔導十星(アリストテレス)では暗黙の了解となっている。

組織名
魔導十星(アリストテレス)
 正式名称は国連軍治安回復部隊魔導十星(アリストテレス)。文字通り、戦争や紛争などによって国連軍の投入が決定された際、戦場に送られる事になる部隊。そこに所属する人間は総て国家戦略級魔法師に限定され、それ故に席は十個しかない。それでも現在は席が総て埋まっている訳ではなく、月の王(タイプ・ムーン)冥王星の王(タイプ・プルート)は誰も席についていない。
 席次は特になく、基本的に対等。しかし、現在は木星の王(タイプ・ジュピター)が指揮を執っている。これは単純に研究バカか面倒くさがりが集まっているため。しかし、その席に着くための条件はかなり厳しい。最大で地球の半分を射程圏内に収める国家戦略級魔法を生み出し、それを運用できることが条件である。

 その分、様々な特典がある。まず、世界中に存在するあらゆる資料や研究所の閲覧・見学許可が降りる。研究に関してもほぼ制限額無制限で支給される。等々、様々な特典が与えられる。これが目当てという人物も多い。それ以外が目当ての人物はそれに応じた物が与えられる。
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