生命の理   作:ゆきうさ

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すぐ次の話が書きたくて、大急ぎで書いてしまった。




【隠形樹海 カラトナル】

 □1800年前

 

 何もなかったこの時代。先々期文明は滅び、先期文明も衰退し、現在の基盤となる文化すら生まれていなかったこの時代。

 特に何の変哲もない、ただちょっと海が近いだけの森に、ある日一つの命が生まれました。

 生まれたのも何の変哲もない【ハイドツリー】

 

 だから、少し違ったのはこの【ハイドツリー】、が自らの弱さを自覚していたことくらい。

 

 【ハイドツリー】は隠れるしか能のない存在。隠れる力こそ一級品だが、もし見つかってしまったら確実に死んでしまう。

 

 その隠れる力ゆえに生態系の下位にいながら上位の存在をも食らえる存在。

 しかし、結局はただの弱いモンスターにすぎないのだ、と。この時点では名前を持たない無力なモンスターは自覚していた。

 

 ゆえに、そのモンスターは自らのアドバンテージを必死に磨いた。

 誰にも見つからないように。

 誰にも見えず、聞こえず、触れられず、嗅がれず、味あわれず、感じられないように。

 

 

 兄弟たちがある程度のリスクを負って狩りをするのに対し、そのモンスターはリスクが0にならなければ他のモンスターを狩らなかった。

 

 あるいは寝ているものを。

 あるいは傷つき、己の前まで逃げ延びてきたものを。

 あるいは生まれた直後でレベル1のものを。

 

 

 兄弟たちからは笑われた。ひとりレベルが低いものがいると。変わり者がいると。

 

 だが、そんな兄弟たちの中で長生きするものは少なかった。

 

 あるものは獲物に反撃され力尽きた。

 あるものは動いているところを見られ狩りつくされた。

 あるものは隠れる力が足りずに見つかり、切り倒された。

 

 

 それを見て、そのモンスターは心の内で嘲笑った。

 

―――ほうら、見ろ。俺の生き方の方が賢いんだ。

 

 

 

 そのモンスターは弱かった。臆病だった。そして死にたくなかった。

 自らの弱さを自覚している故に。

 まともに生きれば死んでしまうということを自覚したゆえに。

 

 

 そして、そのスタイルは死の直前でも続いていた。

 というよりも、単純にレベルを上げきれなかっただけか。

 

 150年という木にとってはまあまあで、モンスターにしてみれば長寿の状態になってすら、そのモンスターのレベルは8だった。

 

 年に他のモンスターを狩るのは両の指で足りるほど。

 何もせずただ期を待ち続ける日々はある日唐突に終わろうとする。

 

 寿命、というやつだ。

 なにも他のモンスターに狩られるだけが死ではない。死などどこにでも転がっているのだから。

 

 

 だが、そのモンスターは諦めなかった。生に執着した。死にたくない、死にたくないとただひたすらに願った。

 

 

 

 果たしてその願いはかなえられることになる。

 目の前に差し出されるように置かれた■■■■■。

 

 それを取り込み、そのモンスターは逸話級UBM【隠形樹 カラトナル】へとなった。

 

 

 

 カラトナルは考えた。

 どこかに、自分の存在に気づき、■■■■■を置いただれかがいる、と。

 

 それは、カラトナルにとって救いの手でもあり、絶望の宣告でもあった。なぜなら、■■■■■を置いた何者かは確実にカラトナルの存在に気付いている。

 死ぬまで気づかれなかったという、一つの誇りであり安心は打ち砕かれることになった。

 

 

 ゆえにカラトナルは自らを隠すスキルを望んだ。

 それが第一のスキル《不在証明(ロストオーダー)》。

 

 自らの存在を隠蔽し、カラトナルがいるという思いを抱かせないようにするスキル。これを発動していれば自身に《不存在》の状態異常を与え、周囲からは現象は認識できても、原因に目を向けれなくなるようになる。

 

 たとえ、目の前で動き対象を殺そうとしても『誰かが木を操ってる』と思わせ、その木自体が原因だとは考えられなくなる。

 もちろん隠蔽能力もかなり進化しており、目の前で動いても存在に気づかれないようにすらなった。

 

 

 さらには目前だった寿命も延び、カラトナルは生を獲得した。

 

 

 

 カラトナル自身、UBMになったことによるステータスの向上やスキルの獲得によって自分は無敵なんじゃないか、と考えるようになっていた。

 自前の隠密能力を十全に発揮すれば、自分はどんなものにも負けない、最悪でも死ぬことはない、と考えだした。

 

 

 それは傲慢であり、慢心であった。

 

 

 しかし、幸か不幸かカラトナルは自らを脅かすほどの強敵(・・)と出会わず生き続け、自らを脅かす災害(・・)と出会うことになる。

 

 

 それはカラトナルが生まれて1200年。あるいはUBMとなって約1000年。

 

 

 現在から数えると600年前。俗にいう“三強時代”である。

 

 

 それはある意味不幸な事故だった。

 ただ【猫神】シュレディンガー・キャットと【覇王】ロクフェル・アドラスター、その二人が偶然カラトナルの住む森林の横で戦い始めたのだから。

 

 当事者にとってはただの遊興、あるいは仮初の生のみを賭けた戦い。

 

 しかし、巻き込まれたものにとってはそんな生易しいものでは済まない。

 【覇王】の一振りがあまたの生命を吹き飛ばし、【猫神】の物量が森を押しつぶす。

 

 カラトナルが住んでいた森は用事が戯れに崩したジグソーパズルのようにバラバラ隣、見るも無残になり果てた。

 

 

 この争いでカラトナルが死ななかったのはただの偶然である。

 【覇王】の一振りがすぐ横をかすめ、枝が数本折れた程度。この戦いに巻き込まれたとしてはかなり軽微な損害ではあるが、カラトナルにとっては大事だった。

 

 

 なぜならこれはその生で初めての傷。痛み。

 そして、自らが決して高みにいないことの証明。

 自らの築き上げてきた“隠れる力”というものが、ただの暴力によって簡単に破れるという、信念の崩壊。

 久方ぶりに感じる死への恐怖と生への渇望。

 

 

 それらが合わさってカラトナルは新たなスキルを開発した。

 

 我が誇っていたようなステータスなど、なんの意味も持たぬ! 我は死にたくない! ただ死にたくない! こおの一歩間違えば死ぬような地獄はもうごめんだ!

 死にたくない! 限りある命ではなく! 限りなき無限の生命をここに!

 

 

 その名も《独りぼっちの森林(ワンマン・フォレスト)》。

 

 代償としたのはステータスの9割9分。もはやそこらの【リトルゴブリン】よりも脆弱なステータスではあれど、カラトナルは死なぬ命を生み出した。

 

 それは自らの分体を作り出し、花粉という形で放出、任意のタイミングで芽吹かせることができ、芽吹いた後は普通の木として育つ。

 そして、自分が死んだとき、それらのどれかに自らの意識が宿るというスキル。

 

 つまり、分体の数がそのまま命のストックであり、死ににくさでもある。

 

 

 

 二次的な効果ではあるが、寿命すら克服したこのスキルによって、カラトナルは古代伝説級の殻を破り神話級へと至り、【隠形樹海】へとなった。

 

 その後600年、【覇王】による戦いや初代【聖剣王】の戦いなど、あまたの被害は起これど、本体に影響が出ることはなく、《ワンマン・フォレスト》という保険もむなしく本体・・・あくまで“初代”本体が死ぬことはなかった。

 

 そして600年という月日の中。自らの近くで死んだモンスターの経験値をいくらか得ることでレベルは100となり、最大にまで至った。

 この先がある予感もしたが、自分には届かない領域だと諦めた。

 

 自らの分体は大陸中、果ては天地やグランバロアの船団の中にまで入り込みもはや網羅していない場所はというところまでに来た。

 

 

 もう、今のカラトナルを滅ぼすには大陸中を焦土に変えるくらいのことをしなくてはならない。

 つまりは、不可能だ。

 

 ここにきて、カラトナルは永遠の生というものを約束されたのだ。死からの恒久的な回避を達成したのだ。

 

 

 さて、死ななくなった生命で何をしよう、と考えた時。

 カラトナルは何もすることが無いということに気が付いた。

 

 

 というよりも、『なんで生きてるんだろう?』という問いを始めて考えた。

 自らの生を振り返り、誰にも影響を与えず、誰からも気づいてもらえないこの命に何の意味があるんだろう、と疑問を抱いた。

 

 今更誰かに気づかれるようなことはしたくない

 ―――それは今まで自らが積み上げてきた生き方の否定だから。

 

 今更誰かの命を奪うようなことはしたくない。

 ―――レベルがカンストした今となっては意味のないことをする意味がない。

 

 

 ああ、なんて、なんて(カラ)な生なんだろう。何かをする意味がなく、ただ一つ求めていた生き甲斐が達成されてしまった、完了しきってしまったこの生は。

 

 

 暇になって、かつての同胞にそれとなく隠密状態を付与してみたりもした。結果は誰からも反応が返ってこないという分かり切っていて、それでいてむなしくなる内容だったけど。

 

 もはや思いを巡らせる、ということしかしなくなった頭にとりとめもないことが浮かんでは消える。

 

 もし、この世が崩壊したらどうなるんだろう、とか。

 もし、あの【覇王】のような存在が大陸中を破壊しだしたら、とか。

 

 ―――誰かが、自分に気づいてくれないかな、とか。

 

 

 きっとそれは今更になって生まれた自己顕示欲。

 自らの全力を賭して立ち向かって・・・それでいて敵わない相手との闘い。

 

 

 おそらく、“最初の本体”の寿命が残りわずかだから考えてしまうのだろう。自らの生・・・長かった1800年を証明するような何かが。

 この体死すとも我は死なぬが、世界から完全にこの体は消える。

 

 おとぎ話として語り継がれることも、伝説として人々の間に流布することも、あるいはたった一人の他者の心に映し出されることも。

 

 

 

 

 そして、そして、そして———

 

 

「―――あなたが原点(オリジナル)か。」

 

 ああ、声をかけられた。そんなことあり得ないはずなのに。

 しかし、目の前の人間は確かにこちらを見つめている。

 

 そうか。我は結局見つかってしまったのだな。

 

「―――ああ、そうだ。

 

 そうか。そなたが我の―——発見者、というやつなのだな。」

 

 

 賛辞を送ろう。称賛を送ろう。ただの妄想ではなく、徹底的に隠れ切った我を見つけ出したこの人間に惜しみない拍手を!

 

 そうして、手を叩こうとするも手が動かない。いや、たった今、動かそうとしただけで折れたのか。

 本当に限界だったわけだ。

 

「ッ! 動こうとするんじゃない! 死ぬぞ!」

 

 おお、我を気遣ってくれるのか。なんと心しみいることか。思い返せば1800年。誰かに心配されるなど初めての経験よ。

 しかし、だれかと言葉を交わすことすらこれが初めてとは。

 

 この幸運を、我はゆっくりと噛みしめねばならんな。

 

 

 

「見事―——そう、見事なり。真に我を見つけることができるものがおるとは、つゆにも思わんかった。」

 

 

 

 しゃべるたびに、体中がきしみを上げている。

 こうしてもっともっと言葉を交わしておきたい。我がどこにあるかもしれん若木に生まれ変わる前に。

 

 いや、こうして満足することができた。まだあの(カラ)の生を望むのか? 否、否だ!

 

 

 ならば―——《独りぼっちの森林(ワンマン・フォレスト)》、こんなスキルはもういらぬな。

 そうか、このスキルを無くした状態で死ねば特典武具としてこの人間に使われることができるではないか!

 

 なんと最高な発想だろうか! こんなスキルはもういらぬ!

 

 そういえば我はもう死ぬ身。姿を隠す《不在証明(ロストオーダー)》も必要ないな。

 ステータス? そんなものは論外だ。

 

 我を隠すスキルではない。我がここにいると示すスキルが必要だ!

 だれもに認められるような、そんなスキルが! さあ、作ろう、我が生涯の全てを使って!

 

 

 ああ、できたぞ。これが我の生涯だ。今なら胸を張って言おう、ここに至るまでがわが生涯のすべてだと! これこそが我の生きた証だと!

 

 最期の時だ。名乗りを上げよう! 邪魔してくれるなよ、名も知らぬ人間。

 

 いや、我の最期を託す者だ。名前を知らぬままでは示しがつかんな。

 

「人間よ、名をなんという。」

「―――風月だ。風に月と書いての風月。

 あなたの決意は受け取った。誇り高き一つの命を看取れること、光栄に思おう。」

「そうか! それは良かった! 聞くがよい風月! 我が名は【隠形樹海 カラトナル】! 太古より生きしたった一本の樹木なり!

 我が生涯ここに満ちたり! さあ、我よ! 世界に名を刻んで散らんとしよう!」

 

 ああ、素晴らしき我が生だった―——

 

 

         【Life ends , but name and karma are inherited】

 

 




特典武具としてついたのは最後のスキルなわけですがスキル名は《刻みし在りか(イントゥー・マインド)》です。
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