ここからが第二章です。
転職
☐<ウェズ海道> 【生態師】風月
【<UBM>【隠形樹海 カラトナル】が討伐されました】
【MVPを選出します】
【【風月】がMVPに選出されました】
【【風月】にMVP特典【隠形樹界 カラトナル】を贈与します】
うっせー・・・。何が討伐だよ。どう考えても大往生だっただろうが、これ。
・・・はあ。
UBMがそういうものだという知識はあるが、この雰囲気とかなんも考えてないようなアナウンスはいらなかったなぁ・・・。
目の前にはもう、何も残っていない。
これがただの老木というのであれば、朽ちた木はそこに形として残り、時代の糧として生命の輪廻に組み込まれたのだろうが・・・・あの老木は粒子となって消えてしまったのだから。
だがその姿は俺の中で生きている。俺に描けるのはせいぜい素朴なスケッチ程度だが、それでも世界にその存在を残しておこう。なに、これでも【
あとはMVP特典というやつか。カラトナルと銘打たれた特典武具、いったいどんなものなのか・・・。
「マスター! どこに行っていたんですか! 探しましたよ!」
「そうなの! 急にふらっといなくなるなんて心配したの!」
「うおっ!」
背中から二つの衝撃が襲いかかって来た。
「いや、どこにも何も・・・まっすぐ歩いてただけだってのの。むしろどこに迷う余地があったんだよ。」
「し、しかし・・・僕たちにはマスターの姿が急に消えたようにしか!」
・・・ん? そういえば、カラトナルは何と言ってたか? たしか【隠形樹海】とかなんとか・・・。
つまりこの空間は何か隠されていた空間だったということか? ・・・そう言えば地図にも書かれていなかったしな。どういうわけか俺には通じなかったみたいだが、こいつらにはその効果が発揮されてたってことか。
「そうなのー! しかもUBMってどういうことなの! 私の頭の
頭?
・・・たしかに、よくよく見てみればアダムの額には何か宝石のようなものがついている。
エメラルドか? 淡い緑色に輝くその宝石はアダムの頭に半分埋め込まれている。
取りはずすことができないかと思って、思いっきり引っ張ってみる。
「痛い! 痛いなの、マスター! せめて何か一言かけてからして欲しいの!?」
「・・・あ、ああ。すまんすまん。」
「謝り方に誠意がないの・・・。これ、絶対聞いてないやつなの・・・。」
うーむ、状況的にこれがMVP特典だと思うんだが・・・。こういうのは討伐した本人に与えられるものじゃないのか? なんでその場にすらいなかったアダムにMVP特典がいってるんだよ。
いや、アナウンスはちゃんと【風月】にMVP特典を与えると言っていた。つまりこの形が正常だということだ。
<エンブリオ>は<マスター>の一部としてみなされてるとか、そういう感じか?
「・・・ま、百歩譲ってその結論が正しいとしよう。科学者たるもの事実は事実として認めなきゃな。
しかし、分類としてはアクセサリーか? MVP特典は基本的に武器だって聞いてたが。」
研究者の風の噂じゃ【完全遺骸】なんてもんが出ることもあるって話だったがなぁ。それでもアクセサリーの特典なんて基本的に聞いた事が無いような。
そういえば、肝心の効果が分からない。
「おい、アダム。
「もちろんなの! スキルの名前は《
なるほど分からん。
というか《実在証明》って。隠形とは完全にかけ離れた場所にある言葉だろうに、なんでそんな名前のスキルが・・・。
「とりあえず実験してみるか。俺に―——っていうのは何かあると困るから、とりあえずイブにその《自然体》っていうのをかけてくれ。」
「了解なの!」
その結果・・・
「これ、相当優秀なスキルだな。」
実験の結果・・・というより、このスキルが持っていた効果に、俺はご満悦だった。
というのも、このスキルがあれば自由に外をうろつき回れるからだ。
状態異常《自然体》にかかったものの存在は全て
人がすれ違った者の顔を覚えていないように。
獣が群れの仲間を襲わないように。
その存在が認められる、否、認めさせるスキルだ。
はっきり言って、隠れるようなスキルの上位互換とでも言える。人は隠れたものを探すのは得意だが、すでにあるものをもう一度見つけるのは苦手だからな。
とはいえ、<マスター>には精神保護があるからか完全な形では効果を発揮しなさそうだ。俺がカラトナルを見つけることができたのも、俺が<マスター>であったからだろう。
しかしティアンやモンスター相手には無類の強さを発揮するスキルであることは確かだ。
これで、今の俺の貧弱ステータスでも自由にフィールドワークができるってもんだ。わくわくするぜ。
・・・装備補正とスキル発動時のデメリットにステータス半減があることを知ったのは、その数日後のことだったとさ。
◇
□ドライフ皇国・郊外 【高位生態師】風月
カラトナルと出会った後はかなりとんとん拍子に物事を進めることができた。
やはり、町の外に自由に出かけられるというのはいい。ただ、アダムとずっと手を繋いでたからかロリコン呼ばわりされるようになった挙句、<YLNT倶楽部>とかいうところから勧誘されたこともあったが。(後者のお誘いはきっちり断っておいた。)
アダムの分体・・・必殺スキルで作り出した端末の範囲内にいても【隠形樹界】の効果があると分かるまで、相当の人数に俺の悪評が広まってしまった。
その悪評から逃げるわけではないが(しつこく迫ってきたロリコンショタコンどもから逃げるという意味はかすかにあった)俺はドライフ皇国へと居場所を移した。
理由は【高位生態師】もカンストしてわざわざクエストを受ける必要がなくなったこと。
そして、皇国での飢饉の話を聞いたからだ。
あのあと一か月ほどしてアダム・イブは第五形態へと進化した。成長と言えばスキルの倍率が少し上昇した程度だが、持続時間や保持HP量が上昇したことは大きかった。俺自身も【高位生態師】カンストしてSPの量増えたしな。
今なら飢饉自体を解決できるかもしれない、という思い。人でもなく、モンスターでもなく、
人を、モンスターを、そして世界を救うことができる。
まあ半分くらい偶然でもあるのだが。
たまたまドライフへと移動している<マスター>の集団を発見しなかったら今でもまだ王国にいただろうな。
・・・むしろレジェンダリアに行ってたかもしれないし、グランバロアを目指していたかもしれない。
結構軽いノリで潜り込んだからなぁ・・・。グループの中心的存在だったライザックやモヒカンレッドがいい奴らじゃなかったらその場でキルされてたかもしれん。
ま、なんやかんやあってそいつら全員監獄送りにされたんだが。
いやー、危なかった。ヤバい奴だとは思ってたけど、思ってた以上にクレイジーだったわ、Mr.フランクリンって奴は。
で、結局なんやかんやあって俺の皇国での活動が許されたわけだけど・・・。
「思ってた以上に解決のめどが立たねえんだよな・・・。」
全く成果が出てないわけじゃない。ここ一二週間、毎日必殺スキルを使いまくったことでその範囲だけは緑を取り戻すことができている。
しかし、それはせいぜい一日1ヘクタールが限界だった。この国の国土どれくらいあると思ってんだって話なわけよ。
完全にうぬぼれてた二週間前の俺をぶん殴りてー。
そんな風に思いながら、《アダム》で作り出しているリンゴをパクついていた時だった。
【上限超過HP回復量が百億を突破しました】
【条件解放により、【生命神】への転職クエストが解放されました】
【詳細は転職可能なクリスタルで確認ください】
そんなわけで、俺は【生命神】へと転職した。
次回は明日か明後日にでも