生命の理   作:ゆきうさ

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発見あるいは遭遇

 

 □<ブリティス伯爵領>大図書館館内 【生態師】風月

 

 さて、アダム、イブの第四形態への進化後は特にこれといった出来事もなく日々が過ぎていった。

 一回も町から出ず、ギルドで書類とにらめっこしたり、図書館でモンスターについての文献をあさったりと、アウトドア派の俺にしては頑張ったと思う。

 

 しかし、分かったのは

 

「結局何がどうなってるのか分かんねえ・・・。」

 

 という、結論だけだった。

 

「マスター、このところずっと調べものをしていたようですが、何を調べていたのですか?」

「ん? お前ら、俺の思考読めるんじゃねーの?」

「はい。読めるには読めるのですが・・・マスターの思考は早すぎて、まったく追いつけません。」

「私はもう諦めたのー。」

 

 まあ、確かに一般人より思考能力が高いのは認めるが。

 

「あ、そういうはっきりした言葉の奴は読めますね。」

 

 ふーん、そういうもんなのか。

 

「ま、そんなことはどうでもいい。こうして資料あさっても分からなかったらやることはただ一つ! そう、実地調査だ!」

 

 ・・・なお、大声を出したせいで司書の人にめっちゃ怒られた。

 

 

 ◇

 

 

「それで、マスターは何を調べてるんですか?」

「んー、きっかけはこのあたりにモンスターがいなさすぎることだった。」

 

 ここに来る途中、俺たちは一度もモンスターに襲われていない。それどころか、《カウント》の圏内にすら誰もいないと出る始末。

 

 <月世の会>がモンスター狩りをしたって言っても、それは王都よりの地域だけのはず。

 つまり、この周辺の方がモンスターが少ないというのは明らかにおかしいのだ。

 

 

 ギルドで調べたところ最近【ハイドツリー】というモンスターが大発生している“らしい”。

 

 この“らしい”というのは、伝聞だからというわけではなく、ギルドの方でも正確な情報を有してないから、だ。

 

 というのも、この状態を受けて《看破》のスキルを最大まで取ったマスターが確認に行ったが何も確認できずに殺された。

 三日後に復帰したマスターから『《看破》を行ってモンスターでないと確認できたはずの木すら【ハイドツリー】だったこともあった。その割には俺でも何体か倒せるくらいには弱かった・・・。最終的には囲まれて死んじまったけどな!』という証言も得られている。

 一応ドロップアイテムから【ハイドツリー】だろうとは言われているが、【ハイドツリー】はそんな高度な隠蔽能力を持っていないはずなのだ。

 

 何か原因があるだろうということで、<マスター>限定のクエストとして発注されていたが、効果は芳しくないようだった。

 

「なるほど。マスターはその不自然さに目を付けたのですね。」

「いや、ホントは割とどうでもよかったんだ。ここまでの情報なら。」

「え!?」

「いや、だって、原因の大部分が突き止められている謎なんて解く必要ないだろ。多少興味は持ったがそれまでだ。本命の謎は他にある。」

 

 

 あまりにもモンスターがいなさすぎることもあって、森を割りと細かく見ていたんだ。そしたらあることに気づけてな。

 

 

「|まったく同じ木(・・・・・・・)が多すぎるってな。」

「まったく?」

「同じ木、ですか?」

「ああ、必殺スキルを使うとアダムの端末を産めるだろ? あれはオリジナルであるアダムと全くの同質のものだ。ざっと調べてみたが木の表面やら枝の付き方、何から何まで等しいものだった。」

「自分のことなのに全く気付いてなかったのー・・・。」

「それと同じ現象がここら辺の木についてもいえる。」

 

 計算してみたところ、約三割。

 それらの木が全く同じ遺伝子情報を有するものだって分かった。

 

「し、しかし、そこまで同じ木というのは見当たりませんが・・・。」

「そりゃそうだ。日の当たり方一つで植物っていうのは姿を変えるんだぞ? 俺が言ってるのは、そういう条件を排除した状態でみた場合、ってことだ。」

 

 

 

 とはいえ、単一の遺伝情報からなる木々っていうのは珍しいもんなんかじゃねえ

 暴論ではあるが、木っていうのは枝を折ってそれを地面にぶっさせばクローンの出来上がりだからな。同じ遺伝情報を持ってるからってそこまで驚くことじゃない。

 

 が、いかんせん数が多すぎだ。

 しかも、年代バラバラだぞ? 下手すりゃ樹齢百年はいってそうな朽ちかけた老木すら同じものだった。

 

 

「考えられるのは一つ、これらのオリジナルとなる木は無性生殖・・・というか自分の分身を周囲にばらまくことができるんだ。

 しかしどこを調べてもそんな木のことは報告されてなかった。こいつは大発見だ! クローンを量産できる木だぞ? 現に環境の三割を支配できていると来た! 素晴らしい!」

 

 

 が、問題が一つ。

 

 

「当然、森の三割を占めるんだ。街中に運び込まれたものだってあった。

 

 しかし、それらの木ではこの爆発的増加能力が発揮されていない! いや、計算したところ、木々の増え方に明らかにばらつきがあった! まるで木自体がここでは増えよう、ここでは増えるのをやめようと判断しているかのようだ!」

 

 

 面白い、実に面白い! 下手をすれば新種のモンスターである可能性すらある!

 

 

 だからこうしてオリジナルがあると思われる場所に出向いているわけだがな!

 

 

「そ、そうですか・・・。」

「そ、そうなの・・・。」

 

 いかん、自分の<エンブリオ>にすら引かれているぞ。

 

 

 

 

 簡単に言えば、違和感に気づいてその違和感の中心に向かっているだけなのだが・・・。

 

 

 そんなにおかしなこと言っただろうか?

 

 

 ◇

 

 

「・・・おかしい。」

 

 目星をつけていた地帯を全て回ったが、この原因のようなものは見つけられなかった。

 【ハイドツリー】という邪魔はあったが、移動する木など痕跡がまるわかりで、避けていくのは簡単だった。しかし痕跡には気づけても本体の存在がよく分からないとは、【ハイドツリー】とやらの隠蔽能力は相当なものであるらしい。

 たまに伸びてきた触手を避けそこね、ダメージを食らうことはあったが、《アダム》のおかげで即座に回復できる状況にある。・・・回復量の大半がHP上限に引っかかって無駄になっているのは悲しいが、それは必要経費と諦めよう。

 

 

「やっぱり、マスターの勘違いなんじゃないのー? ここら辺、なんかあるようには思えないのー。」

「しかし、《看破》の通じない【ハイドツリー】の存在すら気づいて見せたマスターですよ? マスターがここに何かあると言うことは、ここには何かあるはずなのです!」

 

 

 俺の観察が間違えていたのか?

 しかしそんなミスは犯していないと信じたい・・・。

 

 

 必死で、周囲の状況を走査する。全力で頭を働かせろ・・・!

 

 周囲の動物・・・存在せず。

 周囲の植物・・・多少の違和感あり。【ハイドツリー】の存在と“増殖する木”の存在を考慮、再走査・・・クリア

 周囲の大気・・・良好。

 周囲の土壌・・・問題なし。

 周囲の地形・・・問題あり。

 

 

 ・・・あった。しかし、地形に違和感だと?

 

 《測量士》のスキルである《地形把握》を発動。すかさず《念書》のスキルで手帳に書き写していく。

 持ってきた地図と見比べても違和感がない。むしろ、俺の《地形把握》はスキルレベルが低いので持ってきていた地図と比べると見劣りするほどだ。

 ・・・いったい、俺はどこに違和感を感じたんだ?

 

 しばらくの間、地図とにらみ合いを始める。

 そして、実際の地形と地図を見比べてみて分かった。

 

 

「地図上に存在しない場所が存在している?」

 

 そんな馬鹿な、と思うが怪しんでいた地帯のちょうど真ん中に地図には記載されず、スキルでは認識できない空間が存在している。一応、目視でなら認識できるようだがそれもどこか曖昧だ。

 

 特殊を特殊として認識できていないような?  

 

 

 しかし、そこに何かがあるのは確定だ。

 

 

 俺は意を決してそこに進む。

 

 

 

 果たして、そこにあったのは・・・枯れかけた一本の巨木だった。

 何百年という樹齢では足りそうにない。千年も生きている、かもしれない。

 

 

 確実に言えるが、俺はこの時ですら目の前のこれをモンスターだとは思っていなかった。

 

 それがこのUBM、【隠形樹海 カラトナル】が持っていたスキル《不在証明(ロストオーダー)》というスキルのせいだったから。

 

 

 

 否。

 ただその在り方が限りなく完成されてたから。

 

 先日見たフランクリンの改造モンスターを人工的な美しさというのなら、天然の美しさ。

 人工では決してたどり着くことができない生命の境地。

 

 この老いた生命に過行く時の流れを感じさせ、万物皆無常であると体現したかのようなたたずまい。

 

 

 だから俺は、身に過ぎたる美術品を見て感嘆の溜息を洩らしただけだったのかもしれない。

 ただ、それがたまたま言葉となって口から出た。

 己の意思を、ただ純粋にそこに示した。

 

 

 

 

「―――あなたが原点(オリジナル)か」

 

 

 

 

 無論、返事を期待していたわけではない。

 だが、期せずして答えが返ってきた。

 

 

「―――ああ、そうだ。

 

 そうか。そなたが我の―——発見者、というやつなのだな。」

 

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