偉大なる巨人   作:文明監視官1966

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バラージの青い石×デガンジャの風みたいな話です

マックス好き(唐突)


バラージの伝説

■■■

 

 

地中奥深く、生物が生きられない灼熱のマグマが溢れる場所に黒いナニカが蠢いていた。

 

 

 

 

────おのれ、ウルトラマン・・・邪魔をしおって・・・!

 

 

 

 

────おかげで大分力を失ってしまった・・・

 

 

 

────だが、問題ない。今は体を休めるのだ。

 

 

 

 

────地球全体に振りまいた我が細胞からエネルギーを集める。そうすれば、ウルトラマンすら倒せる強大な力が手に入るだろう・・・。

 

 

 

 

────くくく・・・私はいずれ全宇宙を喰い尽くす者。覚悟しているがいいウルトラマンよ・・・。

 

 

 

 

────クックック・・・ハッハッハッハッ!!

 

 

 

 

 

────・・・・・・!!

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

■■■

 

 

あの日、火星にてウルトラマンと同化した青年、飛鳥とエースパイロットの倖田は本部より伝達された指令のため、中近東にある町のとある遺跡へと訪れていた。

 

さんさんに照りつける太陽に熱気を帯びた砂を踏みしめて歩く。砂漠に近い環境に容赦なく体力を奪われる二人。その額には大粒の汗がこべりついていた。

 

「あ、熱い・・・」

 

「じょ、冗談じゃねぇぜ・・・こ、このままじゃ干からびちまうよ・・・」

 

ゼェゼェと息を切らしながら、手で出来るだけ陽を遮るようにして一歩一歩踏みしめる。隊員スーツは既にビショビショで気持ち悪い感触が身体中にこべりつく。不快感と熱さに精神を蝕まれていく。二人は朦朧とする意識の中、響隊長から伝えられた指令を思い出す。

 

 

 

 

 

 

────

 

 

 

 

 

 

『え?遺跡調査?中近東に?それまたどうして?』

 

飛鳥は突然の指令に目を点にして頭にハテナを浮かべる。

 

『そこは日本よりもその周辺のUMA支部が調査してるじゃないですか。ほら、トルコ支部とか、インド支部とか。』

 

倖田がコーヒーを飲みながらそう言う。確かにそこは日本支部ではなく中近東周辺の支部達の調査範囲である。その調査は全てあちらの担当だ。それに中近東周辺のUMA支部にはその全てに腕のいい精鋭が揃っている。わざわざ日本支部が出る幕はないだろう。飛鳥もそう思っていたためうんうんと頷く。

 

『その支部達から応援要請が来てる・・・と言ったら?』

 

『『えぇ!?』『って!あぁっちあちち!』

 

余りにも意外な言葉に二人は驚愕して目をひん剥く。その際に倖田は手に持っていたコーヒーを太股にぶちまけてしまい、慌てて手元にあった水とタオルで冷やしながら拭く。飛鳥も手伝って倖田の太股を拭いた。恐らく火傷にはなってないだろう。

 

『お前らな・・・何でも、最近発見されたばかりの未だ謎の多い遺跡の調査中に突然謎の砂嵐に巻き込まれたらしい。しかも、一度や二度じゃない、調査に行った全ての者達が謎の砂嵐にやられ、撃墜されたそうなんだ。』

 

『何ですって?』

 

『それって、調査隊が砂嵐にピンポイントに撃墜された・・・って事ですか?』

 

『偶然じゃないんですか?』

 

『うむ・・・それに、近隣の町にも被害は出ているようだ。人や車などを吹き飛ばしてしまうらしい。』

 

『そんなこと有り得んのかよ・・・?』

 

その不可解過ぎる現象にズボンをビショビショにしながら首を捻る倖田。

 

『それと、こんな事も言っていた。『砂嵐の中に緑色に怪しく光る瞳を見た』・・・と。』

 

『瞳・・・』

 

『そこで、我々に応援要請が来たらしい。遺跡と砂嵐の調査を頼む。もしかしたら怪獣の仕業も考えられる。十分注意して行ってくれ。もし怪獣がいたのなら応援も要請するんだ。無茶だけはするな、分かったな?』

 

『『ラジャー!!』』

 

 

 

────

 

 

「なんて、了解したのを軽く後悔してるよ・・・」

 

「どちらにせよ任務ですから向かわなきゃ行けないんですけどね・・・それにしても暑い・・・」

 

首元に溜まった汗を襟で拭うが、拭い過ぎてもう襟はビチャビチャなため、殆ど拭えずにイライラが募っていく。倖田は既にこめかみに血管を浮き上がらせながら歩いている。もう彼も我慢の限界が近いのだろう。

 

「スタンレーさん・・・まだ着きませんか?もうそろそろ限界が・・・」

 

「頑張ってください、もうすぐ着きますよ。」

 

「そう言ってかれこれ十分経ってますよぉ・・・」

 

「感覚の差異か・・・田舎でよく見られるやつだ・・・!」

 

暑さでグロッキーになってる二人に対し、考古学者で現地調査員である日本語ペラペラなスタンレー・ハワード氏は帽子の下で少し汗をかいているがケロリとした表情をしたまま歩いている。

 

ここで、遺跡までハマービートルで飛んだ方が速いのではないかという疑問が出てくるが、報告の通りならハマービートルで遺跡に近づくのは危険だと判断した為、ある程度近くに着陸してから徒歩で遺跡に行くことにしたのだ。倖田は今はそれが裏目に出たと後悔しているが。

 

因みに彼らはこの猛暑の中かれこれ三十分は歩いている。

 

汗が流れ過ぎた倖田は堪らず携帯していた水をガブ飲みする。

 

「スタンレーさんは何でそんな平気そうなんだ・・・?」

 

「あはは、まぁ慣れですよ慣れ。」

 

「精神論かよ・・・トホホ。」

 

倖田は暑さに我慢出来ずに挙句には水を頭に被り始めた。最早全身汗と水でビショビショになった倖田は泣き言を吐きながらも歩き続ける辺り、かなり根性があるのだろう。飛鳥もかなりグロッキーになっている。

 

「そういえば、スタンレーさんはなにか"砂嵐"について何か知ってることはありませんか?少しでも情報が欲しいんですが・・・。」

 

「あちぃ・・・。」

 

「砂嵐・・・ですか。そうですね、当てはまるものがあるとしたらここら辺の地域では"災いの風"というのが伝わってますね。」

 

「災いの風?」

 

「えぇ、昔から災いの風が厄災を運んでくると言われてんです。今回のもの関係があるかは分かりませんが。」

 

「いえ・・・何かの役にたつかも知れませんありがとうございます。」

 

「んなことより、まだ着かないのかぁ・・・溶けちまうよ・・・。」

 

わざわざスタンレー氏が説明してくれたというのに倖田は聞かずに疲れ果てて顔をへにゃへにゃにしていた。

 

「あはは、もう着きますって。ほら、見えましたよ。あれがバラージの遺跡です。」

 

スタンレー氏がそう言って指さした先には、遥か古代の遺跡、発見されたばかりのバラージの遺跡がそびえ立っていた。

 

それを聞いた二人はバッと顔を勢いよく上げ、遺跡の姿を見るとすぐさま元気(というより空元気)を取り戻し、急いで走り出した。ドタドタと忙しなく走り、遂には遺跡内部へと走り込んで行ってしまった。

 

「え、いや、ちょっとぉ!?待って下さいよー!」

 

いきなり置いてけぼりにされたスタンレー氏は慌てて二人を追って遺跡内へと走っていった。

 

 

 

「涼ちー・・・」

 

「外とは偉い違いですね・・・」

 

駆け込んだ遺跡の内部は太陽が照りついて油を広げて熱したフライパンの上にいるような暑さだったというのにヒンヤリとして涼しいマイナスイオンに包まれた場所であった。その涼しさに思わず表情を緩める二人。余程外の暑さが堪えたのだろう。

 

「酷いじゃないですか〜置いてくなんて〜」

 

その後に続いてスタンレー氏が遺跡内へと走ってくる。

 

「あ、すみません。スタンレーさん、つい・・・。」

 

「ずずじぃ〜・・・」

 

スタンレー氏に謝罪する飛鳥と最早涼むことしか頭にない倖田。優等生と脳筋、彼は何処で差がついててしまったのか。まぁ多分最初からだろう。

 

「それじゃあ気を取り直して、早速調査を始めましょう!」

 

「つっても、こんな廃墟じみたところに何かあるですか?あるのは瓦礫ぐらいじゃないですか。」

 

「えぇ、ですが私の勘が囁いてるんです。この遺跡には何かあると!具体的には地下空間!」

 

目を輝かせながら手を握りしめてそう力説するスタンレー氏。彼は昔から歴史とアドベンチャー系の映画が大好きな男であった。特に未発見の遺跡から大発見をするのが夢であった。

 

この遺跡は既に捜査隊が調査しバラージの歴史に迫る発見も少しだが見つかった。だが、砂嵐のせいで操作が進んでない為に全くの手付かず状態なのだ。つまり、彼の夢みた瞬間に出会えるかもしれない、というわけだ。

 

「でも、そんな映画みたいなのがあるんですか?」

 

「本当に地下なんてあるんですかね〜」

「あります!ある・・・筈です!」

 

根拠の無い自信を持つスタンレー氏。グッと拳を握って胸の前に誇らしげに掲げている。その表情は希望に満ちた子供のようである。

 

「さ!新たな発見のために探しましょう!」

 

「は、はぁ・・・」

 

「なんであんなテンションたけーんだよ・・・」

 

スタンレー氏に言われるがまま隠し扉の類を探し始める飛鳥。慌てて探索レーダーを取り出した飛鳥は早速色々な方法で周囲を探索してみるがそれらしきものは無い。スタンレー氏の言うギミックを見つけるのは困難を極めるだろう。飛鳥はそう考えた。

 

「あ!そこが怪しいです!あぁ!そこも!」

 

「え?ここ?ちょ、待ってくださいよスタンレーさぁん!」

 

「・・・はぁ・・・着いてけねーよ・・・ったく。」

 

ワチャワチャしている二人(主に飛鳥が振り回されている)を見た倖田はため息を吐いて近くの何かが置いてあっただろう台の前にある崩れて丁度いい高さになっている瓦礫の上に座るとまた水を一気に飲んだ。

 

「んぐ・・・ん?」

 

ふと、倖田がその体勢のまま上を見ると天井の一部壊れて出来た穴から美しい太陽の光が差し込んで来ている。

 

(眩し・・・)

 

その差し込んでくる光が眩しくて反射的に倖田は水の入ったペットボトルを持った方の手を顔の前にやる。

 

すると────

 

 

『キイィンッ・・・』

 

「へ?」

 

 

その行動により偶然、本当に偶然光の強さ、高さ、角度全ての条件が揃った結果、光の線となって宙を走り、倖田の真ん前にあった壁に埋め込まれていた宝玉に当たり、奇跡的な確率で隠されたシステムを起動させた!

 

『ズゴゴゴ・・・!』

 

重々しい音ともに宝玉が埋め込まれていた壁が砂埃を出しながら横へズレていき、その奥にある地下への通路をさらけ出した。

 

「えぇ!?何!?何!?」

 

「おぉ!おおぉお!!Excellent!素晴らしいです!倖田さん!」

 

「ほ、本当にあった・・・隠し扉・・・!凄いですね倖田さん!」

 

「え。あ、あぁ、だ、だろ?」

 

大興奮してはしゃいでいるスタンレー氏と飛鳥の二人に賞賛の言葉を送られるが何が起こってるのか良くわかってない倖田は困惑しながら生返事で返した。

 

そうこうしてるうちにスタンレー氏は「ぃやったぁー!やっぱりあったぞぉぉー!スッタホンロー!」と謎の奇声を上げながら地下の階段を駆け下りて行ってしまった。その速さはかのケムール人を彷彿とさせるほどである。間違ってもセーラー服を着た方ではない。

 

いや何やってんだあの人。

 

暫し呆然としていた二人だがハッと意識を取り戻し、若しかしたらスタンレー氏が遺跡のトラップに引っかかってしまうかもしれないと不安が頭を過ぎり急いでスタンレー氏のライトをつけて後を追いかけて行った。

 

「ちょっ!待って下さいスタンレーさん!危険ですって!」

 

「自由奔放過ぎんだろあの人ぉ!」

 

ドタドタとライトを片手に階段を駆け下りてスタンレー氏の後を追う二人であったが、光が漏れてきている恐らく地下の入口であろう場所にスタンレー氏が立ち竦んでいるのを発見した。

 

飛鳥と倖田は顔を見合わせてホッと息を吐きスタンレー氏に近付いて声をかけた。

 

「大丈夫でしたか?スタンレーさん。」

 

「あんま一人で突っ走らないで下さいよ・・・。」

 

しかし、二人が声をかけてもスタンレー氏は呆然としたまま返事を返さない。

 

「・・・スタンレーさん?」

「どうしたんだ?」

 

心配した二人は肩を叩いたり手を顔の前でひらひらさせたが全く反応が無い。まるで石像になってしまったようだ。しかし、飛鳥がスタンレー氏が見つめている方を何気なく見て────

 

「────。」

 

 

 

 

────絶句した。

 

 

 

 

 

 

「・・・こ、倖田さん。倖田さん!」

 

何かを見た飛鳥はバシバシと倖田の忙しなく肩を叩く。

 

「なんだ!?なんだよやめろって!」

 

「こ、これ・・・!」

 

「あぁ?何だってん・・・だ・・・。」

 

顔を顰めながら渋々飛鳥が指差す方向を見てみると、そこには────

 

 

「な、なんじゃこりゃぁぁぁぁ!?」

 

 

────巨大な地下空間が広がっていた。

 

 

彼らの前にはローマ神殿のように美しく、神秘に満ち溢れた広大な地下空間が広がっていたのだ。

 

その広さはあの東京ドーム並に広いだろう。バラージの遺跡が造られたのは約五千年前。どうすればこれ程の地下空間が作れるのだろうか。

 

倖田は驚きの余り叫び、飛鳥は口をあんぐりと開けて呆然としていた。まさか地下にこんな空間があるとは思わなかった故にである。

 

「す、すごい・・・これほどまでの地下空間があったなんて・・・!」

 

スタンレー氏は感動に胸を打たれながら何かに気づき、早足で近くの壁に走り寄った。

 

ジッとそれを見つめていると振り返り、飛鳥と倖田を呼んだ。

 

「飛鳥さん!倖田さん!来て下さい!」

 

「え?あ、はい!」

 

「何だ何だ?」

 

呼ばれた二人は不思議に思いながらも直ぐにスタンレー氏の元へ駆けつける。

 

「この壁を照らして見て下さい。」

 

「壁を?」

 

「まぁいいっすけど・・・」

 

言われた通り、壁に光を灯してみる。しかし、なにか模様が描かれているだけで特になにかあるように思えない。首を傾げている倖田にスタンレー氏は違う違うと手を振った。

 

「違います。倖田さん。この壁"全体"を照らしてください。」

 

「へ?全体・・・?」

 

そう言われ、戸惑いながらなるべく壁全体へ光が当たるようにすこし離れてライトを当ててみると、倖田と飛鳥は再び絶句することになった。

 

「こ、これは・・・!?」

 

「へ、壁画ぁ・・・!?」

 

 

ライトに照らされて初めて分かった壁の全容。そこには、5000年前に描かれた巨大な壁画が存在していた。しかも一枚だけではない。遺跡内の壁の殆どに物語をなぞる様に何枚も描かれている。

 

壮大な光景に飛鳥と倖田はライトを向けたままフリーズする。

 

その間にスタンレー氏は一瞬で壁画を事細かく観察し、右端の方に何かを発見したのか走り寄ってそこを凝視し始める。

 

「バラージ・・・滅亡・・・怒り・・・光・・・?」

 

顎に手を当てブツブツと何かを呟きながら何かを見ていると、急に倖田の手からライトを奪い取ると走り出し今度は別の壁画の端を凝視して呟き始める。

 

「・・・なるほど、なるほど!凄い!凄いぞ!歴史的発見だ!バラージの歴史が、太古の記録がここには刻まれている!」

 

壁画を前に狂喜乱舞するスタンレー氏。どうやらこの壁画には遥か昔、バラージについての記録が刻まれている様であった。スタンレー氏は目を輝かせながら勢いよく振り返り、困惑している倖田と飛鳥の腕をとって壁画の前に立たせ、説明を始めた。

 

「見てくださいお二人共!これが遥か昔5000年前に滅びたバラージに起きた記録です!」

 

スタンレー氏がまず1枚目の壁画を指す。

 

「『ある時、災いの風"デガンジャ"来たり。風、全てを薙ぎ払い、天へと還したり。』とあります。次にこっちの画を。」

 

次に隣の2枚目の壁画を指さす。

 

「『デカンジャ、大いなる災いの風で都市バラージを滅ぼす。空は黒に覆われ、光が閉ざされた。畑が枯れ、食料が無くなり人々は絶望に打ちひしがれた。』・・・やはりバラージはこの災いの風"デガンジャ"と呼ばれる風の神に滅ぼされてしまったようですね。そして・・・重要なのはこの次です。」

 

そして最後に3枚目の壁画を指差した。そこに描かれてたのは驚くべきものであった。

 

「なっ・・・!?」

 

「こ、これって・・・巨人・・・ウルトラマン!?」

 

そこには、デガンジャと対になるように立っていたのは同じくらいの大きさの巨人が描かれていた。その姿はごく最近、怪獣を倒したことで注目されているウルトラマンにそっくりな見た目をしていたのだ。

 

「『その時、闇を切り裂き眩い光と共に巨人が現れ、大いなる光でデガンジャを封じた。世界は再び光を取り戻したのだ。我々は彼を『ノアの巨神』と呼んで遺跡にて拝み、信仰した。』とあります。」

 

「5000年前にあのウルトラマンと似た巨人『ノアの巨神』がバラージに現れデガンジャとかいうのを封印していたのか・・・。」

 

「それが、バラージ崩壊の真実・・・正しくバラージの伝説・・・!」

 

余りに壮大な伝説に倖田は何度目か分からない呆然とした表情で絵画を見つめ、スタンレー氏は歓喜に打ち震えていた。

 

そんな中、飛鳥は首にかけている三角形のネックレス《デルタプラズマー》を手に取りそこに宿るウルトラマンに念話で語りかける。

 

『ウルトラマン・・・これは君なのか?』

 

『いや、私ではない・・・だが、太古の昔に私の同士がこの地球に来てその文明を守っていたのやもしれない。』

 

『そうか・・・凄い巡り合わせだな。』

 

ウルトラマンの仲間が、太古の昔に人類を守っていた。そう考えると飛鳥は感慨深いものを感じた。改めて壁画を見て笑みを浮かべる。何となく、心の中でお礼を言っておいた。ありがとう、と。

 

しかし、そこである異変が起こる。

 

 

《・・・ズゴ》

 

 

「・・・ん?」

 

遺跡内に何かが響くような音が聞こえる。それは最初は小さかったがだんだんと力強くなり、大きな地響きを轟かせて遺跡内をぐわんぐわんと揺らした。急な出来事に倖田も飛鳥も、そしてスタンレー氏も困惑する。

 

「な、なんだ?地震か?」

 

「いや、地震にしては何か妙な・・・?」

 

飛鳥はこの地響きに何か違和感を感じた。ただの地震ではない、まるで何かが這い出てくるような・・・。

そこまで考えたらところで遺跡内に亀裂が走り、内部崩壊が始まってしまった。5000年前も前に作られた空間なのだ、当然その分脆くなっている。この揺れが遺跡に致命的なダメージを与えてしまったのだ。

 

「まずい・・・崩れるぞ!」

 

「外に出ましょう!スタンレーさん!」

 

「で、ですが、この大発見を見逃すわけには・・・!」

 

「んなこと言ってる場合か!?早く逃げますよ!飛鳥!そっち掴め!」

 

「はい!」

 

「ま、待って!私の!私の大発見がぁぁぁぁ!!」

 

折角の大発見をみすみす見捨てられないと考古学魂が燃えこの場に残ろうとするスタンレー氏の腕を倖田と飛鳥は無慈悲に片腕ずつ掴んで急いで外へ避難する。

 

飛鳥達が外に出るのと同時に地下空間は崩壊し、瓦礫で埋まってしまった。恐らく、もう二度と同じものは見えないだろう。

 

「あ、あぁぁあぁ・・・折角の発見が・・・」

 

地下への入口で膝をおってさめざめと泣き始めるスタンレー氏。それを「あと一歩で死ぬとこだったのになんでそうなるんだ・・・?」と息を切らしながら思う倖田。ごもっともである。

 

飛鳥はすぐに探索レーダーを取り出し周囲を探索する。すると、遺跡から少し離れた場所に謎の反応が発生していた。地上の遺跡から出て、反応があった方向を見てみると・・・

 

「あ、あれは!砂嵐!」

 

「災いの風・・・悪魔の風だ!」

 

天にまで届くのではないかというほど空へ伸びた砂嵐が発生していたのだ。勢いも凄く、向こう側は愚か中の様子など一切が見えない。こちらにまで砂が飛んできている。

 

(あれが報告にあった例の砂嵐・・・!)

 

飛鳥は目に砂が入らないように庇いながら砂嵐を見ているとあるものを見た。

 

《ギラッ!》

 

「ッ!今のは!」

 

一瞬、砂嵐の中で緑色の双眼のような光を飛鳥は捉えた。

 

(あの中に、何かがいる!)

 

そう感じ取った飛鳥はウルトラマンを宿したことで使えるようになった《透視能力》を使い、砂嵐の中を覗き見た。すると、そこには恐ろしいものが存在していた。

 

「うっ!」

 

飛鳥の目に映ったのはこちらを凄まじい眼力で睨みつける巨大な獣の顔面。殺意の持った凶悪な怪獣の姿であった。

 

更に、飛鳥はその謎の怪獣からある気配を感じ取った。

 

(この邪悪な気配は、まさか・・・!)

 

『その通りだ、飛鳥。』

 

(ウルトラマン!じゃああれは・・・!)

 

『あぁ、あれは怪獣。それも、ゴーデス細胞に乗っ取られた怪獣だ!』

 

やはりかと苦虫を噛み潰したような表情で怪獣を睨みつける飛鳥。前に現れたゴーデス怪獣《ブローズ》と同じゴーデス細胞による新たなる敵が現れたのだ。

 

『ギャオオォオォオォオォッッ!!』

 

砂嵐の中から獣の獰猛な咆哮が轟く。それが聞こえたのか倖田とスタンレー氏が遺跡から飛びたしてきた。

 

「な、なんだよ!なんの声だ!」

 

「獣!?獣ですか!?」

 

「いえ・・・獣よりも凶悪な存在です。」

 

 

『ガァアァァアァァッッ!!』

 

 

一際大きな咆哮と共に砂嵐がはじけ飛ぶ。衝撃と一緒に視界が一瞬砂に包まれるが腕で顔を覆って防ぎ、再び砂嵐があった方を見る。

 

 

『ガルルルルル・・・』

 

 

────そこにいたのは、巨大な"災厄"であった。

 

 

「あ、あれは・・・怪獣!?」

 

「オーマイガー!?なぜ怪獣が!?」

 

巨大な体に巨大な顔面。大岩すら噛み砕く強力な牙。恐怖を植え付ける眼力。力強い二足で大地を踏みしめている怪獣がそこには立っていたのだ。

 

地を揺らしたような唸り声を出す怪獣。その口からヨダレが垂れている。まさに野獣というべきフォルムだ。

 

「・・・あれ?」

 

ここで、スタンレー氏が何かに気づいた。

 

「あの姿は・・・壁画と同じ・・・?」

 

スタンレー氏は頭の中に記憶していた壁画に出てきた災厄の風と怪獣を比べてみて・・・その姿はがぴったりそのまま怪獣の姿に重なった。

 

「間違いありません!あれは壁画に描かれていた《災いの風》、バラージを滅ぼした伝説の怪獣!『デガンジャ』です!」

 

「なんだって!?」

 

 

《風魔神デガンジャ》

 

 

 

『ガルルルッ・・・!!』

 

災厄を運ぶ災いの風の二つ名に恥じない凶悪なオーラを発しながら威嚇するようにガチガチと歯を噛み合わせるデガンジャ。

 

獅子の牙の如くギラギラと殺意を滲ませる目が捉えるのはただ一人。

 

「ッ・・・!」

 

遺跡のそばから自分のことを見ている忌まわしき因縁の敵にそっくりな雰囲気を醸し出す人間、飛鳥だ。更にデガンジャの中に同化し、封印されていた彼に実態化する力を与えた細胞が頭のなかへ訴えかけてくる。

 

 

殺せ!殺せ!殺せ!目の前の男をぶち殺せ!

 

 

自らの怨念とゴーデス細胞の恨みが混ざり合い、凄まじい殺意となって空間を軋ませる。それは最早意思など超越し行動原理、本能の域へ達している。デガンジャは、今や飛鳥を殺すために顕現しているのだ。

 

 

────殺す!

 

『グォオォオオオォォオオォォッッ!!』

 

「まずい!避けろ!」

 

デガンジャは獰猛な雄叫びを響かせると両手に光を纏い、それを《雷電光》というビームにして察して逃げ出していた飛鳥達に向けて放つ。その威力は強力で飛鳥達を軽く、まるで息で紙吹雪を飛ばすように吹っ飛ばした。

 

「うわぁぁぁぁぁ!?」

 

「ぎゃぁぁぁぁぁ!?」

 

「くっ!?」

 

飛鳥は空中でなんとか体勢を立て直し、後退りながらも着地するが、倖田とスタンレー氏は立て直すことができず、地面を転がりそのまま気を失ってしまった。

 

「倖田さん!スタンレーさん!」

 

飛鳥は二人を心配するが、デガンジャが第二弾を放つため手に光をため始めたのを見て急いで二人を庇うようち前に立ち首にかけているネックレスを手に取り目を伏せて全ての意識を集中させ、心を無にして瞑想する。

 

 

《ビ・・・ビビ・・・》

 

 

ネックレスの《デルタプラズマー》から放たれる緑光が段々と強まっていき、同時に飛鳥の意識が、肉体がウルトラマンとリンクしていく。エネルギーが高まり、デルタプラズマーから僅かな放電が見られ始めた。

 

膨張していくエネルギーは限界を超え、爆発のように一気に開放される!

 

『ゴオォオァァアァァッッ!!』

 

デガンジャの雷電光の第二弾を手から発射する。雷電光は高速で飛鳥たちの元へ飛んでいき、そして────

 

 

 

『ジュワッ!』

 

 

突如として現れた光の壁が雷電光を防いだ!

 

まさか防がれると思わなかったデガンジャは驚愕に目を見開く。

 

光と煙が晴れるとそこには、手を前に突き出した神秘に身を包んだ巨人。赤と銀色のウルトラマンが倖田とスタンレー氏が爆風に巻き込まれないように屈みこんで出現していた。

 

ウルトラマンは手を引っ込めるとゆっくりと後ろを振り返り、気絶している二人が無事なのを確認すると安心するように頷く。そして再びデガンジャへ向き直り、雄々しく立ち上がって構えをとった。

 

『グルルル・・・!!』

 

デガンジャは久方ぶりに目にした宿敵を鋭い目付きで睨みつける。今にも噛みつきそうな殺意を込めながら唸り声を上げている。だがウルトラマンはそれを物ともせずに自然な佇まいでデガンジャを見つめている。

 

両者とも相手を警戒して動かず、睨み合いを続ける。

 

ウルトラマンは構えを解かずに摺足でゆっくりと、近づいていく。対してデガンジャも一歩一歩踏みしめてウルトラマンに近づいていく。

 

両者は段々と距離を詰め、やがてあと一歩近づくだけでぶつかり合う距離まできた。

 

『・・・・・・。』

 

『・・・・・・。』

 

ウルトラマンもデガンジャも相手を睨みつけるだけで動かない。恐らく、どちらも相手の隙を伺ってるのだろう。ただただ睨み合う。

 

『・・・ガッ!』

 

『ッ!ハッ!』

痺れを切らしたのか、デガンジャがその剛腕をウルトラマンへ振りかぶった。ウルトラマンは待ってましたと言わんばかりに素早く腕を動かし、攻撃を受け流そうとする。

 

『グワッ!?』

 

しかし、デガンジャが予想以上の怪力であったため受け流そうとした腕が逆に弾き飛ばされ、ダメージを負う。

 

更に構えが崩されたところに追撃として下からかち上げるように振るわれた逆の腕に吹き飛ばされる。

 

『グァッ!?』

 

『グォォ!!』

 

ウルトラマンは苦しみながらも受け身をとり、立ち上がる。構えを取ろうとするが、右腕が痺れていることに気づき、鎮めようと抑える。

 

恐ろしいほどの怪力。流石は古代の都市を破壊し”神”の名を持つだけはある。自らの技でさえも受けることの出来ない力に、ウルトラマンは戦慄する。

 

そのことに機嫌を良くしたデガンジャは勝ち誇るように咆哮する。まるで「俺の方が強いようだな!」と言いたげな雰囲気だ。

 

だが、力で負けたからと言って勝負に負けた訳では無い。ウルトラマンは腕を振って痺れを振り払い、再びデガンジャへ接近する。懲りない奴めとウルトラマンに対してもう一度腕を振りかぶるデガンジャ。

 

空気を切り裂きながらウルトラマンの顔面へ迫る剛腕。

 

ウルトラマンは冷静に頭を下げてそれを避け、デガンジャの腹へ鍛え抜かれた拳を腰を使って勢いよく正拳突きとして突き刺す。瞬間、まるで大砲が撃たれたような重々しい音が辺りに響く。

 

『グギッ!?』

 

デガンジャは苦痛の声をあげるがお返しとして逆の腕を振りかぶるが、ウルトラマンはその下をくぐり抜けるように前転をして避け、後ろに回ったら強烈な回し蹴りをくらわせる。

 

肩に命中した回し蹴りでデガンジャの巨体がバランスを崩して横に飛んでいく。ゴロンと一度転がると器用にもその勢いのまま起き上がり、土がついてしまった頭を振って土を振るい落とす。

 

より鋭さの増した視線を無視してウルトラマンはデガンジャへ接近し、左拳で正拳突きを放つ。風切り音と共に放たれるその拳はデガンジャの頭へクリーンヒットするが、デガンジャはそれを根性で耐えきり、左腕でウルトラマンを吹き飛ばすために攻撃する。

 

『ダッ!』

 

ウルトラマンは避けられないと判断したのか受け止める構えをとる。一度目よりも腕を固め、足を踏ん張り、腰を入れる。剛腕が、ウルトラマンへと叩き込まれる。

 

受け止めた腕からはメキメキと軋むような音がするが、なんとか耐えきってデガンジャの腕を止めて見せた。

 

しかし、デガンジャはニヤリと口角を上げ、「だからなんだ!」と空いている腕に雷電を纏わせて上から振り落とす。

 

ウルトラマンは既に両腕を先の防御に使ってしまって、今から動かしても間に合わない。このまま行けば、ウルトラマンは魚の三枚おろしに切り裂かれてしまうだろう。

 

だが、ウルトラマンは歴戦の戦士である。瞬時の判断が命取りになる戦いをくぐり抜けてきたのだ。戦場で磨かれたセンスが、驚くべき技となって現れた。

 

『へァ・・・!』

 

ウルトラマンは防いでいたデガンジャの腕を力が緩まったのを狙って弾き、一瞬で余計な力を無くして脱力する。そしてデガンジャの爪の動きに合わせて体を前へ倒す。それに留まらずに流れるように体を捻らせ・・・

 

『ディヤァッ!』

 

『グギャッ!?』

 

その巨体を豪快に回したカウンターをデガンジャの眉間へと叩き込んだ!

 

一回転させた踵落としのようにみえたそれは、空手で言う『胴回し回転蹴り』と呼ばれる技であった。完璧なタイミング放たれたそれはメキリと眉間を陥没させ、かなりの大ダメージを与えた。

 

デガンジャはフラフラと後退り、体を震わせる。口や目から血が出ているのに生きている辺り流石としか言いようがない。

 

最早誰が見ても勝負は決したと思えるこの状況。

 

しかし、デガンジャの目からは闘志と殺意が消えていなかった。痛みや恐怖よりも、ウルトラマンに対する怒りが上回ってデガンジャを動かすエネルギーとなっているのだ。

 

『グゥ・・・!グガァァァァァァッッ!!』

 

デガンジャが怒りの雄叫びを上げて、両手を構える。バチバチと手にエネルギーが集中し始め、風が生まれる。

 

それを見て危機を感じたウルトラマンは後転をして立ち上がると構えて腕にエネルギーを溜める。

 

『ガァッ!』

 

突風を生み出してその中心に立つデガンジャは目を見開いて溜めに溜めたそのエネルギーをフルパワー雷電光としてウルトラマンへと解き放った。

 

『ジュワッ!』

 

それに対してウルトラマンはフルパワー雷電光に向けて拳を突き出し、《ナックルシューター》を繰り出した。

 

勢いよく放たれた両者の攻撃は空中でぶつかり合い、凄まじい衝撃波を生み出した。エネルギーが衝突し合うことで放電が発生し、辺りに撒き散らされる。その影響で雲が飛ばされ、砂が飛び、地面が隆起し始める。

 

数秒均衡していた両者のエネルギーだったが、ナックルシューターの威力が次第に弱まっていき、押されていく。

 

 

そして次の瞬間にはナックルシューターは完全に掻き消され、フルパワー雷電光がウルトラマンへと直撃した!

 

『グァッ!?』

 

強烈な一撃にウルトラマンの体は踏みとどまれずに宙に浮き、後方へと吹き飛ばされる。ダメージと雷電光の能力で体が痺れ、地面へと倒れるウルトラマン。

 

たった一撃受けただけなのに、胸にあるカラータイマーが黄色く点滅を始める。それだけで今の一撃がとてつもなく強力だったかが見て取れるだろう。苦しそうに呻き声を上げるウルトラマンにデガンジャは無慈悲に雷電光を続けて撃ち放つ。

 

『グァァッッ!』

 

その場から動けず、避けることも出来ないため直撃を受けて爆発と共に苦痛に声を上げるウルトラマン。その様子にデガンジャは愉快そうに笑いながら手を叩く。今までの鬱憤を晴らすように連続で放たれるそれはウルトラマンに多大なダメージを与え、カラータイマーの点滅がどんどん早まっていく。

 

このカラータイマーがもし消えた時、ウルトラマンは二度と再び立ち上がることは出来ないだろう・・・。

 

『グギャギャギャ!』

 

 

────愉悦、愉悦ッ、愉悦ッッ!!

 

狂喜に包まれたデガンジャと取り憑いているゴーデス細胞は必ず仕留めるために最後の一撃としてもう一度フルパワー雷電光を放つつもりなのか、手に膨大なエネルギーを溜めていく。

 

これをこの状態のウルトラマンがまともに食らえば幾ら彼でも恐らく死に至るだろう。

 

『・・・デャ・・・!』

 

ウルトラマンは震える体にムチをうち、膝に手つき跪きながらも何とか立ち上がろうとする。彼はこんなところで倒れるわけには行かなかった。ここで倒れれば、地球は、最悪宇宙はやつに、ゴーデスに滅ぼされてしまうのだ。

 

────思い出すのは、ゴーデスに滅ぼされた星。

 

かつてそこにあった星は輝きを消し、姿を消し、宇宙からいなくなっていた。彼は星があった場所を呆然と眺める。

 

守りたかった命があった。助けたかった命があった。それを救えなかったのは自分の力が足りなかったからだ。奴を倒し切る力が無かったからだ。悔しくて、悲しくて、情けなくて、込み上げる涙を拭い彼は拳を力一杯握り締めて誓ったのだ。

 

今よりも強くなる。強くなって必ずやゴーデスを倒し、この宇宙に平穏を齎すのだ、と・・・。

 

 

その光景も飛鳥は見ていた。彼の苦しみが、悲しみが飛鳥の中に伝わってくる。何かを失う悲しみを知っている飛鳥は、ウルトラマンに共感した。

 

・・・そして、彼の力になりたいと心から思ったのだ。

 

 

 

────負けるわけには、いかない!

 

 

『ジェアァッ!!』

 

 

彼の強い意思と、それに共鳴した飛鳥の意思が、ウルトラマンを再び大地に立ち上がらせた!

 

 

『「私は/俺は、負ける訳にはいかないんだッ!」』

 

 

もう手足も震えていない。限界など今の彼らには関係ないのだ。

 

決死の覚悟を抱いたウルトラマンと飛鳥は最後の手段に出た。それは一歩間違えれば死んでしまう危険な手。恐らく、成功する確率も低いだろう。しかし、今使える手はこれしかない。

 

ならば、これに賭ける!

 

二人の意思がシンクロした瞬間、膨大なエネルギーがウルトラマンの中に溢れ出る。火事場の馬鹿力とも言えるその力、それを全て腕へと集中させて前に突き出して構えた。

 

満身創痍で足掻くウルトラマンの姿が癪に障ったのか、デガンジャは顔を歪めてウルトラマンを緑色の瞳で睨む。

 

────無駄な足掻きを・・・。

 

次に失笑を零して、手をウルトラマンに向けて構える。溢れんばかりのエネルギーが放電しており、一目で強烈だと分かるその手を力強く振り上げ・・・

 

 

────死ねぃ!ウルトラマン!

 

『ゴオォァアァァァッッ!!』

 

 

そして、咆哮と共に二度目のフルパワー雷電光をウルトラマンへと発射した!

 

《バチバチバチッッ!!》

 

周囲の空気を焼きながら進むフルパワー雷電光をウルトラマンは微動だにせず待ち構える。その顔に恐怖はない。あるのはただ一つ、覚悟のみ。

 

守りたいものがある。

 

一瞬だけ後ろを見て、倒れている二人を見る。大切な仲間をスタンレーさんを死なせるわけにはいかない。その思いが、より強くウルトラマンを奮い立たせる。

 

雷電光が通り過ぎた木々達が吹き飛ばされ、更に燃え盛る。地面は抉られ、砂は舞い上がり、突風が辺りを突き抜ける。

 

《ドゴォンッッ!》

 

大災害レベルの被害を撒き散らしながら進んでいくフルパワー雷電光は遂にウルトラマンへと接触した!

 

『ヌ、グ・・・!ハアァァァ・・・ッ!!』

 

足腰を踏ん張り、突き出した腕で全力で受け止める。ジリジリと掌が焼ける感触が伝わるが、気にせずに受け止め続ける。

 

 

『デャァァァァッッ!!』

 

 

ザリザリと後退するウルトラマン。諦めずに受け止め続けるが、無情にも雷電光は一気に膨張し────

 

 

《ドゴォォォォォォンッッッ!!!》

 

 

────ウルトラマンを巻き込んで凄まじい爆発を起こした。その威力に周りは吹き飛ばされ焦土と化し、黒煙に覆われた。

 

これほどの爆発なら、ウルトラマンの姿は完全に残ってはいないだろう。

 

 

デガンジャとゴーデス細胞は勝利を確信し、喜びの声を上げた。

 

 

────フハハハッ!やったぞ!ウルトラマンを殺した!フハハハハハハハッ!

 

『ギャオオオオオオ!』

 

歓喜にうち震えるデガンジャ。何度も何度も勝利の雄叫びを吠え、小躍りでもしそうなほど浮かれていた。

 

ひとしきり喜んだあとは偶然目に入った近くにある街を標的に砂嵐を纏って突っ込み、絶望する人間の顔でも見て楽しもうと考え、体に風を纏わせ始める。

 

『・・・グ?』

 

しかし、デガンジャはなにかに気づいた。

 

 

 

 

《ヒュー・・・》

 

────風が、後ろに流れていく。

 

 

 

ゆっくりだが、まるで吸い込まれるように自らの体から離れているのだ。

 

デガンジャは風を追って振り返る。

 

そこには────

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

『ハァァァ・・・!!』

 

 

黒煙の中から現れたウルトラマンが、ボロボロになりながらも力強く立っていた。

 

『グギ!?』

 

────ウルトラマン!な、何故!?

 

デガンジャは驚愕に顔を染めた。体の表面が焦げ、煙が上がっている。最早立っていられるはずがない。

 

しかも、彼の後ろにある木々は守られ、その下にいた倖田とスタンレー氏には傷一つついていない。だが、あれだけの爆発ならば彼らが無事であるはずがない。では、なぜ彼らは無事だったのか?

 

その答えは至極簡単である。

 

 

『ハァァ・・・!!』

 

 

ウルトラマンの手元を見ると、眩く光るエネルギーが収縮されている。ギュルギュルとゆっくり回転しているそれは、デガンジャが放ったフルパワー雷電光のすべてのエネルギーが溜め込まれたものである。

 

つまり、ウルトラマンは爆発が自身よりも後ろに行く前にそのエネルギーを吸収して後ろへの被害を防いだのだ。

 

だが、幾らウルトラマンの得意技であれこれだけの攻撃を受けて、しかも無茶な吸収をしてはただでは済まない。その証拠に掌は焼け焦げてズタズタになり、足は震え、パール色の目も意識を失いかけているためチカチカと点滅している。

 

しかし、これで勝利の条件は揃った。

 

 

ウルトラマンの手の中にあるエネルギーが唸り始める。

 

これが、彼の基本にして最後の手段。とっておきの切り札。

 

『ダアァァアァアァァッッ!!!』

 

ウルトラマンは両腕を勢いよく突き出して相手のエネルギーを吸収し、それに自らのエネルギーを加えて相手へ倍にして返す必殺のカウンター技の一つ、《マグナムシュート》を気合いの雄叫びと共にデガンジャへと解き放った!

 

フルパワー雷電光よりも速く、疾く宙を駆け抜けるマグナムシュートはデガンジャに一切の動作を許さずに直撃した。

 

『ガァッ!?』

 

あまりの威力に吹き飛ばされ、地面に転がるデガンジャ。巨体がまるで木の葉のように吹き飛ばされるほどの一撃をなんとか、致命傷は避けたようでよろよろとだが立ち上がろうとする。

 

 

しかし、ウルトラマンの反撃は終わりではない。

 

『ヘャァッ!!』

 

先程の一部でも、有り余るエネルギーを分割して出した一部に過ぎない。ウルトラマンは素早くリロードのように引っ込めていた腕を再び前に突き出して二撃目のマグナムシュートを放つ。

 

『ギャッ!?』

 

まさかの二撃目が来るとは思わなかったのか、まともに受けて更に吹き飛ばされる。ズドンと受け身も取れずに地面に倒れ、苦痛に表情を歪ませる。

 

普通の相手ならば、ここで終わっていた筈だろう。

 

だが、それほどまでに恨みが凄まじいのか、ただ単にタフなのかは分からないがガクガクと足を震わせながらも限界を超えて立ち上がってきた。目にはさらなる闘志を宿している。

 

まだ立ち上がるのか、と考えながらウルトラマンは肩で息をするように上下させている。どうやら無茶をして既に超えていた体力的にもどうしても限界が来ているようだ。

 

それを好機とみたデガンジャは己の全てを絞り出して最後の雷電光を撃ち出した!

 

『グボォォ!!』

 

正真正銘、全てを出した最後の一撃。巨大なビームとなって痕跡一つ残さず焼き払うためにウルトラマンへと迫る。それは今までのどの雷電光よりも強力な一撃であり、フルパワー雷電光を上回る威力を誇っていた。

 

しかし、ウルトラマンも負けていない。こちらにも己の全てをかけた懇親の一撃はまだ残っている。

 

『ハァァ・・・!!』

 

ウルトラマンは残っていた全エネルギーを掌に込め、腕を捻って出すことにより、マグナムシュートに()()()()をかけて撃ち出した。

 

『デャァァァァッッ!!』

 

空気を焼き裂きながら進むハイパー雷電光とギャルギャルと高速回転しながら突き進むマグナムシュート。

 

両者の最終奥義は直ぐにぶつかり合い、衝撃波と辺りにプラズマを発生させる。

 

どちらも負けじと押し進むが、ジリジリとハイパー雷電光の方が押し勝ってきている。このままではマグナムシュートは押し返され、ウルトラマンは熱消滅してしまうだろう。

 

『まだだッ!』

 

そこで飛鳥の声が響き、ほんの少しウルトラマンの体を傾ける。

 

すると、崩れていた遺跡の天井からどういう訳か光の線が走り、ウルトラマンのカラータイマーへと当たった。光は僅かだが確かにウルトラマンのエネルギーとなり、更にマグナムシュートの回転の勢いを高めた。

 

『グギギ!?』

 

────なにぃ!?なぜだ!貴様らにはエネルギーは残っていないはず・・・!?

 

 

『なに、嘗てノアの巨神を祀った古代の人達のお陰さ・・・!』

 

 

飛鳥は思い出していた。この遺跡の地下へと続く通路が開いた原因を。

 

あの扉は、嵌っていた宝玉に一定の光が線となって当たると開く仕組みになっていた。つまり、元はそこにその光の線を宝玉に当てるための鏡のような装置があったはずなのだ。故に、ウルトラマンの超視力を使いその装置を探し、見つけ出した。そしてマグナムシュートを回転させて放ち、その突風でその装置にかかっていた瓦礫と砂埃を吹き飛ばした。

 

装置は一部曇りひび割れていたものの、その能力は健在であり、反射させた光がウルトラマンのカラータイマーへと届いたのだ。

 

ノアの巨神、ウルトラマンの同士に感謝し、崇めて作られた物が5000年の時を超えてウルトラマンの力となったのだ。古代の人々の願いが、思いが巨神へと届いた瞬間であった。

 

────ば、馬鹿な・・・こんなことが・・・!

 

 

『いぃっけぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇ!!!』

 

『ディヤァァァァァァァァァァッ!』

 

より速く、より強くなったマグナムシュートは回転でハイパー雷電光を宇宙を翔ける彗星のように掻き分け、突き抜けていき遂に────

 

 

『ガァ・・・ギャッ・・・!?』

 

 

デガンジャの腹を突き抜け、大きな風穴開けた。

 

デガンジャは硬直し、自身の体に穴が空いていることを自覚すると、ゆっくりと後ろへ倒れる。そして断末魔をあげることも無く爆発して肉体は跡形もなく吹き飛んでしまった。

 

それを見たウルトラマンは息も絶え絶えに膝を折り、地面にしゃがみ込む。とうに限界を超えていた肉体は悲鳴をあげ、カラータイマーの点滅が最大限まで早まっている。空に飛ぶことも出来ずにその場で周囲に溶け込むように消えていく。

 

その足元に、ウルトラマンの姿から戻った飛鳥が息を切らしながらしゃがみ込んでいた。

 

「ハァ・・・ハァ・・・なんとか、勝てた・・・!」

 

滝のような汗を流しながら胸を抑える。かなり無茶をしたためか、心臓が張り裂けそうなほど動機が激しい。それでもヨロヨロと木を支えにしながら歩き、二人が気絶している所まで辿り着く。

 

傷一つない二人を見て安堵の息を吐く飛鳥。その時、一陣の風が吹く。

 

飛鳥が空を見るとデガンジャが爆発した場所から竜巻が発生し、空へと消えていく。それと一緒に緑色の粒子が空へと飛んで溶け込んでいく。

 

恐らく、あの風が本来のデガンジャの姿であり、緑色の粒子がゴーデス細胞なのだろう。ある意味、古代人が恐れたデガンジャも被害者なのかもしれない。憎しみを利用され、ゴーデスのいいように使われていた。それから解放されて元の風に還ったのだ。

 

もうこの地には災いの風は現れないだろう。

 

それにしても驚くべきゴーデスの同化能力。神とは、自然現象を擬人化したものとも言える。それにすら取り憑くゴーデスは恐ろしい存在だ。

 

恐らく、奴はもっと強くなって帰ってくることだろう。

 

それでも、戦う。地球を、宇宙を、守りたいものを守るために。戦い続ける。それが自分の、ウルトラマンの使命だと信じて。

 

「頑張ろう、ウルトラマン」

 

『あぁ、頑張ろう飛鳥。』

 

 

飛鳥の頬を撫でるように、優しい風が吹く。

 

空を見上げると、そこには砂嵐もなく美しい青空が広がっていた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

余談だが、彼らからの通信が途絶えたのに気づいた響隊長が応援を向かわせ、三人は無事に保護された。

 

 

 

 




え、何このクライマックス感・・・

こちらのデガンジャは昔から災厄を運ぶものとして恐れられていました。自然現象であり、怪獣であったデガンジャは同時に自らを封じたノアの巨神、及びそれにそっくりなウルトラマンに恨みをほんの少し持っていたが、それをゴーデス細胞によって増幅された設定になってます。

※2話目です



次回予告

ある日100年に1度起こる流星群を見に来ていた少年『星野ムサシ』。流星群を楽しみに待つ彼の前に現れたのは謎の宇宙人だった。これは、人間の少年と宇宙人の少年の偶然出会った奇跡の友情の物語である。

次回『遥かなる友情』

友情は宇宙すら超えていく

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