TSした男のアイドル生活? 作:ディアドコイ
遅れてすみませんでした。
みくちゃんが15歳というのを念頭に置いて文章を書こうと決心したのに、子供っぽくならない。
皆の憩いの場であるシンデレラプロジェクトルームに、志穂ちゃんの姿はない。
何となく避けられているようにも感じて、少し寂しい。
「やっぱりみくは、志穂ちゃんが設定に悩んでいると思うのにゃ!」
「……みくちゃん、真面目に話してほしいな」
「イズヴィニーチェ…… 私も美波に賛成、です。すごく……心配です」
「にゃー!?ちゃんと根拠はあるもん!」
私は確かに志穂ちゃんの姿を見たのだ。
本屋さんで熟考した末に、ギャル系ファッション誌を手に取りレジへと並ぶ姿を。
もう一冊分厚い本を持っていたが、きっとあれもファッション誌に違いない。
きっと志穂ちゃんは自分のキャラを変えるタイミングを見計らっているのだ。
急にキャラを変えてもシンデレラプロジェクトのメンバーが受け入れてくれるのか、と心配しているに違いない。
私も猫キャラが受け入れられるのか、心配になったことはあるし、志穂ちゃんも同じ道を辿っているはずだ。
「ダンスに集中できてなかったのもそのせいだと思うの。少し待ってれば、また元通りになるはずにゃ!」
本当に早く元に戻ってほしい。
今日の練習中もどこか集中できてなくて、終わるとすぐにどこかへ行ってしまった。
――もしかしたら顔を合わせたくないと思われることをしてしまったのかもしれない。
「同じギャル系統として莉嘉ちゃんがいるし、違うと思うけどなー……。でも確かに、信じて待ってあげなきゃね」
「アタシとしてはギャル仲間が増えるのはオッケー☆あ、でも先にお姉ちゃんを越えるのはアタシだからっ!」
「えーっ!みりあは違うと思うけどなー。」
「ぜーったい合ってるにゃ!みく、本屋さんでめっちゃ驚いたもん!」
私の方が、みりあちゃんよりも志穂ちゃんとの付き合いは長いので、負けていられない。
一番話す機会が多い自分がちゃんとわかってあげなきゃいけない。
感情を伝えるのが下手な志穂ちゃんの通訳をしながら、一緒にトップアイドルになると決意したのだ。
最初は怖い子だと思ったけど、本当は優しくて勘違いされがちなだけなのだ。
――ちゃんと受け入れてあげるから、心配せずにドンと来いにゃ!
結局、寮で話す機会もほとんどなかった。
声をかけてもどこか上の空で、それがいつも纏っている壊れそうな雰囲気に拍車をかけている。
これ以上踏み込んでいくのは良くないかな、と思ってしまい本音を確認できずにいる自分が腹立たしくなる。
ただでさえ最近はレッスンが別になってしまい、声をかけるタイミングもどんどん無くなってきているのに……。
「明日こそは……ちゃんと聞いてみる。うん、大丈夫なはず……」
「なーにが大丈夫なんですかぁ?」
「ふにゃああ!?な、なんだまゆチャンか……。びっくりしたにゃ……。」
特徴的な赤いリボンが視界に写り安堵する。
音もなく近づいてくるのは心臓に悪いので止めてほしい。
まだ心臓がバクバクしている気がする。
「さっきモデルの先輩として、アイドルの後輩から質問されたんですよ」
「にゃ?」
突然どうしたんだろう。
別にモデルを副業でやりたがるアイドルなんてたくさんいると思うけど、このことを伝えるために近づいてきたのかな。
「あら、全く話を知らないんですね……。知ってるならちょっと怒るつもりでしたけど、仕方ないですね」
「さっきから自己完結ばっかりなのにゃ!みくにも分かるように説明してほしいのにゃ!」
「……志穂ちゃんはモデルに興味を持っているらしいですよぉ」
「それは本当なの!?でも志穂ちゃんはシンデレラプロジェクトの最初の一人だよ!?もっと話を詳しく教えてほしいにゃ!」
「といっても、私もモデル時代の話を聞かれただけなので……。でも、うまく声が出ないのに歌わないといけないアイドルをするのは大変だと思いますよぉ」
「でも、志穂ちゃんはレッスンも凄く頑張ってたにゃ!とにかくみくは説得してくるにゃ!」
「急ぎすぎです。シンデレラプロジェクト全体の問題だと思いますし、メンバーに相談するべきですよぉ。……まだ決まったわけでもないですし。焦らずに落ち着いて話し合うべきです」
「……でも。……うん、わかったにゃ」
正論にぐうの音もでない。
確かに志穂ちゃんは意外と頑固だし、私だけで何とかしようとしてはいけない気がする。
何か、突っ走りすぎて間違いを犯してしまいそうだ。
プロデューサーさんや美波チャンに相談するのが正しい。
……きっと一番悩んでるのは志穂ちゃんなんだ。
翌朝、食堂で志穂ちゃんの顔を見て話すことはできなかった。
いつもは志穂ちゃんは、私が静かだと心配そうに見てくる。
でも今日はその視線を感じることはなかった。
気づかなくても良いことに気づいてしまう自分が嫌になる。
シンデレラプロジェクトの中でも相談する人は美波チャンとあーにゃんにした。
まだ加入したばかりのみりあチャンと莉嘉チャンを不安にさせるのは良くない。
プロデューサーは九州の方に行っているらしい。
なんでこの大切なときにいないの!
「……それが志穂ちゃんが悩んでることなのかもしれないのにゃ」
「志穂ちゃん、大丈夫なのかな……。もしかしてレッスン中もずっと無理してたのかな」
「ニェート そんなはずないです。レッスン、楽しそうでした。でも、どうすればいいのか……」
志穂ちゃんはきっとモデルでもうまくいくと思う。
引き留めない方が本人のためになるなら、笑顔で送ることが正解なのかな。
「やっほー★今大丈夫かなー?」
「やっほー、一緒にお酒はどうですか?ちなみにこのイベントは避けられませんっ」
「……えっと、全員未成年ですからお酒はちょっと……。」
「あら、てっきり美波ちゃんは成人してると思っていました。驚きです」
「ダー 私も最初はそう思ってました」
入ってきたのは346プロが誇るアイドルの美嘉さんと楓さんだ。
会えたことは嬉しいが、それを顔に出せるほど元気ではない。
脱退が仕方ないことでも、やっぱりショックなのだ。
もしかして慰めにきてくれたのかも。
「あーあ、これは来て正解だわー!ほら元気だして★まだ志穂ちゃんが抜けたわけじゃないんでしょ?まだ間に合うよっ!」
「でも、志穂ちゃんは歌えないからモデルのほうがきっと上手くいくにゃ!」
「モデルになるために、シンデレラプロジェクトからも、出ていくかもしれないんですよね?モデルだけに」
カチンッ。
このタイミングでダジャレっ!?
楓さんのほうが年齢もアイドル歴も上だが、ちょっとイラっとした。
文句を言おうとするが、先に楓さんのほうが口を開く。
「シンデレラプロジェクトの皆が志穂ちゃんにどうしてほしいのか、が大切ですよ。志穂ちゃんの顔色を伺うんじゃなくて、ちゃんと言葉で伝えるんです」
「そーゆーことっ!ビビらずにちゃんと志穂ちゃんと話をしてあげて★」
「ファンの声援を受けて上がるステージから見る景色を、皆にも見てほしい。だから苦しい時期にも耐えて、全員がシンデレラになって……ね?」
急に真面目になられると持っていた怒りの置き場に困る。
……ちゃんと見てたつもりだけど、様子が変わってから声をかけたような記憶はない。
確かに志穂ちゃんのことを考えているつもりで全然わかってなかったと思う。
優しいことはずっとわかってたつもりなのに、どこかで少し怖がってたみたい。
「みく、志穂ちゃんと一緒にトップアイドルになりたいの」
「……」
周りからの視線が自分に集まるのを感じる。
ちょっと恥ずかしいけれど、ちゃんと声に出さなきゃ伝わない。
「ううん、志穂ちゃんだけじゃなくて、シンデレラプロジェクト皆でトップになるにゃ!そのためならみく、何だって頑張るにゃ!だから志穂ちゃんに辞めないでほしいにゃ!」
「うんうんっ!さっきより良い笑顔★志穂ちゃんはさっきモデル部門の方に行ったけど、まだ間に合うよ!素直な気持ちを伝えてあげてっ」
「にゃ!?もうモデル部門のとこまで行ってるの!?」
「はっと気づいてすぐに来たので、まだハートバクバクなんですよ~」
ダジャレを言っている場合ではない。
モデル部門に移られたらせっかくの覚悟も全部パーだ。
「美波チャンとあーにゃん!先に行ってるから後から追い付いてきてほしいにゃ!」
部屋から飛び出す。
考えなし、というわけでもない。
頭の中でしっかり思考できてるし、志穂ちゃんにかける言葉だってちゃんと決めた。
ほら、モデル部門の前に人影が見えてきた。
血に色がついているのか心配になるほど白い肌に、その対比のように黒い髪の毛。
それほど長くない髪ですら邪魔だったのか髪を結んでいて、うなじが見えて艶やかだ。
声をかけるのを躊躇う気持ちもある。
けど私は志穂ちゃんと違って出したいときに声を出せるんだから、その分伝えなきゃ。
「志穂ちゃんっ!みくと、……みくとトップ猫アイドルになってほしいのにゃ!」
「……!」
声で気づいたのだろう、こっちを振り返る。
しかし、モデル部門の方に行っていたことがバレたことで罪悪感を感じているのか、目を合わせてくれない。
――なら合わせてやる!
「みくは誰でもなく、志穂ちゃんと一緒に頑張りたいの!わがままだけど、アイドルを続けてほしいにゃ!信用じゃなくて信頼されるように頑張るからっ!」
無表情な志穂ちゃんの目がほんの少しだけ大きく見開いた。
――なんだ、全然無表情じゃないじゃないか。
もしかしたら顔の筋肉は動いてないのかもしれない。
でも驚きも戸惑いも、小さな喜びだってちゃんとわかる。
そして、ゆっくりと頷いてくれた。
その後に瞬きを数回した後、首を少しだけ傾けながら人差し指を立てて口元へ近づける。
……しーっ?
モデル部門の部屋の扉が開き、四十代の髭を生やしたおじさんが出てきた。
「すみません。中で打ち合わせ中なので静かにしてくれませんか」
「あ……。ご、ごめんなさい」
――最後まで完璧ならば良かったのになあ。
デレステで同僚になってくれた人ありがとうございます。
一緒にプロデューサー生活、楽しんでいきましょうっ。