TSした男のアイドル生活?   作:ディアドコイ

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遅れてすみませんでした。
投稿間隔が開くと話を進めないといけない強迫観念に駆られますね。
このままだと引き延ばし続けそうなので進みませんが投稿します。
次は早く投稿するので許してください。


夢と家

この形容し難い浮遊感、現実ではあり得ないし夢の中にいるとすぐにわかる。

そのまま飛べそうなほど体は軽く、久しぶりに手や足の先まで自由に動く。

自分の意思で末端まで動かせているという感覚に感慨深くなるが、状況を整理することの方が先だ。

 

眩しい。

――何となく見覚えのある住宅街にいる。

歩道の横には少しだけ緑が混じっていて暖かみがあるのに、誰一人いない寒さもある。

殆ど意識もせず歩くが、足が目的地を覚えているかのように進む。

 

そして不意に足が止まり、視界を持ち上げると建物があることに気づく、住宅街なので当たり前と思うかもしれないが。

最近掃除されたとわかる真っ白な壁に、ドアの近くには紫色の花が咲いた植木鉢が並んでいる、そんな家。

前に私が見たときは炎の赤が壁に映ってオレンジに見えていた。

しっかりと見たのは初めてだが、体は懐かしさを覚えている。

私の現れた場所という意味では原点ともいえる、この世界の私が住んでいた家が佇んでいる。

 

あまり何の感慨もわかないし、夢なら早く覚めてほしい。

今、現実がどうなっているか不安なのだ。

突然倒れたことで心配をかけていないだろうか。

良い雰囲気を壊してしまったのは間違いないし、早く目覚めて謝りたい。

 

しばらくそう思い立ち止まっていたが、相変わらず現実へ戻る気配はない。

……もしかして、夢の中なんだからあの家に入れるかもしれない。

冷静に考えると、これは前の私を知るチャンスだ。

チャイムがあったので押すが、家の中から虚しい音が響いてくるだけで人は居そうにもない。

開かないと思いつつドアノブを掴むとあっけなく扉が開く。

一瞬戸惑うが虎穴に入らずんば虎児を得ず、すぐに覚悟を決める。

 

少なくとも私はこんなにこの庭の細かい所まで覚えていなかったのに、夢では再現されている。

つまり、私が憑依する以前の『私』の記憶は体に眠っているのだ。

これを思い出せれば、もし知り合いに会った時でも対処しようがある。

中に人がいたらその時はその時だ。

 

入ると何足か靴が並んでおり、取り敢えず自分も靴を脱いで上がる。

そのままあの火事の時に走り抜けた廊下へ続いており、特別変な物があるわけでもない。

火事の時は気づかなかったが、1つ部屋があったので入ると普通の女の子らしい部屋が広がっていた。

少ないがぬいぐるみがあったり、パズルやオセロなどアナログなおもちゃも置いてある。

クローゼットを開けると服が綺麗に畳んで入っている。

この世界の自分の女の子らしい部分を見ることが妙に気恥ずかしくなり部屋から退散する。

 

リビングはあまり物がない。

こちらにもクローゼットはあったが数着入っていただけだ。

机に読みかけの新聞紙が広がっているのは、十代の女性としてどうなんだろか。

だが前世の私より服は多かったし部屋も片付けてある。

何も起きなければ、貧乏に苦労しつつも普通の生活を送っただろう。

そう考えると新聞も情報を得るための手段として貧乏な中での策だったのかもしれない。

こんな若い子が苦労していたと考えると、早く立派なアイドルになってこの体を甘やかしてあげたい。

 

時間が経ったからか、そろそろ起きそうな気配、視界がブレ始める。

もうここでしか出来ないことは残ってないだろうか。

私の体がこの夢を見せた理由があるのだろうか。

結局これだけだとパラレルワールドの私に憑依したのか、性格が似ているような人に憑依したのか完全に結論は出せない。

今はもう私になってしまった以上、そこは気にしても仕方ないと割りきる。

どちらにしろ、今より多少女性らしくしないと知り合いには違和感だろう。

キッチンや脱衣場は見なかったが、前の私としてのことも含めて、分かることが多くて助かった。

さて、現実は大丈夫だろうか。

 

 

 

……まだ頭が少し痛む。

もちろん、別に酒を飲んだことの隠喩ではなく、炎を見て気を失っていたせいだ。

夢の中と違い、体に重りがあるかのように動かしづらくなった。

これからの仕事や将来について悩んでいたことが解決したせいで気が抜けてしまい、火がダメなことをすっかりと忘れていた。

怖がりながら横目で確認したが既に火は消してあり、とりあえずすぐにまた倒れることはなさそうだ。

時計を見ると……1時間ほど意識がなかったみたいだ。

 

高垣さんが周りの人に絡み酒をしており、それを武内さんが宥めているがあまり効果が無さそうに見える。

もっと武内さんが高垣さんの暴走を止めないといけないのではないだろうか。

これ以上は明日に響きます、と止めに入っている新田さんや既に眠りかけの状態の莉嘉ちゃんとみりあちゃんの姿が視界に映る。

全員に心配をかけていないか不安だったが、取り敢えず一安心だ。

そういえば、新田さんはまだ19歳なのか。

年長者としての余裕や独特の人妻感から、つい高垣さんと同じかそれより上に見えてしまう。

高垣さんが子供っぽいことが、そのことに拍車をかけている気もするが。

 

「プラスーチェ ごめんなさい、志穂。火が苦手なのを知りませんでした。大丈夫、ですか?」

 

姿が見えないと思っていたアーニャがすぐ隣にいたことに驚く、が顔には出ない。

前に私がキッチンで倒れていた話は寮で話題となったが、あの時にアーニャはまだ入寮していなかったはずだ。

知らなくても責められないし、気づかなかった私が一番悪いと思う。

火事のことは聞いていても、火を見るだけで気絶するなんて想像もつかないだろう。

 

ふとアーニャが隣へと移動しているならば、もしかして反対隣に、と思い振り返ったがそこに前川さんの姿はなかった。

 

「……あ、みくはトイレにいます。リカに、魚を口に入れられて……。」

 

「あ~!志穂ちゃん起きたんですね。一緒にお酒を飲みませんか~?お猪口にちょこっとだけ注いであげますよっ」

 

「未成年に飲酒を勧めちゃダメですよっ。」

 

「申し訳ございません、高柳さん。火がトラウマなことを知っていたにも関わらず、事前に気づくことすらできませんでした」

 

大人組に気づかれた。

高垣さんからの絡み酒にだけは気を付けなければ。

まず武内さんの高速謝罪にゆっくり首を横に振りつつ気にしなくて良い、と手で表そうとする、……表せないが。

親睦会の場なのだから堅苦しいのは無しでいきたい。

その点、高垣さんくらい軽い方が場の雰囲気のためにも助かる。

まさかそこまで読んでの行動力――、いや、単純に酒を飲みたいだけだろう。

もちろん、このお誘いにも断りの首振りを入れておく。

酒を飲むことへ忌避感はないが、今の世の中ではどこから情報が漏れるか分からない。

アイドルで未成年飲酒なんてスキャンダルを起こしたら即終了だ。

 

「志穂ちゃんは真面目ですね~。20歳越えたら一緒に飲みに行きましょうねっ。でも注いでくれても良いんですよ~。ほら、先輩ですしっ♪」

 

……上下関係ならば仕方ない。

正しいお酒の注ぎ方は昔にマスターしている。

注ぎ終わりに徳利の口先を回して溢さないようにする。

できるだけギリギリ、かつ飲みやすい量まで完璧だ。

いくら体が動かしにくくても上司との飲み会で育てた技術に衰えなどはない。

 

「そんな目覚めてすぐの子に注がせてもし溢したら大変……、って何で志穂ちゃんは上手いのっ!?」

 

「……経験の差」

 

「……志穂ちゃんはまだ17歳でしょ?あの、プロデューサーさん、志穂ちゃんと何処で出会ったんですか?」

 

「早朝にたまたま向かった場所で出会いました」

 

「そ、早朝……?まさか変なお店じゃないよね……。でも今の動きが経験って……」

 

喋れたことに満足していたら新田さんの呟きを聞き取れなかったが、おそらく私の動きに驚愕したに違いない。

前世の私が自慢できる特技として数少ないものだ。

 

 

「お、お゛ぇえ……。体調が最悪なのにゃ……。」

 

「前川さん、体調は大丈夫ですか?」

 

「プロデューサーチャン、みくはそこの黄色い小悪魔を一生恨むのにゃ……。いつかみくも苦手なものを食わせてやるもんっ」

 

「……ミク、大人げない、ですよ?子供のイタズラとして許してあげてほしい、です」

 

「みくだって15歳だもーん!――って志穂チャン起きてるっ!大丈夫?ごめんね、寮での噂聞いてたのに……」

 

急にしゅんとされると心が痛い。

先ほどまでは毛を逆立てていた猫の尻尾が下がるのが想像できる。

 

謝らなくて良い、と視線を送るがそれでも申し訳なさそうなので何とか元気づけたい。

取り敢えず黄色の小悪魔でも起こすか。

 

「それはやめるのにゃあ!」

 

「……んー。なーにー?ってみくちゃんと志穂ちゃん起きてるじゃん!びっくりしたよー☆」

 

「にゃああああ!起こしてしまったにゃああああ」

 

「そんなに嫌がんなくて良いじゃん☆そんで次はホッケ頼もうよ!」

 

「十分食べたのにゃ!それにもう魚はコリゴリなの!」

 

笑顔が戻ってきて一安心だ。

みりあちゃんはずっと眠っているが、他の人達は皆――武内さんも少し笑っている。

私は一時間気絶しているだけだったが、親睦を深められたようで全体的に仲良くなった気がする。

高垣さんと仲良くなれたこともアイドルの日常や内面を垣間見ることができて助かった。

公私混同しても良いというか、ありのままの自分で良いと肯定された気分だ。

 

 

武内さんが真剣な顔で切り出した。

……ほぼいつも真面目な顔をしているが。

 

「シンデレラプロジェクトの皆さんが集まっているのでこれからについて報告します」

 

「先に集まってるメンバーでデビューとかしたりするにゃ!?」

 

「いえ、美城のアイドル部門として重要なプロジェクトなので全員揃った形でデビューさせる予定です」

 

「……まだ先は長い、ですね」

 

「既にスカウトでは集め終わったので、オーディション待ちになっています。それもおそらく1ヶ月内に決まるはずです。スカウトした人は準備ができ次第参加する予定です」

 

「ってことは意外ともうすぐですね!」

 

「おー!さすがプロデューサーチャン!信じてたにゃっ」

 

「いーじゃん!次の人は誰でいつ来んのっ!?ギャル仲間だといーな☆あ、でもキャラが被るかも……」

 

「三村かなこさんという方で、明後日を予定しています。もう一人は引っ越しで数日遅れそうです」

 

「新人が来るなんてこうしちゃいられないにゃ!先輩の余裕を作るために自主練だにゃ……」

 

「ハラショー でも、ミクの自主練は続かなさそう、です」

 

「グハァ……正論で辛いのにゃ」

 

「2月の中旬ほどに正式にメンバー発表して、4月にデビューという形になる予定です」

 

最初、武内さんがスカウトに来たときはここまで具体的な話や日付を開示してくれなかった。

酒が入り気分が高揚しているのか、何か意識が変わったのかもしれない。

デビューが眼前に迫っていることや、モチベーションの向上に繋がるので私としては助かる。

……あと約3ヶ月で歌デビューする人が、まだボーカルレッスン出来てないなんて大丈夫なんだろうか。

 

莉嘉ちゃんとみりあちゃんが帰る時間になったので解散となった。

起こすのも悪いということで、寝ているみりあちゃんを武内さんが背負って家へと届けるらしい。

なので電車組は武内さん、新田さん、莉嘉ちゃん、みりあちゃんの4人だ。

このことが意味していることは――

 

「志穂ちゃーん。一緒にもう一軒いかない?ど~お?うふふ」

 

酔っている状態の高垣さんの相手をしなければいけないのだ。

 

「し、失礼するのにゃ!」

 

「ダー 寮に、戻ります」

 

前川さんが私の手を引っ張り早足で高垣さんから逃げる。

酔っぱらいを一人置いて帰るのは心配だが、1対1での相手は介抱までしなければいけないので見捨てさせていただく。

 

自室まで帰ってから何も食べていないことに気づいた。

……人の金で焼き肉が食べたかった。




実はバレンタインとホワイトデーの話を1万字くらいで書いたんですが、まだ出ていない凛ちゃんが出てきたりと性格が違ったりと、外伝になってしまったので投稿を見送りました。
このまま闇に葬られる予定です。
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