TSした男のアイドル生活?   作:ディアドコイ

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まだ2時です。このネタ流行らないかな。
ルーキーの日刊に乗っていた……気がします。
ありがとうございます。


ボイストレーニング

今日は武内さんとは完全に別行動だ。

シンデレラプロジェクトの三次選考や、スカウト活動に忙しいらしく、朝に一言挨拶をした後すぐの立ち去ってしまった。

なので、私と新田さんはレッスンだ。

昨日、自分の部屋でステップの練習をしたので多少マシにはなったはずだ。

レッスン以外でも、人に見られていないと思える場所ならば結構動ける。

……人に見られると動けなくなるのはアイドルとして致命的すぎないか?

この体で一番向かない職業がアイドルな気がする。

それにしても寮なのにあの防音性を兼ね備えているのは、アイドルが自主練習するのを見越していて作られたのではないだろうか。

 

「よし、高柳!昨日よりも良い動きだ!だが、新田と息を合わせろ。自分だけでやるのがダンスじゃないぞ!」

 

ただ音に合わせて動くだけじゃないというのが奥が深い。

ユニットを組んでアイドル活動しているアイドルは、自分だけでなく周りを気にしながら踊っているのか。

自分だけで精一杯の私とは大違いだ。

 

「よし!今日はダンスだけでなく、簡単なボイストレーニングもするから、私の後に続いてやってみろ!」

 

さて、集中しなければいけない時だ。

昨日も一言だが声は出たし、何とかなることを祈るしかない。

 

 

 

現実は非情であった。

 

「何をしているんだ?」

 

「……」

 

何となく嫌な予感はしていたが、期待もしていた。

レッスンによって会話や挨拶くらいならできるようになるのではないか、と。

その期待を裏切るかのように、私の口は何も発さなかった。

少し口が動いたのに、言葉は何も出なかった。

私にとっては一歩だが、レッスンにそんなことは関係ない。

新田さんだけがボイストレーニングを始め、私は見学である。

心配そうにこちらを見てくる新田さんに心が痛い。

この体だとあなたの方が年上そうですけど、実年齢だと私の方がたぶん十近く上なんです。

だから気にしないでください、と言いたい。

 

「新田、とりあえず今日はここまでだ。私は高柳と話があるから先に帰っておいて良いぞ」

 

「……はい、ありがとうございました!」

 

新田さんが少し汗をかいているので、寮から持ってきたタオルを渡す。

ありがとう、と遠慮ぎみにタオルを受け取ってくれる。

だが、その後に続く言葉が見つからないのか気まずそうな顔をしていた。

そして意を決して何かを言いかけたが、トレーナーが私に近づいてきたのを見て、諦めたのかそっと退出していった。

……明日が気まずいな。

 

「まず聞きたいことなんだが、――話せるか?」

 

「……」

 

今度は口すら開けなかった。

体も動かしにくいが、全く話せないと思われるわけにもいかないので、気合いで首を縦に振る。

トレーナーさんは少しだけ安心したような顔を見せる。

それだけで質問は終わらず、いくつも質問が続いた。

 

「これだと歌うのも厳しいかもしれないな……。私の方から武内に伝えておく。今はとりあえずダンスの方を全力でやれ。ボイストレーニングも必ず見学すること、分かったか?」

 

もちろん、頷く。

本来ならここで見捨てられてもおかしくない。

ボイストレーニング中は、ほんの少しだが口が動かせたことからまだ希望はある。

――そう思わないと、落ち込みすぎてやっていけない。

 

 

レッスンルームから出ると、新田さんが待ってくれていた。

 

「……その、大丈夫?」

 

すぐにコクン、と首を縦に振る。

別に私はアイドルとしてデビューする気はないし、自由に話せなかったとしても今より状況が悪化するわけではない。

だが、それで新田さんに心配をかけてはいけない。

彼女は全力で一流アイドルを目指しているし、その妨げになるというのは一人の少女の人生をねじ曲げることになる。

それだけは絶対にやってはいけないことだ。

 

 

新田さんの話に時々相槌を打ちながら、一緒に駅へ向かう。

新田さんは一人暮らしらしい。

本当は東京の大学へ行くために上京して来たという話だが、それでアイドルになって大丈夫なのか。

こちらが話せないのを分かっているからだろうが、こちらに話を振るときはイエスかノーで答えられる質問をしてくれる。

その気遣いも非常に嬉しい。

 

「わざわざありがとうね、志穂ちゃん。ここまで送ってくれたなら十分よ。」

新田さんがまた明日、と言って駅の階段を降りていった。

きっと彼女もアイドルとして成功するだろう。

身長も高く、良い体型をしているのでモデルをやっても上手くいくかもしれない。

私は女になったが、胸はあまり大きくない。

 

「……別に羨ましくなんてないけど。」

 

あったらあるで邪魔なだけだろう。

というより声が出たが、出るタイミングは今じゃないだろう!

出るべきタイミングはさっきのレッスンだろう!

それに、こんな邪な考えから生まれた言葉が今までで最長というのも笑い話だ。

この世界に来てから、3回声が出た中で2回は意識せずに出た言葉である。

変に意識して声を出そうと考えるのが間違いなのだろうか。

何か、法則はないのか。

 

……寮に門限がある以上、帰ってから考えることにしよう。

 

結局寮に帰ってからも良い案は思い付かず、ダンスの練習だけ入念に行い眠りについた。

同じ寮の子にもらった茸とホラー映画はどうすれば良いのだろう。

 

翌日に武内さんに心配されたが、全く落ち込んでおらず大丈夫という意味を込めた頷きをする。

私としては、武内さんの目の下にある隈のほうが心配だ。

聞いた話だが、シンデレラプロジェクトへの応募は凄く多いらしい。

その選考を行いながら、時間に余裕を見つけてスカウトにいくということをしているわけだ。

その若さでこんな大企業のプロジェクトの指揮を取るなんて、相当な努力をし続けているのだろう。

比べて私は今日もダンスレッスンだけだ。

……なんというか、申し訳なく思う。

 

 

ダンスには体が慣れてきたのか、基礎はできるようになった。

寮で復習もしているが、この体のハイスペックさもある。

鍛えた男の体でやっていたことを、女の体である程度こなせるというのは凄いことなのではないだろうか。

 

新田さんの方も全力でやっているのがわかる。

昨日よりも熱意があって、上手くなろうとしているのをひしひしと感じる。

そんな私達にトレーナーも応えてくれて、少しずつステップも難しくなっていく。

まだ始めて数日の身にしてはよくできているのではないだろうか。

 

「次はボイストレーニングだ。高柳もできないからといって興味を失わずに、真面目に聞くように」

 

昨日はできなかったが、今日は何か変わっているかもしれない。

見学しながらも声を出そうと頑張る。

……やっぱりレッスン中だと口自体は動かせるんだが。

パクパクしているだけで、むなしくなるので止める。

 

新田さんはダンスの時と変わらず全力だ。

やっぱり昨日よりも力を込めてやっている。

ここまで真剣にやってくれるとトレーナーの方もやりやすいのではないだろうか。

 

「今日はここまでだ!二人とも良かったぞ」

 

お褒めの言葉も頂けたし、やはりダンスしかできない以上、誠意を持ってダンスの練習に取り組むしかない。

 

昨日は貸してくれてありがとう、と新田さんからタオルを返してもらった。

寮にある物なので、すっかり忘れていた。

ダンスレッスンだけなのに相当疲れていたのもあって、今日は一直線に寮へと帰った。

新田さんは更にボイスレッスンもしているわけだから、体力がかなり多いとわかる。

そういえば大学でラクロスをしていたと言っていた。

運動も勉強もできて、顔とスタイルもいいなんて反則だろう……。

 

 

自分の部屋の前に、お裾分けと一言書かれた書き置きと一緒に茸があった。

どう反応すれば良いのだろう。

休みの日にIH調理器を早く買いに行かなければいけない。

ついでに、この体でできるバイトも探したいので求人誌もほしい。

まだ生活基盤を整えるために必要なことは多い。

 

体も声も何となくわかってきた気がするが、表情だけは予想もつかない。

自分からは見えないのと、周りの人が妖怪サトリのように感情を分かってくれるので問題は起きてない。

……ただ見当もつかないのは怖い。

 

ダンスの復習だけ行い、嫌なことから目を背けるように布団の中へ入った。

 




アイドル一人一人をもっとよく知ろうと思い、某動画サイトの一人合作シリーズを見ていたら、投稿が遅れそうになりました。
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