赤いトゥーシューズ   作:つきうさぎ

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ルルベ アン

「やあーっぱり、カタタンッて揺れないと、列車の旅ってかんじしないのよねえ……」

 

 

 

 サン・ファルドへ向かう海列車の中、昴は、同行者らとの会話の切れ間に、ぼんやりと呟いた。それに対して、紅梅色の髪をした少年が、年令にそぐわないほど眉間にシワを寄せて、文句を返す。

 

 

 

「それ、何回、言う気だ」

「ううう……、だって、こう……! ね? こうして、お弁当広げて食べながら乗ってるわけですし『世界の車窓から』って、したいんですもん」

「大人しく乗ってろ」

「車窓から、どうするんじゃ?」

「あーっと。電車の中だけど、食事してゆったり過ごしたいってことです。線路の繋ぎ目で車輪が、タタンッタタンッ、て鳴るのを聞きながら。ちゃんとコンパートメントなのに、乗り心地が、なんだかフェリーみたいで、違和感あって」

 

 

 

 造船ガレーラカンパニーは、様々な船が訪れる。点検、修理、新規買取り。海軍、海賊、商船、旅客船、蒸気船。木製、鉄製。今日も今日とて、ガレーラの技術を求めて、船が来航する。

 数日前、三番ドックへ修繕に入ったのは、鉄製帆船で、珍しい商品を売りにしている商船だった。そして、ニュース・クーで『希少商品取扱中』と広告を出している為、海賊はもちろん襲撃を目論み、商売敵も物資の略奪を目論み、他の商船よりも戦闘が多い、波乱万丈な航海を取っていた。

 

 

 

「フェリー?」

「遊覧船のことです」

「聞き慣れんのう」

「――こちらでは言わない方言なんでしょうね、たはは……」

 

 

 

 富裕層のコレクター癖を掴んで放さないよう、その商船は広告を取り下げることはない。その状況でも、自らの商売を遂行するには、どうすればよいか。答えは「用心棒を雇う」だ。

 

 

 

「トンネル通るときとか、ここを潜って違う世界へ遊びに――、……行けたら楽しそうだなぁ、とかね。うん、よく想像してましたよ」

 

 

 

 意気揚々と、電車での旅路は楽しい、と語っていた昴だが、常日頃の空想がたったいま現実になっていると、喋り途中で気付き、笑みが少々ぎこちないものとなった。

 

 

 

「バスクード君は、職業柄、いろんな船に乗って、いろんな場所へ行ってると思うんですけど、次はこんな所へ行きたいなあって、思ったりしないんですか?」

「ねぇな」

 

 

 

 彼女の同行者のひとり、シュライヤ・バスクードは、まだ齢十三ながらにして、かの商船に雇われている用心棒の内のひとりである。修繕中は、大工たちが出入りし、海賊や盗人から商品を守る必要がないので、彼は船長からお暇を貰っていたが、実入りを求めて、たまたま聞こえた昴の護衛を買い、同行している。

 そして、もう一人の同行者、カク。彼が、本来の「昴の護衛」だ。護衛の役割と、彼女と出掛けたい下心の半々で同行中。

 

 護衛というのも、サン・ファルドと海列車で繋がるセント・ポプラ――造船に必要な資材等を、生産している町――に、殺傷に良心が苛まれない海賊、モーガニアが上陸しているとの通達があり、周辺の治安が怪しくなったのだ。「来月に控えている舞台の練習を、休むわけにいかない」と訴えた昴は、「危ないから、行くな」「命あっての物種」との周りの反対派を、護衛つける体制を提案して、渋々納得させた。

 カクが、生き生きと護衛役を、立候補したのもある。彼なら、巻き込まれたとしても、昴を抱えて『山風』の脚力で逃げられるだろう、と。

 

 

 

「夢を抱け、若者よ!」

「ふふ。Boys, be ambitious. 大志だけど。とは言え、カクさんも若者ですけどね」

「昴もじゃぞ。――で、シュライヤ、おまえ、愛想も悪い」

「必要ない仕事だし」

「クビにするぞ、クビ。報酬も支払わん」

「クビにしませんし、きちんと払いますうー。バスクード君、気にしないで、自分が過ごしやすい感じで良いですからね」

 

 

 

 昴がにこりと微笑みかけると、シュライヤ少年は、ひとつ鼻を鳴らして窓の外へと視線を外す。そのリアクションを快く思わないのが、やはり、カク青年だった。

 

 

 

「いけすかん子供じゃ」

 

 

 

 向かい合う座席の造りで、彼の対面にはシュライヤが座っている。まだまだあどけなさが残る幼い顔の頬をつねるため、少し身を乗り出して、つまんだ頬を、それぞれの外側へと引っ張る。

 

 

 

「いひぇー! らにしゃーがるんら!」

「用心棒なら、依頼者の信頼、第一じゃろ!」

「はにゃせっ! はにゃせ、コにょヤロー!」

「はわっ、可愛い……っ」

 

 

 

 シュライヤはカクの手首を掴んで、つねってくる手を外そうと力を込めるも、中々外せず悶着する。彼らの、男子中高生のようなじゃれあいに心暖まっている昴は、そのじゃれあいをもっと見ていたいと思いながら「難しいお年頃なんですから」と、カクを宥めた。

 

 それから幾ばくもせずに、目的地のサン・ファルド駅へ到着。昴は、今日まで何回か練習で訪れているが、銃を所持した海兵らが駅にいることは初めてのことで、目を瞬かせる。

 

 

 

「昴、怖いんじゃったら、わしの腕に掴まっとけばよい」

「怖くはないですよ。ただ、警戒体制にびっくりしただけでして。セント・ポプラのことで、こうなってるんですかね?」

 

 

 

 それとなしに視界に入れた海兵と目が合い、微笑と会釈を返して、劇場への足を進めた。

 

 

 

「じゃろうな。あそこは、物資の揃いがよい。それ目的に海賊がよう来るから、慣れてるはずじゃが、今回は危険度が高いんじゃろ」

「ツヴァング海賊団。船長が、ツタツタの実の能力者」

「あら、バスクード君、ご存知?」

「俺をなんだと、思ってる」

「――……。あ! そっか! ボディーガードの他にも、バウンティハンターって話していましたね。悪魔の実の種類名って、くすくすっ、けっこう安直ですよねえ。ツタツタってことは、草木の、あの蔦? 絡んできそうだなあ……。ホラー映画の定番よね。――ん?! 『悪魔』……『ツタ』! はっ! スプラウト先生の罠じゃないの! かっこいいー! もし、がんじがらめになっちゃったら、ルーモスって言わなきゃ!」

 

 

 

 弾丸トークの昴を、シュライヤは冷めた目で見上げ、そのまま更に上へ移してカクに、こいつ……大丈夫か、と言うように視線を送る。カクはそれに気付くと、可愛いじゃろ、とデレッとした笑いで返した。

 

 

 

「はあ……。女が捕まると、使い捨てされるしかない。近寄るなよ」

「使い捨て?」

「シュライヤの口からじゃ、早いのう。つまりはじゃ」

「察しました」

 

 

 

 皆まで言わせずに、昴は言葉を被せる。

 

 

 

「海賊映画とかアウトローで、よく演出されるネタですよね。すみません、ツタが動いてるの見たいだなんて、もう思いません」

「――……、おまえ……、今のでほんとに解ったのかよ」

「中学生には刺激が強いと言うなら、アール十八なんでしょう? それと、海賊のマイナスイメージなら、略奪、ラム酒、女、の三拍子が定番ですもの。その『女性』は決まって、その、むりやりだったり、生業にしてたりで、まあ、どちらにしろ、することは……ひとつですよね」

 

 

 

 そう言って、劇場へ足早に進む彼女の背中を、男二人は、意外だと思いながら見つめた。

 

 

 

「船大工たちの感じから、箱入り娘かと思ってたけど、違うんだな」

「それはわしも思う。世間知らずなんじゃが、妙なところで博識というか」

「昴ちゃん!」

 

 

 

 新たな低い声が混ざる。

 カクとシュライヤは、互いを見て会話を交わしていたのだが、前方へ顔を向けると、昴が見知らぬ男性に抱き締められていた。カクは無言のままに俊足で近付き、べりっと二人を離す。トレードマークの野球帽の下から、相手の男性を睨みつけ、昴を背中へと隠した。

 

 

 

「何用じゃ」

 

 

 

 普段、温厚で、聞いているこちらも元気になるような明るい声が、苛立ちを隠しもせず、威嚇する低い声になったことで、昴は恐怖を感じつつも、慌てて相手を紹介し、不審者ではないことを伝える。

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