ジーヌは言葉遣いは悪いが、黙っていれば爽やか知的青年であり、そんな容姿が素敵な笑顔を浮かべて見つめてくるのだ。いくら男性恐怖症とはいえ外人の美形に見られれば気恥ずかしくもなる。
「あ、あのぅ……」
「がんばれ」
「…………は?」
語尾にハートか星がついていそうなウインク付きで彼は頑張れと言ってきて、スーが言葉を繋げた。
「僕たち全員分は大変だろうから、手伝うけどね」
「え、え?」
「昴の手料理楽しみにしているよ! ねー、みんな!」
うぉお!との賛同者に、日本食ってここで作れるかなぁ……、と思う昴であった。
他愛も無い話しをしたり、とある職人が一発芸を披露したり、宴会も佳境に入った時、昴は最後くらいとアルコールを飲もうとメニューを開く。
「おうおう、昴~食ってっかあ?! ……お、酒のページじゃねーか。いいのかぁー? 酒なんか呑んでー!」
「ちょ……っパウリーさん、乗っかんないでください、重いです。メニュー見れません」
「ガキは飲んじゃいけねーんだぞぉー?」
「ガキじゃありませんよ、私」
「うっそつけおめぇ!」
「邪魔ッポー」
ルッチの長い足がパウリーを蹴り落とした。酔っ払いから解放されたので礼を述べるが、ルッチは特に反応を示さず、ハットリが気にするなと言う感じにパタパタと羽を動かしただけで、彼らはカウンターへまっすぐ向かう。
視線もくれなかった彼に昴は少々落ち込んだ。彼らに対して非礼ばかり、と。昨日の初対面ではハットリに驚いて気絶し、今日は海賊から助けてくれた礼を言う前に『可愛い』発言。
「(ちゃんと謝らなくちゃ。ついでにカクテル頼もう……)」
輪から外れてカウンターで飲むルッチに昴は、ロブさん今いいですか?と声を掛ける。内心、反応があるか不安だったが、僅かながらも気に留めてくれたので安心した。
「今日は不躾な発言をしてしまって、大変申し訳ありませんでした」
そうしてきっちり三秒間、頭を下げる。
「ハットリさんも……。昨日は失神してしまって申し訳ありませんでした」
「っ!? ……ポー」
「……」
鳩にもきっちり頭を下げる図は可笑しいが、彼女はハットリを知能を持った鳩と認識している為、可笑しいとは気付かない。姿勢を正すと、もし許してくださるならグラスを合わせてくれませんか?とルッチに依頼した。
「さっきの乾杯でやったッポー」
「あー、まあハットリさんとは。でも、ロブさんとはしてません」
「……」
「ブルーノさん、マティーニをお願いします」
「ん? んー、お嬢ちゃんには出せないなぁ。悪いねえ」
「大丈夫ですよ、お酒強いんで」
「いやあでもなあ。もうちょっと大きくなってからだよ」
「―――― 大きくなってから? (もう成長期は過ぎた。もしかしたらまだ身長が伸びるかもしれないけど。いやいやいや、そういう『大きく』じゃないよね。え、ちょっと待って?) あの、すみません、それって……その大きくなってからって、もしかして……年齢を重ねたらって意味ですか?」
そう問えば、申し訳無さそうにブルーノは肯定する。その答えを見て昴はカウンターテーブルに力無く突っ伏した。
「うーわーマージーでーー…? うん、そりゃあね、日本人って童顔種族だよ。でもさあ……あー、だからパウリーさんもガキって言ってきたのね」
「お嬢ちゃん?」
「信じてください、これでも二十一です」
ガバリと顔をあげて、真剣な表情で訴えると彼女達の周辺だけ時が止まる。珍しくルッチの行動が止まり、ブルーノも開眼した。
「……え?」
「二十一なんです。お酒もそれなりに楽しんで飲んできました。私……私……っ、そんなにお子様な顔立ちしてますかね?!」
「クルッポ……カクの年上……」
「そっちの方が信じられないわ! カクさん大人っぽいもん! 嘘でしょ? 私より年上なんでしょう?」
「年下」
「に゛ゃーーーー! カーークさーーん!」
注文の途中だという事も忘れてカクの元へ走り寄り、座ってる彼の肩を掴んだ。
「なんじゃ?! どうした?!」
「カクさん、嘘だと言って! カクさんが私より年下だなんて!」
「昴が年上?!」
一瞬にして静まり返る酒場。
「いくつ、ですか……?」
「二十じゃ」
「あ……良かった……十代じゃないのがまだ救い……」
「昴はいくつなんじゃ」
「二十一」
「ひとつ上かい」
「ですね」
「上か」
「です」
「見えんな」
「それはこっちの台詞です。――ちょっとなんですかその目! みなさん! 私をいくつだと思っていらっしゃったんですか」
両頬に手を添えて悲愴な面持ちで見回せば、ぽつりぽつり年齢を言われる昴。ジーヌには十四歳とも言われてしまった。
「いやあ……さすがに十四はサバ読みすぎでしょ……」
「ポポー。忘れ物だ」
「……んぇ?」
少し高い声に、項垂れていた頭を上げればカクテルグラスを二つ持ったルッチと、翼で器用にグラスを持つハットリが居た。カクテルグラスの片方が自分の方へ差し出されていて、その中身はマティーニ。
「作ってくれたんだ……――あ」
受け取りつつ、酒場の店主に二十一歳と認められた、とホッとした瞬間、チン……と良い音が響く。昴が何かを言う前にルッチはカウンターに戻ってしまったが、グラスを合わせたのは間違いなく、ルッチの方。
「(許してくれた……んだよね?)――……えへへ」
「なに笑っとるんじゃー?」
「いえいえ、こちらの話です。あ、カクさん乾杯」
「む、いつの間にかアルコールに変わっておるな」
カクのジョッキと昴のカクテルグラスが合わさりお互い一口ずつ飲むと、彼女の方が彼に船大工になった経緯を尋ねた。夢を語る人は素敵だなあ、と思いつつ今度は自分が聞かれたのでバレリーナになりプリマを目指している熱意を語る。
その内、泥酔一歩手前のパウリーがやはり昴に絡んできて、己が船大工になったキッカケやアイスバーグが如何に偉大で敬慕出来る人物かを熱く、それはそれは熱く語りだした。
「列車なんざなあー、昴ー? だんれもつくったことがねーかったのよぉ。見たことあっか~?」
「見たことありますよー乗った事もありますよー」
「なら話は、はやい!」
「というかパウリー。お主、昴にちと近すぎじゃ」
「うるせえ! おら、カクも来いやー」
がしっとカクの首を空いている腕でホールドすると、列車のうんちくが流れ出る。
「でな? レールにゃあとっておきが仕込んであんだ! なんだと思う?」
「んー、何が仕込まれてるのかも気になりますけど、そもそもレールが波に沿って浮いているのに列車が走れる原理を知りたいですよ、私は」
「おー! ならおれが教えぶふっ」
「昴、律儀に付き合わんでも良いのじゃぞ?」
そうして夜は更け、歓迎会はお開きとなった。
「A十、B六です!」
「OK!」
昼休みが始まった。
新しい注文取りのシステムを完成させていないので、まだまだ従来どおりの状況である食堂。とはいえ、ほけっと調査をしている暇は無く、せめて待ち時間を少しでも少なくする為に並んでいる彼らに先に注文・会計をしていった。カウンターの前に行けば料理を取るだけ、の状態にする。そんな怒涛の昼食時間は約3時間。
「……はへー…………。すっごい……コックさんすごい……コックさん尊敬しちゃう……」
「はははっ! お疲れ様、昴ちゃん。はい、昴ちゃんのお昼」
「わーい! まかない食ー! ……ってレベルではないんですけど?! デジカメ、デジカメ」
「でじかめ?」
スー直々に持って来たのは、なんと、大工たちに出されていたランチメニューだった。盛り付け方が芸術的だったので、バックヤードに置いていた鞄を持ち出してその中からデジタルカメラを手に取り、料理を収めた。
「あーん……おいしそう……!」
「たんとお食べ」
と、スーがニコニコと言ってくるので、なんだかヘンゼルとグレーテルっぽいですよソレ、と笑いながら返した後、手を合わせていただきますと告げてから食事にありついた。