駒王学園。 元々女子校だったのだが、数年前に共学になったため、女子の割合が多い。
その学園の下校時間。全力で走り回る・・・・・・・いや、正確には逃げ回る三人の男子生徒がいた。
♦
「「「「「待てぇえええええ!」」」」」
「「「うぉおおおおおお!」」」
俺の名は兵藤一誠。この駒王学園に通う、エロで生きる高校二年生だ。
そして俺の隣にいる丸刈り頭の男は松田。その高い身体能力を女子の写真を収めるために使う元写真部。
その松田の隣にいる眼鏡を掛けている男が元浜。その眼鏡には、女子のスリーサイズを測れるという何とも羨ましい機能がついている。ただし元浜限定だが。
今俺達は、鬼の形相で手に得物を持つ複数の女子生徒から逃げ回っている。
なぜ追いかけられているのか。それは・・・・・・・覗きがばれたからだ!
「油断も隙もあったもんじゃないわ!今日という今日は許さないから覚悟しなさい!」
「松田、元浜!俺は向こうへ逃げる!お前達はそっちだ!」
「「OK!生きていたらまた会おう!」」
このままでは逃げ切れないと判断した俺は、二手に分かれることを提案する。
二人も提案にのり、俺達は二手に別れた。
俺は何とか女子たちを振り切り、物陰に隠れる。
「「ぎゃぁあああああ!!」」
あ、あの二人捕まったな。俺は両手を合わせて合掌する。
「松田、元浜。お前たちの冥福を祈る。安らかに眠ってくれ。俺はこのまま逃げさせてもらう」
「どこに逃げるの?」
「そうだな。とりあえずこのまま・・・・・・・・・・」
と言ってる途中で俺はあることに気付き、ゆっくりと後ろに振り返る。
そこには笑顔で得物を構える女子生徒がいた。 あ、俺\(^o^)/オワタ
「何か言い残すことは?」
「・・・・・・・・・・優しくおねがいします」
俺がそう言った直後、学園中に俺の絶叫がに響き渡った。
結局俺達は、三人仲良く制裁を食らった。
「あ~痛。まだケツが痛い。」
帰り道、俺はそう言いながら先程の制裁の内容を思い出す。
何も尻にフルスイング決めなくてもいいだろ!トイレいけなくなるわ!
心の中でそう思っていると、俺はある一人の男子生徒に声をかけられた。
「自業自得だろう?懲りないなお前も」
そう言いながら俺に無表情で近づいてくる男子生徒。 こいつは朝陽夜月(あさひやづき)
俺のクラスメイトで親友とも呼べる奴だ。
身体能力が高く、成績も優秀、さらに顔面偏差値も高い。
学園では女子から、無口でクールなイケメンとして人気がある。まあ、夜月は気付いてないが。
というより夜月は他人と積極的に関わろうとはしない。むしろ自分から壁をつくって遠ざけようとする。
学校でも俺以外とはほとんど話さないし、相手から話しかけられても最低限の会話だけで済ませてしまう。
一年の頃に夜月が転校してきて、その時に初めて会った。
最初は女子から人気があったため、こいつは敵だと思っていたが、無表情ながらもどこか悲しそうで、寂しそうであり、段々と放っておけなくなった。
だから俺は夜月に積極的に話しかけてみた。 最初はまともに相手をしてもらえなかったが、俺は何度も遊びに誘ったり、家に招待したりもした。
その小さなことを積み上げていくうちにようやく心を開いてくれたのか、こうして自分から話し掛けてくれるようになり、二年に上がる頃にはお互いに親友とも呼べるようになっていた。
後に話してくれたが、夜月は両親を事故で失ったらしい。
時々喧嘩することはあれど、両親はとてもいい人で、学校でも虐めを受けたこともあったが味方に付いてくれる奴もいて、それなりに楽しかったそうだ。
その両親を失って、さらに転校で友人達とも離れ離れになり、一度は全てを失った。
それ故に無気力になっていたそうだ。
「もう少し手加減してくれてもいいと思うんだよなぁ。まだ尻がヒリヒリする。」
「俺からすればその程度で済んだだけでもましなほうだと思うがな。」
だがこうして夜月は俺と普通に話してくれている。俺はそれが嬉しかった。
この後は夜月と他愛もない雑談をしながら家に帰った。
夕飯を食べ、風呂に入り、エロ本を見てから眠りについた。
近いうちに、俺と夜月の歯車が大きく動き出すことも知らずに。
♦
一誠と別れた後に俺、朝陽夜月は一度家に帰り、夕方頃にもう一度外へ出る。
首から音楽プレイヤーを下げ、イヤホンを耳につけ、音楽を聴きながら駒王町を適当に歩き回る。
ずっと引きこもっていたが、一誠と親友になった後、俺は慣れるためにこうして駒王町を散歩している。
無気力になって何も無い毎日を過ごしていた時に話しかけてきたのがあいつ、兵藤一誠だ。
有名だった為、転校してきてからすぐに一誠のことは耳にした。
エロ三人組の一人であり、教室で堂々とエロ本を見たり、女子更衣室を覗いたりしているため、女子や一部の男子に敵視されていると悪い意味で有名だった。
ある者にとっては敵であり、ある者にとっては絶対に関わりたくない奴であり、ある者にとっては同士だろう。現に二人あいつの同士がいるしな。
だがあの時の俺はそんなこともどうでもよかった。
相手が誰であろうと、とにかく関わりたくなかった。
一誠に話し掛けられたときも、好感は抱かなかったが逆に嫌悪感を抱くこともなかった。
それほどまでに俺は無気力になっていたのだろう。
・・・話を戻そう。
一誠が俺に話し掛けてきた理由は、とにかく話さないか、一緒に遊びにいかないかということだった。
こいつのことだからどうせエロ関連だと思い、最初は断った。
しかし、次の日から一誠は何度も俺に話し掛けてくるようになり、朝は必ず【おはよう】と言ってくるようになった。
さすがに挨拶を無視するのは失礼と考え、俺は言葉にせずとも軽く手を挙げて返事をするようになった。
それからも一誠は俺に話し掛けては遊びに誘ってきた。
何度断っても何度も誘ってくるため、俺は一度くらいならいいかと思い了承した。
もしエロ関連だったら何も言わずに立ち去ろうと思っていたのだが、俺の予想は外れることになる。
一誠が俺に好きなものや嫌いなもの、趣味などを聞いてきて俺はその質問に答える。皆が当たり前のようにやっている日常会話。
正直驚いた。学校でやってることやその性格からしてろくな事言わないと思っていたために以外だった。
自分でも気付かないうちに楽しいと思っていたのか、俺は自分から一誠に話し掛けていた。
しばらくして、一誠は俺を家に招待してくれた。
一誠の両親は夕飯をご馳走してくれたり、俺を泊めてくれたりととても優しい人たちだった。
いなくなった両親と一誠の両親を重ねてみていたのか、俺は少し嬉しくて、少し寂しかった。
そうしているうちに一誠への抵抗がなくなったのか、俺は自分から過去のことを話していた。
俺の過去を聞いた一誠は、俺を慰めたり馬鹿にしたりはせず、俺達は友達だといってくれた。
それからは何度か一誠の家に遊びに行った。
一誠とゲームをしたり、夕飯を食べたり、他愛もない話で盛り上がったりと楽しい日が続いた。
ちなみにその時恒例のエロ本探しをやってみた。まあ、見事にベッドの下にあったわけだが。ていうか本だけじゃなくてDVDもあったし、どれだけエロが好きなんだ。
誰かと話す、遊ぶなんて周りから見たら当たり前だろう。
だが一度失ったからこそ分かる。その当たり前がどれほど大切なものか。
大切なものを取り戻してくれた一誠には感謝している。
未だに一誠以外と話すのには抵抗があるが、少しずつ慣れていけばいいだろう。
トントン
一誠と会った時のことを思い出しながら歩いていると、後ろから肩をたたかれる。
振り返ってみると、そこには一人の少女がいた。
俺はイヤホンを外してその少女と向き合う。
「搭城か」
「こんばんは。朝陽先輩」
この少女は、俺より一つ下の塔城小猫。
一見小学生と見間違えられるほどの小柄な体格とその容姿から学園ではマスコットとして人気があり、オカルト研究部に所属している。
家が近くにあり、学校に行くときや散歩しているときによくすれ違う。
お互いに無口なため最初は会話がなかったが、塔城の方から話しかけてきて、一誠ほどではないがこうして話ができるくらいには慣れていた。
「今日も散歩ですか?」
「まあな。塔城は部活の帰りか?」
「はい。今日は部活が早めに終わったので」
「そうか。」
道が別々になる所まで塔城と適当な会話をしながら歩を進める。
「それでは、また明日」
「ああ、また」
塔城と別れ、俺は再び一人になる
話し相手がいなくなったからなのか、俺は若干寂しさを感じていた。
(・・・・・あそこへいくか)
この気を紛らわすため、俺はイヤホンを付けてある場所へと向かった。
今俺はとある森の中を歩いていた。
周りには草木が生え、地面には水溜りがあり、奥の方には石で造られたかのような建物がある。
陽も沈んでいるためかなり暗い。まあ何故か陽が出ていても暗いが。
しかし、静かで落ち着くこの雰囲気は嫌いではなく、俺は何度かこの森に訪れていた。
音がしない程度の弱い風が吹き、草木を揺らす。
とても心が安らぐこの場所はまるで庭のようである。
【黒い森の庭】
俺はそう呼んでいた。
俺は耳につけてあるイヤホンを外す。
揺れる草木の音を聞きながら。
その草木を揺らす風にあたりながら。
俺は夜空に浮かぶ月を見ていた。
♦
二人の歯車が大きく動き出すのは、もう少しだけ後の話。
プロローグ終了です。次回から本編に入ります。