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「悪い。家にあるひいじいちゃんからもらった本を全部学園艦のほうに送ってくれないか。いや、すまんすまんなんか必要になっちゃったんだよね。ドイツ語のやつもかって?それもお願い」
電話越しに久しぶりに聞こえる妹の声に相槌を打ちながら、今日の昼間の事を思い出していた。
「戦車道の監督だと?俺にか?」
予想に反した役職に頭が追い付かない。簡単に整備の手伝いやそのぐらいだと思っていたところに監督役だと。
瞬時にたどり着いた答えは無理というものだ。
「その役職は俺には無理だ。だが、ひとまずなぜそんなことを思いついたのか教えてくれ」
自分でも思ったより冷静であったのかそんなことを口にしていた。
「そうだね。理由もなんも言ってないもんね。ひとまずそうだね。うちの学校には戦車道の経験者がいない。これが一つ。それにこれから戦車道をやろうって言いだしっぺが戦車道を選択しないという道はない。だから私たち生徒会も戦車道をやることになる。そうなったら、戦車道の大会の時に裏方仕事をできる人がいなくなる。それに戦車道の裏方だ。ある程度の戦車の知識がないとやれない。だから君に戦車道の監督をして欲しいんだ。これが理由だよ」
聞いておいてなんだが、相当考えてこの結論を出したということに改めて感心した。学園の長である人間らしい。
「それにさ、私も、いや私たち生徒会もこの事についてさんざん考えた。そりゃ、全部私たちでできればいいんだけど私たちもそんな完璧人間じゃないからね。誰かに頼らないとやってられないんだよ」
たぶん最後に出たそれが、一番の本音だろう。重い責任をこの三人で分担してきたが、その重さも耐え切れなくなる。
「だが、俺は男だ。戦車道は女子の嗜み。そう言われているところにのこのこ俺が出て行っていいものなのか」
疑問があるとするならばそこだろう。女子の嗜みである戦車道。そこに整備要員としてならば、参加したとしても非難が上がることはないだろうが、監督として表に立つならばどうなるか。何というか非難が上がる気がしてならない。非難が上がるだけならいいが。
「そこらへんは抜かりなく調べたよ。一応ね。ほかの学園艦も監督という役職はブラックボックスみたいでね。授業であるならば、それを担当する教員や外部講師、生徒でもいいみたい。部活動でも同じで顧問の先生がいるところは監督に顧問の先生が付くみたいだし、そこに性別でダメだっていう風潮はないみたい」
どうやら彼女たちは本気であることだけは理解できた。
「それに、この件に関しては男子部会長にも了解を得ている」
先ほどまでしゃべらなかった眼鏡をかけた子がダメ押しとばかりにそう言う。どうやら俺はどっちに転んでも引き受けざる負えない状況にあるらしい。
肩を落として、仕方なくこう言うしかなかった。
「分かりました。戦車道監督の件、引き受けさせてもらいます」
「お兄、お兄。そう言えば聞いてなかったんだけど、どうして戦車道やることになったの」
本を集めてもらっている妹に本の表紙からばれているのか俺が戦車道をやることがバレバレだった。まあ、実際に戦車に乗ることはないのだろうが。
「いや、俺自身は戦車道はやらないよ。知り合い、まあこっちの学園の人が戦車道を知りたいって言ってね。その人たちに教えるために勉強し直すために必要なんだよ」
「お兄、なんか部活のマネージャーみたいだね」
マネージャーじゃなくて監督なんだけどね、なんて言ったらなんて言うだろうか。たぶんの冗談だと聞き流されることになるのだろう。
「そういえば、この間模試があったんだけどね」
中学三年生の妹だ。来年には受験を迎える。陸の高校に行くのか、それとも学園艦に来るのか。そこらへんは彼女次第かな、なんてのんきに考える。
「それで、結構いい点とれたんだけどさ、大洗学園の判定で無かったんだよね」
「それで?どうした?」
普通であればおかしい。俺が受験をしたときは問題なく判定が出ていたはずだ。
「うん、学校の先生に聞いてみたら、大洗学園もしかしたら来年はなくなるかもしれないって言われたんだよね」
どうやら、俺はとんでもないことに巻き込まれているのかもしれない。