まあ楽しんでいただけたらいいなとは思いますね。
というわけで三話どうぞ。
3
入学式で新たに新入生を向かい入れてから、はや2週間が過ぎた。もうそろそろ学園艦での生活に慣れてきた彼、彼女らにひとつ大きな選択が迫っていた。
必修選択科目を決める。この必修選択科目の選択で一年間が楽になるか地獄のような忙しさになるかが決まる。そのため、多くの少年少女らはその選択をより良いものにするために先達の教えを乞うことになる。
しかし、今年の大洗学園女子部では異様な気配が漂っていた。
「っていうかいいんですか角谷会長。俺が科目選択のガイダンスに出ても」
今日も今日とて生徒会室で戦車道の書類に目を通す。多くのルールなどもある程度覚えなければならないため俺の目の前にはルールブックなどが山積みになっている。
「いいよ。ていうかこれは一種のお祭りみたいなものだしね。ある程度盛り上げないと。だから河嶋。広報よろしく~」
そう言いながら、会長はまた手元にある資料に目を落とす。口にはちゃんと干し芋がありましたとさ。
「桃ちゃん頑張ってね」
そう言いながら、副会長小山柚子は戦車道に必要な書類をまとめている。
「桃ちゃん言うな!広報は新聞部と一緒に企画をやるような話で進めています。あとは監督。おまえも何か考えておけ」
威圧感があるようなないような。そんなことを考えさせてくれる桃ちゃんこと河嶋桃。
場所は大洗学園女子部生徒会室。その生徒会室では女子3名に黒一点、戦車道監督の男がいた。この姿が当たり前に光景になってから、既に数週間。はじめのころは、風紀委員に怪しまれたり、すれ違う女子生徒に怪訝な顔をされたりしたが、慣れてしまうとそんなことお構いなし。それどころか猛者ともいえる女性たちは彼を頼って男子部の男を紹介するように迫る始末。男子部でも同じような状況に陥っているだけに苦労が絶えない。
「それじゃあ、菊池君はガレージで自動車部に戦車の仕組みの講義お願いしますね」
資料をまとめ終わったのか。お茶を用意している小山さんが言う。
最近では、同じく苦労人であろう小山さんから監督やその他もろもろの頼み事も増えるようになった。一応一般学生には秘密裏にということになっているが、生徒会室に男子生徒がいる時点で秘密にできるようなことではなく、新たな年度に替わった数日後には、新聞部に取材を受けていた。それすらも広報の一つとして利用するつもりなのだから計算高いのだろう。
「了解、それにしても何であんなに自動車部の技術は高いんですか。あれは一般の高校生の範疇を超えていますよ」
「あそこは自動車関係の大会によく出ていてね。その方面では有名なんだよ。それに陸に着いたときは毎回、そうゆう工場でアルバイトしているみたいだし」
「なるほどな」
そう言いながら、今日教えようと思っていた本をカバンから取り出す。かなり古くところどころ黒く変色している部分もある。いろいろと思い入れのある本だ。
「菊池、その本かなり古いね。誰かが使ってたものなの」
珍しく興味を示した角谷会長が近づいてくる。
「まあな、もしよかったら見るか?」
「そうだね。ほんの少しだけ。うわー古いね。いつの出版かな」
そう言いながら、一番後ろのページから開いていく。何ページかめくったところで、その手が止まる。どうやら見つけたようだ。
「うへ、40年代のものだよ。70年ぐらい昔のものよく見つけてきたね。そうそうないよ」
そう言いながら、その本を俺に手渡した。
「まあ、普通はないよな。それよりいいのかあんまり見なくて」
「そうだね。私は最新の初心者向けの物から勉強してみるよ」
そう言って、また元の席に戻り、資料に目を向けた。
「それもそうだな。これと最近のやつじゃ違うところあるし。それじゃ、自動車部のほうに行ってくる」
「「「行ってらっしゃい」」」
「会長、さっきの本に何が書いてあったの」
一番最初にそれを聞いてきたのは小山だった。普段の会長とは少しばかり様子が変だった。
「あの会長?」
遅れて河嶋もそんな風に声をかけてくる。
「あっ、いや、あははは。何でもないよ」
そう敢えてごまかしてみるが、二人にはどうやら無意味のようだ。
「あははは。参ったな。あの本さ。世界大戦の時の本なんだよね。それでこれから私たちが乗るのはやっぱり兵器なんだなって思ったらさ」
そう言うと、一段と空気が重くなったように感じる。
改めて感じた。いくら安全になったとは言え、強化装甲で安全であると言われてもあれはかつて戦争の兵器だってこと。それに乗って戦わないといけないということ。その事実を再認識させられた。
「大丈夫だよ。うん、大丈夫」
いつの間にか小山が私の手を握っていた。
「会長。私たちも一緒に乗るんだ。大丈夫」
河嶋がいつの間にかもう片方の手を握る。
「ほら桃ちゃんもこう言ってるし」
「桃ちゃん言うな。もう!柚子はいつもそうやって」
いつの間にか周りが笑いに包まれる。そうだ。私は一人じゃない。
「よし、もうちょっと頑張ろうか」
そうやってもう一度気合を入れ直す。絶対にこの学校を廃校になんかさせない。
歩きながらの考え事。色々と考えなければならないことが多い。その一つは妹から教えられたこの学校の行く末について。
妹の話が正しければ、そう仮定すると、角谷会長が戦車道を始めたことや、男子部の生徒会で大きな動き、これについてはあまり知っていることは少ないが、がある事。そして、男子部の中でささやかれている噂が合致する。
戦車道の監督をするうえで、いろいろと調べることが多く、そのがたどり着いた先は文科省だった。
曰く、日本で今後戦車道がプロリーグとなるということや、そのために戦車道を行う学校には助成金が入ったりといろいろな特典があることなど。
だけど、考えても考えても俺がどうすればいいのかはあまり浮かんでこない。というより分かってはいるが、すこしばかりどうしようもないところがあるのだ。戦車もガレージにあったのは一両。それ以外にも数台が学園艦の中にあるらしいが使えるかどうかは未知数。そして戦車の運転などの技術を教えるはずの存在はいまだゼロ。整備を教える相手はいるが、そちらも部活の片手間になってしまう可能性がある。
「どうしたもんかな」
自然と出た言葉に懐かしさを覚える。ひいじいちゃんの口癖が移ったような気がする。